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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
九章
82/104

七十九話「失われたものは」



「ここは、、、、?」

「メヒトさんの家の地下、、、ですね」


書き置きを残した後、魔法陣に飛び乗ってやってきたのはメヒトの家の地下。

以前は空き部屋だったはずのところに、新しく魔法陣が設置されていた。

もしかして、こうして移動してくる時の為に用意してくれていたんだろうか。

周到というか何というか。

それなら初めから説明してくれてたら良かったのにと思ったが、ここまでしてくれた相手に文句を言うのはやめておこう。



「こっちです」



薄暗い地下で、二人を出口へ案内する。

別に案内せずとも簡単に出口に辿り着けるとは思うけど念の為。

今は少しの時間のロスも惜しい。

メヒト、家に居るだろうか。



「ここから出ま───」

「待って」



地上階へ出ようとしたところ、バオジャイにローブの裾を掴まれて止められてしまった。



「ディベリア教徒が居たらどうするの?」



そうだ。

その可能性を考えてなかった。

貴重な資料が大量にあるメヒトの家を、ディベリア教が有効活用してる可能性は充分にある。

出てすぐに邂逅してしまえば、、、。

結末は、考えずとも分かってしまう。

間違いなく、ディベリア神聖国に連行されるだろう。



「すみません。気が急いてました」

「ん。先に出る」



バオジャイが安全を確認してくれている間に、一旦落ち着こう。

魔人域で何かあったのではないかと気が気でないけど、焦りは何も生み出さない。

急ぎながらも慎重に慎重に、事を進めていこう。



「来て」



梯子の上から顔を覗き込ませるバオジャイに呼ばれ、幾分か落ち着いた心を持って地上階へ出る。

出たのは倉庫の奥にある隠し扉の向こう側の部屋。

一畳程の狭いスペースに三人は、いくら立ってる状態といっても窮屈だ。



「出口」



初見のバオジャイは出口が分からなかったようだ。

まあ、一度教えてもらっても分からなくなってしまうくらい目立たないから、見つけられないのは仕方のない事なんだが。



「ここです」



手探りで確認して見つけ出したのは、梯子のすぐ側にある壁の一番下の、指がギリギリ通せるくらいの狭い隙間。

幅が15cm程のこの穴に手を入れて上へ上げるのが一段階。

上げた先にあるダイヤルを回して正しい数字を入れ、ダイヤル付近に僅かにある窪みに指を入れて横に引けば、、、、、。







「おや?思っていたより早かったね」







ダイヤルを回してスライドさせた本棚の先、部屋の中に居たのは魔装を着替えていたメヒトだった。

そう。

ここは倉庫でもあり、クローゼットでもある。

部屋の一角には、大量にメヒトの魔装が掛けられているのだ。



「怪我は?大丈夫?何があった?」



着替えを終えたメヒトにバオジャイが詰め寄る。

魔人域の異変を唯一感じ取ったのがバオジャイなんだ。

俺とリビィを不安にさせまいと気丈に振る舞ってくれていたんだろうが、内心一番不安を抱えていたのはバオジャイなのかもしれない。

いつもと違う早口に、バオジャイの本当の心情が乗せられていた。



「異変は獣人域まで届いていたようだね」



やっぱり、メヒトは俺達が獣人域に行く事が分かっていたようだ。

人の悪い、、。



「今、異変について調べに行こうと思っていたところだよ。付いて来るかい?」

「ん」

「もう異変が起こった場所を特定出来たんですか、、?」

「推測に近いけれどね」



メヒト曰く、異変が起こったのはディベリア神聖国の可能性が高いらしい。

またディベリア神聖国か、、、、。

薄々そうなんじゃないかと思っていたが。



同行者を居間で待たせているというメヒトの後ろを付いて行く。

誰かは教えてくれなかったけど、まず間違いなくミシェだろう。

わざわざ名前を言わずに同行者と言ったのが気になるけど。





「やあ。待たせたね」


なんでここに、、、、。

同行者は、ミシェではなかった。

居間で腕を組んで壁に凭れ掛かっていたのは、約二か月半ぶりに会うウル。

当然の事だが、リネリスを出たあの時から、全く変わっていない。



「痩せた?」

「休む間が無くてな」



突然の事で固まる俺とリビィを他所に、バオジャイが挨拶とは言えない挨拶を交わす。

俺も、あれだけフランクにいけたらどれだけ良かった事か。

記憶があるのに、〝初めまして〟と言うのは中々に辛い。

気持ちの整理が出来ず俺の背後に隠れるリビィを気遣って、どんどん動きを速める心臓を抑えながら一歩前に出て口を開く。

告げる言葉は〝初めまして〟

思い出がなくとも、再会出来たのだからまたやり直せばいい。







「初めまして。ケイトで────」

「ああ゛?魔術を教えてやったのに、初めましてとはどういう了見だ?」

「、、、え?どうしてその事を────」

「なんで?なんで覚えてるの、、?」







俺の疑問は、リビィの動揺で上書きされた。

記憶魔術の行使をしたのはリビィ。

問題なく発動された事は、一番よく理解しているはずだ。

同じ場所に居たはずのセナリの記憶が消えてるのも、一か月前に確認が取れたばっかりだしな。

なんでウルは俺達の事を覚えてるんだ、、?



「何か後ろめたい事を隠してるのは分かってたからな、対策を立てさせてもらった」

「そんな、、。どうやって、、、、」

「魔耐鉱だ」



魔耐鉱。

それは、リビィが記憶魔術を使う前に俺とキュイに渡したもの。

装備者が魔術の影響を受けるのを防いでくれる代物だ。



「三年も一緒に暮らして、リビィの企みに気付かないわけがないだろ」

「たまたま予測が当たっただけじゃなかったかい?」

「黙ってろ」



つまりウルは、リビィがリネリスを出る前に何かしらの魔術を使うという事を予測して、俺達が家を出た後に魔耐鉱で出来た魔道具を装備したという事か。

それなら、記憶があるのも頷ける。

人の心を察するのは苦手なはずなのに、それでもリビィの事となると勘が冴えるんだな、、。

たまたまとはいえ、中々出来る事ではないと思う。






「─────さい」






言葉として成立していない声を、リビィがぽそりと零す。



「なんだ?」

「ごめんなさい」

「別に謝る必要は────」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」



ウルの気遣いを、俺のローブを強く掴んで目線を落としたリビィが、連続した謝罪で掻き消す。

居間に居たウルが見えた瞬間、記憶のあるなし関係なくこうなるとは思っていた。

でも、セナリの時とは違って、ちゃんと二本の足で立ってる。

涙を流して体を震わせ、何を話し掛けてもずっと謝り続けているが、崩れ落ちていないなら大丈夫だ。

ローブが引っ張られて体勢が崩れそうになるくらい、リビィがすぐに立ち直れる為の手助けだと思えば安い。

今は声を掛けず、リビィの謝罪が止まるのを待とう。






「そろそろ行かないと────かはっ!」






空気を読まずに出発しようとしたメヒトは、バオジャイが無言で鳩尾に拳を叩き込んで黙らせた。

衝撃が余さず伝えられたのか、メヒトは飛ばされる事なく、その場で膝から崩れ落ちる。

、、、自業自得だ。






「ごめん、、、、なさい、、、」





最後に一つ謝罪を零して、リビィが膝から崩れ落ちた。

だが、セナリの時程の不安定さは見受けられない。

きっと、力が抜けてしまっただけだと思う。

いつの間にか、掴んでいたローブも離されていた。


(慰めるべきは、、、、)


俺じゃないよな。

リビィの側を離れるのは悪いと思いながらも、冷静な顔をしつつもテンパって何をすればいいか分からない様子のウルの横に移動する。

横に移動したというのに何の反応もない辺り、余程テンパってるな。

表情だけ見たら怒っているようにも見えるけど、それは元からそういう顔なだけだ。

世話の焼ける師匠だな、、、。



「ウルさん」

「・・・・」

「ウルさん!」

「ッ!?な、なんだ?」



二回声を掛けるまで気付かないとは、、。

俺は、動揺を隠す様に腕組みするウルの背中に手を添えて、そっと前へ押した。

足が地面に癒着してて動かないけど、気持ちは伝わったかな?

、、、、いや、やっぱり言葉にしないと分からないみたいだ。



「抱き締めて落ち着かせてあげてください」

「、、、分かった」



まさか、仮初の夫婦だったとはいえ抱き合う事すらした事ないのか、、?

しゃがんでぎこちなくリビィの背中に手を回すウルは、どう見ても慣れてる様子には見えない。

リビィがウルの事を紳士だと言っていたが、ここまでくればただの奥手だな。

いつもの様子とは隔絶している。

まあ、惚れたもん負けって事か。



「もう泣くな。リビィに泣かれたら、どうすればいいのか分からん」



不器用な言葉。

それでも必死に励まそうとしている事が分かる。

リビィもそれを察したのか、耳を澄ませないと分からないくらい小さい声で〝ありがとう〟と零し、不自然な抱き締め方をするウルの胸に手を置いて、数十秒かけて残っていた涙を全て出し切った。

バオジャイの睨みが聞いてるからか、メヒトは何やら書類を流し見ながらも余計な口を挟んでこない。

うん。懸命な判断だと思う。

異変の正体を突き止めたら、俺も一回殴らせてもらえないかな?

メヒトには大きな恩があるけど、それ以上に鬱憤が溜まってる。

バオジャイの怒りを買って死にかけたのは絶対忘れないからな、、、。



「もう、大丈夫。ぐすっ。ありがとう」

「いや、気にするな」



目尻に残った涙を拭ったリビィが、ウルから離れて無理矢理笑顔を作る。

仮初めのものではあるが、心から湧き上がる安堵のようなものが感じられた。

ウルと今まで積み重ねたものが無くなった、それが否定された事から来る安堵だろうか。

俺も、ウルだけとは言っても一か月半の生きた証が消えてなくて良かった。

マレッタやベルも覚えていてほしいと願ってしまうのは、我儘過ぎるかな。



「準備は出来たかい?」



バオジャイの顔色を横目でちらりと見ながら、メヒトが全員にそう問い掛ける。


ん?全員?

そういえばミシェはどこだ?


部屋の中に見当たらなければ、メヒトがミシェを呼びに行く様子もなかった。

思えば、綺麗好きのミシェが居てこれだけ居間が散らかってるのはあまりにもおかしい。



「ミシェは連れて行かないんですか?」



俺以外がメヒトに頷く中、地下室へ行こうとするメヒトを引き留めて聞いてみた。

数少ない記憶の残っている相手だし、ミシェとは二週間程度しか一緒に居られなかったがそれなりに仲良くなった。

純粋に再会したいという気持ちと、戦力になるだろうしミシェを連れて行ったほうが良いだろうという思いが両方ある。



「ミシェはディベリア神聖国へ出向してるよ」

「出向?」

「ああ。第零部隊もな」



ウルから聞かされたのは、ディベリア神聖国が好き勝手しているという話。

第零部隊を連れて行ったのはユリティス王の心を折る為、ミシェを連れて行ったのはメヒトに無力感を与える為じゃないかと聞かされた。


(そんな事の為に、、、)


新しくディベリア神聖国の教皇に就任したクラムドというウルとメヒトの幼馴染みは、人の上に立つ事、人を蔑む事に相当執心しているらしい。

一国の主とは思えない、浅慮な考えで動く人だな。



「ミシェなら一人でも問題ないとは思うけれど───」


リーン───。


「噂をすれば」



話の途中で、メヒトが持っていた共鳴の鈴が鳴る。

結界の中では鳴らないんじゃなかったっけかと思ったが、どうやらミシェとメヒトが持ってる鈴は特殊なもので、この二対に限り結界の中でも届くそう。

冷静な二人でそれ程仲が良くないように見えるけど、案外絆が深いんだよな、、、。

正しく師弟という感じがする。



「拙いかもしれない」



一度目に鈴が鳴った少し後、感覚を開けて何度か鳴る音が聞こえる。

音が聞こえなくなってすぐ、メヒトが呟いたのが先の言葉だ。



「〝助け〟、、、か」

「そうだね、、」



ミシェから届いたのは救難信号。

メヒトの表情に影が差した事から察するに、ミシェがかなり危ない状況に追い込まれてるんじゃないかと思う。

相応の実力者である事は間違いないから、ある程度の状況なら一人で打破出来ると思うんだが、、。



「遠回りをしている時間はないみたいだね。直接ディベリア神聖国へ飛ぼう」



焦りを隠しながらそう言うメヒトに従って、急いで結界の外へ出る。

メヒトの珍しい様子で、嫌が応にも不安が募らされた。

ミシェ、無事で居てくれ、、。




「明るい、、?」




家の外に出ると、もう陽が落ちていてもおかしくない時間だというのに、何故か昼過ぎくらいの明るさだった。

この世界には時差というものは存在しない。

獣人域を出た時は空が暗転する寸前の夕暮れだったのに。

魔人だけでなく、世界を丸々吞み込むような異変が起きているんじゃないだろうか。

時間を無視して不自然な明るさを持つ曇天に、そんな事を考えさせられた。


そうなればいよいよ、個人で解決出来る事ではなくなってくる。

異変があったからといって、すぐに来たのは間違いだっただろうか。

獣人域の片隅で大人しくしていたほうが良かっただろうか。

既に来てしまっている今、そんな事を言ってもどうしようもないのだが。

後悔先に立たずここに極まれり、だ。










「この円から出ないように」



結界の外。

地面に木の枝で雑に描かれた二畳程のサイズの円に、メヒトを中心にして全員で入る。

魔法陣のように複雑な模様が描かれた円ではない。

小さい子でも描けるような、線をぐるりと一周させただけの円だ。

これで本当に転移出来るのか、、、?

水晶玉サイズの魔水晶を手の平に乗せて集中を高めるメヒトの横で、雑な円を見て不安を覚えた。




「【契約者メヒト・ヴィルボーク・フィオが求む。偉大なる貴殿の力を今此処に。糧としたるは我が魔力。二所の狭間を消し去りて、空間主スパルトルネリアの権能の一端を知らしめ給へ 〝転移(ポータル)〟 】」



ピキ───ピキピキピキ────パキン。




メヒトが詠唱を終えると同時に、魔水晶が割れて手から零れ落ちる。

それとほぼ同時に淡青色の光が視界を塗り潰し、割れた魔水晶が地面に着く瞬間を見る事は叶わなかった。


間違いなく、転移魔術の光だ。


転移先で何が起こるか分からない。

気を引き締めて行こう。












♢─────────────────



ディベリア神聖国聖都。

それは、同心円状にある三層の城壁に囲まれた都市。

一際高い第一の城壁で異端者を拒み、第二の城壁で無法者を拒み、第三の城壁で信者の選定を行う。

聖都の中心にある大聖堂には、選ばれた者しか立ち寄る事が出来ない。



────────────────────♢











「なに、、、これ、、」


視界が切り替わって、最初に絶望を声に乗せたのはリビィ。

だが皆一様に、眼前に広がる異様な光景に、自らの目を疑った。

ディベリア神聖国の聖都というのは、絵で見た限りでは頑強そうな城壁に囲まれた如何にも西洋と言った感じの綺麗な都市だったはず。

確かに、眼前50m程先に城壁はある。

あるにはあるが、、、、。


(どうやったらこんなにボロボロに崩れるんだ、、、)


そう。

絵で見た立派な城壁は、微かに面影を残しながらもその6割程が崩れていた。

目の前に見える範囲だけではない。

見える限りの範囲を見渡しても、全てが脆く崩れ、ただの瓦礫に成り果てていた。


城壁に飽き足らず、その外縁部にある地面もところどころが抉れている。

明らかに、何かしらの人為的な災害が起こされた後だろう。

誰が何の為に、、?



「魔術を行使した痕跡だな」

「ん」

「たった一日でこれ程まで壊滅的になるような魔術なんて、想像も付かないけれどね」



メヒトは昨日、とある事の調査の為に一足先に聖都を訪問していたらしい。

その調査をするに至ったのは、ディベリア教徒が全員聖都に集められているという情報を手に入れたから。

時間もなく、下手に中に入る事が出来ずに帰ってきたそうだが、その時は現状どころか城壁の一部分すら崩れていなかったんだそう。

大勢の魔術師が精霊魔術を全力で放ったら、もしかしたら一日で出来る事なのかもしれない。

でも、その行動に必要性は感じられない。


(何があったんだ、、、、)


謎だらけだけだがとりあえずは、、、。



「入りましょうか」

「ん」



特に止められるでもなく、全員が賛同してくれた。

周囲を隈なく調査してからのほうがいいかもしれないという考えも持つには持っていたが、ミシェの事も気になるし、全てを解決するにはとりあえず聖都に入るしかない。

入ればきっと、異変についても何かしら分かるだろう。






(瓦礫、、瓦礫、、、瓦礫、、、、、)



辛うじて残された城壁で隠されていたが、聖都内部の壊滅具合は、予想以上に凄惨だった。

建物は見渡す限り全てが崩れ、不自然に抉れ、道らしきものは見当たらない。

おそらく、全て瓦礫で埋まってしまってるんだろう。

積もる瓦礫のせいで魔術無しでは碌に進む事が出来ないし、辛うじて見える地面に立つと、100m先すら見渡す事が出来ない。

場所によっては、瓦礫で視界が埋まってしまうくらいだ。

そんな光景が延々。

空を飛び上がっても、その状態で360度見回しても、延々続いている。

まともに形を残している建物は、見回した限りでは存在しない。

まるで、大規模な地震と津波の被害にあった地域みたいだ、、、、。

どことなく、ネイディアに似た雰囲気を感じ取ってしまった。



「ねえケイト、、、。人居た、、?」



瓦礫の上に降り立った俺に、辺りをキョロキョロと見回していたリビィがおずおずとそう尋ねてきた。

首を、縦に振りたい。

でも、こんなところで嘘を吐いても仕方ない。

俺は、周辺を見回した現状を、首を横に振る事で伝えた。



「一人もか?」

「はい」

「あまりにも異常過ぎるねこれは」



メヒトが零した〝異常〟という言葉。

この状況を表すにはその言葉が最適だと思う。

前日まで通常通りの街並みだった都市。

約五百万人にも及ぶディベリア教徒。

そのどちらもが、失われている。



「こっちも駄目」

「同じような死体ですか?」

「ん」



正確には、聖都に入った時から人の存在は確認出来ていた。

だが、そのどれもがミイラのように、骨と皮だけの見た目になって死んでいる。

明らかに異常。

その一言に尽きる。



「植物魔術にあったな、確か」

「あるにはあるね。けれど、あれは相手の魔力を多少吸い取る程度の力しかないよ。人の命を、それもこんなに大勢奪い取るなんて出来ない」



植物魔術には、相手に蔦を絡ませて魔力を奪い取る魔術があるらしい。

メヒトとウル曰く、死因を見た限りではその魔術が使われた可能性が一番高いんだそう。

だが、一番高いといってもその可能性はゼロよりも低いみたいだ。



「初代の精霊王が生命魔術の使い手だったという記述が文献に残っていたけれど、今代の精霊王は記憶魔術の使い手のようだし、、、。ふむ。どうしたものだろう」



メヒトが腕を組んで顎に手を当てて、ぶつぶつと考察を漏らす。

生命魔術であれば、相手の命を奪い取る事は出来るかもしれないのだそう。

過去にそういう事例があったというわけではないそうなんだが、もし生命魔術が存在すれば、植物魔術よりはこの現象を引き起こせる可能性が高い、らしい。

相手の命を手玉に取る魔術か、、、、。

怖いな。



「メヒトさん。とりあえずミシェの詳細な位置を探りませんか?」

「ん?そうだったね」



この人、考察に必死になり過ぎてミシェの事忘れてたな、、。

俺の提案で急いだ理由を思い出したメヒトが、懐から鈴を取り出す。





リーン───────。





鈴の音が周囲に響く。

だが、ミシェからの返答はない。






リーン─────。





一度目で詳細な場所が大聖堂を挟んで向こう側という事は把握しているが、ミシェの安否の確認の為に、メヒトがもう一度鈴を鳴らす。


返答はない。


音に気付いてない?

それとも、返そうにも返せない?

視界の端に干からびた死体が見えたせいで湧き上がった不安を消し去る為に、有り得る可能性の中でマシなものを選りすぐり、必死にそれらの可能性の高さを精査した。



「急ごう」



だが、そんな細やかな抵抗は、メヒトが表情に浮かべた焦りによって簡単に吹き飛ばされた。

現状、ミシェの事を知っている全員が不安を胸中に抱えている。

リビィに至っては、ミシェがミイラになった姿を想像して泣きそうな顔になっていた。


早く安否をしたい。

でも、万が一が起こっているのなら、捜索をせずに現実から目を逸らしたい。

そんな葛藤は関係ないとばかりに、メヒトはミイラを調査していた器具を全て片付けて、足早に瓦礫を飛び越えて行ってしまった。



「ッ!行きましょう!」

「ん。リビィ、捕まって」

「う、うん!」



唯一飛翔魔術を使えないリビィはバオジャイが背負って、四人で信じられないスピードで瓦礫を越えていくメヒトを追いかける。

見失わない速さではない、でも、キュイの力を借りてないといっても、全速力で移動してるというのに、少しずつ距離が離されていってる。



「あいつがあれだけ焦るのは珍しいな、、、」



ウル曰く、そういう事らしい。

ミシェから返答がない事に焦ったメヒトは、魔力消費の効率を度外視して、全速力で現場に向かっているそうだ。

研究以外、人には一切興味なさそうな素振りをしていたというのに、、、。

そんなメヒトにとってさえ、ミシェは大切な人間足り得る存在なんだな。

俺も、ミシェはこの世界での数少ない友人だ。

死んでもいいなんて、微塵も思わない。


(頼む。無事であってくれ、、、)


そう祈りながら、流れゆく変わり映えのない死屍累々とした瓦礫の景色を抜けて行った。

思いのままに、全速力で。






「居た!!」


一度見失いそうになりながらも追い付いたメヒトが居たのは、瓦礫が上手く積まれてある程度平坦になった場所の一角。

すぐ近くまで飛んで行こうと思ったが、数10m離れた位置で何かを見つけて降りるウルに合わせて、全員でメヒトから離れた位置に降り立った。


(濡れてる、、?)


降り立った瓦礫は水で濡れて、離れた位置にあるものと違う色をしていた。

ここだけ局所的に雨が降ったわけではないだろうし、水瓶か何かが倒れたか、誰かが魔術を行使したか。


だが誰が?


それは、この場所に真っ先に降り立ったメヒトが知っているだろう。



「これは、、、、聖魔術士だな」



ウルが上から見つけたのは、体に無数の穴が開いた二人の死体。

服装から推測するに、聖魔術士のものらしい。

死体の周囲には、不自然に薄く広げられた血の跡がある。



「うッ」



死体に恐る恐る近付くと、強くなった血の匂いが襲ってきた。

俺は目を逸らす事で、多少精神が害されるだけで済ませる事が出来たが、後ろを付いて来ていたリビィは堪らずに吐いてしまっている。

バオジャイが付いてくれてるみたいだし、任せよう。

リビィもあまり見られたくはないだろう。



「ミシェと、キュイと協力したお前。どちらが強い?」

「、、、僕ですね」

「そうか。覚悟しておいたほうがいい」



死体から離れたウルが、それだけ言ってメヒトの元へと歩いて行く。

言葉の真意は、分かっていた。

だが、必死に目を逸らした。

確証の無い自信で、不安を紛らわせて。




「一足、遅かったよ」




しゃがんで、苦々しげにそう言うメヒト。

足元には、息絶えたミシェの姿があった。

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