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死ノ国  作者: 月島 真昼
二章
35/110

テン・ルイ 2



 王の国・東部――草の国との境を越えて、ゆっくりとシンと兵士達、そして壊獣の群れが進軍していく。不意に一陣の風が吹いた。北西から東南に向けて吹き下ろす、冷たい風だった。シンの頬を撫で、髪を揺らし、軍旗をはためかせた。

「……」

 シンは空を見た。雲が北から南へと流れていく。

 地図を見る。近くの地形を確認する。山林地帯。五万もの軍隊が通るには幾分頼りない道々が続いている。タンガンを先行させて道を切り開いている。

 シンは少し考えたあと、はためく軍旗を見ながら傍らのテン・ルイに向かって「どう思う?」と尋ねた。

「はい」

 テン・ルイは最初なにを問われているのかわからなかった。

 シンの視線を追い、その意図を掴もうとする。そうしてようやく気付く。

 この季節は南東の海側から、冷たくて湿った風が昇ってくる。そうして大陸側に停滞する気圧とぶちあたり、長い雨を呼ぶ。

 だが軍旗は北西からの風によって南東に向けてはためいている。

「風が巻いている」

「ああ。山にでもあたって吹き返しているのかと思ったが、この先にそんな類の大きな山はない。どうも自然の風ではないな」

「魔法、ですか」

「流人がとてつもない発明をしたのでなければ、おそらくな」

 シンはため息を吐いた。

 『喰』の魔法を有しているのはシンの側の優位点だと思っていたからだ。

「この風の意図は」

「アゼルの『炎』を封じるため」

 あれの魔法は、その気になれば一帯を焼け野原に変えることができる。

 丁度初手に一撃ぶっぱなさせるつもりだったのだが、あてが外れた。無暗に『炎』を使えば風に押し返されてシンの側の兵を焼くだろう。組み立てを考え直さなければならない。敵側からの火計もありえるし、敵は騎馬が主力だ。追い風で勢いを得て、さぞ調子づくことだろう。

「大陸は広いな」

 ぽつりと呟く。

 かつて覇王は「魔法の簒奪」を行った。覇王は知り得る限りの魔法を自分の血統の中に組み込んで、諸侯からその力を奪った。魔法を恐れていたからだ。

 よっていま現在魔法の力を継ぐものたちの大半はシンやアゼルのような覇王の子らである。だがゼタの用いているこの風を吹かせる魔法や、簒奪を目論んだものの覇王の子には決して宿らなかったユ・メイの『水』の魔法。ローゲンの『爪』に至っては誰も存在さえ知らなかった。いまなお魔法の力は大陸を広く覆っている。

「ねえねえ、シン」

 テン・ルイの腕の間からココノビがひょっこりと顔を出した。

「戦争って食べ物が大事なんだよね? だからロクトウなんて愚物を説得するためにシンは食べ物の備蓄を吐き出したんだよね?」

 シンはココノビを無視して前を見る。

「シエンは使わないの?」

「馬鹿か貴様は」

 苛立たし気にココノビを睨みつけた。

「これから手に入れる土地の価値をゼロにしてどうする」

「そういうものなの?」

 ココノビがテン・ルイを見上げた。

 テン・ルイはなにも言わずにココノビの頭に手を置いた。

 ココノビは目を細めてその大きな手の感触を喜ぶ。

「そうなんだ。わたしはまたてっきり、シエンを使うのは人道に反するからー、みたいなバカなことばっかり考えてるんだと思ってた!」

 わたしの力を封じてるみたいに。と言外に付け足す。

 シンは長い息を吐いた。それから右拳を固めて、ココノビの頬を殴りつけた。

「次は拳で済むと思うな」

 腰に佩いた剣の柄に触れる。

 ココノビは幼子の風貌らしからぬにやにやとした嫌な笑みで、シンを見上げる。

 やがて隘路を抜けて、開けた平原に出た。「しばらく兵を休め、ロクトウを待つ」シンが言い、テン・ルイが頷く。シンは西の地平線を見る。

 おそらくはゼタの軍勢が展開し、シンを待ち受けているだろう。

 飛行能力に優れた壊獣であるソウヨクを出して、ゼタの軍勢を覗きたい衝動に駆られる。自分の敵の大きさを正確に把握したかった。シンはその衝動をどうにか押し留める。

 偵察に優れたソウヨクだが、継続して飛行できる時間はそれほど長いわけではない。それにソウヨクの背に乗る人間の疲労もある。何度か訓練させてはいるが、それでも慣れない空は体力の消耗が激しい。気温も低い。高度が充分でなければ弓矢に迎撃される。ソウヨクを動かすのは、少なくとも敵が目視出来てからのことだ。

(あまり壊獣に頼るな。人間を信用しろ。人の上に立つものとしての資質で劣っていると認めることになるぞ?)

 自嘲してシンは笑う。

 それから一日の後にロクトウの軍勢がシンに合流した。

 鎧を身につけた大柄な人物がシンの元へと参上する。少し手前で馬から降りて、馬を引いてシンの前で両手をあわせて軍礼をする。

「それがしは灯の国の車騎将軍、ガ・ナイ=ヤグと申す。そちらはラ・シン=ジギ=ナハル殿に」

「ああ、相違ない」

 シンはガ・ナイという名が耳に覚えがあることに気づいた。どこで聞いたのか。たしかキ・シガが話していたはずだ。「ハリグモ=ヤグは養父であるガ・ナイ=ヤグの失態によって放逐された」……ハリグモの養父。あの武勇を育てた男か。

 確かハリグモが功績を立てた北からの異民族の侵攻を防ぐ戦いにおいて、総指揮を執っていたのがこのガ・ナイ=ヤグであったはずだ。

 俄然興味を惹かれる存在ではあったが、それよりもまず別のことに思い当たる。

 ――この男は俺に恨みがあるのではないか?

 キ・シガによる離間の計。酒と女を使い、内部情報を粗方吐かせてから、「ガ・ナイが情報を吐いた」ということをロクトウに耳打ちした。そうしてガ・ナイは血縁がないとはいえ息子であるハリグモを手中から失っている。

 シンはハリグモの凄絶な武技を思い出す。長物の一振りだけで、兵士三十人に相当するはずのタンガンを二頭も切って落としてみせた。あのときはシチセイによる不意の一撃によってなんとか撃退することができたが、同じ手段は二度と通用しないだろう。

 随分底意地の悪い人材の選定だ。

 さて、どうしたものか。

「一つ提案があるのだが」

 ガ・ナイが言う。

「それがしは個人的にあんたを好いていない」

 シンは内心で少し笑った。直截的な物言い。もってまわった言い回しよりもよほど好感が持てた。

「元々の所属も違う兵隊だ。無理に足並みに揃えようとすると逆に乱れるのがおちだろう。よって俺と俺の兵があんたの軍から離れて行動し、これより北を迂回してゼタの軍の側面につくことをお許しいただきたい」

 戦術的にも理に適っている。

 正面攻撃よりも側面からの攻撃を交えた方がよほど効果的だ。

 ただし戦力を分散したことで各個撃破さえされなければ、だが。

「サンロウ」

 シンは壊獣の一匹を呼んだ。

 白い毛並みの狼に似た壊獣が人垣を縫って現れる。

「了承した。これを連れていけ。なにかあれば伝令に使え。臭いを追って必ず俺の元に辿り着く」

「ありがたい。借り受ける。それでは、戦場で」

 颯爽と身を翻してガ・ナイが去っていく。

「ココノビ」

 シンは短く言った。

「能力の使用を許可する。あいつを殺れ。時期はこちらで指示する」

 ココノビは目を輝かせて頷いた。サンロウに触れる。優しくその額を撫で、次にその口の中に腕を突っ込んだ。「よいしょ、っと」何かをサンロウの体内に残したあと、ココノビが手を引き抜く。なにごともなかったかのように、サンロウはガ・ナイの後を追う。

「いってらっしゃーい」

 少女らしい無邪気な声で言い、手を振ってサンロウを見送った。

 テン・ルイが目を閉じた。小さく首を横に振る。

「俺のやり方は厭わしいか?」

「いいえ。ただ少し惜しんでいただけです」

 シンが小さく頷いた。

 行軍を再開する。

 兵馬の疲労を考慮した緩やかな二日ほどの進軍のあとに、地平線の彼方に騎兵の姿が微かに映った。シンがソウヨクに兵を乗せ、上空に飛ばす。




 隊列を整える隙を与えてはくれなかった。目視の範囲に入った瞬間に、ゼタの一軍が平原を駆けてきた。馬の国の誇る騎馬の精鋭兵達。シンは前衛に置いたタンガンを即座に展開する。サンロウが隙間を埋める。

「見せてくれ。人間の力でタンガンを相手になにができる?」

 シンが呟く。

 先陣を駆けてきた騎馬が途中で横に逸れた。眼前を撫でるように右に流れていく騎兵達に、頭の悪いタンガンの多くが体を向けて追う体勢を作る。壊獣使い達が手綱を引いてタンガンが騎兵を追うのを食い止める。第二陣の騎兵がまっすぐに突っ込んできたからだ。

 タンガンの多くは右に流れた方の騎兵を追っていて正面を向いておらず、第二陣の騎兵達に対して一瞬反応が遅れる。

「テン・ルイ、騎兵を率いて右翼を援護しろ」

 シンが鋭い声で言う。「はっ!」テン・ルイが直ぐに答え、騎馬の精兵を率いてシンの傍を離れる。

 シンの目が戦場に戻る。

人間の二倍近い体躯を誇るタンガンの急所は地上からは捉えられない。だから騎兵達は、馬の足を撓めさせて大きく撥ね跳んだ。跳躍してタンガンの瞳に槍を突き立てた。半数近い騎兵はタンガンの太い腕で振り払われて人馬諸共に叩き潰されて死ぬ。だが続く騎兵達がさらに飛び掛かり、タンガンを突き殺していく。

 合間を縫ってサンロウ達が騎兵に食らいつこうとする。騎兵の放つ槍がサンロウを撃ち抜く。薙ぎ払う。食らいついても鎧に、手甲や足甲に受け止められる。いかに壊獣とて小型のサンロウには鋼の防具を噛み砕けるほどの咬筋力はない。

 サンロウが吠え声を挙げた。ろくに訓練されていない騎兵ならば馬の興奮を鎮めきれずに、この一手で落馬するのだが馬の国の精兵達は造作もなく興奮を沈めて見せる。

 横に逸れていた一陣が側面から壊獣使い達、シンの軍の人間たちに襲い掛かった。

 盾としてのタンガンを有しない人間たちが騎兵に側面を突かれて崩れていく。

 数拍遅れて、シンの側からのテン・ルイによって率いられた騎兵隊がゼタの第一陣に向かって突っ込んだ。横合いを突かれた形になり第一陣が崩れる。しかし総崩れになる前に一陣は体勢を立て直し、すぐに退却していく。テン・ルイはそれを追いかけようとした兵士の前に槍を突き出して止めた。

 なぜ、と視線で問われてテン・ルイは槍の穂先で斜め前方を示す。退却を援護するためのゼタの軍隊が両脇に据えられている。迂闊な追撃を行えば、彼らに挟撃を受けて屍を晒す結果となるだろう。

 シンが「予想以上だな。素晴らしい」と呟いた。

 シンには知る由もなかった。

 ゼタの仕掛けたこの一戦が、シンの意識を釘付けにするためのただの陽動に過ぎなかったことなど。

 ぼとり、となにかがシンの眼前に落ちてきた。それはソウヨクと、それに乗っていたはずの兵士だった。ソウヨクは背中から心臓を貫かれて、兵士は鋭利な刃物で首元を裂かれて、真っ赤な血を流して死んでいた。

 続けて影が降ってきた。シンは空を見上げ、咄嗟に身を引いた。

 空からまっすぐに落ちてきた少女——スゥリーン=アスナイが、その勢いのままに剣を振り下ろした。

 べきり。という骨の折れる鈍い感触。ぶちぶちぶち、と繊維質の何かが切れる音。

 それは刃が身体に届いた感触ではなかった。

(殺せてない)

 スゥリーンは咄嗟に飛びのく。切れたシンの軍服の下から、人間の毛髪に似た黒い触手が無数に伸びる。この触手が束ねられて斬撃の切れ味を殺したらしい。触手がスゥリーンを捉えようと動く。その触手はリクコンという名の壊獣のものだ。スゥリーンに触手が届かないと見て、シンを守るように包み、スゥリーンを威嚇している。

 シンは鎖骨を折っていた。痛みで脂汗を流しながら襲撃してきた年端もいかない少女を見る。呆気に取られていた護衛の兵がようやくスゥリーンに飛び掛かったが、かくんと脱力したスゥリーンがわずかに体を沈ませるとそれだけで兵士が突き出した槍をかわした。次の瞬間にその小さな体に万力の力が籠められる。全身の発条をすべて撓め、その力を開放して回転。舞うような美しい動きと、その軌跡に添った剣の一撃が兵士の首を撥ね飛ばす。そのまま体をさらに沈ませる。体捌きでさらに他の兵からの槍を躱す。剣を躱す。兵士達の隙間を縫うように小さな体をうねらせる。関節部にどうしても出来てしまう鎧の隙間を通して足の付け根を短剣で突く。時には全身の力を使って剣の切っ先で鎧を貫いて心臓を破壊する。

 宮廷暗殺者アスナイ家の技の極意が死の嵐を巻き起こす。

 全身を返り血に染めながら、感情のない目でシンを見る。

 周囲の兵は動けない。迂闊に近づけば殺されることがわかりきっているからだ。

「なるほど、恐ろしい武技だ。だがこれはどうだ」

 シンは三体のタンガンを後方から呼び寄せた。

「『風』の魔法の術者はお前だな。軽い体ならば圧縮した空気の噴射だけで十分に飛行できるらしい。だがお前の魔法は、範囲が広い代償に局所的な破壊力に欠ける」

 スゥリーンは一瞬ぽかんとした表情をして、それから小さく笑った。

「はずれ」

 そうしてタンガンの懐へと飛び込み、その腹を蹴り飛ばした。

 びちゃびちゃびちゃ。水気の多いなにかが落ちる。シンの頬を飛んできた飛沫が濡らす。タンガンの巨体が地面に沈む。タンガンの腹には大きな穴が開いていた。穴からは内臓が零れ、深紅色の血が地面を濡らしていた。跳躍したスゥリーンが二体目のタンガンを飛び越えて宙を舞う。タンガンが両腕を振り上げてスゥリーンを掴もうとしたが、スゥリーンはなにもない空中で足を着つくと、それを蹴る。嘲笑うかのようにタンガンの腕の間をすり抜けて失墜。同時にその瞳に一撃を下した。後頭部を突き抜けて脳が破壊され、タンガンが死ぬ。

 タンガンの頭部に刺さった剣が引き抜かれる前に三体目のタンガンが迫る。スゥリーンはタンガンに向けて飛び込んだ。跳躍の勢いのままにタンガンの首を蹴り飛ばす。太い筋肉が千切れ、硬い骨がへし折れて、タンガンの首が吹っ飛んだ。

 剣を引き抜く。血しぶきが少女の全身を紅に染める。

(しにがみ……)

 シンは一瞬、そう思い、柄にもないことを考えたと少し笑う。

「ゴエイ、サンロウ!」

 死んでたまるか。

 シンはありったけの壊獣を呼びつける。人間の子供くらいの背丈の小剣を持った蜥蜴の壊獣が数匹跳ね回る。白毛の狼がスゥリーンに食いつこうと駆ける。

「児戯」

 だがスゥリーンはそれらを軽く飛び越えた。着地し、近くに転がっていたタンガンの首を、シンに向けて蹴る。シンは首をかわしたが、凄まじい速さで飛来したその首はリクコンの触手を巻き込んで後方に飛んでいく。リクコンがシンから剥ぎ取られて、小さなその本体が落ちる。リクコンの本体は異様に髪の毛の長い、人差し指くらいの大きさの少女だった。リクコンが起き上がろうとしているがうまく体が動かせていない。スゥリーンの剣に塗られた毒のせいだ。

 地面を蹴ったスゥリーンが一瞬でシンの懐に入る。

(速っ……)

 シンの心臓をめがけて剣を突き込もうとする。

 シンは死を覚悟した。

「おおおっ!」

 その剣を、横合いから突っ込んできたテン・ルイの槍が阻んだ。スゥリーンが舌打ちする。馬上から放たれたテン・ルイの槍の二撃目を、天高く跳躍して躱す。スゥリーンがテン・ルイの頭上で空中に足を着いて止まり、そこを蹴って失墜する。「出来損ないめ。思い知れ」自分の頭上にいるスゥリーンの姿がテン・ルイには見えていた。槍を振り上げて迎撃しようとする。ほんのわずかな差だった。一刹那の差でその槍よりも、スゥリーンの剣のほうが先に届いた。テン・ルイの動きの想像に、老いた体は微かについていけなかった。

 背中を刃が深く抉った。

 とさり。

 馬体からテン・ルイがずり落ちる。興奮した馬がシンに突進してくる。

「……テン・ルイ?」

 シンは呆気に取られていた。テン・ルイはシンの知る中で一番の武人だ。それをこうもあっさりと打ち倒すものがいるとは、想像もできなかったのだ。だが次の瞬間には正気に戻ると、自分に向けて突っ込んでくるテン・ルイの馬の首に飛びついた。リクコンの髪を掴み強引に手元に引き寄せる。興奮した馬が走り抜ける。

 スゥリーンは当然それを追おうと膝を撓める。

「『爪』の魔法」

「!」

 だがそうして溜め込んだ力を、シンを追うために使うことはできなかった。

 隻眼の女が右腕を掲げていた。その指先から、空中に巨大な剣に似たものが五本並んでいた。ローゲンが腕を振るうとその五本の巨大な剣がまとめてスゥリーンに襲いかかった。寸前までスゥリーンがいた空間が抉り取られる。地面にその軌跡が数メルトルに渡って刻み込まれている。

 スゥリーンが回避に費やした一瞬で、シンはすでに遠く離れて兵士達の中へと紛れこんでいた。追おうとして、スゥリーンは大腿部に痛みを感じる。スゥリーンの魔法は脚部に大きな負担を強いる。空中に立ち、ローゲンを見下ろす。「降りてこい」自分を見上げている闘志に満ちた隻眼の瞳を見る。簡単な相手には見えない。あれと戦えば自分には離脱のための力も残らないことを予感する。

スゥリーンは舌打ちし、そのまま空を蹴ってゼタの陣営の方へと駆け戻っていった。

 ローゲンは傍らに倒れているテン・ルイに気づき、その元へと駆け寄った。

「テン・ルイ殿」

 手当をしようとして肩をゆすり、その横顔を見てローゲンは思わず手を引いた。見開かれたままの目と、だらしなく開いたよだれの垂れる口。頬にこわばりはない。

 テン・ルイは既に事切れていた。



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