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死ノ国  作者: 月島 真昼
一章
23/110

ハクタク 1



 蒼旗賊の隠れ家の中で、一人の子供が大きな台に乗せられていた。瞼は半分降りている。その腹には根本で折れた弓矢が突き立っていて、傷口から血が溢れている。

その隣で白い肌の痩せた中年男が刃物を握っている。頭には黄色い頭巾を被っていて口には布を当てている。そのせいで顔の特徴ははっきりしない。ただ瞳は青かった。蒼旗賊の間でハクタクと呼ばれている流人だ。

「ファック。盲弾銃創のマフィアのおっさんを思い出すな」

 盲弾銃創とは、体内に銃弾が残っている状態のことだ。

 ハクタクは刃物を使って少年の腹を切り開いた。その傷口はごく小さい面積だけだ。

「ファック、ファック、ファック。この世界はクソオブクソオブクソだ。俺様はなんでスマホの充電もできねえ異世界くんだりまできてクソオペやってんだ。いまごろ俺様はやっと引き当てたズルジン使って作ったスペルハンターでアジアサーバーのクソジャップやクソコリアンやクソチャイニーズ共のクソパラディンやクソプリーストのフェイスをハントしてるはずだったのによお。ファッキンランク十台をおさらばして上級プレイヤーの仲間入りするだった俺様のご機嫌な休日はどこいったんだよ。このクソ世界にきてから俺様のやったことといえばオペオペオペオペ。いくら俺様がワーカーホリックだからってこんなもん気が狂うぜ。ファック。ファック。ファック」

 ぶつくさと文句を言いながらもすさまじい速さで体内に残る鏃を取り出す。即席のポンプで血を吸い出し、生理食塩水で傷口を洗う。破傷風の予防だ。

「おじちゃん、僕もう助からないの?」

 朦朧とした声で少年が言う。

 ハクタクは鼻で笑った。

「は? 僕もう助からないの? いいか? てめえはちょっと腹に矢がぶっ刺さっただけだ。俺様のゴッドメスにかかればこんなもん十五分でほじくりだして消毒して縫いあわしてしまいなんだよ。俺様はマシンガンで撃たれて全身穴だらけになったおっさんを後遺症一つなく完治させた男だぜ。クソ坊主の腹に刺さったクソアローなんざちょちょいのちょいでおしまいさ。は? 僕助からないの? 舐めんな。十分後にはてめえの腹は塞がってて、あとはちょいと眠ってるだけでお仕舞いさ。黙ってやがれ。ファック」

「よくわからないけど、おじちゃん、すんごく口悪いね」

「ストレスで禿げそうさ。ファック」

 そのやりとりを最後に麻酔で朦朧としていた少年の意識が静かに眠りへと落ちて行った。ハクタクは手早く傷口を縫い合わせる。すべての処置を終えるまでに本当に十五分もかかっていなかった。アルコールで消毒したあと脱脂綿を傷口に当てて包帯とテープで固定する。

 不意にオペ室の扉が開いた。

「出て行け。雑菌が入る」

 マスク越しのくぐもった、だけど切り裂くような声が飛ぶ。小柄な子供と女が戸惑いながら顔を見合わせる。ハクタクはその二人が怪我人を抱えていることに気づく。

「なんだ、患者か、持ってこい。それからこいつを連れて行って安静にさせとけ。まったく今日は厄日だぜ。ファック」

 少年を乗せたストレッチャーを運び出させ、新たに二人の患者を受け取ったハクタクは、すぐにその処置に取り掛かった。

「ファック」

 神経質な声が手術室に響く。




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