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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
第一部 一章 力の芽
10/43

門出

総合10pt超えました!

この場を借りてお礼を申し上げます。

まだまだ未熟ですがこれからも頑張っていきます!

「よう、起きろよ小僧」


 聞き覚えのある声で意識が浮上した。

 だが心地よい目覚めでは無く、寧ろ二度寝して現実逃避したいくらいだった。


「……お前しかいないわな」


 起き上がると憎たらしい顔がそこにあった。

 初対面の時と何も変わっていない相手を小馬鹿にしている態度と顔。

 気分はもう最底辺だ。


「かかっ、久しぶりだな」


 イール。俺に不死を与えた張本人、というか神。

 イールは胡座をかいて座るとニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。


「なんだよ、俺はお前から貰った不死を解く方法を模索中なんだが……」

「くはっ! なんだ、諦めてなかったのか!」


 何が面白いのか腹を抱えて笑い出す。

 対して俺は腹の底から嫌悪していた。

 こんな場所に一分一秒も居たくないのだ。


「まぁ聞けよ、頑張って生きてるお前に解説をやろうと思ってな。そろそろ気になってる頃だろ、お前の謎の超パワー」

「そっちかよ、不死の解き方じゃないのかよ」

「それを教えたらお前に不死を与えた意味が無いだろう?」

「ちっ!」


 こいつはいつも俺の神経を逆なでしてくる。

 目的はなんだか知らないが、そもそもあるのかも怪しいが、俺はこいつが苦手というか嫌いだ。

 イールはそんな俺など気にも止めず喋りだした。


「お前の謎の超パワーは、ただ魔力をぶつけてるだけ。はい、終了」

「てめぇ、さては馬鹿にしてるな!?」

「大真面目さ、俺も少しは驚いてるんだぜ? ただ魔力を放出してるだけとは言え、素人が魔力操作をそれなりの形でできるなんて驚きだ」

「む……」


 意外な好評に固まってしまうがその様子を見てイールはまたカラカラと笑う。

 もうイラつく元気も無くなってきた。


「そんな顔するなよ。俺は嬉しいんだ、お前がとりあえず生きる道を選んでくれたことにな。しかしなぁ……それじゃあ不死を解くなんてまだまだ先は遠いな」


 肩を竦めながら、薄ら笑みを浮かべながら挑発してくる。

 こいつ、やっぱり馬鹿にしてやがる……。

 そう思うと無くなりかけていたイラつきも再熱してしまう。


「クソが、すぐに解いてやる」

「あまり期待せず待っておくさ」


 イールの口角が更に上がり憎たらしい笑みが戻った。

 胡座をかいた姿勢から立ち上がり両手を広げる。


「それじゃあ今回はここまでだ……精々模索しろよ小僧」


 前回と同じ言葉を残しイールは俺の前から消えた。

 それと同時に俺の意識も糸が切れたように途絶えた。



 〇




  二度目の目覚めを迎えると今度は自室だった。

  ドラゴンを倒した後に寝落ちたところで記憶は無い。

 部屋にいるということは誰かが運んでくれたのだろう。

  窓から差し込む日差しは程よく、寝ぼけた頭が徐々に目覚めていく。

  とりあえず、起きるか。


「あぁ、起きましたか」

「あぁ、起きた……」


  自室を出るとクロも起きて紅茶飲んでいた。

 俺も席に着き、紅茶を入れた。

 カフェインが入り、頭が回り始める。


「……どのくらい寝てた」

「あれから丸三日ずっと寝てましたよ」


  それを聞いて口に含んでいたお茶を盛大に吹き出してしまった。

  ズボンが濡れ、幾らか器官にも入ってしまい噎せる。

  イールと話していたのはわずかな時間だと思っていたが思いのほか時間が経っていたらしい。


「ちょっと、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……大丈夫だ……。街の方はどうなってる」

「今は瓦礫の対処に追われてます。でも、もうすぐ終わりそうです」

「早いな」

「マリーさんの転移魔法のお陰で瓦礫集めが早く終わったので。あとは小さいものばかりなので時間の問題ですね」

「そうか……」


  なんだか、他の人が身を粉にして働いてるのに自分だけ三日も寝てるだけで申し訳なくなってきた。

  少し肩身の狭い思いをしながら紅茶を啜るが味がよくわからなかった。


「ふふ、そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。一番の立役者なんですから誰も文句言いませんよ」

「って言われてもなぁ……」


  立役者、と言われてもイマイチ自覚に欠ける。

  アドレナリンで興奮しすぎてあまり覚えていないせいもあるが、今までそんな扱いを受けたこともないのでどう反応すれば良いか分からないのだ。


「もしかしたら国から褒賞されるかもしれませんね」

「勘弁してくれ……俺はそんな大した人間じゃない」


  大きなため息をついて机に伏せる。

  面倒事がやって来そうでまた死にたくなってきた、まだ死ねないが。

  もしもの事を考えると憂鬱になり俺はその日不貞寝した。





 〇



 そして翌日。


「お前さんを王宮に呼びたいと王から頼りがあった」

「マジかよ……」


 本当にあってしまった。

 クロの方を向いても苦笑いで済まされてしまい、俺は朝から溜息をつくことになった。

 口は災いの元とはよく言ったものだ。


「……どうでもいいことを聞くみたいだが、王様のことを軽く呼んでるがどんな関係なんだ?」

「なんだ?クロから聞いてないのか……俺は元・宮廷騎士団団長だ。王とは昔馴染みでな、今でも仕事を請け負う仲なのさ」

「なん……だと……」

「因みにマリーさんは元・宮廷魔導師団の団長です」


 空いた口が塞がらない。

 軽く勉強したが、宮廷に務めるという事はこの国では名誉ある事で、こと次第では一生遊んで暮らせる程金が入るらしい。

 ただその分、狭き門なのは当然で宮廷騎士団団長ともなれば王国最強と言っても過言ではないらしい。


「さて、それはそうとお前さんはあまり乗り気じゃないようだが王直々の招待だ、断わることはおすすめせんがね」

「わかったよ、行くよ、行けばいいんだろ」

「決まりだな、ハッハッハ!」


 半ば自棄で王宮に出向くことを了承した。

 目立つのは本当に勘弁願いたいが、俺の我儘でガドル達に迷惑をかけるわけにもいかないので渋々だ。

「何か必要なものとかあるのか?」

「特にねえさ、服もむこうに用意させるよう手配する」

「あ、タケルさん。マナーとかについては……」

「知らん」

「ですよね……」


 そこからクロによる王様に無礼を働かないために必要なマナーをみっちり叩き込まれた。

 姿勢が悪いだの、声にハリがないだの、まるで就活生みたいなことをひたすら教えられたが少しでも手を抜くとクロに強制的に姿勢を整えさせられ同じ動作を永遠とやらされた。


 クロを怒らせない方がいい……。

 この講習中に俺は強く誓った。


「ほら、また姿勢が悪くなってますよ!」


 年下の子供に完全に実権を握られている様子は傍から見れば大層滑稽だろう。

 その証拠にガドルが終始ニヤニヤしている。


「そこ、よそ見しない!」

「ぐ、ぬぅ……」


 講習が終わる頃には日は沈み、俺は床に沈みこんでいた。




 〇




 クロ、ガドルの案内で王宮まで来た俺は早々に控え部屋に通され身だしなみを整えることになった。

 普段のシャツに長ズボンという格好は流石にダメな様で着慣れないタキシードを着せられ王様に謁見することになった。

 着替えている最中も大理石で出来ている床や壁、柱に囲まれて全く落ち着かなかった。


 クロとガドルも着替えており、ガドルは俺と同じくタキシード。

 クロは婦人服、と言うのだろうか肩が出た水色のワンピースで薄化粧もしていた。


「ふふ、服に着られてますね」

「うるせえ」

「……なにか感想とかないんですか?」

「似合ってるぞ」

「え……あ、ありがとう、ございます」


 予想外の解答だったのか返事が詰まった。

 少し顔が赤い気がするがそこまで驚く事だろうか。


「さぁ、さっさと行こう。堅苦しいのは苦手なんだ」

「そうだな、王を待たせるのも悪いからなぁ」

「あ、ちょっと!」


 王の間に通されると俺達は玉座の前に整列させられ王様を待つことになった。

待合室も凄かったが王の間は一層煌びやかで、歩くことすら緊張してしまいそうになる。

こういう時、壊してしまった時の金の心配をしてしまうのは元サラリーマンの性分だろう。


 部屋には役人、貴族と言った国を担う役職の人間達が居た。

 無事に終わることを切に願いながら王様がどんな人物なのか想像する。

 やはり白髪で白髭なのだろうか。


 暫くすると号令がかかり王様が現れた。

 赤い髪に赤い服という威圧的な格好の男が玉座に座り頬杖をついた。

 それに合わせ俺達は跪く。


「そなたらが先のドラゴンを倒した者達か」

「その通りでございますダリウス王。ご健勝そうで何よりでございます」

「ガドル、そなたも息災で何よりである。これよりそなた達に褒美を取らせる!」

「タケル・タチモリ、前へ!」

「はい」


 王様の前に経つと先程から感じていた威圧感がさらに増す。

 緊張で背中に嫌な汗をかきながら王様を見上げる。

「そなたにはドラゴンを討伐した功績を称え、冒険者ランクの昇格を与える。今日からそなたはダイヤモンド級冒険者を名乗るが良い」

「身に余る光栄、有難く頂戴致します」

「下がって良い」


 その一言を受け、ゆっくり下がる。

 元の位置まで戻り、周りにバレないように一息つく。

 無事に終わりそうで何よりだ。


「ガドル、そなたには少し話がある。少し時間を貰いたい」

「承知致しました」

「……皆の者、下がって良い」


 王様の一言でガドル以外が部屋から出ることになった。

 俺とクロは元の服に着替え控えの部屋でガドルを待つことになった。

 どっと疲れが体に伸し掛り椅子にもたれ掛かる。


「ふふ、お疲れ様でした。昇格おめでとうございます」

「棚ぼたみたいなもんだけどな……」

「そんなことありませんよ、タケルさんの実力です」

「だといいがな」

「おう、悪い、待たせたな」


 雑談をしているとガドルが戻ってきた。

 いつもの皮鎧姿に戻り、俺達の向かいに座る。


「さて、王からの話なんだが……例のウルフやドラゴンの吸血鬼化した個体。俗称を吸血魔として、その調査を依頼された」

「……まさか俺とクロでか?」

「そのまさかだ」

「マジか……」

「まぁ、お前さんの昇格もこの依頼のためだろうな」


 策略じみたものを感じて憂鬱になってくる。

 次から次へと問題がやってくる。

 これも社畜の運命なのだろうか。


「まぁ、それはいいが。俺達の目的はあくまでクロの両親の墓探しだ。仕事もするがそっちも平行でやっても問題ないか?」

「タケルさん……」

「あぁ構わねぇよ。しかし、クロの両親か……」

「あんたはなんか知らないのか」

「クロにも聞かれたが俺はなんにも知らねぇんだ。悪いがな……。ゼノスのやつからクロのことを頼まれたくらいだからな」

「ゼノス?」

「私の育て親になってくれた人です」

「お前が育った場所には……」

「もう行きました。空振りでしたけどね……」

「まぁ、行き先についてはゆっくり決めればいいさ。今日はもう帰って準備するといい」


 ガドルの一言で解散となり、俺とクロは帰ることになった。

 これから色々なことが起こるだろう。

 この世界での俺の人生は割と長いものになりそうだ。


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