表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
十一章
93/104

九十話「全なる力」



(覚悟、してたはずなんだけどな、、、)


想像と実際に起こるのでは、感じるものの質量が圧倒的に違う。

多少見た目が変わったといっても、ベルと認識出来る容姿で精霊王と名乗られるのには、かなり強烈な違和感を覚えた。

衝撃と、悲しさ、それに寂しさを伴う違和感を。

そうか。

もう、完全に転生を終えてしまったんだな、、。



『跪け』

『王の御前であるぞ』



簡単な自己紹介すら返せずに呆けていると、裏表の精霊王が苛立った様子で、こっちを見もせずにそう言ってきた。

見た目はベルだけど、今はもう精霊王なんだもんな、、。

友達から遠退く気がするけど、跪かないといけない────




「娘とは、目を合わせて話すものです」




素直に従って跪こうかという考えは、浮かんだ途端にフレーメルの力強い一言によって掻き消された。

そうだ、そうだよな。

見た目が変わったからなんだ、記憶がなくなったからなんだ。

ベルがフレーメルの娘同然の存在であり、俺とリビィの友人である事に変わりなんてないじゃないか。

危うく、友達に跪いて自ら距離を置くところだった。



「友達とも、目を合わせて話さないとおかしいですよね」

「そうだね。私もベルちゃんの友達だから」



俺とリビィの発言に、裏表の精霊王が分かり易く不機嫌になる。

後ろ姿しか見えていないのに、何故こうも湧き出る怒りが伝わってくるのか。

それほど、強い感情だということだろうか。




⦅収めなさい⦆




再度柔らかく微笑んだベルが、裏表の精霊王の頭を撫でて宥める。

すると、あっという間に背中から感じる怒りは消え去った。

素直だ、、。




⦅あなた方の口から、お名前を聞いてもよろしいですか?⦆


「フレーメルと申します」

「ケイトです」

「リビィです」



端的に名前を応える。

様子を見るに、名前を知らなくて聞いたわけではなさそうだ。


ベルの記憶を引き継いでいるのか、、?

記憶は消えると言っていたはずだが、、。




⦅今まで、幾度となく転生をしてきました⦆




静かで、それでいて明瞭に耳に届く不思議な声で、ベルが話し出す。

初代精霊王としての、経験と心の内を。




⦅転生をする度に、我が依代となった愛し子らは、容姿だけで災いの前兆だと決めつけられ、不当に殺められてきました。一人目のジョセプ、二人目のリーム、三人目のルルナ。それ以外にも沢山。無為に散らされた命は、数え切れません⦆




声から、表情から。

悲痛が伝播してくる。

曰く、今までの転生体の生涯の記憶は全て残っているらしく、思い出しては心を痛めてを繰り返しているらしい。

何度も、転生を諦めようとしたんだそう。

これ以上犠牲を出してしまうなら、無為に命を散らしてしまうなら、いっそ全てを投げ捨てて転生をやめてしまおう。

裏表の精霊王に精霊域は任せて、自分の役目は終わりにしよう。

五人目の転生体が殺された辺りから、毎日のようにそんな考えと戦っていたらしい。

それでも今日の日まで転生を諦めなかったのは、精霊王が抱える、〝世界の守護者〟という役目を果たす為。

神に仇なし世界を混沌に陥れる存在を導く、もしくはその生を奪うのが世界の守護者の役目らしい。




⦅今、私の愛しい子である精霊達の自由を奪い、それによって得た力を使って神に仇なそうとする悪が聖域へ侵入しています⦆




話を聞く限り、おそらくそれはクラムドの事だろう。

聖域に行って何をするのかと思っていたが、もの凄く簡単な言葉で言うと、神様に喧嘩を売りに行った、と考えて間違いないかな。

神やら世界の混沌やら、スケールが大き過ぎていまいち分からないけど。




⦅世界の混沌を回避するには、愛しい精霊達を救うには、私の転生が不可欠でした。転生体の愛し子をここへ連れてきてくれた事、感謝しないといけませんね。グラフロム・フィッシュガルド、、、。いいえ、今の名前は確か、〝キュイ〟でしたね⦆




フィッシュガルド、、、?

どこかで聞いた事がある気が、、、。

どこだっただろうか。




⦅それと、あなた方にも格別の感謝を。よく一人で守り、育ててくれました。フレーメル⦆


「当然の事です」




今のベルの持つ雰囲気に気圧されながらも、フレーメルが何でもない事のように返答する。

やはり、血は繋がってないとは言っても母は強い。




⦅友となり、足並みを揃えて歩んでくれたあなた方にも感謝を。ケイト、リビィ⦆


「感謝をするのは僕のほうです」

「うんうん。ベルちゃんには沢山笑顔を貰ったからね」




ベルとリビィは俺が知らない内に何度か街中でバッタリ会った事はあれど、それを含めても数回しか会った事はない、らしい。

それでも、ベルと一緒にいるリビィは楽しそうだったし、リビィと一緒にいるベルもまた、楽しそうだった。

言わずもがな、一緒にいて楽しかったのは俺も同じだ。

だからこその友達だしな。





⦅この子が出会えたのが、あなた方で本当に良かった。自らの子らを守れなかった私よりも、これからは沢山の素敵な繋がりを持って成長してきたこの子に任せたほうが良さそうですね。精霊達の、世界の未来を⦆






卑屈ではなく、嬉しそうにそう言ったベルは、羽衣をはためかせ、自らを淡緑色の温かい光で包み込んだ。

散々幻想的な光景を見てきた後なのに、何故かこの光景が一番目を奪われる。

ただ、人が淡く発光しているだけだというのに。

魔術を使う際に見られる特有の光だと、頭の中では理解しているのに。

それでも何故か、視線は固定させられ、目からは一条の雫が流れ落ちた。

拭うという行為すら、見据える光景の前では、静寂の中の騒音のように不必要で不適当なものに感じられる。






「ベル、、?」






光が晴れた後の姿は、光る前と何も変わっていない。

服装も背の高さも髪の色も長さも、全てさっきと同じだ。

だが、フレーメルだけは何かを感じ取ったらしい。

光が晴れた後の姿を見て、〝ベル〟とだけ零した。

何を、感じ取ったのだろうか。




「フレーメルさん、、」




、、、ん?

声を聞いて、俺も漸く感じ取れた。

あれは、初代精霊王ではなくベル。

成長した姿のベルだ。

見た目が変わらないから、理解するのに時間が掛かってしまった。




「やっぱり、フレーメルさんは本当のお母さんだったんですね」




フレーメルは親の代わりをしてるだけじゃなかったのか、、?

ベルの、俺の、そしてリビィの視線がフレーメルに注がれた。

裏表の精霊王は、変わらず跪いている。



「娘と言ったのは、あくまでそう思っているというだけです。私は単なる親代わりですから」

「ごめんなさい、フレーメルさん。きっと必死に隠そうとしてきたと思うんですけど、他の転生体の記憶と一緒に、僕が生まれた時、生まれる前の記憶も蘇ったんです。お腹の中に居る時に、フレーメルさんが沢山話し掛けてくれた事も、思い出しました」

「ベル、、、」



初代精霊王の記憶と一緒に、自分の知り得ない胎児の時の記憶も得たのか、、。

その記憶に従って言っているのであれば、フレーメルが実の母親だという話も間違いではないのだろう。

何故、隠していたのか。

フレーメルの苦々しげな表情から察するに、そこには複雑な事情が絡んでいる気がする。



「今まで気付けなくて、本当にごめんなさい」

「ベル、悪いのはあなたではなく私です。跡継ぎを産めと言われていたのに女に産んでしまった。せめて嫁げるように早く教養を身に着けさせろと言われ、小さい頃から無茶をさせてしまった。そして、家を追い出される事になってしまった。そんな事柄達から感じる後ろめたさから、いつまでもあなたに実の母親である事を打ち明けられなかった。本当に、本当にごめんなさい。我儘で自分勝手な母親で、辛い思いを沢山させて、本当にごめんなさい、、、」



声を震わせながらも、途切らせずにフレーメルが謝罪をつらつらと零す。

謝罪の内容である跡継ぎや嫁ぐ為の教養というものから察するに、これはベルがベルになる前の話じゃないだろうか。

以前メヒトが言っていた、ベルの前の名前の時の話。

名前を変えなければいけない程の何かがベルを襲い、それを避けられなかった事をフレーメルが謝罪している、といったところだろうか。



「不思議と、ぼんやりですけど、フレーメルさんが経験してきた事も映像の記憶で得る事が出来たんです。なので、フレーメルさんがお母さんに沢山無茶を言われてた事も、僕に厳しくする度に心を痛めていた事も知ってます。だから、だからっ」



語気を強めたベルの言葉が詰まる。

何を言うか、どれを選択するか。

突如得た多くの記憶の中から、それを選別しているように見える。



「謝らないでください。僕は、産んでくれた事も、厳しくしてくれた事もここまで育ててくれた事も。全部全部!感謝してるんです。だから!だから、、、。もう、隠さないでください」

「ベ、、ル、、」



フレーメルの声は、震えていた。

ベルの声も、時折強くなりながらも震えを持っていた。

それでも、お互い涙を流さずにグッと堪えているのは、何か思うところがあってのものなんだろうか。

親子としての初めての邂逅。

その事実に、二人よりも先に俺のほうが泣いてしまいそうだった。




「ベ、ベル、、?」




ベルが重力を感じさせない動きで軽やかに舞い、柔らかくフレーメルに抱き着く。

動揺するフレーメルと鼻をスンと鳴らすベル。

胸に埋めていて顔は見えないが、おそらくベルは泣いているのだろう。


ずっと一緒に生活してきた大好きな親代わりの存在が実母だったんだ。

嬉しさを主体とした色々な感情が綯い交ぜになって涙を流してしまうのは、仕方のない事だろう。

そしてそれは、得る感情こそ違えどフレーメルも同じ。

少しの逡巡の後にベルの背中に手を回し、フレーメルも堪えていた涙を流した。



「ベル。ありがとう。本当に、ありがとう、、、。ずっと言えなくて、、でも言いたくて、、。あなたが許してくれたおかげで、私は漸く、あなたの本当の母親で在れる。優しい子に、強い子に育ってくれてありがとう、、、」

「ぐすっ。優しくなれたのも、強くなれたのも、全部全部。フレーメルさ、、お母さんのおかげです。ひぐっ。お母さん、大好きだからね」

「私も。私も大好きなのよ?ずっと言えなくて。本当に、本当にあなたの事が大好きだから、、」

「うん、うん。大丈夫。ひっぐ。ちゃんと、伝わってるよ?やっと、ちゃんと親子になれたね」



駄目だ。

もう、涙を堪える事が出来ない。

ベルとフレーメル、そして一足先に泣いていたリビィと一緒に、親子の歪な再会に、涙を流した。

十四年という長い月日遠回りをしてしまったけど、これからは精霊王と魔人という垣根を越えて、今までの分を取り戻す勢いで親子の仲を深めていってほしい。

何が出来るわけでもないが、せめて祈っておこう。

これからの二人に、沢山の幸せが待ち受けている事を。


















「もう、大丈夫なのか?」

「ぐすっ。はい」


暫くの後、ベルがフレーメルから離れたのを見て話し掛ける。

もっとゆっくり待ってあげたかったが、いつまでも何もしないわけにはいかないしな。

裏表の精霊王も何も言わずじっと待ってくれていたが、内心では早くしろと思っていたかもしれないし。



「ケイトさん」

「?どうした?」



ベルが、改まって俺の名を呼ぶ。

決意の籠った眼差しで、目をじっと見て。



「精霊達を救います」



そうだ。

精霊を救う為にベルは初代精霊王の記憶と力を受け入れたんだ。

親子の感動の瞬間に集中し過ぎて、一時的に忘れてしまっていた。

だが問題は、、




「どうやって救うんだ?」




精霊は、支配の魔術でクラムドに縛られている。

精霊王といえどもその支配を断ち切る事は不可能。

かといって、今から幻霊林に行ってアルフレリックを倒しに行くというわけにもいかないだろうし、、。



「フラディウスさん、クロディウスさん」

『『はッ』』



一度立ち上がった裏表の精霊王が、振り向いて背後に居たベルに再度跪き頭を垂れた。

自らの頭を、差し出す様に。



「長い間、お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」

『有り難きお言葉』

『どうかご無事で』



短い労いの言葉の後、ベルが手を二体の頭にそっと添える。

撫でるでも叩くでもない。

ただ添えるだけ。


何をしているんだろうか。

そう思う頃には二体はそれぞれ白と黒の光に包まれ、ベルの手に吸い込まれていった。

断末魔の悲鳴も、何もなく。



「ベ、ベル、、。今のどうやって、、、」

「生命魔術で生み出したものは、僕の中に還す事が出来るようなんです。フラディウスさんとクロディウスさんは、生まれた場所へ還っていきました」



〝死〟ではなく〝還元〟なのだとベルが教えてくれた。

クラムドに使い潰されてしまっては、苦しんで死に絶えてしまう。

だが、ベルの元に還れば、支配の魔術から解放されて安らかに眠りにつける、らしい。

姿を失うという点は一緒なのだからどちらも〝死〟である気がしないでもないが、俺の考えでは当て嵌まり得ない何かが、ベルが強調する〝還元〟というものにはあるんだろう。

裏表の精霊王の最後は、ちらりと見えた限りでは幸せそうな表情をしていたし、きっと俺が思う以上にベルの行為は精霊達にとって救いとなるのだと思う。



「ケイトさん。もしかしたらなんですけど、生命魔術を使えば、人を生き返らせる事も可能かもしれません」

「ほ、本当か!?」

「は、はい。確証はないんですけど、、」



潰えたはずの希望が、想定していなかった形でまた光り出した。

そうか、そうだよ。

〝生命〟魔術だもんな、、。

死んだ人を生き返らせられても、不思議ではない。



「ケ・イ・ト?ベルちゃん困ってるよ?」

「い、いや!あの!えっと!困ってるわけでは!」



リビィのジト目に負けて、勢いで掴んでしまっていたベルの肩を離す。

感情に任せて行動する癖を直さないといけないな。

ベルを困らせてしまった。



「悪い。ベル」

「あ、い、いえ!だ、大丈夫です!」



全然大丈夫そうじゃないんだが、、、。

神秘的な見た目でいつものベルの感じだと、何だか違和感を覚えるな。

悪い違和感ではないけど。

姿通りの雰囲気よりは、随分親しみやすい。

そんな事言ったら、初代精霊王に怒られそうな気もするけど、、。

寛大な心を持っているであろう事を願おう。



「確率としては、どれくらいで生き返らせられそうなんだ?」



問題はそこだ。

ベルは確証がないといった。

それなら、希望に縋り過ぎるのもよくないだろう。

だが、どれくらい縋ってもいいものかは知っておきたい。

せめて、5割以上あってほしいと願うのは、欲張り過ぎるというものだろうか。



「状態を見せてもらってもいいですか?」

「分かった」



格納袋から、綺麗な体のミシェを取り出す。

狙わずに触れた肌は、既に冷えていた。

冷え切っているというわけではないが、それでも正常な人の体温で無い事は分かり得る。




「確率は、、半分、あれば良い方だと思います」




自身の魔力を僅かにミシェに注いだ後、ベルがそう言った。

濁した言い方だったが、半分あれば良い方だという事は、3~4割、もしかしたらそれ以下の可能性もあるかもしれないと考えておいたほうがいいだろう。

低い、低いけど、0%よりは比べ物にならない程良い。

どのみちベルに頼る以外にミシェを救う手立てはないし、任せるしかないんだけどな。



「ミシェを、お願い出来るか?」

「はい。全力を尽くします」



力強い目と共に、ベルはそう宣言してくれた。

確率は低いのに、何故か大丈夫と思わせられる。

無理だった時の事を考えれば、期待はし過ぎないほうがいいんだけどな、、。

駄目だったらその時はその時。

立派な墓を作って、ミシェを弔うまでだ。

その時は勿論、メヒトも一緒に。



「何か俺に手伝える事はあるか?」

「えーっと、、。精霊を救うのもミシェさん?を蘇生させるのも生命魔術を使うだけですから、特にはないですね、、、。ごめんなさい」

「いや、謝らないでくれ。こっちこそ、全部任せてごめん」



ここで手伝える事がないとすればどうするか、、。

このまま精霊域で邪魔にならないようにベルの頑張りを見ておくか、それとも危険だと分かっていながらも聖域に突っ込むか。

自分の感情を優先するのであれば、聖域には行きたくないというのが正直なところだ。

ベルの力でクラムドから精霊達を救い出したとしても、切った腕を再生する力までは失われるわけではないと思う。

それに、何となくの直感ではあるが、それ以外にも力を持ってる気がするんだよな、、。

支配の魔術を持つ精霊は幻霊林に居るそうだし、同じ場所に居る腐王の魔術を使えるようになってたりとか、、、。

考えるだけで、悍ましい。

俺は、どうするのが正解なんだろうか。



『キュキュイ、、』



遠慮がちなキュイの鳴き声で、思考の渦から意識を戻す。

ずっと首の後ろに隠れてたから存在を忘れかけてた。

様子をみるようにちらりと顔を出すキュイを掴んで、定位置の肩へ乗せる。

今更、何を遠慮しているのだろうか。



『キュイィ、、』

「僕?」



キュイが見ているのは、姿の変わったベル。

いつもならベルを見つけたらすぐに飛んで行くのに、姿が変わったから緊張しているんだろうか。



「おいで」

『キュ!』



柔らかく微笑んでそう言ったベルのおかげで、キュイは緊張が解けていつものようにベルに飛び付いた。

肩に乗って、ベルの頬に自分の頬を擦り付けている。

熱烈なスキンシップだな、、。



「あ、そうだ。キュイについても分かった事があるんです」

「キュイについて?」

「はい。キュイはどうやら、僕、、、えっと、初代精霊王が唯一動物を媒体にして生み出した精霊であり、唯一の眷属でもあるみたいです」



本来精霊とは、実体を持たない魔力だけで体を構成した存在。

生命魔術を持つ精霊王でさえ実体を持つ命を生み出す事は出来ないらしいから、初代精霊王の子である精霊達は、自然とそういう体の構成になったのだという。

だが、キュイだけは違う。

キュイは、初代精霊王が瀕死の状態の文鳥を治療し、実体を持つ精霊として昇華させた存在であり、初代精霊王以外では一番古い精霊。

精霊になってから百年程で死んでしまったそうだが、ベルの誕生に合わせて奇跡的に転生を遂げたらしい。

本来持っている力の一割も持って生まれる事が出来なかった事と、キュイが初代精霊王の眷属という事を知っている精霊がいなかった事から、出来損ないとして精霊域の端に追いやられていたそうだ。


(それにしても、、)


大昔の精霊の転生体であり、初代精霊王の眷属か、、、。

他とは違うと思ってはいたが、よもやこんなに特異な存在だったとは。

人懐っこい様子からは、初代精霊王の唯一の眷属だという威厳は感じられない。

まあ、親しみやすくて好きなんだけどな。



『キュ。キュキュキュイ』

「うんうん。、、、って、えぇ!?あのバオジャイさんと!?」

『キュキュイ♪』



ベルとキュイが何かを話している。

キュイの言っている事が理解出来るのは、自身の眷属故だったのかもしれないな。

ちょっと羨ましい。

俺も、キュイと会話をしてみたい。

ベルの反応も相まって、何を話しているのかが益々気になるな、、。



「キュイはなんて?」



プライバシーの問題があるかもしれないと思ったが、気になってしまったので直球で聞いてみた。

話している感じを見るに悪口ではないだろうし大丈夫だ、きっと。

大丈夫、だよな、、、?

変な事言ってないよなキュイ??



『キュイィ♪』



いや、そんなに胸を張られても、、。

不安しかないぞ。



「ケイトさんとリビィさん、それとバオジャイさんにありがとうって言ってほしいって言ってます」



前言撤回。

キュイはきちんと話す事を選べる偉い子だ。

うんうん。

微塵も疑ってないからな。



「何の感謝だろう、、、」



疑問を零すのはリビィ。

通訳をしてくれるベル曰く、キュイは自分一人では行けなかった獣人域まで連れて行ってくれた事、毎日自分の事を気に掛けてくれた事、治癒魔術を掛けてくれた事、体調を心配して獣人域から出る事を決意してくれた事を感謝しているらしい。

全部、掛けた迷惑の尻拭いをしているだけだというのに、、、、。

恨まれこそすれ、感謝をされるとは思っていなかった。



「こちらこそありがとう。いつも沢山助けられてるよ」

「私も。ケイトが使うキュイの魔術に、何回も助けられたよ。ありがとう」

『キュキュイ////』



これはあれだな。

照れてるな。

羽を頬に当てて腰をくねらせている。

何とも分かり易い。



『キュキュイ!』

「うんうん。え?いいの?」

『キュイ!』



また、ベルとキュイにしか分からない会話をしている。

何を話しているのか全く見当も付かないが、信用してじっと待っておこう。

通訳してくれるその時を。



「話の内容、聞いても大丈夫か?」

「は、はい。ええっと、、、。キュイはサイズも含めて、保有する魔力の量で見た目が変わるのを知ってますか?」

「限界は知らないけど、大きくなるのは知ってるよ」

「最大の大きさと見た目って、どれくらいでした?」

「これくらい、でしたっけ?」

「そうだね。確かそれくらいだったと思う」



手を広げてサイズを表し、リビィに確認してもらう。

過去最大サイズになったのは、間違いなく神授川で魔力水を大量摂取した時だ。

羽を目一杯広げれば、少なくとも2m以上にはなってたんじゃないだろうか。

今では、随分小さくなってしまったけど。

見た目は、分かる範囲で口頭で伝えておいた。

語彙力がないから、口で伝えるのは中々に難しい。



「あ、それなら、まだ完全体にはなってないんですね」

「完全体?」

「はい」



随分、厨二心が擽られるワードだ。

キュイの底は、やはり知れない。

あれ以上大きい鳥なんて想像も出来な、、、もしかして、ダチョウとかに変わるのか?

そうなったら、いよいよ騎乗スタイルに変えなくてはならないな。



「多分ですけど、ケイトさんが見た状態は完全体を10とするなら、3くらい?の進化段階です」

「3!?あの三倍以上も大きくなるのか!?」

「あ、いえ、えっと、、。大きさはその時より少し大きくなるくらいで、魔力保有量が三倍以上になります。後は、見た目がかなり変わるみたいです。僕の記憶にある通りなら」



良かった、、。

あの三倍のサイズになったら、連れ歩く事も格納袋に入れるのもおそらく無理だからな。

それでも少しは大きくなるらしいから、不安は残るが。

ベル曰く、キュイがその姿に戻ると言っているらしい。

ただ、問題はあるようで、、、。



「完全体になってる間だけなんですけど、実体を捨てないと駄目みたいで、、」

「つまり、完全体の状態では精霊域から出られない、って事か」



完全体になった以後も魔力消費等で実体を持つ事は出来るそうだが、間違いなく武人域や獣人域などの魔力のない地域には渡れなくなるだろうとの事だ。

それに、何度も繰り返せば最終的には実体を持つ事すら出来なくなるらしい。

完全体になりたいと言っているという事は、俺と別れて力を手にする事を選んだ、ということか、、、。

寂しい気はするが、それがキュイの選んだ事なら俺は何も言わずに背中を押そう。

精霊域から出られないからといっても俺との契約が切れるわけではないし、どのみちベルに頼んでこれからも精霊域にはお邪魔するつもりだったしな。

会える時間が減るだけだ。

それくらいなら、我慢しよう。



「キュイの願いを叶えてやってくれるか?」

「勿論です!」

『キュイー!』



嬉しそうに顔に飛び付いてくるキュイ。

ん、ぐむ。

息が出来ない、、。



「キュ、キュイ、、。苦しい、、」

『キュキュイ!?』

「げほっ、ごほっ。はぁ、、はぁ、、」



サイズは小さいとはいえ、中々に苦しかった、、。

獣臭さがなかったのが唯一の救いか。



「はぁはぁ、、。それじゃあ、けほっ。キュイの事を頼む」

「は、はい。大丈夫ですか、、?」

「だ、大丈夫だ、、」



まだ少し苦しいけど、大丈夫だ。

一口水を飲んだらある程度マシになった。



「じゃあ、少し離れててください」



ベルの指示に従い、三人で降りてきた階段の辺りまで下がる。

視線の先には、ベルが生やした切り株の上に乗せられたキュイが居た。

切り株の状態でも生やす事が出来るんだな、、。




「いくよ、キュイ」

『キュ!』




特に詠唱はなく、ベルからキュイに魔力が注がれていく。

魔術を使っていないにも拘らず発光する程の、膨大な魔力が。

色は、淡緑色。

さっきベルが包み込まれていた光と同じ色だ。

柔らかく、温かみのある色。

いつまでも見ていられる。


とはいえ、ずっと光っているわけではない。

光が晴れたのは魔力を注ぎ始めて数十秒後。

元々のキュイの大きさよりも明らかに大きい光が霧散するように晴れて、完全体のキュイの姿が露わになっていった。








「鳳凰、、、?」








光が晴れた先に居たのは、翡翠色の鳳凰だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ