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死ノ国  作者: 月島 真昼
二章
37/110

ラ・シン=ジギ=ナハル 10

 


 戦死者を集める。死体をあまり放置しておくと病が蔓延する理由となる。予防のために早急に処分するために、藁を被せて油を撒いた。火葬の準備をする。

 アゼルが「うちがやったろか?」と言った。シンは首を振った。

「お前はいない振りをしていろ。敵に隙が生まれるやもしれん」

「なんや。退屈やわ」

 火炎は勢いよく燃え上がり、瞬く間に死体の山を焼き尽くした。人間の焼ける独特の臭いが広がり、何人もの兵が嘔吐していた。壊獣達がざわめいている。

「よかったのですか」

 ローゲンが尋ねる。シンはなにも言わず、ただ一度だけ頷いた。

 テン・ルイの遺体も同じように焼かれたのだ。

 戦死者の数は敵の方が、タンガンに向かってまともに殴り掛かった敵の方が随分多かったが、テン・ルイを失っていることを鑑みれば、損失はむしろシンの側が大きいと言えるだろう。

 戦況はしばらくの間、膠着状態に入った。シンの軍勢は壊獣によって前衛を固め、騎馬隊の精鋭達がその脇を固める。その堅陣を前にして奇襲染みた最初のような襲撃は成立しない。

 スゥリーンによる空からの奇襲も、テン・ルイに代わってローゲンが脇を固め、幾らかの壊獣を常に手元に置くことで対策がなされた。

 リクコンの容態は少しすると回復した。髪の毛から体内に回った毒の量はそれほど多くなかったらしい。再びシンの服の下に潜り込んでいる。

 シンの側から攻撃を仕掛けることは出来たが、シンは急がなかった。正面からの開戦はシンの側にも被害が大きいこともあったが、それ以上に参戦すると返答を寄越したユ・メイを待つことにしたのだ。予定よりも遅れて、ユ・メイの軍船は河を遡ってやってきた。

 イ・シュウとその護衛についている数名が、シンのいる草の国の本陣を訪ねる。

 シンはイ・シュウを見て、王の国の時にユ・メイの傍らにいた小男だとすぐに気づいた。イ・シュウを幕舎の中へと通す。イ・シュウはシンとその傍らに立つローゲン、それから椅子を持ち込んでくつろいでいるアゼルを見る。ローゲンがイ・シュウがなにか行動に出た時にすぐに動けるように気を張っている。アゼルはイ・シュウをちらりと見て、意地の悪い笑みを作る。

 イ・シュウはテン・ルイの姿がないことにすぐに気づくがそれに触れなかった。軍礼をして、先ず到着が遅れたことを詫びた。

「すみません、この時期は船が追い風を受けられるはずだったのですが、どういうわけか風が逆を向いていまして」

「ああ」

 それはシンがアゼルを攻撃に使えない理由と同じだったのですぐに得心がいった。

「おまえたちが攻撃に移るまでにはどれくらいの時間がかかる?」

「二日頂ければ」

「了承した。これから今日から数えて三日目の昼時に、北を抑えるロクトウの軍にも伝達して三方から一度に仕掛ける。先陣は俺たちが切る。側面を突いてくれ」

「はい」

「敵の魔法持ちで一人凄まじいのがいるから気をつけろ。おたくの大将は、前線で指揮を執る方だろう? あまり出すぎないように伝えてくれ」

「お心遣い感謝します」

 イ・シュウは話しづらそうに幕舎の入り口の方を振り返った。

「なんだ?」

 目敏いシンが問い詰める。

「ええと、その、行軍の途中でシン王への客人を拾ったのですが、通してもよろしいでしょうか?」

「鉄の国の者か? いいだろう、通せ」

 自棄になったように目を閉じて、イ・シュウが「入ってください」と言った。

 小柄な少年と、腰に剣を差した少女が幕舎の中に入ってきた。

 その姿を認めてシンは笑いだしそうになった。腹を抱えて大声をあげたくなった。

 ああ、ここでおまえが出てくるのか。いいだろう、引っ掻き回して見せろ。この血なまぐさい戦争を、俺の胸躍るものに変えてくれ。

「ニ・ライ=クル=ナハル」

「ご機嫌よう。あまり元気そうじゃないね。シン」




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