八十四話「バオジャイVSクラムド」
「〝竜巻〟」
ゴオゥッ─────!!
今度は、転移する隙を与えない。
この男は危険。
そう、直感で分かってしまうから。
確か、二人の同級生らしいけど、手心は加えられない。
加える余裕はないとも言うけど。
「くっくっく、、、。会話をする余裕もないか?魔人最強と謳われる貴様が」
無傷、、?
それに、あれは何、、?
今の魔術を無傷で切り抜けられたのは、ウルとメヒト、後はジーンくらい。
多分、防がれたのは体の周りに漂わせてる黒い靄が原因。
初めて見る。
でもきっと、危険だって事は分かった。
あれには触れたら駄目だと思う。
ジュワッ────。
(え、、?)
黒い靄が触れた花が、腐り落ちた。
触れただけで、、?
そんな魔術知らない、、。
「これが気になるか?」
「、、、、ん」
話に応じるのは嫌。
でも、少しでも情報を引き出さないと危険。
私一人では対処出来ない気がするから、二人が来てくれた時に少しでも情報を持っておかないと駄目。
「教えてやろう。これは腐王という精霊の魔術、〝腐敗〟だ。触れたものを全て腐らせる。それが魔術であろうとなんであろうとな」
やっぱり、さっきの竜巻を防いだのはこの靄のせいみたい。
靄の隙間もあるけど、多分、そこから攻撃しようとしたら靄が隙間を埋める為に動いて来ると思う。
あの隙間を突きたいなら、気付かれないくらい早い速度で攻撃しないと駄目。
この距離ではちょっと難しい。
でも、近付くのは危険が大きい。
どうしよう、、。
昔、獣人王と戦った時と似てる。
突ける隙はあるけど、強さが足りない。
でもじっとしてるよりは、、
「〝岩針〟」
ドンッ───!!
「どうした?魔人最強。一つ足りとて、届いていないぞ」
隙間を突く攻撃も、靄が動いて防いでくる。
上以外の全方位に展開したのに。
「〝嵐〟、〝檻〟、〝槍〟、〝岩針〟」
これなら、下も上も、隙間なく攻撃が出来る。
威力重視でサイズは小さくしたから、速さも問題ないと思う。
でも、一つも安心出来ないのはなんで?
念の為にもう一つ、、、。
「〝雨〟、〝雷〟」
────ドッゴオォォォォンッ!!!!!
檻から出てくる前にもう一手。
勝てる方法を考えてからじゃないと魔術の撃ち過ぎは無駄遣いになるけど、これくらいなら大丈夫。
でも、これで無傷で靄も減ってなかったら、、、。
それはちょっと、拙いかもしれない。
「くっくっく、、、、。はーはっはっは!!!!!!」
(そんな気はしてたけど)
「微塵もダメージを与えられてないぞ!!どうしたシスティオーナ!!」
土煙の向こうに、無傷の敵影。
周りの靄は少しも減ってるように見えない。
考えないようにしてたけど、もしかしたらあの靄は無尽蔵なのかも。
「〝火踊〟」
ジュッ───。
「この程度の魔術で傷を負わせられるとでも?」
試しに小さな火の玉を幾つもぶつけてみた。
靄に当たった火の玉は、熱い鉄に落ちた水みたいに消えていく。
ほんの少しだけ、当たった部分の靄も火の玉と一緒に消えたみたいだけど、、、。
消えた部分は火の玉の十分の一くらい。
それに、すぐに補充されてる。
動かすのも量を増やすのも自在、、、。
困った。
「システィオーナ。貴様を三賢者に推薦したのは私だという事を知っているか?」
「、、知らない」
本当は、三賢者になんてなりたくなかった。
父様と母様を殺した魔人の代表者になんて。
でも、聖戦でわざと負けたら武人に聖域の使用権を与えられるかな、そう考えて仕方なく三賢者になったのに、、、、。
ジーンが怒らせてきたから、怒りに任せて理性を忘れて、気が付いたら魔人側に聖域の使用権を渡してしまってた。
あれは失敗。
でも、ジーンが悪い。
「本来であれば、穢れた血の流れる貴様なんぞが三賢者に成る事など、許されるべき事ではない」
穢れた血って言ってるのは多分父様の事。
今すぐにでも怒りに身を任せてしまいたいけど、ここは我慢。
魔力の無駄遣いは出来ない。
「だが、宿願を果たす為にはどうしても聖域の使用権を手に入れ、機が熟す前にリーズリンを教皇に押し上げる必要があった。貴様は、その為の駒だ。決して、正当に評価されたわけではない。あの忌々しい武人には、ウル如きでは勝利を手にする事が出来なかったからな」
ジーンはいいけど、父様の次はウルも馬鹿にされた。
確かに、ウルでは力不足だったと思うけど、ちょっとムッとする。
でも駄目。
我慢しないと。
「知力のみのメヒト、力のみの貴様、どちらも優れないウル。賢者を語っているというのに、どいつもこいつも、、、、。まるで大した事がない。力しか誇るもののない貴様でさえ、今の私には手も足も出ないのだからな。力もなく、穢れた血を内に流れさせる。何の特性もない、穢れた種族が」
だめ。
だめだめだめ、、、。
我慢、我慢しないと、、。
「なあ?穢れた武人とイースト家の売女の出来損ない」
プチン───。
はっきりと、頭の血管が切れる音が聞こえた。
我慢なんて、馬鹿らしい。
「侮辱するな小僧がああああああ!!!!!〝隕石〟!!〝隕石〟!!〝隕石〟!!!!!!!!!」
分厚い雲の中から降り注いできたのは大量の大岩。
数は多分、100くらい。
魔力消費が多いけど、そんなものは知らない。
ウルとメヒトを、両親を侮辱したあいつを殺せるなら。
「死ねええええええええええ!!!!!」
ズン───ズン───ズドドドドドドドドドドドド─────!!!!
全部が当たるわけじゃない。
数が多過ぎて、的が小さすぎて、効果を発揮し切れてないものもある。
それでも出来る限り、コントロールして向かわせる。
あいつを殺す為に。
「〝隕石〟!!〝隕石〟!!〝隕石〟!!!!!!!!!」
まだ足りない。
もっと、もっと。
私の怒りはこんなものじゃ収まらない。
父様は穢れてなんかいない。
母様は売女なんかじゃない。
顔も覚えてないけど、私のもっとも大事な二人。
殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
全ての殺意を魔術に乗せる。
周辺の被害なんて、今はどうでもいい。
「〝津波〟!!〝水貫〟!!!!!!」
最後の隕石がぶつかる寸前、大津波を発生させて、その水で幾つも大きい槍を作る。
標的は勿論あいつ。
土煙で姿は見えないけど、敵意感知があるから居場所は分かる。
まだ、あいつは生きてる。
殺すまで、地を這わせるまで攻撃を続けてみせる。
全ての魔力が尽きるまで。
「【水流を司る精霊よ。水の都の主、リヴァイア・サンタグリアよ。契約者バオジャイ・システィオーナが望む。今此処に顕現し、全てを穿つ牙で遮る者を撃ち滅ぼし、其の身の糧とさせ給へ 〝水龍〟 】」
LWOOOOOOOOOOOOOOON!!!!!!!!!!!!!!!
劈く悲鳴のような鳴き声と共に、水主であるリヴァイア・サンタグリアが顕現する。
現存するどの大樹よりも太く、川の如き全長を誇る水龍。
水の槍を殺到させながら、水龍を差し向けた。
牙で幾度も穿ち、飲み込んで体内に閉じ込め、確実に敵を屠る。
どれだけ腐敗させても、川と同等の体積を誇る水龍がとぐろを巻いて作り出した監獄から、呼吸が続く間に逃げ出すのは不可能。
でもまだ。
決して油断しない。
「〝雨〟」
局所的に雨を降らせ、水龍の体積が減る可能性を失くす。
「〝雷〟!!!!」
────ドッボオォォォォン!!!!
水龍の身の内に、雷を打ち込む。
「〝雷〟!!!!」
───ドッボオォォォォン!!!
一回だけだと多分駄目。
二回、三回、四回。
雨で水龍の体積を保ちながら、幾度も雷を打ち込む。
光と水飛沫と土煙。
色んなものが視界を邪魔して、あいつの姿は捉えられない。
それでも打ち込み続ける。
五回、六回、七回。
計十回。
撃ち込まれる雷に水龍は形を保てなくなって、巨大な水溜りになった。
「はあ、、はあ、、、、」
流石に、一気に魔力を消費し過ぎたかもしれない。
まだ怒りは消えてない。
それでも、ちょっと息を整えないと。
もう、魔力の残量が2割を切ってるから。
「もう限界か?」
「ッ!?」
声は、斜め上から降ってきた。
空中に浮かぶのは黒い球。
それが蠢いて、徐々にマーブル模様の球に変わっていった。
中にいるのは勿論あいつ。
仲間と両親を侮辱した、殺意の対象。
「〝風刃〟!!!!」
シュンッ────。
「何故、効かないと学習をしない?」
なんで。
なんでなんでなんで、、、。
なんであいつは傷が無いどころか、服が濡れてすらいないの。
「特別にサービスだ。一度腐敗の魔術を解いてやろ────」
「〝風刃〟!!」
ザンッ────ボトッ──。
当たった!
黒い靄が晴れた瞬間を狙って放った風刃が、真っすぐに飛んで右腕を切り裂いた。
でも、おかしい。
なんで血が流れてない?
それに、、、
(、、植物?)
地面に落ちた腕が形を保ったまま植物になって、すぐに腐り落ちて灰になった。
理由は分からない。
でも、腕は切断出来─────。
ズリュン──。
それは、絶望の音。
苦労して切り落とした腕が、気持ち悪い音を立てて生えてきた。
治癒魔術を使った様子はないのに。
でもそういえば。
メヒトの弟子の調査書に書いてあった気がする。
切り落とした腕が再生した事。
何かの見間違いだと思ってたのに。
ただでさえ攻撃を与えられないのに、ダメージもすぐに回復されるなんて。
どうしよう、、、。
獣人王と戦った時と同程度かそれ以上の危機。
(勝てない、、、かもしれない、、)
認めたくない。
こんな最低なやつが、大切な人達を侮辱するやつなんて認めたくない。
でも、どうしても勝てない。
勝てる未来が見えない、、、。
「もう絶望したのか、、、。呆気ない」
挑発されても、もう反撃する気力がない。
大切な人達を馬鹿にされても抵抗出来ないなんて。
何の為に今まで鍛えてきたの。
「教えて」
「何をだ?」
「その力を使って、神になって、何をするの」
意味のない会話。
望んでもいない。
それでも、私に出来る抵抗は時間を奪う事だけ。
「勘違いするな。私は昇神の助力をし、眷属と成るだけだ」
「じゃあ、眷属になって何をするの」
「大乱だ」
大乱、、?
争いが沢山起こるとか、そういう意味だった気がする。
「どういう事?」
「時に煽り、時に力を貸し、時に自ら介入して、この世界中で争いを起こす。醜い下民どもの争いをな。さしずめ、下民どもを使った遊びといったところか」
「何の為にそんな事、、、」
「余興だ」
「なんで。なんでそんな酷い事」
「持たざる者には理解出来ぬだろう」
絶対に、止めないといけない。
母様や父様みたいに、理不尽に命を奪われる人を生み出してはいけない。
でも、どうしたらいい?
どうしたら、こいつを倒せる?
一人では、絶対に倒せない。
「これだけ隙を作ろうとも、魔術の一つも放ってこないとは、、、。曲がりなりにも魔人の代表だというのに、この程度か。期待外れにも程がある」
悔しい悔しい悔しい。
なりたくて三賢者になったわけじゃない。
そんな駄々を捏ねるくらいの抵抗しか出来ない自分が。
戦う意思を放棄してしまった自分が。
「せめてもの慈悲だ。楽に逝かせてやろう」
目の前に、黒い靄が焦らすようにゆっくり近付いて来る。
負けたくない負けたくない。
でも、体は動かない。
ダメージなんて、一つも受けてないはずなのに。
せめて、睨み付けるだけ睨み付けておく。
晴らせなかった恨みを全て乗せて。
(最後に、お墓参りしたかった、、、)
「〝落岩〟!!!」
「ん?」
ジュッ───。
誰かが放った落岩が、ほんの少しだけ私の命を繋ぎ止めた。
諦めたはずなのに、何故か安心してしまう。
なんでだろう。
「ちっ。らしくねえ顔しやがって」
体を抱えられて、強制的に距離を置かされる。
上から降ってきたのはウルの声だった。
「中々強敵そうだね」
ウルの横に降りて来たのは、黒一色の魔装に身を包んだメヒト。
二人とも、無事で良かった。
「魔力水飲むかい?それとも、大人しく傷心を癒す事に努めるかい?」
「生意気」
メヒトの物言いに、ちょっとムッとした。
ウルに降ろしてもらってから魔力水を無理矢理奪って、一気に飲み干す。
完全には回復しなかった。
7割、くらいかな。
それでも、気力は回復した。
頼りない弟分が二人増えただけなのに、何だか不思議な気分だ。
ほんの少し、二人と一緒なら勝てるかもしれないと思わせてくれる。
「すっかり元気になったようだね」
揶揄うように言ってくるメヒトは後でおしおき。
でもそれは、あいつを倒してから。
あいつを倒して、世界を守ってから。
「協力して」
「ああ」
「言われるまでもなく」
今度は一人じゃない。
弟分二人と、ううん。
三賢者で肩を並べて、あいつを倒す。
絶対に。




