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死ノ国  作者: 月島 真昼
終章
101/110

イ・シュウ=アズ=ゼン 6


 ユ・メイ=ラキ=ネイゲルが雷河から北に向けて歩を進める。

 そうして草の国の一軍に突き当たる。広い平原で待ち構えるように軍を展開している。

「敵の主力は騎馬隊。陸戦最強の草の国の軍でも精鋭ですね。率いているのはおそらくローゲン。対してこちらは、河から距離があって貴女の全力は引き出せません。まともにあたれば勝算は四割といったところでしょうか。さて、どうしますか」

 イ・シュウが試すように尋ねる。

 ユ・メイは暴力的な笑みを浮かべる。

「決まってんだろ。粉々にしてやる」

 地平線の向こうに広がる軍勢をにらみつける。

 突撃の号令をかけようと剣の柄に手をやる。

「言うと思ってましたよ……駄目です」

「あん?」

「はっきり言って勝算が低すぎます。我々はここでローゲンを釘付けにする。それだけで十分ライさん達の補助になっています。地の利も向こうにありますし」

 シュウはちらりと自分たちの右手側にある山林地帯に目を剝けた。

「仮に突破できたとしても無為に、膨大な数の屍を積み上げての戦果になります。それではシン王にまでは届きません」

「なんだよ。ここまできて尻まくって逃げろってか?」

「いえ、それも違います」

 ユ・メイは顔を顰めた。

「まわりくどいな」

「はい、まわりくどいことをやりましょうと言ってるんです。ライさんたちは例の砲を使って、向こうの戦線を突破するでしょう。すると我々の前方のあの軍は、どうするでしょうか?」

 少し考えてユ・メイは「さっさとこっちを片付けようと突っ込んでくる」と言う。

「そうなるかもしれませんね」

 シュウは内心で(あちらの指揮官があなたくらいに血の気が多ければ)と苦笑する。

「それならこちらも用意の手が使えるので悪い状況にはなりません。それから、もう一つは?」

「……様子を見に行く?」

 おそるおそるユ・メイが言う。自分ならば突っ込んでいくので「突撃」以外の選択肢が思い浮かばず、どうにか捻りだしたような言い方だった。

「ええ。シン王の元へ戻るなり、ライさんたちの様子を見に行くなり、なんらかの形で動きが生じます。そして動きが生じれば、隙ができます。僕らはそのときまで待ちに徹しましょう」

「俺はあんまり気が長い方じゃねえぞ?」

「大丈夫ですよ。あっちはもっと焦りますから」

 そんなもんか?、とぼやいたユ・メイを煙に巻く。

 シュウにとってこの戦いで全力を尽くすことは、愚策だった。シュウは目の前の戦を見ていない。そのあとのことを考えている。

河の国がここで全力を尽くして草の国を倒して、かの国の領土を翅の国と分け合えばどうなるか? 大陸の勢力図がきれいに二分される。王の国と灯の国が草の国によって落とされ、馬の国と霧の国が屍の魔法によって滅び去り、鉄の国が翅の国に呑まれた。この大陸に大国と呼べるようなものは、もう「草」と「河」と「翅」の三つしか残っていないのだ。

 翅の国には戦車がある。新開発された砲という新兵器がある。河の国の陸戦戦力は、いまとなっては翅の国に劣っている。

 河の国は陸戦において最強の草の国と対等に渡り合ってきた。が、それは雷河という大河を挟んだ上での、水戦での戦果だ。翅の国との境には雷河のような大河は存在しない。ユ・メイは翅の国との戦いにおいて全力を奮えない。

ニ・ライと友好関係が築けているいまではないかもしれない。

けれど、いつか、この先の未来のどこかで河の国は翅の国に滅ぼされる。

 だからこの戦いでシュウが見ている決着は、草の国を「ある程度」滅ぼすことだ。

 決定的な打撃を与えずにずるずると存続させる。翅の国が力を持ちすぎれば、今度は草の国に与して均衡を保つ。はっきり言ってしまえば、翅の国と河の国が協力して草の国に対抗している「現在の関係」こそがシュウと河の国にとっては理想に近い。

(そんなこといっても、僕の愛しの王様はこういうのをわかってくれないんだろうだけどなぁ)

 くすりと笑う。

 斥候が敵の動きを報せるのをじっと待つ。

 そうして、ローゲンの率いる騎兵と壊獣の群れが動きを見せた。



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