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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
十章
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八十三話「ウルVSシェリル」



「シェリル。ひとまず剣を収めろ」


洗脳されている事に間違いはないだろうが、シェリルにはまだ自我がある。

それならば味方に付けずとも、無為に戦闘をする必要がなくなるかもしれない。

説得は苦手な分野ではあるが、避けられる戦闘をする無駄を考えれば、それくらいの面倒は負おう。



「何故でしょう?」

「クラムドに戦えと指示されたのか?」

「いえ。ですが、こうして転移したという事は、相手取れ、という事でしょう」

「戦った事にして、事が終えるまでここで待っていればいい。迎えは寄越そう」



クラムドの異様な変化を見るに、三賢者が手を取り合ったとしても勝てるかどうかは確実ではないが。

その場合は、気絶させられた事にでもしておいてクラムドに合流でもなんでもすればいいだろう。



「身を案じて下さっているんですね。有り難い事です」

「無為な戦いを避けたいだけだ」



やはり、洗脳されているとはいえ、性格、言い回しは変わらないようだ。

思考も、自分の意思の下にあるように思える。

このまま続ければいけるかもしれな───





「お断りします」





希望が、短い一言で消え去った。

戦わなければいけない理由がどこにあるというのか、、、。



「何故、避けられる戦いを望む?」

「猊下の指示の有無関係なく、こうした状況になれば私は間違いなく戦う事を選びます。ウル殿と対峙出来る機会など、もう来ることはないかもしれませんからね」



失念していた、、、。

洗脳云々関係なく、シェリルが戦闘狂だという事を。



「昔、散々相手をしてやっただろう?」



10代の頃、シェリルの境遇を知った俺は、ドルトンの血の力を使いこなせるようにと何度も訓練に付き合っていた。

当初は小さいこぶが出来たくらいで煩く喚いたものだ。



「当時とは違います」

「そうだろうな。教え子がシルム王国軍の総帥にまで任命されるとは、思いもしなかった」

「ウル殿との、厳しくも優しい、愛の研鑽のおかげです」

「思ってもいない事を、、、」

「ふふふ。ですが、本当に感謝しているんですよ?理不尽に捨てられた私に、身を守る術を与えてくれた事を。そのおかげで、母を幾度も守り通す事が出来ましたから」



シェリルが当時住んでいたのは、お世辞にもまともとは言えない町。

スラム街という程ではないが、人々が荒れ、家は雨漏りしているのが普通だった。

そんな中で、生まれたばかりの子供を守りながら生活していたシェリルの母の精神の強靭さは、目を見張るものがある。

だが、どれだけ精神を鍛えようとも、力を振るわれれば身を守る術のない者は抗う事も出来ずに淘汰されてしまう。

俺が偶然当時10歳のシェリルと出会うまで生きていられたのが不思議なくらいだ。

理不尽な暴力を振られ、母娘共に痣だらけにはなっていたが。


そこから五年間。

成人するまでの間、学生生活を送りながら秘密裡にシェリルの元へ通い、知識と力を与えた。

与えた知識と力は隠し、ひたすらに振るわれる暴力に耐えさせた。

一時の感情でその相手を御したとて、未熟な力では敵が増えればすぐにでも蹂躙されてしまう。

俺が居る時であれば成人前の実力でも十二分に守ってやれたが、居ない時は自分で身を守るしかない。

敵が増えないよう、増えても一網打尽に出来るよう、五年間、必死に鍛え、耐えさせた。

その結果、シェリルはその町のボスと呼ばれるようになった。

弱きを守り、悪を裁く、優れたボスに。


そんなシェリルが共にユリティス王に仕えると聞いた時は驚いた。

あの泣き虫の子供が、と。

まあその時は俺も子供だったんだが。

本当に務まるのかと心配させられたものだが、今では一つの町どころか、一国の軍隊を率いる存在になっている。

成人して以後、会わなかった数年の間に、どれだけの研鑽を積んだのやら、、、。


そういった経緯がある故に、シェリルとは無為な戦闘を避けたいと思い、説得を試みたわけだが、、、。

骨折り損だったな。



「シェリル。最後にもう一度聞こう」

「なんでしょう?」

「本当に剣を収める気はないんだな?」

「無論です」



まあそうなるだろうな。

気は進まないが、久し振りの授業だとでも思おうか。



「説得に応じないなら仕方ない。数年振りの授業といこうか」

「ふふふ。もう泣き虫シェリルとは呼ばせませんよ、、、」



また懐かしい名を、、、。

わざわざ言われなくとも、当時のシェリルと同じ扱いをするつもりはない。

相手は泣き虫シェリルではなく、シルム王国軍総帥兼第零部隊隊長シェリル・ミストリアだ。

強者揃いの第零部隊を一人で御する力の前での油断は、愚行というものだろう。





「いきます」

「ああ」



「〝(アルマ)〟」





火蓋は切って落とされた。

防御結界を纏ったシェリルが、思い切り踏み込んで、一度も着水せずに川を飛び越えてくる。




「〝(シール)〟」



ガキイィィィィィン───ピキ────ピキピキ──。




俺の結界にだけ、細く亀裂が入る。

込める魔力を抑えているとはいえ、たかだか剣の一振りで亀裂を入れるとは、、、。



「流石の反応速度ですね、先生」

「世辞はいらん。馬鹿げた剣速しやがって」

「まだまだ序の口ですよ、、、っと!!」



パキイィィィィィィン────。



振り抜かれた二撃目で、脆く結界の盾が割れる。

シェリルが剣まで纏わせている結界には、ヒビすら入っていない。

結界がなければ、あの剣速で振り抜けばすぐに折れてしまうだろう。

剣まで纏わせるのは、良い判断だ。




「ふふふ。本当にあの頃に戻ったようですね」




数合いのやり取りの後、一度距離を取ったシェリルが嬉しそうにそう言ってきた。

実力は桁違いになっているが、確かに俺も、過去に戻ったような感覚を味わっている。

戦い方を分析して良い箇所を声に出さずに心の中でだけ褒める癖も、あの頃から変わっていない。



「まさか、手の内を隠されながら戦われる程、甘く見られるようになるとは思わなかったがな」

「気付いていましたか」

「見くびるな」



予想では、シェリルはまだいくつか手の内を隠している。

現状でもかなりの実力があるが、この程度では一人で第零部隊を御する事など出来ないだろう。

少なくとも一つ。

何か手の内を隠している。




「では、先生の胸を借りるとしましょう、、、。【風に紛れし精霊よ。今その力を持ちて、我が身に疾風の加護を授け給え。所望するは最速の体技。全てを薙ぎ払う風よ、今纏われん 〝風纏(エ・アルマ)〟 】」




詠唱を終えたシェリルを竜巻が覆い隠す。

一瞬の収縮を終え、爆ぜるように霧散した竜巻の中に現れたのは、全身と、二本の剣に風の鎧を纏わせたシェリル。

僅かに地上から離れ、静かに中空に佇むその姿は風そのもののようにも見える。




ヒュンッ────。



「ッ!?〝シール〟!!」



ガキイィィィン───。




その場を動かず振り抜かれたシェリルの剣から、風刃が飛んでくる。

形成単語の風刃よりも形は小さいが、威力は大きい。

先程と同程度の強度にしておいた結界を破る程ではないが。




フォッ───。



パキイィィィィィィン────。




風を纏ったシェリルの速度は、先程の倍程。

振り抜く剣の威力も、倍まで上がっている。

これだけの力があれば、第零部隊を一人で御する事も可能だろう。

正面から受ける盾では分が悪いか、、、、。




「〝双槍(ア・ランス)〟」




肘から指の先30cm程の位置までを円錐の結界で覆い、その表面を滑らせるようにシェリルの剣を往なす。

表面には一つの傷も入る事なく、問題なく受け流す事が出来た。



「そんな形成単語があったとは、、、」

「オリジナルだ」



ドルトン家の者は、〖(シール)連盾(リーフ)(ドーム)(バール)(アルマ)〗、5つ存在する防御魔術の形成単語の中から、どれかを習得する。

3つ習得出来れば、優秀だと言えるだろう。

だが、強い意思とイメージの下であれば、新たな形の防御結界を生み出す事が出来る。

双槍(ア・ランス)〗も〖槍衾(パイク)〗も、俺が編み出したものだ。

防御結界を積極的な攻撃手段として使うなど、ご先祖方は想像も付かなかったらしい。

それでも尚、防御のウルと呼ばれ続けるのは、ドルトンの血が流れる者の宿命というものか、、、、。



「流石です」

「お前も、その体裁きは中々のものだぞ」



両腕に携えた結界で、連撃を往なす、往なす、往なす、、、。

攻勢には移らずに、延々と往なし続けた。

延々とは言ってもまだ二分経ったか経っていないかというところだが、手数が多過ぎる為にもっと長い時間のように思わせられる。



「〝岩針(フォレスティグ)〟」



スッ──────ガラガラガラ───。



シェリルが飛び込んでくるタイミングに合わせた岩針は、バターのように裂かれ、音を立てて崩れていった。

突進速度を緩める事も叶わず、何の役にも立たなかったな。

それに、目まぐるしい攻防の中で双槍を維持させながらの形成単語はやはり疲れる。

いつもよりも岩針の威力が落ちていた。





「何故、攻勢に移ろうとしないのですか?」





一度川の向こう岸に戻ったシェリルが、だらりと双剣を下げてそう聞いてきた。

あの状態のシェリルであれば、この距離でも充分に射程範囲だろう。

隙を引き出す為の会話か?



「この防御結界は集中力がいるからな」

「まだ、先生の全力を引き出すまでには至りませんか、、、」



このまま他の魔術を使わず、均衡を保ったまま魔力切れ、もしくは降参させようと思っていたのがバレたようだ。

授業と認識してから、積極的に勝ちを取りに行こうという考えは失せてしまっていたからな。

だが、シェリルは諦めるつもりなど毛頭ないように見える。

あの魔術では今以上の威力、速度はおそらく出せない。

つまり、このままでは均衡が崩せず、俺が先に魔力切れを起こす事もないわけだが、、、、。

まだ何か、手の内を隠しているか。





「これを使えば、少しは先生のやる気を引き出せるでしょうか」





やはり、何か手の内を隠していたようだ。

下手な事をすれば、威力か速度どちらかが犠牲になって仕舞いかねないと思うんだが、、。

過去の生徒が次手をどう打ってくるのか。

そんな事を考えて、場違いな高揚をさせられた。




「【雷鳴の雄。偉大なる母、黒雲から生まれし精霊よ。契約者シェリル・ミストリアが求むは追随を許さぬ神速。今こそ其の力を解放し、我が身に纏い、権能を授け給へ 〝雷鎧(エレキプロテクト)〟 】」





詠唱を終えたシェリルを、(いかづち)の走る黒雲が包み込む。

予想が正しければ、何の対策もせずにこのまま待っていれば初撃はまず間違いなく受ける事となる。

当たり所が悪ければ、戦闘不能になり兼ねない膂力を持つ攻撃を。

少し、授業から戦闘へと意識を移すか、、、、。





「〝(ドーム)〟」



バチンッ───────!!


────パリイィィィィィィン。





雷が弾ける音、結界が一撃で割れる音。

それらがほぼ同時に耳に届いた。


(少し、肝を冷やされたな、、、)





バシャッ────。





遅れて、シェリルの猛進により巻き上げられた水が本来の位置に戻る音が聞こえてくる。

川の向こう側にはシェリルの姿はなく、ただ一部が焼け焦げた石が、居たはずの場所に散見されるだけだ。




「漸く、少しは焦っていただけましたね」




相変わらず重力を感じさせずに佇むシェリルが纏っているのは〝嵐〟。

体表を暴風が流れ、その表層に雷が絶え間なく流れている。

先程の風と同化しているかのような静けさはなく、小さくも荒々しい、自然の猛威のように感じられる。

全力で張った結界を、一撃か。

馬鹿げた攻撃力をしてやがる、、。

それに加え、速度も先程より格段に上がった。

倍に収まれば上々、といったところか。

実際、それよりも早くなっているだろうと、頭では理解しているんだがな。



「これでも全力を出すに至りませんか?」

「いや、少し本気を出そう」

「ふふふ。先生の余裕のなくなった顔を見るのが楽しみです」



一度、双槍の結界を解き、纏の結界の後、張り直す。

これで、双槍の表面を流れて肘より内に流れて来た雷も防ぐ事が出来るだろう。



「攻勢に移るには至りませんか?」

「いつから、防御結界が守りだけのものと錯覚していた?」

「防御は最大の攻撃、ですか。懐かしい教訓ですね」



昔の俺はそんな事を言っていたのか。

過去を暴かれているようで良い気分ではないが、考え方の根本は変わっていない。

だが俺は少し、先へ進んでいる。

シェリルが独自の戦闘スタイルを編み出したように、俺もまた弛まぬ研鑽の下に自分のスタイルを確立した。



「変わらないままの先生へ、生徒から成長する事の必要性を、教えて差し上げます。お覚悟を」

「ああ」


バリッ───。



短く雷が爆ぜる音が聞こえ、眼前にシェリルが現れる。

出鱈目な速度ではあるが、反応出来ない程ではない。

剣の平に沿わせるように双槍の表面を押し当て、右から来た初撃を受け流す。

右からの斬撃は左へ受け流せば、相手の連撃に嵌められる心配はない。

だが、今のシェリル相手には、それでも稼げる時間は一秒の半分にも満たない。

すぐに左下からやってきた二撃目を同じように受けて右上へ流す。

これが、十代の時にメインとしていた戦い方。

力の方向を変えず、往なし続ける。

それを続けて隙が出来たタイミングで、攻勢に移る。



「変わりませんね。懐かしい戦い方です」



一度この戦い方を試す為にシェリルに使って泣かれた経験がある。

あの時は、今のように強くなかったからな。

この戦い方はあの頃のシェリルには過剰だった。



「速度を上げますよッ!!!!」



バチィッ───。



戦いに慣れていない者であれば、姿を見失ってしまいそうな程の速度。

見失えば、間違いなく結界と共に体も切り裂かれる事だろう。

雷で焼かれて止血は出来るかもしれないが、止血で済む程度の傷で収まるはずがない。

シェリルには余裕なように見えているようだが、速度を上げられた事によって、俺は中々に追い詰められた状況になっている。


(かといって、生徒に負けてやる義理はないが)


追い詰められてきているが、それはあくまで余裕を持った戦いをしようと考えている場合。

疲れるが、少しこの戦い方の先を見せてやるか。




バチチチチチチィッ───!!


「なッ!」




剣を振り下ろそうとした動きを察知して、刃の平、根本に双槍を押し当てる。

弾けて行き場を失った雷が、音を立てて中空へ霧散した。




「まぐれ、、、ですか、、?この速度を見極めるなど、、、」

「確認してみればいい」




慣れない不敵な笑みでシェリルを挑発する。

こういうのはシェリルの専売特許なんだがな。

いや、昔俺が教えたんだっけか。

丸くなったものだ。




バチチチチチチッ───!!




踏み込んで放って来た初撃を往なし、二撃目を威力が発揮される前の段階で止める。

そこからは同じ事の繰り返し。

ひたすらに、攻撃を察知しては未然に防ぐ。





「くっ!」





まともに攻撃すらさせてもらえない事に苛立ちを覚え、シェリルが一旦近距離から離脱を試みる。

だが、、、。



「〝(ボム)〟」

「かはッ」



それも読んでいる。

下がって距離を置こうとしたシェリルの背後で爆発を起こし、元の位置まで戻させた。



「〝双槍(ア・ランス)〟」



双槍を二重掛けし、体勢を崩したシェリルの懐へ潜り込んで突きを放つ。

辛うじて避け、不利な体勢で攻撃を放とうとしてくるシェリルの動きを察知して更に踏み込み、未然に防いで突きを見舞う。

同じ場所を、ひたすらに。

嵐を纏い、その内に防御結界を纏おうとも、同じ場所を突かれ続ければ必ず綻びは出てくる。


(5、、6、、7、、8、、、、、)


カウントが10になった頃、シェリルの防御結界、鳩尾辺りにヒビが入った。


(あと二回程度か?)


完全に割る必要はない。

ヒビが広がり脆くなった防御結界では、纏う嵐の威力に耐えられず、勝手に防御結界の鎧が剥がれる。

それを理解しているであろうシェリルが焦り、がむしゃらに攻撃を放ってくるが、ここまでくればもう挽回される要素はない。

攻撃を未然に防ぐと見せかけて往なし、大きく体勢の崩れたシェリルの腹部へ、突きの連撃を放った。





バキ────バキバキバキバキバキバキバキバキ──────!!!!


「がはッ、、」


ドサッ──。





防御結界は破れ、纏う嵐は霧散し、シェリルが膝を着く。

攻勢を意識する余り、雷を解除するタイミングを誤ったな。

僅かではあるが、自身の体を焼いてしまっている。

崩れ落ちたのも、雷の影響で体が痺れているからだろう。



「なん、、ですか、、。その戦い方は、、、」

「攻撃の前段階を防御し続けるだけだ」

「簡単に言いますね、、、。私の雷装を見るのは初めてなはずなのに、それをいとも簡単に見切るなんて、、。そうそう出来るものではありませんよ、、」



元々の戦闘スタイルを更に昇華させただけなんだが、シェリルの言う通り、これはそう簡単なものではない。

自身の戦闘スタイルとして確立出来るまでに、長い時間を要した。

相手の何倍も集中し、頭を回し続けなくてはならないからな。

習得する為とはいえ、スタミナが無尽蔵にあるのではないかと思わせられる武人との訓練は中々に辛かった。

もうやりたくない。




「〝岩針(フォレスティグ)〟」




自身の鼻先を掠める程近くで発現させられたシェリルの岩針。

問題なく避ける事が出来たが、まだ心が折れていないとはな。



「まだやるのか?」

「はい。私の、集大成をお見せします」



まだ、手の内を隠していたようだ。

シェリルの魔力総量は大して多くない。

二つの精霊魔術、形成単語でもうかなり消耗しているとは思うんだが、、、。









「〝巨神兵(ジャイアント・アルマ)〟」








瞬く間に、周囲の木よりも高い防御結界で出来た巨人が形成されていく。

手には双剣。

体の内部、中央には、巨人と同じく剣を持って腕をだらりと下げたシェリルが居た。




ブンッ────。


「ッ!?」


───ドンッ!!!!!!!!!!




結界で出来た剣が振り下ろされる。

剣速は精霊魔術を使う前のシェリル程度だが、範囲が広く、何よりも質量が大きい。

直接当たれば確実に無事では済まないという事に加え、紙一重で躱せば衝撃波で吹き飛ばされてしまう。

つまり、広範囲に繰り広げられる高速の斬撃を、余裕を持って避け続けなければいけないという事だ。

我が生徒ながら、何という強力な奥の手を、、。




「あああああああ!!!!!」




戦略など何もない、周囲の被害も考えない攻撃が猛威を振るう。

剣筋は読みやすくなったが、避けなければいけない範囲が大き過ぎる。

それに、大きく避ければ、へし折られた木にぶつかりそうになる。

この場所でこの巨大且つ強大な相手はあまりにも分が悪いぞ。


(狙う隙があるとすれば、、、)


巨大故に出来る隙。

それは間違いなく懐だろう。

幸い、風も雷も纏っていない。

この斬撃の嵐を切り抜けて近付くのは骨が折れるが、懐に潜り込めれば勝機はある。

シェリルが、防御結界の弱点に気付いていなければ、だが。




ドンッ───!!


ドンッ───!!


ドンッ───バキバキバキバキバキバキ!!!!!!




(漸く、慣れてきた)


息をつく間もない巨人の連撃に、漸く慣れてきた。

回避には余裕が出来、徐々に距離を詰める事が出来ている。

そろそろ、攻勢に出るか。




「〝(レイン)〟」




巨人の頭上に、局所的な雨を降らせる。

無論、これではダメージを与えられない。

雷を降らせたとしても、完全に巨人を破壊する事は叶わないだろう。

打つべき次手は、、、。



「〝氷結(アイク)〟」



上からの雨と下から上がってきた川の水で濡れた巨人の体表の、約6割が凍り付く。

よく動く腕や脚の部分の氷結はすぐに剥がれ落ちているが問題ない。

一箇所、動きの少ない鳩尾の辺りだけ残っていてくれれば大丈夫だ。



「こんな魔術では、動きを止める事すら叶いませんよ!!!」

「必要ない」



変わらず繰り出される息つく間もない連撃を躱し、ついに懐に入り込む事に成功する。

狙うは巨人の鳩尾。

唯一、氷結が剥がれていない位置。

巨人が剣で地面を叩いた瞬間に合わせ、中空に浮き上がり、鳩尾に手を添えた。

最後の一手を打つ為に。




「〝炎槍(ボア・ランス)〟」




鳩尾に、炎で出来た三角錐の巨大な槍を差し込む。

せっかく定着した氷結に炎は悪手のようにも思えるが、、、




「そのような攻撃では穴一つ───」


ピキ───ピキピキピキ────。


「なッ!?」




炎槍の先端が触れた位置から、蜘蛛の巣状にひび割れが広がっていく。

まだ浅いか、、、。






「〝(ボム)〟」



ビキ──ビキビキビキビキビキビキビキビキ─────────。



「な、何故低威力の形成単語如きで、、、!!!!」



バキン──!!






ヒビ割れに打ち込まれた爆発がトドメとなり、巨人が鳩尾から割れていき、腕を、足を、その身から分離させ、霧散させていく。

ここからの再生は不可能だろう。





「な、、、、ぜ、、、」

「防御結界は、魔術が表面に触れた状態で同一箇所に別の魔術を当てられると、脆く、崩れやすい。魔術の属性の相性が関係なくなる程に、な。覚えておくように」

「ふふっ。はい、、せんせ、、、い、、、」

「───おっと」





魔力切れか、、、。

巨人の支えと意識を失い、重力に従って落ちてくるシェリルを地面のすれすれで受け止める。


(負けたというのに、随分幸せそうな表情をしているな)


黙っていれば、それなりの淑女に見えるというのに。









「おやおやウル。不倫はいけないよ?」







荒れ果てた川べりにシェリルを下ろそうとしたら、死角から腹の立つ声が聞こえてきた。

わざわざ訂正するのも面倒だな。



「誰と転移させられた?」

「第零部隊と聖魔術士だよ」

「随分余裕そうだな」

「相性が良かったからね」



まあ、メヒトならあのレベルを三十程度。

問題はないだろう。



「魔力水飲むかい?」

「いや、まだそこまで消耗していない。受け取るだけ受け取っておこう」



わざわざ魔力を節制する戦い方をしていたのにはわけがある。

それは、これから対峙しなくてはならない相手。

全力で戦ってほしかったであろうシェリルには悪いが、自らの肩に世界の命運が掛かっているとあれば、自分の心情など優先すべきではない。



「俺の相手がシェリル。お前の相手が第零部隊と聖魔術士という事は、、、」

「クラムド君はバオジャイ女史と一対一だろうね」

「場所は?」

「特定出来ているよ。始まりの木の周辺みたいだね」



いつの間にか、ケイトに持たせていたバオジャイの持つ物と対になる共鳴の鈴を回収していたらしい。

どこまでも、周到な男だ。

来た時と魔装が変わっている辺り、これも用意しておいた手の内の一つなのだろう。




「行くか」

「そうだね」




残る敵はクラムドのみ。

一番厄介ではあると同時に、一番倒さなくてはいけない相手である。


(この手で終わらせよう)


そう決意し、メヒトと二人、飛翔した。

世界の命運を賭けた戦いが行われている場所、始まりの木の側へ。

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