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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
第一部 二章 人と化け物
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暗雲晴れ立ち込める

正月なのでドンドン書きましょう

 商会を後にした俺達は会長から貰った資料を手に調査を進めていた。

 その頃には薄雲は消え去りまた日が差し込んでいた。

 この日差しが嫌な予感も祓ってくれれば良いのだが……。


「タケルさん?どうかしました?」

「いや、なんでもねぇ」


 肝心の事件のことが上の空になっていた。

 資料はクロに見てもらっている。

 俺がまだ完璧にこの世界の文字が読めないのでクロに読んで貰った方が確実だと思ったからだ。


「心配ですか?」

「え?」

「依頼の話をしてる時ずっと私の方を見てたじゃないですか」

「あー、そうだったか?」

「無自覚ですか……」


 自分では気が付かなかったが心配が態度に出ていたらしい。

 さらに「ふふ、ありがとうございます」と言われ俺の羞恥心が加速する。

 昔から隠し事には向かない性格の様で友人にも顔に書いてあるとよく言われた。


「む、く……そんなことより仕事だ仕事! 資料半分くれ」

「あはは! 誤魔化さなくてもいいじゃないですか。はい、どうぞ」

「うるせぇ」


 本当にこいつには口で勝てる気がしない。

 資料を読んで心を落ち着かせようと集中力を注ぎ込む。

 所々読めない部分もあるが八割は読めるのであまり不自由はなかった。

 会長の言っていた通り被害者の性別、経歴、それぞれの人間関係、他諸々に共通してる部分は見受けられなかった。

 だが、被害にあった時間帯は基本的に夜が多い。


「夜ばっかだな……」

「気づきましたか」

「流石にな。ただ、こんな簡単なこと会長が気づかないと思うか?」

「たしかに、知っていたらあの場で話していてもおかしくは無いですね」

「あまり重要視してなかったと言えばそこまでだな。それに犯行時刻が夜に固まるなんてサスペンスじゃあよくある話だろ」

「サス、なんて言いました?」

「こういう犯罪を題材にした小説や物語の事だ。まぁ、この話はまた今度だな」

「あ、そうですね。今度は、実際に現場にも行ってみましょう」

「了解」


 素人目で何がわかるのか不安ではあるが、百聞一見に如かずとも言うし行ってみることにした。




 〇




 単刀直入に結果から言うと収穫はほぼゼロだった。

 分かったことは被害現場は裏路地ばかりであること、それも町の人達からも認知度が低い路地ばかりだったこと、これくらいしか分からなかった。

 加えて被害者の数が六人、現場も六つでどれも距離が空いていた。

 回るだけで一日が終わってしまい今日の調査は打ち切ることにした。


「ふぅ、お疲れ様です」

「あぁ、お疲れ。結局昼飯も食わずだったな、なんか食おうぜ」

「そうですね、私もお腹ペコペコです……。食べながら明日のことも話しましょう」

「わかった、何食べる?」

「この町は海鮮が美味しいのでそれにしましょう!」

「はいよ、って引っ張るな!」

「ごーごー!」


 目を輝かせて店に案内をするクロに引き摺られそうになりながらついて行く。

 こいつ、そんなに海鮮が好きだったのかと思ったがどちらかと言うとクロは食べることが好きなのだろう。

 パンだろうがパンケーキだろうがこいつは美味そうに食うのだ。

 そして、かなり食うほうだとも思う。

 朝は控えめだが昼飯と晩飯はよく食べるのだ。

 まぁ、その話しはまた今度にしよう。

 今は海鮮を楽しみにしておこう。




 〇




 晩飯時のピークは外れている様で店についても待たされることなくすんなり入れた。

 メニューを見ると名店なのか料金はそれなりにする様だ。

 特に海鮮の御膳なんて二人で頼めば諭吉が飛ぶ値段だった。


「なぁ、この店って有名なのか?結構な値段のものもあるんだが……」

「メリセアンに限らず王都から来る人もいますからね、結構有名な方だと思いますよ。ただ、ここは海鮮丼がオススメです」


 予想外の値段にド肝を抜かれたが海鮮丼の値段は日本の牛丼位の値段だった。

 偉く差があるもんだと呆れながら俺達は海鮮丼を食べることになった。


「それで、明日はどうする?」

「聞き込みをしましょう。今日は現場近くの人に裏路地について聞いただけなので、明日は被害者についての聞き込みをしてみましょう」

「わかった」


 早々に明日の予定も決まり、後は海鮮丼を待つばかりだ。

 手持ち無沙汰になり資料でも読み込もうと思ったが、人が多い所では辞めた方が良いとクロに諭された。

 いよいよ店の椅子を数えるしかすることが無い。


「最近のタケルさんは楽しそうですね」

「そうか?」

「はい、最初に私がビンタした時に比べるととても楽しそうです」

「まぁ、楽しくないといえば嘘になる。けどな、俺はこの不死を解いて普通に死にたい。こればかりは変わらない」

「そうですか……」

「っ、そんな悲しそうな顔すんな。俺が死んだからって後を追うなよ」

「貴方は死にませんよ」


 ピシャリとそう言われた。

 研ぎ澄まされた真っ直ぐな目で俺を見ていた。


「死ぬ時は私と一緒です」

「バカ、俺が死ぬ時は引導を渡すんだろうが」

「でも! 私は──」

「お待たせしました〜海鮮丼になります」


 クロが何か言いかけたが絶妙なタイミングで店員が海鮮丼を持ってきた。

 クロはそのまま言葉を飲み込み海鮮丼に箸をつけた。


「う〜ん! 美味しいですよ」

「あぁ、いただきます」


 無理やり空気を変えようとするクロの態度に申し訳なく思ったが謝らない方が互いの為だと海鮮丼に箸をつけた。

 確かに新鮮で脂が乗った海鮮は美味かった。

 だが、妙に濁った雰囲気は場の活気だけではどうにもなりそうになかった。


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