故郷
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この場を借りてお礼申し上げます。
王様からの正式な依頼がギルドに発行され、ギルドの構成員として俺とクロが調査を行うことになった。
しかし、手がかりも無しに調査も出来ないのでクロの案内でクロが育った場所まで行くことになった。
というわけで現在、俺達は列車に揺られている。
「それで、お前が育った場所ってどんな場所なんだ?」
「ここ、王都・アーベントから南東に進んだところです。小さな村なので住民の殆どが農家や猟師なんです」
「お前も狩りとかしてたのか?」
「いえ、私があの村にいたのは五歳の頃までです。ゼノスさんが亡くなってからはマスターとマリーさんに引き取られました」
「じゃあ魔法も武器の使い方もガドル達に教わったのか?」
「はい」
なるほど、クロの強さにも納得が出来た。
宮廷騎士団の団長と宮廷魔導師団の団長から戦い方を教われば、そりゃ強くもなる。
「ん?でもガドルって剣使ってるだろ。なんでお前は銃なんだ?」
「マスターの知り合いから銃を貰ったんです。試作品だけど実験台になってくれたらタダでやると言われて。貴方に貸したのはお古の方ですね」
「そうなのか……」
借りている銃を見て少し不安になった。
暴発とかしないのだろうか。
「大丈夫ですよ、お古と言ってもメンテナンスはしてますし使う分には問題ありませんから。貴方の武器も必要でしょうし今度紹介しますよ」
「いや、俺は……」
「いいえ、武器は必要です。貴方の超パワーは恐らく魔力の放出でしょう。それも一撃で魔力の殆どを消費するくらいのものです」
クロは真剣な顔で魔力についての説明を始めた。
俺の力についても大方の見当はついていたのかあっさり言い当ててしまった。
「魔力が枯渇した状態で無理に魔法を使おうとすると生命力を消費します。生命力は気力や体力を含めたものです。過去に魔法の使いすぎで廃人になった人も居ますから、注意してください」
「……わかったよ。武器の使い方は教えてくれ」
俺がそう言うと彼女は優しく笑い「任せてください」と言った。
肉体は不死でも、精神は別か。
心が死んでしまえばそれは死んでいる事と同義だ。
と言っても、スケールが大きすぎてあまりピンと来ない。
本当に面倒なものを押し付けられたものだ……。
列車に揺られながらこの悩みが解消できることを願った。
〇
村には列車で直接行けず、近場の街に降りてそこから徒歩で向かうことになった。
街を出て開けた草原を暫く歩くと、通行人は減っていき代わりに家畜や畑が増えてきた。
田舎だ、物凄く田舎だ。
「ここが私が育った村です」
「田舎だな」
「そう言ったじゃないですか」
つい口に出てしまったが街に比べると建物や人の数がかなり少なかった。
しかも、露店みたいなものもパッと見た感じでは見当たらない。
自給自足の生活が主なんだろう。
色々考えているといつも間にかクロとの距離が空いていた。
置いていかれないようついて行き辺りを見回す。
老人ばかりだと思ったがそれなりに若者もいた。
「ここが私の家です」
「ここが……」
クロに案内された家は見るも無惨な姿になっていた。
屋根は所々朽ちて、壁には穴が空いている箇所もあった。
もう何年も使われていないんだろうな。
家というか廃墟だろこれは……。
「おや、クロじゃないか!」
「お久しぶりです村長」
家の惨状に惚けていると一人の老人に声をかけられた。
小柄で猫背な爺さんだが元気そうな人だ。
「む、男の人の方は見ない顔だな」
「クロの付き添いだ」
「おぉ〜そうかそうか。こんな場所ではなんだ、二人共うちに来なさい」
とりあえず付き添いと誤魔化したが大して間違ってないので訂正はしなくていいだろう。
俺とクロは村長に案内されるがままついて行った。
〇
案内された家はこぢんまりとしていたがゆったりとした村長夫婦の人柄か、そんなことも気にもさせない家だった。
「それにしても久しぶりだな〜」
「大きくなったわね〜」
村長夫妻から出されたお茶を啜る。
緑茶っぽくて美味い。
クロも村長夫妻とは仲が良いらしく雑談が弾んでいった。
「それで、今日は何しに来たんだい?」
「実は……」
村長夫妻に吸血魔のこと、ギルドの仕事のことを伝えると険しい顔になった。
村長曰く、この村には若者はいれど戦える人間は居ないらしい。
万が一戦闘になった場合戦う術がないのだという。
「幸いなことにここらには魔物は少ない……。だがもしもその吸血魔とやらが出たらワシらは一溜りのない」
「俺達はその調査に来たんだ。俺達がここにいる間に吸血魔が出たら俺達が対処する。村長には村民の避難を第一にしてもらいたい。それでいいなクロ?」
「はい、頼りにしてますよ」
「はいはい」
言ったは良いがいざ戦闘になればクロ頼りになるのは間違いないだろうな。
俺のは燃費がすこぶる悪いし、銃もまだ下手くそだしな。
不死については上手く隠すしかない。
「村長さん、ただいま戻りました」
「おお〜戻ったか」
避難経路の確認などしていると一人の男が入ってきた。
鳥や鹿を持っているところを見ると狩りをしていたんだろう。
「……村長のお孫さんですか?」
「いいえ、自分はアーベントの兵士だったものです」
「だったもの?」
「はい、名をロベルトと申します」
ロベルトは自分の経歴について語り始めた。
元はアーベントの兵士だったが、あることをきっかけに軍を辞めて数ヶ月前からこの村で暮らしているらしい。
俺達もギルドの仕事でこの村に来たことを伝えた。
「失礼ですが、お二人のお名前を聞いても?」
「朔明、タケル・タチモリだ」
「クロ・カトレアです」
「カトレア!? もしかして、貴女のご両親は軍に属して居たのでは?」
「魔導師団に属していたとは聞いてます」
「あぁ……あぁ! よかった! ずっと貴女を探していたのです!」
ロベルトは涙を流しながらクロの手を掴む。
心から嬉しそうなその様子に俺とクロは戸惑う。
「貴女のご両親から預かっているものがあるのです」
「え……」
服の内ポケットから二枚の銀が付いたネックレスを出しクロに渡す。
銀にはそれぞれ文字が書いてあった。
ムスト・カトレア
メラ・カトレア
カトレア。
性が同じということは、これはクロの両親のものなのだろう。
予想外の収穫で呆気に取られていたが、隣に居るクロの顔には動揺が表れていた。
「貴女の父親とは友人でした。何度も技を競い、高め合い、自慢のライバルでした。このタグは貴方の父上から預かったものです。最後になるかも知れない、と」
「〜〜っ!!」
「あ、おい!」
その言葉を聞いた瞬間クロは飛び出していた。
俺の静止には目もくれず直ぐにクロの姿は見えなくなった。
「追いかけてあげてください」
「……わかった」
〇
村中を探し回り、日が沈み始めた頃。
村の外れ、小さな湖のそばの日陰にクロはいた。
「よう……。隣座るぞ」
「はい……」
両親の名前が刻まれた銀を片手に丸くなっていて、暗い顔で虚ろな目をしていた。
俺はその隣で何を言うか迷っていた。
「……嬉しい筈なんですけどね」
「あぁ……」
「覚悟もしていた筈なのにっ!」
次第にクロの声は掠れ、絞り出すような声に変わった。
「生きてるって、心のどこかで思ってたんです! 顔も知らない両親と会えるって思っていたんです!」
「あぁ……」
「一言でも……話したかったのに……」
最後の方は言葉になっていなかった。
ただ嗚咽が漏れ、涙ばかりが溢れていた。
そんな姿が痛々しくて、可哀想で、見ていられなくなった。
こういう時に気の利いた言葉一つ出てこない。
でも、俺はこいつの支えになってやりたい。
少しでも恩に報いることができるなら……。
そう思ってクロを抱き寄せた。
「タケルさん……」
「お前にはいつも助けられてばかりだ。熊に殺されかけた時も、スラムのガキの時も、初仕事も時も、ドラゴンの時も、いつも頼ってばかりだ」
優しく頭を撫でるとまた嗚咽が聞こえ始めた。
俺の肩で顔を隠して歯を食いしばっている。
あぁ、やってしまった。
泣き止ませたかったのに失敗した。
「だから、今だけは俺を頼れ」
クロは静かに声を上げて泣いてしまった。
今まで我慢していた分を全部吐き出すように大粒の涙がとめどなく流れた。
作者の地元も田舎なので書いてて悲しくなりました




