ユ・メイ=ラキ=ネイゲル 3
「よお、ガキんちょ」
シンの本陣を訪れていたユ・メイが、ライを見つけて片手をあげた。
「こんにちは、ライさん」
イ・シュウが丁寧に言う。
「こんにちは、ユ・メイ。シュウさん。どうしたの? シンになにか用事?」
「次に向けての打ち合わせです。関を越えればもう王の国――ゼタの膝元ですから」
「俺はいつも通りわーってやってぶっ殺せばいいと思うんだがなぁ」
「確かに。あの魔法の威力ならそれでいけるのかもしれないね」
ライはゼタの騎兵を蹂躙した水の魔法の威力を思い出す。津波に等しい水龍の波濤が敵を打ちのめした。水であるためにその龍には刃も矢も、槍も通じず、縦横を自在に泳ぎ回り敵の隊列をばらばらにした。切り込んでいった河賊達は乱戦に慣れていて、龍によって乱れた戦場の中で遊ぶように敵を殺した。最強の魔法とされる『炎』の魔法に匹敵する威力を持っているように思えた。
「つってもいつもあの威力が出せるわけじゃねーんだがな」
「え、そうなの?」
「大将?」
「水場が近くにあって、地盤にも水気が多くないとあそこまでの威力は出ねーよ。あのときは川が近かったからな。最近は雨も多かったしよ。例えば雨の少ない大陸の北側なんかじゃあ、俺の威力は半減する」
「たいしょー……」
「あん?」
「大将の魔法はうちの軍の核です。詳細をそんな簡単にばらさないでください」
「おう、わるいわるい」
まるで反省した様子なくユ・メイがからからと笑う。
シュウが掌で目を覆った。この気苦労の絶えない副官にライは少し同情した。
「ええと、ライさんは」
「僕はもう帰るところだよ」
「え、ここを離れるのですか」
「うん、僕らはスゥリーンのことが気になってきただけだから。ほんとういうと、ユーリーンはツギハギって人のことも気にかかってるみたいなんだけど、その人は馬の国にいるんだ」
「我々の目的は王の国の奪還、および正常化、そしてゼタの排除。その先の馬の国まで攻め込むわけではありませんね……その余力はシン王も計算していないはずですし」
「そう、向こうまで行くのは長丁場になりすぎてしまうから」
「そうですか、ではおわかれですね」
「寂しくなるね。どうだ、あんた。これが終われば河の国までこないかい? 歓迎するよ」
「嬉しいけれど、恐い人に怒られちゃうんだ」
ライはギ・リョクを思い浮かべた。
戻った時にとくに進展はなかったよ!なんていえばカンカンに怒るんだろうなと思う。
「なんだおまえ。俺よりおっかないやつがいるのかい?」
ライはユ・メイの顔を見て少し考えた。
「同じくらい、かなぁ?」
「ははっ。いいね、もしうちに遊びに来るときは是非そいつを連れてきてくんな。楽しくなりそうだ」
「きっとね」
ライは手を差し出した。ユ・メイがその手を自然に握り返す。
「それじゃあまた」
「ああ、次はもっとおもしろい場所で会おうぜ」
二人は手を離し、それぞれの場所へ向けて歩き出した。