八十八話「裏と表」
『キュー!』
「キュ、キュイ?」
未だ明るい地上に出ると、キュイがベルの袖を必死に引っ張りだした。
何処かに連れて行こうとしているようにも見える。
引っ張っている方向はロントマルクだから、キュイの我儘に応えるのは問題ないが、、
(過去に類を見ないくらい必死な様子なのが、どうにも気になるな、、、)
ベルを何処に連れて行こうとしてるんだろうか。
「ここは、、、」
キュイに連れられてやって来たのは、ロントマルクの出口であり、契約の泉へ向かう森の入口。
「残念ながら、、、。防人様は不在です」
森の中へベルを引っ張って行こうとするキュイを見て、後ろを付いて来ていた町長が辛そうにそう零す。
防人は契約の儀をした魔人に殺されたと言っていた。
そんな事を経験すれば、同じように仕事をしてはいられないだろう。
居なくとも、仕方のない事だ。
それより。
何故キュイはここにベルを連れて来たんだろうか。
防人が居ないと聞いた後も引っ張る事を止めようとしないし、、。
精霊であるキュイなら、防人がいなくても先に進めるのか?
『キュー!キュー!!』
「キュ、キュイ?あぶ、危ないよ!きゃっ!」
「ベル!大丈夫か!?」
キュイに引っ張られ、森の入口で生い茂る草に倒れ込むベル。
心配して駆け寄るとそこには───
「、、え?」
倒れ込んだ位置から森の奥へ、一本の道が出現した。
契約の泉へと続く、隠された道が。
(どういう事だ、、、?)
状況を整理しよう。
ベルが倒れ込んだら、その位置からおそらく契約の泉へ向かう道が出現した。
、、、つまりどういう事だ?
「ラ、ランタンも無しにどうやって、、」
分かり易く動揺を声に乗せたのは町長。
そう。
問題はそこだった。
ベルが倒れた拍子に近くにたまたまあったランタンが森に入って道が出来たというのなら、まだ現状を納得する事が出来る。
だが、ベルの近くどころか、この周囲に防人が持っていたランタンの姿は見受けられない。
一体どうやったんだ、、。
『キュー!キュー!』
俺達の動揺を置き去りにして、キュイは尚もベルを引っ張り続けている。
方向は、奥へと続く道の先。
おそらく、この道を辿って行かせようとしているのだろう。
聖域へ行きたいところではあるが、、、
「行ってみたほうが、良さそうだね」
「そうですね」
キュイの必死な様子に心動かされ、案内に任せて森の中を進む事に決めた。
今まで我儘らしい我儘を言ってきた事はないんだ。
自分の体調が悪いにも拘らず限界まで我慢して、旅にも付き合ってくれた。
それなら、必死のお願いくらい、聞いてあげたい。
きっと、余裕のない状況だと理解していて、それでも早く知らせなくてはならないと、引っ張ってくれているのだと思うから。
「行ってきます」
動揺したままで動けずにいる町長に声を掛けて、四人で小走りになりながらずんずんと先へ進んだ。
付いて来てくれてると分かってからは、キュイはベルの袖を引っ張っていない。
その代わりに、一番前で飛んで先導をしてくれている。
「ベル、道が出現した原因に何か心当たりはあるか?」
「分からないです、、」
道が出来る仕組みは、ここに来るまでにベルに教えてある。
防人という案内人が持つランタンがないと、道は現れない。
それを聞いた上で道が出来た事に一番動揺を浮かべたのはベルだった。
心当たりがないのに自分がキーとなって有り得ない現象が起こったら、それは驚くよな、、、。
(もしかしたら、、)
この不可思議な現象と、メヒトがベルに会いに行けと言った理由には何か因果関係があるのか、、?
人を生き返らせる力と契約の泉までの道を作り出す力。
二つをどう結び付けたらいいのかは分からないけど、その内の実現不可能なものを一つ、ベルは成し遂げて見せた。
それなら、もう一つももしかすると、、、。
そう、思わされてしまう。
期待しても、いいのだろうか。
願っても、いいのだろうか。
また、生きているミシェに出会える事を。
「やっぱり、、」
道の終着点。
そこはやはり契約の泉のある大樹だった。
入口ももう既に開いていて中に入れるようになっていると思ったが、そういうわけではなかった。
大樹のぎりぎりで道は途絶えている。
中を貫通して後ろまで続いているというわけではないだろうしな。
「凄く大きい木、、ですね、、、」
初めてここへ来たベルが、感嘆の声を漏らす。
俺も、以前はそんな反応だった。
今はベルへ対する驚きが大き過ぎて、大樹に対して何かリアクションを取る事が出来ずにいるけど。
「道はここまでみたいですけど、ここからどこへ行くんでしょう、、、」
キュイは、大樹の幹で羽を休めている。
道は大樹で途切れている。
それなら、進むべき進路は一つしかないだろう。
「ベル。あの大樹にぎりぎりまで近付いてみてくれ」
「は、はい」
ベルを横に、リビィとフレーメルを後ろに。
何かあっても三人を守れるように注意しながら、穴が開くんじゃないかというくらいに大樹をじっと見つめて、一歩ずつ前進していく。
距離は10m。
まだ変化はない。
ズ───。
10m弱程度の距離になった途端、大樹の幹に一本の筋が入った。
立ち止まると、それ以上は開かない。
だが間違いなく、、
「ベルちゃんがキーになって開くみたいだね、、」
齎された事実は、リビィが言葉にしてくれた。
ズズズ────。
慎重に、慎重に。
一歩ずつ大樹へと近付いて行き、徐々に開いていく幹を見据える。
キュイはいつの間にか、ベルの肩に乗っていた。
「水、、、?」
彼我の距離2mといったところで完全に幹が開いた。
以前来た時はその先には暗闇が広がっていたんだが、今回は何故か入口に水の膜が張っている。
俺達の姿を移そうとしない、濃い水色の水の膜が。
もう一歩近付いてみても、水の膜にも大樹にも変化はない。
もう一歩。
それでも変化はない。
つまり、進むとしたらこの膜の内側へ入らなければいけないという事。
大丈夫なのか、、、?
(、、ん?)
服で手を隠して水の膜にそっと触れると、そのまま何の感触もなくすり抜けてしまった。
「これでも駄目か、、」
今度は素手で触れようと試すが、それでもすり抜ける。
水の膜があるだけで、それ以外は以前と同じとか、そういうオチか?
通り抜ければ契約の時に見たものと同じ光景が広がっているのかもしれない。
(となれば、まず最初に自分で入って安全を確認したほうがいいか)
だがその前に、、、
「ベル。この膜に触れるかどうか試してみてくれないか?」
膜の向こうに何があるか分からない以上、こっち側で試しておけるものは試しておくべきだ。
俺では何の感触もなく通り抜けてしまった。
それなら、触れる可能性があるとしたらキュイかベル、もしくはフレーメルだろう。
得体の知れないものに触らせるのは気が引けるが、、、。
「触れ、、、ました」
ベルが恐る恐る人差し指で触れると、水の膜は緩やかな波紋を広げた。
二度三度、、。
指を変えてみても、同じような反応がある。
「ベル。そのまま触れていてくれ」
ベルには水の膜に手の平を添えておいてもらい、その状態で俺も触れられないかと試みる。
すると、、、
「触れた、、、」
しっかりと、水を触っている感触があった。
何故か俺もベルも手は濡れてないが、それでも感触はある。
リビィもキュイも同じように試してもらうと、ベルが触れてる間だけ感触を得られた。
という事は、今からするべきは、、。
「全員で同時に入るしかないですね、、」
「そうだね、、」
何が何だか分かっていないベルを尻目に、見解を述べてリビィとフレーメルの同意を得る。
俺も、大変な時になんでこんなところにいるんだとか、なんで道が出来たんだとか、この水の膜は何なんだとか、色々不可解な事が多いし全く考えは纏められてないけど、ここで何もせずに後退するのは何となく間違いな気がするんだよな、、。
メヒトに言われてロントマルクに来てベルと再会して、キュイが必死に引っ張って道が出来て、そしてその終着点である大樹で水の膜が出来た。
これはきっと、運命的な何か。
もしかしたらこの先に、ミシェを救う為の何かがあるのかもしれない。
その思いが、確証はないのにも拘らず拭い切れずにいた。
「よし。行きましょうか」
「うん」
「は、はいッ!」
『キュイー!』
俺、ベル、リビィ、フレーメルの順番で横並びに手を繋いで、一斉に水の膜へ飛び込んだ。
その先に、希望があると信じて。
「鳥居、、、?」
水の膜を抜けた先。
目の前に広がっていたのは、終わりの見えないだだっ広い湖と、そこに等間隔に一列に立ち並んで道を作る赤い鳥居達。
感覚としては、厳島神社の鳥居が幾つも続いている感じだ。
一つ一つの鳥居はもっと簡素な造りをしているし、下にあるのは海ではなく湖だけど。
「ケ、ケイトさん、、。下、、」
「下、、?うわッ!え、えぇ!?」
俺が立っていたのは、水の上だった。
前方に広がっているだけと思っていた湖が、足元や後方、左右にも限りなく広がっていたとは、、、。
重力魔術を使っているわけではないのに、どうして浮いていられるんだ。
パシャンッ───。
試しに踵を着けた状態でつま先を上げ、降ろしてみる。
もしかしたら見た目が水なだけかもしれないと思ったが、間違いなく水だった。
飛び跳ねた雫でズボンの裾が濡れている。
大樹で見た水の膜とは違うものみたいだな、、。
左右後方は、何もないどこまでも続く湖。
となると、進む方向は自然と、、、。
「鳥居を潜るしかないよな」
『キュ!』
俺の肩に戻ってきていたキュイが、耳元で俺の言葉に賛同した。
進んでる途中で浮力が無くなって水の中に沈むとかいう事はないよな、、、。
念の為、ベルの手をしっかり握っておこう。
「ケ、ケイトさん、、?」
「ベルの手を離したら沈みそうな気がするんだ。もう少し我慢しててほしい」
その理論で行くと、唯一ベルの手を握っていないフレーメルは既に沈んでいる事になるんだが、、。
まあ、気の持ちようだ。
「べ、別に嫌というわけでは、、」
赤面して口篭もるとリビィに疑いの視線を向けられるからやめてほしいんだけどな、、、。
ベルは可愛いとは思うけど、後五年はそういう対象として見る事は出来ない。
この世界では15歳で成人らしいし、本来ならそんなに待たなくてもいいんだが、何となく元の世界の倫理観が邪魔をしてそういう思考になれない。
ベルの為にも俺の心の安寧の為にも、適切な距離を保っておかなくては。
「進もう」
リビィから向けられる視線は見て見ぬフリをして、水の上を歩いているという事に強烈な違和感を覚えながら、一歩ずつ湖に波紋を広げていく。
パシャンッ───。
誰も声を発さない空間に、足が水に接する音だけが木霊する。
四人分、合計八本の足から奏でられる音ならばそれなりに煩く感じそうなのに、届く水音はその全てが柔らかく、心地良い。
話し合ってタイミングを決めて音を鳴らしているというわけでもないんだけどな。
「結構長いね、、」
「そうですね、、」
潜り抜けた約5m感覚で建てられる鳥居の数は100を超えただろうか。
まだ、鳥居と湖以外のものは見えない。
こっちしか進むべき方向がなくて仕方なく進んできたけど、これは終わりがあるのかな、、、。
たかだか500mしか進んでいないというのに、景色に代わり映えがなくて不安にさせられる。
パシャンッ───パシャンッ────。
もう、感覚としては1km程進んでいる。
まだ、周囲には鳥居と湖以外、何も見えない。
早くも引き返したくなってきた、、、。
「あ、あれ!何か見えます!」
ベルが声を上げる。
鳥居のトンネルの先を指すその指を視線で追ってみるが、、、。
「何も見えない、、」
「あそこです!あの鳥居の後ろにある!」
鳥居は沢山見えるけれども。
ベルが指しているであろう辺りは薄っすら霞がかかっていてよく見えない。
リビィとフレーメルも同じく、見えていないようだ。
ベルの目が良いのか、それとも何か不思議な力を持っているのか、、。
まあどちらにせよ、進むしかないよな。
「あれか、、、」
その後、鳥居を5つ抜けた辺りでベルが見つけたものが薄っすらと見えた。
終わりが見えた事で逸る気持ちを抑え、変わらないペースで進んでいく。
一つ、また一つと鳥居を潜る度に、何故か緊張が募った。
「到着、、ですね」
辿り着いたのは、平等院鳳凰堂のような見た目の建物。
鳥居が途切れた先に、ポツンと建っていた。
勿論、湖の上に。
入口へと続く木の階段の一段目は、その半分が水に浸かっている。
(ここが間違いなくゴールだよな、、、)
望んでいた場所のはずなのに、緊張をしてしまって一歩目を中々踏み出せない。
多分、この建物の放つ荘厳な雰囲気にそうさせられてるのだと思う。
「ふぅー、、、」
一度深く息を吐いて、気合いを入れる。
そうしないと、いつまでもここに残って、あわよくば帰ってしまいたいという考えが浮かびそうだったから。
流石に、ここまで来て何もせずに帰るわけにはいかない。
そもそも、出口がどこかも分からないしな。
「入りましょう」
全員が頷くのを確認してから建物に近付いて、正面にある数段の階段の一段目に足を乗せる。
うん。
大丈夫そうだ。
半分程水に浸かっているのに脆くなっている様子はなく、体重を掛けてもビクリともしなかった。
逆の足を乗せて体重を掛けた二段目も問題ない。
軋みすらしないのは、頑丈過ぎてちょっと不安になるが、、、。
まあ、脆いよりは断然いいんだが。
「よっと、、」
ギ───ギギギギギギギ─────。
階段を上った先にあったのは、高さ3~4mはあろうかという大きな扉。
木製に、所々が鉄で補強されている。
ちなみに、ベルの手は階段を上り始めた時に既に離している。
いつまでも握っていてはリビィの視線が痛いからな。
「先にどうぞ」
離せばすぐに閉じてしまいそうな扉を押さえながら、三人に先に入るよう促す。
両手で押さなくては開けられない程重みのあるこの扉がぶつかってきたら大変だからな。
閉まる時の勢いがついた状態であれば、俺以外の三人で受け止められるかどうかも危うい。
獣人域でのトレーニングがこんなところで役立つとは。
ギギギギギギィ──────ゴォンッ。
扉が閉まる重厚な音が響く。
閉まる寸前まで見ていたのに、少しビックリしてしまった。
指や腕が挟まれるのを回避する為とはいえ、もっと静かに閉めれば良かったな。
ボッ───ボボボ──。
「うおッ!?」
驚き過ぎて、間抜けな声が出てしまった。
扉が閉まるのとほぼ同時に、真っ暗な部屋の中に点在していた篝火が一斉に灯った。
数が多く、ぱっと見ただけでも100個くらいあるんじゃないだろうか。
それでも壁は殆どが照らせていないし、天井は真っ暗で終わりが見えない。
これ、明らかに外から見たよりも広いよな、、、。
学校のグラウンドなんかよりも広い気がする。
全貌が見えないから、よく分からないけど。
『キュ』
キュイが控え目に小さく鳴き、ベルの袖を引っ張る。
方向は、前方。
一番奥が暗くて見えないが、おそらくそこへ行かせようとしているんだろう。
何が待ち構えているのか、、、、。
『キュキュゥン、、』
真っすぐ進むと、俺達の動きに合わせて篝火は灯っていき、一番奥に居た存在を映し出した。
それは、体長6mはあろうかというイエティのような体と白銀の毛色で、彫りを深くした山羊のような顔を持つ者。
白亜の捻じれた長い角が一本、頭の右の辺りから生えている。
放たれる圧倒的な雰囲気に怯えてか、キュイは小さく鳴いて俺の首の後ろに隠れてしまった。
斯くいう俺も、今すぐにでもこの場を離れたいくらいには怯えているんだが。
「精霊王、、、」
リビィがぽつりとそう零す。
(精霊王?この白銀の巨大な獣が精霊王なのか?)
契約した精霊は姿を知る事が出来るから、精霊王と契約しているリビィがそう言うのなら間違いないとは思うが、、、。
あまりにもあっさりと会えてしまったせいで、どうにも信じ切れない自分がいる。
だが、精霊王が居るという事はそうか。
ここは精霊域なんだな。
今更ながら、現在地を理解する事が出来た。
でも何故、精霊域にやって来る事が出来たんだ、、?
『誰だ』
頭上から、荘厳な声が降って来る。
まるで、物理的な圧力を持っているようだ。
「初めまして。ケイトで───」
『ん?』
求められたから自己紹介をしたのに、短い声で遮られてしまった。
何か失礼があっただろうか。
「な、なんですか、、?」
精霊王の離れた二つの目は、真っすぐにベルを捉えている。
また、ベルか。
現れた道と精霊域に渡れる水の膜といい。
ベルは精霊域に何か関わりがあるんだろうか。
『誰だ、お主は』
怖い。
怖いけど、ベルを守らなくてはならないから、視線を遮るように立ち塞がる。
「ケイトといいます。ベルの友達です」
『ベル?』
「ぼ、僕がベルです!」
『ふむ。そうか』
ベルが声を発した瞬間に、精霊王の興味は俺から失われた。
視界に入ったからとりあえず名前を聞いてみた、ってところだろうな。
本命はあくまでベルらしい。
何かあったとしたら、精霊王相手に勝てる気しないんだけどな、、、。
キュイは怯えて隠れてしまってるし。
「初めまして、精霊王さん。契約を交わしてくれてありがとうございます」
ベルの横に立ったリビィが、精霊王を見上げて敬語ではあるがフランクな挨拶をした。
怖くないんだろうか。
いや、よく見れば手が少し震えている。
契約者で姿を知っていても、やはり怖いらしい。
「突然の来訪、お詫び申し上げます。ベルの母のフレーメルと申します」
続いて、俺の横に立ったフレーメルが精霊王に固い挨拶を告げる。
決然とした表情で、恐怖は感じられない。
母代わりとはいえ、強い人だ。
母と言い切ったのは、わざとだろうか。
『そうか』
精霊王が興味なさげに、短く零す。
視線は、じっとベルに固定されたままだ。
俺達を見る事すらしないか、、。
『クロディウス』
ズ──ズズズズ─────。
零された呟きに合わせて、精霊王の影がゆらゆらと立ち上がり、音を立てて実体を持っていく。
徐々に形成されるその姿は精霊王にそっくりで、色と角の位置のみ反転している。
漆黒の毛色を持つ巨躯に、頭部の左側に生えた捻じれた角。
精霊というより、悪魔のように見えた。
『我は裏の精霊王。時魔術の使い手』
(裏の精霊王、、、?)
形を持った影は、ゆっくりと目を開けてそう言った。
精霊王と併せて、威圧感が倍になったように思える。
精霊王は一体しかいないものだと思い込んでいたが、そういうわけではないのか、、?
白いほうの分身が黒いほう、というわけではないんだろうか。
何はともあれ、倍増した恐怖のせいで足の震えが止まらない。
『ん?貴女様は、、、』
裏の精霊王も、精霊王と同じように真っ先にベルに興味を持った。
ベルのすぐ側に居る俺達も視界に入ってるはずなんだけどな、、。
顔はこっちを向いているのに、不思議と、視線が合う感じはしない。
「ベル!」
「だ、大丈夫です!」
裏の精霊王の長い爪が、ベルの髪を掻き分ける。
何をする気だと不安になったが、ベルを信用しよう。
少しでもおかしい事をしたら、全力で魔術を放たせてもらうが。
『ふむ』
結果、何事も無かった。
裏の精霊王がベルの前髪を掻き分け、隠された目を確認しただけ。
この精霊がディベリア教徒というわけはないだろうし、目の色が違うところを見られても問題ないだろう。
『辺り一面に、花を咲かせる事は出来るか?』
精霊王が、ベルに尋ねる。
何かの確認か、それともただ花が好きなだけか。
後者なら、好感を持てるんだけどな、、。
まず間違いなく、前者だろう。
「は、はい」
祈るように両手を握るベルに、全員の視線が集まる。
ベルの植物魔術を見るのは随分久し振りだ。
いや、確か正確には植物魔術じゃないんだったか。
「綺麗、、」
誰かが、そう零した。
温かい風に包まれ柔らかく光るベルは、何度見ても神秘的で綺麗だ。
この魔術を使っている時だけは、どうしてもベルを年下と思えない自分がいる。
圧倒的年長者の風格。
それこそ、人では辿り着けないような年齢の存在が持っていそうな、落ち着きと温かさを感じる。
傷付けてしまうのが怖いから、口に出して伝える事はないが。
「こ、これでどうでしょう」
一度優しく視界を塗り潰した光が晴れると、そこにはだだっ広い室内を埋め尽くす花畑が広がっていた。
その全てが微発光していて、篝火の灯りが届いていない場所も照らし出してくれている。
うん。
綺麗だ。
今まで見てきた中で一番と言っていいくらい。
こんな広範囲に使用したのを見るのは初めてだから、そう思うのは当然なのかもしれないが。
「えっ!?ちょ、ちょっと、ど、どうしたんですか!?!?」
分かり易く動揺を示すベル。
その視線の先には、ベルに跪く二体の精霊王が居た。
『『王よ。帰還をお待ちしておりました』』
二体の精霊王の口から、そんな言葉が告げられた。
ベルに向けられた、敬いを露わにされた言葉が。




