八十話「それぞれの戦場」
血の匂いが立ち込め、所々が不自然に抉れた濡れる瓦礫で出来た広場。
そこには三人の聖魔術士の遺体と、手足をあらぬ方向に曲げ、血溜まりに伏すミシェの姿があった。
「嘘、、、ですよね、、?そんな、ミシェが死ぬわけ!!」
悲痛な叫びが漏れ出る。
メヒトが嘘を吐いてない事など、ミシェの姿を見れば容易に分かる事だ。
俺も、遺体と生存者の判別が出来ない程、馬鹿ではない。
ましてや、ミシェは分かり易く生を手放している。
だがそれでも、それを受け入れられるかどうかはまた別の話だ。
必死にミシェから目を逸らし、すぐ近くにいるメヒトに、縋るように詰め寄った。
嘘であってほしい。
そう願って。
「脈が、、」
メヒトに手を取られ、ミシェの首元に宛てがわれる。
生者と同程度の温もりは持っていたが、同時に感じるはずの脈動は得られなかった。
(じゃあ、もう、本当に、、、、)
認めたくない。
認めたいわけなんてない。
でも実際に間近で見て、触れて、実感せざるを得なかった。
ミシェが死んでしまったという事を。
「以前よりは強くなってたみたいだけれど、流石に分が悪かったようだね。聖魔術士三人を同時に相手取る事態になるなんて」
冷静に分析するメヒトに苛立ちが募る。
住み込みで世話をしてくれてた弟子が異国の地で独り息絶えたというのに、何の情動もないのか、、?
表情も、いつもと変わらない。
声を震わせる様子もない。
なんでそんなに冷静でいられるんだ、、、。
短い間しか一緒に居なかった俺でさえ、手が震えてどうしようもなくなってしまっているというのに。
「全く、情けない。内部に潜入して情報を取ってくると言っていたのにやられてしまうとは。使えない弟子を持つと気苦労が絶えないね」
「なッ、、、、」
メヒトの言葉に唖然とさせられた。
情動がないのはまだ理解出来る。
メヒトは研究対象にしか興味が無いから。
それでも、死体蹴りのような発言は、流石に看過出来ない。
頼れる相手がいない中で必死に戦って、三人もの聖魔術士と同士討ちにまで持ち込める程、言葉通り死に物狂いで頑張ったのに、死後に罵倒をするなんてあんまりだ、、、。
「メヒトさん!ミシェだって頑張ったんですよ!?それなのにそんな事────」
「待て」
「なんですか!?離してくださ───」
「ケイト」
名前を呼び、神妙な面持ちで小さく首を横に振るウル。
その姿を見て、怒髪天をつく勢いだった怒りは行き場を失った。
怒りが消えたわけではない。
だが、何が何でもメヒトを攻め立ててやるという気持ちは薄れた。
ウルは俺の肩に手を置いて真っすぐに目を見据えるだけで、何も言おうとはしない。
それでも、言葉はなくとも何か伝えようとしている事だけは分かった。
「本当に、情けないね、、」
(この後に及んでまだ罵倒をッ!)
収まる兆しを見せていた怒りがまた再沸騰し、我慢ならないとメヒトへ振り返ってすぐ、見えた光景に宥められてしまった。
(泣いてる、、?)
あの、研究以外で人に興味を持つ事のないメヒトが、頬に一筋の涙を伝わせていた。
声は震えていない、表情も真顔のまま。
それでも、涙は流れている。
ポツッ───。
瓦礫の上にメヒトの涙が落ちる音が、やけに明瞭に頭に響いた。
「少し、離れていてくれないかい?」
涙を拭おうともせず、メヒトが顔の向きを変えずにそう言う。
言葉以上の感情を含む声に、自然、その場から離れさせられた。
立ち上がり、瓦礫に気を付けながら数歩下がる。
それらの動作を、ほぼ無意識で行い、距離を置いた。
「怒る気持ちは分かる。だが、抑えてやれ。あいつは感情の出し方をよく分かっていないんだ」
少し前なら、ウルの言葉を否定出来たのにな、、、。
さっきの声色、ミシェをじっと見続けるメヒトの姿に、感情のない冷徹な男という評価は下せそうにない。
今のメヒトを見てしまっては、隠そうともせず表に剥き出しにしていた俺の感情が、浅く、大した事のないものに思えてしまう。
(ウルはきっと、これをいち早く感じ取ったんだろうな、、)
幼馴染み故、表層に浮き上がっていない状態でも、メヒトの心情を察する事が出来たのだろう。
「【傷痍掃いし癒しの者よ。】」
「メヒトさん、、、?」
メヒトが唐突に始めた詠唱は、治癒魔術のもの。
転移してきたばかりの俺の体を癒し、キュイの命を繋ぎ止めた精霊魔術。
どの精霊魔術よりも縁が深いからこそ分かる。
あの魔術では、死者の蘇生は出来ない。
膨大な知識を持つメヒトなら、それくらいの事は分かるはずなのになんで、、。
「【盟約の下に救いの声を今聞き届け、】」
全員が、言葉を発する事なく、詠唱を続けるメヒトの姿を見つめる。
意味のある行動でない事は、この場の誰もが理解しているはずだ。
それでも、誰も止めようとはしなかった。
「【我が魔力を持ちて此の者の身を癒し給へ。 〝上治癒〟 】」
何度か見た光景が広がり、ひらひらと舞う羽根に撫でられたミシェの四肢が、正しい形へと戻っていく。
だが当然、息は吹き返さない。
どれだけ傷が癒えようとも、骨が元の形に戻ろうとも、失われたものは戻ってこない。
(メヒトなりの、弔いなんだろうか、、、)
死化粧というものがある。
綺麗な状態であの世へ送り出してあげようという遺族の想いで、遺体へ化粧を施すもの。
メヒトはそれを、原形を失っていたミシェの体を正しい形に戻す事で、代わりとしたのかもしれない。
(俺も、区切りをつけないといけないよな、、、)
静かに、その場で手を合わせる。
一人で抱え、弔うメヒトの姿を見て、俺も漸くミシェが亡くなったという事実を受け入れた。
受け入れなければ、先へ進めない。
ミシェの分まで、生きなくては。
「聖域へ行くよ」
治療を終え、格納袋から取り出した服にミシェを着替えさせたメヒトが、立ち上がってそう宣言した。
手には、いつの間にかメモ帳サイズの紙束が握られている。
「何か分かったのか?」
先を見定めた様子のメヒトへ、ウルが問い掛ける。
「これを見てほしい」
(ディベリア神聖国調査書、、、?)
メヒトから渡された紙束の一枚目中央には、この世界の文字で大きくそんな文言が書かれていた。
恐る恐る、メヒト以外の全員で中身を確認していく。
〝ディベリア神聖国にて得た情報を、この紙に書き記していく。〟
出だしはそう書かれていた。
書き辛い場所で書いたのか、字はガタガタで、紙は所々が破れていて少し読みにくい。
それでも内容は理解する事が出来る。
内容を通して推測出来たのは、これを書いたのが間違いなくミシェだという事。
ディベリア神聖国に来て使用人になった事や、腐愚民が幻霊林に連れて行かれた事、クラムドというディベリア神聖国の教皇が支配の魔術のようなものを使っていた事、全てのディベリア教徒が聖都に集約された事。
疑問符が散見されるところを見ると、証明出来ない不確定な要素が多かったんだろう。
不確定でも、ミシェが残してくれた貴重な手掛かりだ。
獣人域まで届いた異変の原因を探る為の。
(クラムドが木の繭に包まれ、切られた腕が再生した、、?)
書き方が雑になっている最後のページを読み進める。
そこに書かれていたのは、侵入した大聖堂で見聞きしたという出来事達。
文字から察する事の出来る切羽詰まった様子から、ミシェが必死に書き記していた事が感じられる。
そんな最後のページ。
一際崩れた字で一番最後に書かれていたのは、、、、。
「教皇らは、聖域へ向かった模様、、、」
〝ら〟が表すのは、それまでの文から察するに聖魔術士と第零部隊だと思う。
横には、〝転移魔法?〟と殴り書きされていた。
おそらく、転移魔法で聖域へと向かった、という事だろう。
「未確定の事が多いけれど、一つだけ断言出来る事がある。クラムドを放置しておくのは拙いという事。急いで聖域に向かわないといけないね」
「切り裂いても再生出来るような化け物を、一人で何とか出来るのか?」
「未確定の事ばかりの状態で、私が単身でヤケを起こす様に見えるかい?」
「せめて確認ぐらいしろよ、、、」
「私とウルの仲だろう?」
どうやら、今からクラムドがしようとしている何かしらを止める為に、聖域へ向かうらしい。
通行制限がされているはずなんだが、行けるんだろうか?
まあ、メヒトの転移魔術があれば問題ないだろう。
「聖域は、聖魔の社の魔法陣を通らなければ入る事が出来ないよ」
という事らしい。
〝手はある〟と不気味に口角を上げて言うメヒトを見ると、どうしても嫌な予感が、、、。
でも、嫌な予感がしようとも、行かない事には始まらないよな。
戦いは三賢者に任せて、俺とリビィは後方支援でもしよう。
体が再生する化け物相手では、どうせ足手まといになるだろうから。
「どのルートで行くんだ?」
「近くに地下転移魔法陣があるから、そこを使おうかな」
「稼働してるのか?」
「こんな事もあろうかと、国を追われた人達を保護して管理をしてもらっているんだよ」
「周到だな、、、」
魔法陣を使わない転移は魔力の消費が多過ぎるらしく、聖域まではメヒトが見つけて、雇った人達に管理させている聖都近くの森の地下にある転移魔法陣を使って行くみたいだ。
この人はどれだけ魔法陣を個人的に持ってるんだ、、、、。
大昔に使われていたものを再び使えるように修復しただけらしいが、それでも尚、メヒトに感じる脅威は変わらない。
周到に色々なものを用意しておく姿勢は脱帽ものだ。
「【契約者メヒト・ヴィルボーク・フィオが求む。偉大なる貴殿の力を今此処に。糧としたるは我が魔力。二所の狭間を消し去りて、空間主スパルトルネリアの権能の一端を、知らしめ給へ 〝転移〟 】」
心臓が早鐘を打つ。
これから対峙するのは、人外の存在。
傍には、聖魔術士や第零部隊も控えている。
シェリル一人にすら、まともに傷を付けられないというのに、、、。
だが、こっちには三賢者が揃っているんだ。
きっと、きっと何とかなる、、。
視界を淡青色の光で塗り潰されながら、そんな言葉で必死に自分を落ち着けた。
「ケイト君とリビィ君。二人はロントマルクへ向かっておくれ」
移動した先の地下道。
人外と対峙する決心を固めていた俺は、メヒトのそんな言葉で一気に脱力させられた。
聖域とロントマルクでは、向かう方向が正反対だ。
「ロントマルクって精霊の町ですよね、、?そこに何かあるんですか?」
「ベル君がいる」
ベル、、?
会いたい気持ちはあるけど、今は私情で行動出来る程余裕のある状況じゃないはずだ。
それなのになんで、、、。
「あくまでも推測の話だけれど、ベル君ならミシェを生き返らせる事が出来るかもしれない」
「ミシェを、、、って、えぇ?」
いつの間にか、ウルがミシェを背負っていた。
一緒に転移させたのか、、、。
それよりも、ベルがミシェを生き返らせられるかもしれないってどういう事だ?
「確証が持てない。だから、話す事は出来ないよ」
それが、メヒトの返答だった。
メヒトが仮定の段階で話すのが苦手だという事は知っていたけど、まさかこんな時までその性格を引き摺るとは、、、。
「時間がない。ミシェを背負っておくれ」
メヒトを問い質している暇はない。
記憶がなく、初対面のベルに突然〝人を生き返らせる事は出来るか?〟と尋ねるのは正直気が引けるが、ミシェに生き返ってほしいと願う気持ちは俺も同じだ。
でも、期待はし過ぎないほうがいいだろう。
し過ぎてしまうと、駄目だった時のショックが大きい。
「ミシェを頼んだよ」
その言葉を最後に俺達は別れ、薄暗いレンガ造りの地下道を正反対の方向に進んでいった。
それぞれの役目を果たす為、決意を胸に抱いて。
─────────────────────────────────
「おや?フィオさん。お久しぶりで───」
「世間話をしている時間はないよ。王都まで三人。魔力負担は出来るかい?」
「わ、分かりました!お前ら!準備しろ!」
「「「あいあいさー!!」」」
ケイト達と別れてすぐ。
俺達は迷路のような地下道の突き当りある部屋の中に居た。
不自然に明かりの灯されたそこへ居たのは、一目で賊と分かるような風貌をした四人の男。
こいつらが、メヒトが保護しているという者達なんだろう。
(賊に任せて大丈夫なのか?)
転移を失敗させられたら、堪ったもんじゃないぞ。
「準備出来ました!」
「行くよ」
「おう」
「ん」
だがまあ、これから対峙する相手を考えれば、魔力は出来る限り温存しておいたほうがいい。
(治癒魔術も無しに欠損部分が再生するクラムド、、、か)
色々と起こっている不可解な事態から察するに、それ以外にも何か力を付けてると考えておいたほうが良いだろう。
元よりそれなりの実力を持つあいつが更に強化されている。
それに加え、第零部隊と聖魔術士。
こっちが三人揃った状態で各個撃破出来れば問題はない、が。
頭の切れるあいつがそんな状況を作り出す事はないと言い切れる。
これ以上なく心強い味方を付けているとはいえ、考えれば考える程、面倒な相手だ。
「もう聖域にいるようだな、、」
「そのようだね」
複数の転移魔法陣を乗り継ぎ、最後はメヒトの転移魔術で辿り着いた聖魔の社の前。
階段の前に居る二人の番人は、体を無残に切り裂かれ、死に絶えていた。
まず間違いなく、止められたクラムドがやったものだろう。
社へ入る階段の中程にも、同じように切り裂かれた守護者の無残な死体がある。
「急いで」
何かを察したバオジャイが先陣を切り、階段を猛スピードで登っていく。
野生の勘に関しては、三賢者の中でバオジャイが抜群に優れている。
余程拙い状況と考えたほうがいいか、、。
気を、引き締めなくてはならない。
(死体、、死体、、、死体、、、)
魔法陣へ行く道中には、守護者の死体が散見された。
どれも、同じように殺されている。
守護者以外の死体が一つとして無い事を見るに、一方的に蹂躙されたと考えて間違いないだろう。
色々と気になる事はあるが、実力差を考えれば不思議ではないか。
「そこを動くな!!」
転移魔法陣に手を翳し、俺達を睨み付けてそう叫ぶ聖魔術士。
少しでも動けば魔法陣を破壊する。
そう言いたげな様子だな。
(1、、2、、、3、、4、、)
見た限り、ここの守護を任されている聖魔術士は七人。
一人で片を付ける事は簡単だが、隙を見て魔法陣が破壊されてしまっては聖域に渡る事が出来ない。
どうするか、、。
「ウル。私を隠して」
「?分かった」
小柄なバオジャイを敵の神経を逆撫でしないように小さな動きで隠す。
何をする気だ?
「【全装獣化:ロル・ロンドルフ】」
獣化も出来たのか、、、?
魔術だけでさえ化け物レベルだというのに、どれだけ人の枠を外れれば気が済むんだ。
振り返れば見られるであろう獣化した姿を想像しただけで、完治した背中の傷が痛む。
唯一の隙が、大規模な魔術が足枷となる近接だと思っていたが、これではその隙を期待するのも出来そうもないな。
「ぐあっ!」
「な、なんだやめ───」
「何が起こっている!?」
魔法陣を起動していない薄暗い現状では、高速で動き周り、一人に付き一撃で魔法陣の外へ弾き出すバオジャイの姿を捉える事は出来ない。
反応を見る限り、残り二人、か?
すぐに片付くだろう。
「私達も行こう。すぐに転移出来るように」
「ああ」
何故かバオジャイは不殺を貫いている。
だが、わざわざトドメを刺す時間は惜しい。
疑問は持たざるを得ないが、敵が動けるようになる前に転移出来るように準備しておいたほうがいいだろう。
「ぐっぞおおおおお!!!!」
「〝炎鞭〟」
「ぐああああ!あづいあづいあづいいいい!!!!」
悪いが、俺はバオジャイのように不殺に拘るつもりはない。
襲い掛かってきた相手に炎の鞭を巻きつけ、締め上げる。
「あ、、がっ、、、」
やがて、鞭が巻き付いた場所から焼け爛れ、内蔵を晒しながら死に絶えていった。
戻って来れたなら、火葬くらいはしてやろう。
「終わった」
俺が一人屠っている間に、どうやら残りの聖魔術士を魔法陣の外へ追い出し終えたようだ。
死体を蹴るのは悪いが、俺が屠った男も外へと出させてもらおう。
「メヒト、どうだ?」
「もう少しだね」
魔法陣から、緩く光が上がってくる。
特殊な方法でなくては起動すら出来ない魔法陣のはずなんだが、なぜこいつは軽々と出来ているんだ?
相変わらず、常識が当て嵌まらない。
「行こうか─────」
「うあああああああ!!!!」
パキイィィィィィン────。
転移寸前、ガラスが割れるような音と共に魔法陣の光が消失する。
原因は外へ出したはずの聖魔術士。
土魔術で魔法陣の一部を崩し、転移を防がれた。
「拙いな、、」
聖域には、この魔法陣なくして渡る事が出来ない。
つまり、現状は詰みだ。
飛んで行けば魔法陣がなくとも聖域へ向かえるが、、、。
(まあ無理だろうな)
この世界での常識。
大陸から足を一歩でも踏み出せば、竜の餌食となる。
その意思はなくとも、大陸から足を踏み出すというのは身投げと同意だ。
だが、ここでこのまま何もせずに居たとして、クラムドが仕出かすものによっては死ぬ未来は変わらないだろう。
それならば、僅かな可能性に賭けて竜の回避に臨むのもありか、、、?
馬鹿な考えと分かっていながらも、そうするしかないように思えた。
「ウル。結界を張っておくれ」
結界、、?
張ったところでただの魔力の無駄遣いになると思うが、、、。
「10分で直す」
珍しく目を見開いて、メヒトがそう宣言した。
何故この魔法陣でだけ聖域に渡れるのかまだ解明されていないんじゃなかったのか、、?
そんなものを、10分で修復する?
それは、一か八か竜の回避に挑むよりも、無謀な事のように思える。
だが、、。
「分かった」
信用する他ないだろう。
珍しく、感情を剥き出しにするメヒトを。
俺の予想よりも遥かに、弟子を亡き者にされた事に怒り狂っているな。
成人してからは、ここまでの情動を見るのは初めてかもしれない。
「〝円〟、〝円〟、〝円〟」
魔法陣の外周を起点として、そこから同心円状に外側に三枚、結界を張る。
出来るだけ、張る結界は最小限にして魔力消費を抑えたい。
聖魔術士がそれなりの魔術の使い手とはいえ、三枚あれば10分は稼げるだろ。
「〝雷〟!!!!!」
パキイィィィィィィン─────。
メヒトの修復が開始して5分、一枚目の結界が破られた。
結界の強度は同一。
このままいけば、余裕で時間を稼げる。
「〝炎舞〟!〝集〟!〝突〟!!!!」
パキイィィィィィィン─────。
残り3分。
まだ余裕はあるが、一枚目よりも割れるのが早い。
同じ箇所に攻撃をし続ければ破壊し易い事に気付いたか、、、、。
面倒だな。
「倒す?」
「いや、体力も魔力も温存したほうがいい」
魔力消費は言わずもがな、獣化もスタミナが減れば、不意の事態に対応出来なくなる。
バオジャイであれば息を切らす前に蹴散らす事は出来るだろうが、何が起こるか分からない状況では備えられるものは限界まで備えておいたほうがいい。
おそらくだが、転移した先でも同じように待ち構えているだろうからな。
ミシェが倒していた聖魔術士を抜き、それ以外の全てを連れて来ているのだとすれば、聖域に居る数は20。
クラムドは別の場所へ居るだろうが、あいつは周到だ。
自分の元へ辿り着けないように手を打つくらいの事はしてくる。
それが聖域の魔法陣なのか、それともそれ以外なのか。
どちらにせよ、今から警戒しておいて損はないだろう。
「出来たよ」
メヒトの口から、待望の言葉が告げられる。
(本当に成し遂げやがった、、、)
言葉通り、魔法陣は起動している。
「くそっ!逃がすか!!! 〝落岩〟!! 〝落岩〟!!」
怒涛の攻撃を受け、最後の魔法陣に亀裂が入っていく。
一筋、二筋、三筋。
少しずつ入っていき、今にも割れそうな様相だ。
だが、、、、、。
「もう遅いよ」
メヒトの言葉を最後に、視界は淡青色の光で塗り潰された。
「〝円〟」
ドンッ!
ドドドドドドドド──────。
予想した通り、転移してすぐに怒涛の攻撃が襲い掛かってきた。
だが、視界を塗り潰す光が晴れる寸前に結界を張った事により、全てを防ぐ事に成功している。
予想していた事、対処出来た事とはいえ、冷や汗を掻かざるを得ない。
味方が転移してきたという可能性を考慮する間もなく、全員が高威力の魔術を放ってくるとはな。
使命を全うする為には犠牲も伴わない。
そんな姿勢が感じられる。
「お願い出来るかい?」
「ん」
次手を放とうとしている周囲の聖魔術士。
数は、、、五、か。
だが、次の攻撃に耐えられるか分からない状態の結界に魔力を追加で注ぐ事はない。
結界の中心にいる状態でさえ、バオジャイの手に掛かれば五人程度の聖魔術士など赤子同然だからな。
「〝水檻〟」
ごぽっ────。
相変わらず、展開範囲が出鱈目過ぎるだろ、、、。
バオジャイは、建物の内部全てに粘度のある水を張り、その中に聖魔術士全員を閉じ込めた。
形成単語を発する途中だったのか、口を開けていた聖魔術士が水を飲んで苦しんでいる。
このまま放置する手もあるが、おそらくタダではやられてくれないだろう。
それは、バオジャイも分かっているはずだ。
念の為、結界に追加で魔力を注ぎながら、水の檻に近付くバオジャイを見据えた。
聖魔術士の攻撃は凌げるが、バオジャイの攻撃に巻き込まれては即興で作った結界では防ぎ切れない。
頼む。持ってくれよ、、、、。
「〝紫電〟」
バリイィィィ!!!!!!!
周囲が雷光に包まれ、轟音が耳に届く。
水を伝って紫電を全身に浴びた聖魔術士は、その全てが意識を失った。
、、、、いや。
多分数人は死に絶えてるな。
残りも、放っておけば呼吸が出来ずに死に絶えるだろう。
ザバアァァァァ─────。
ピキ──ピキ───パキイィィィィィィン─────。
水の檻が崩れて外へ流れ、それに合わせるように限界を迎えた結界が割れ、破片が飛び散り霧散する。
ぎりぎりまで耐えてくれたおかげで、濡れる事は避けられた。
だが、紫電如きで結界が割られるとは、、、、。
バオジャイが、以前よりも強くなっているように感じられた。
何故こんな人外と、三賢者という同じ立場にあるのかが理解出来ない。
他に務められる者がいるかと聞かれれば、該当する人物は思い浮かばないが。
「逃がすかあああああ!!!!」
武人域行きの転移魔法陣にも、同じ数の聖魔術士が構えていたようだ。
だがまあ、わざわざ相手をする必要もない。
「メヒト。転移出来るか?」
「ここから出れば可能だね」
「そうか。〝砂〟、〝突風〟」
「うッ!げほっ!ごほっ!!」
天井を砂に変質させ、風に乗せて、開いていた扉から外に出し、聖魔術士の足止めに使う。
先頭の一人が立ち止まっただけだが、それで充分だ。
詠唱に掛かる程度の時間は稼げる。
「【契約者メヒト・ヴィルボーク・フィオが求む。偉大なる貴殿の力を今此処に。糧としたるは我が魔力。二所の狭間を消し去りて、空間主スパルトルネリアの権能の一端を、知らしめ給へ。 〝転移〟 】」
飛び上がった上空、魔法陣のある建物の上でメヒトが詠唱を終え、周囲が光に包まれる。
行先は聞いていないが、おそらく俺が予想している場所へ転移するだろう。
メヒトに関しては、その辺りの心配はしていない。
気を、引き締めなくてはな。
待っていろ、クラムド。
セナリを冒涜した恨みを、今晴らしに行く。




