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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
八章
77/104

七十四話「契り酒」



「はーい、そこまでー!」


ドサッ───。


「つ、疲れた、、、」


鍛えてもらい始めて約一週間。

マグ君との闘い以後俺は一度も組手をしておらず、ゾルさんに指導してもらいながらの体力作りと筋力作りに励んでいる。

もっと実践的な事がしたいとフラストレーションが溜まっているかと言われるとそういうわけではなく、こうして俺のレベルに合わせて段階を踏んで鍛えてくれている事へは感謝をしてる。

一緒にトレイルランに付き合ってくれたゾルさんが息切れも起こしてないのにバテているこのザマでは、組手をしたところで成果が得られないだろうしな。

だが、大した成果が得られないと分かっていても先に進まないといけない時というのは必然的にやってくるわけで。

実践なしでひたすら基礎トレーニングをするのは今日まで。

明日からは、ゾルさんの胸を借りる形で実戦形式の稽古を付けてもらう事になっている。

無事に、生き残れるだろうか、、、。

不安は募るが、マグ君に勝つという目標があるし頑張ろう。

あれ以降マグ君も修行に励んでめきめきと成長しているそうだがそんなものは見て見ぬフリだ。

きっと自分の限界まで頑張り続けていれば、ドラマの主人公のように最終的には勝つ事が出来るさ。

大の字で仰向けに寝転がっている状態では、勝っている姿を想像する事すらままならないけど。





「どうする?この後農作業する予定やけど、ちょっと休んでいく?」

「いえ。じっとしてるのも体に悪いので、ゆっくりですけど歩いて付いて行きます」

「中々体力が付いてきたね。無理せん程度に付いてき」


無理を言って住ませてもらっている手前、何もせず鍛えてもらうだけ、というわけにはいかない。

手伝いも出来て筋力もつけられるという事もあって、俺は農作業と狩りの後の解体作業をさせてもらっている。

育てている野菜は見た事のないものばかりだが、育て方は俺がよく知る作物達と同じだ。

土を耕し、種を植えて、水と太陽の光で育てる。

農薬は使わない、自然の力を目一杯に借りた育て方だ。

それ故に失敗もあるそうだが、失敗を糧にしてどうしたらちゃんと育ってくれるのか考えるのが楽しいと、畑を管理しているトムが言っていた。


ちなみに、育てている作物は売りに出したり他の集落に譲ったりもするそうだが、その殆どをロンドルフ一族で消費する。

来たばかりの頃に肉と酒だけでの宴会があったから肉食なのかと思っていたがそういうわけではなく、宴会の時だけ、肉料理のみを食べるという風習があるらしい。

狼の獣人だからといって肉食動物というわけではないんだな。

誰に聞いても肉が一番の好物だと言っていたが、それは俺も一緒だからあまり特異な事ではない。



「うわッ、と、、、」

「大丈夫?」



余計な事を考えていたせいで、重なった落ち葉に足を滑らせて転げ落ちそうになってしまった。

遠足は家に帰るまで。

トレイルランは山を下りるまで、だ。

気を付けよう。







「おかえり、ケイト」

「ただいま、です、、リビィ、、さん、、、」


夕方。

帰ってきた集落でタオルを渡してくれるリビィへ、息を切らしながらお礼を言う。

こうして息を切らしているのは、ゾルの思い付きで畑から競争をして帰ってきたせい。

ゾルは逆立ちをした状態で集落まで手だけで帰ってくるというハンデをくれたが、それでも朝から動きっぱなしで体がボロボロだったせいで、惜しくも勝つ事が出来なかった。

ムキになって最後ラストスパートなんてかけるんじゃなかったよ、、、。

ボロボロだった体が、更にボロボロになってしまったように感じる。


訓練を開始してからは毎日が筋肉痛だ。

これがいいのか悪いのかは分からないが、少しは鍛えられているという事が分かるから、俺としてはあってくれたほうがいい。

毎朝起き上がるのに時間が掛かるのは辛いけど、、。



「今日もボロボロだね。お湯用意してるから、先にさっぱりしてくる?」

「ありがとう、、ございます、、。体洗ってきます、、」



この生活をし始めてから、集落で家事の手伝いをするようになったリビィは、訓練から帰って来る俺を食事とお風呂の両方を用意して待ってくれるようになった。

疲れている時の美女の〝お風呂にする?ご飯にする?〟は反則的なまでに癒しの効果を持つ。

癒されるのは、精神の疲れだけだけど。

とりあえず、汗を流してくるか、、。










「頼む!ゾル!俺と契約してくれ!」


丁度良い温度のお風呂でさっぱりした後に戻ってきた集落で聞こえてきたのはそんな声。

何かあったのかと声のほうを見ると、そこには胡坐を掻いて向き合ったゾルと武人の男が居た。

年の頃は30くらいだろうか。

武人なら必ず身に着けているはずの武器が見えない。

暗器の国の人かな?



「決闘に勝ったらええよ。ただ、深度Ⅱまでは使わせてもらうけど」

「勿論だ!すぐに準備を───」

「あー、もうご飯出来てるみたいやし、お腹膨れさせてからでもええ?どうせ帰るんは明日やろ?」

「それはそうだが、、、。俺もいただいていいのか?」

「ええよええよ。せっかくの縁やから」

「では、有り難く頂戴しよう」


あれよあれよという間に、武人も一緒に夕食を摂る事になった。

作っているのは俺じゃないから別に文句があるとかそういうわけではないんだが、武人にはあまり良い様に扱われてこなかったから何となく落ち着かない。

ロンドルフ一族は夕食は全員揃ってするという決まりがあるし、緊張するからといって一人だけ逃げるわけにもいかないし。

空腹は限界値に達しているから、食べないという選択肢も勿論ない。

今日も今日とて、お皿に盛られていく料理は美味しそうだ。



「はい。これケイトの分」

「ありがとうございます」



今日のメニューは鹿肉の煮込みとサラダ。

後は飲みたい人だけスープを飲むというものだ。

ここに来るまでは野性味の強い料理ばかり出てきたらどうしようと考えていたが、実際に来てみるとそんな事はなかった。

いや、若干野性味があったんだが、リビィが料理を手伝いだしてから凄く食べやすく、美味しく変わっていった。

ただ単に俺やリビィの好みの味に変わったわけではなく、ロンドルフ一族にもリビィの味付けは好評で、来てからたった一週間しか立っていないのに食事場を取り仕切る存在にまでなっている。


(慣れない食材が多いだろうに凄いよな、、、)


農作業でも狩りでも、俺は足を引っ張っているというのに。

解体だけは、大雑把な性格のゾルより得意な自信はあるけどね。

肉の臭みが全然無いと、ロルの奥さんであるレナに褒められた。

そのすぐ後にロルに強制的に組手をさせられたが、あれはきっとやきもちに違いない。

強過ぎて何もさせてもらえなかった。



「今日も美味しいです」

「本当?良かった」



美味しいというのは本音。

でも出来れば白米が食べたい。

ここの主食であるクスクスは、何というかあまり主食という感じがしない。

味は苦手ではないんだけど。




「ん?初めて見る顔だな」




ボロボロになった体を回復させるように山盛りの夕食を食べていると、目を合わせないようにしていた武人の男に話し掛けられてしまった。

いつの間に隣に座ってたんだろう。



「私の友達」



どちらかといえば師匠のように思っているんだが、バオジャイが友達と言ってくれるのであれば友達だ。

喜んで人差し指の先を合わせて友達宣言しよう。

この世界の人から見れば俺も宇宙人だしな。



「誰だ」

「バオジャイ・システィオーナ」

「鬼人か、、、?」

「その呼び方は嫌い」



やはり、バオジャイは鬼人と呼ばれるのを好ましく思っていなかったようだ。

不貞腐れたような表情で、武人の言葉に嫌悪を表した。

強そうでいいと思うんだけどな。



「それは悪かった。俺はダゴットから来たヤン・ギーだ」



途中で区切らなければ、殆どヤンキーじゃないか。

ダゴットというのは拳闘の国らしいし、聞かされたギーの戦闘スタイルも相まって、益々ヤンキーにしかみえなくなってきた。

心の中では、ヤンキーと呼ばせてもらおう。



「初めましてヤンキーさん。ケイトといいます」

「ヤンキーではない。ヤン・ギーだ」



心の中でだけ留めておくつもりが、声に出てしまった。

怒られはしなかったが、ちょっと嫌そうだ。

申し訳ない。



「すみませんギーさん」

「いや、いい。よく言い間違えられる」



という事は、この世界にもヤンキーというものが存在するのか、、?

ヤンキーという人種はどうにも苦手だから遭遇したくないな。

まだ居ると確定したわけではないが、念の為、拳闘の国には近寄らないでおこう。

あと一応、24時間営業のお店にも近寄らないでおこう。

きっと店先に(たむろ)しているだろうからな。





「なんやなんや。二人とも固いな~。初対面で緊張しとるんか?」

「ゾル!酒臭いぞ!」

「君も飲んどるんやからええやんか」

「これは水だ!」


ゾルはお酒が入ると絡み上戸になるようだ。

ギーの言う通り、吐く息は少し酒臭い。

昨日武人の商人から酒を買っていたし、それを早速開けたんだろうか。



「そんな状態で決闘出来るのか?」

「それは安心し。どっちか言うと、僕は酔ってる時のほうが強いよ」

「俄かには信じ難いな、、、」

「問題ない。安心してくれ」



目的が果たせないのではないかと心配するギーを安心させるように肩に手を置いたのはロル。

ゾルと同じようにお酒を飲んでいるのに、酔っている様子はない。

さすがは族長。

酒に飲まれないように気を付けているんだな。



「酔っている状態であれば、ゾルは俺に勝つ事もあるくらいだ」

「ロル殿に!?」

「せやね~。その状態でも負け越しとるけどね」

「俺には族長の意地がある。そう負けてられんだろ」



同じ種族で同じ深化の段階まで辿り着けても、その中で優劣というものはつくらしい。

ロルの深化Ⅲとゾルの深化Ⅲでは、見た目こそ似ていてもロルのほうが強いそうだ。

一番強いものが族長になるとは、何とも戦闘民族らしい考え方だな。


、、、あれ?ちょっと待てよ?


バオジャイはその一番強いロルに魔術無しで勝てそうなところまでいっていたのか?

事実を知る度に、バオジャイの化け物具合が知れていく。

魔術も獣化も全て出し切れば、規格外の強さであるという獣人王にも勝てるんじゃないだろうか。

機会があれば、その戦いを見てみたい。

遠く離れた場所から望遠鏡で。

両者の戦いに興味はあるが自殺願望はないからな。



「まだ信じてなさそうやね。まあでも、戦えば分かるよ」

「それもそうだな。食事も終えた事だ。早速やるか」

「ええよ~」



食後すぐ暴れればお腹が痛くなりそうだが、そんな事は気にしないんだな、、。

どれだけ早く戦いたいんだ。



「ルールはどうする?」

「そうやな~、、、。参ったって言ったほうが負け。制限時間はそうやね、、、」

「ん」

「ありがとうバオジャイちゃん。あの焚火が消えるまでにしよか」



バオジャイが作った小さめの焚火を指差して、ゾルがそう提案する。

サイズから察するに、燃焼時間は一時間くらいだろうか?

それだけの時間があれば、時間が来る前にスタミナ切れで決着が着くだろう。



「分かった。よろしく頼む」

「よろしく。ロル兄、合図頼むよ」

「ああ。双方構え」



深化をせずに背中を少し丸め、腕をだらんと下げてギーと向き合うゾル。

鉄甲を嵌めて、ファイティングポーズでゾルと向き合うギー。

どんな戦いが繰り広げられるのか、俺は食事の手を止めて開始の合図を待った。





「始め!」


「ッらああああ!!」





開始の合図とほぼ同時に飛び出したのはギー。

振りかぶった右腕のパンチがゾルの顔目掛けて飛んでいく。

驚く程に早い拳速で繰り出された初撃は見事に頬にめり込んだが、ゾルは体を仰け反らせながらも余裕の表情を浮かべている。




「【深度Ⅱ】」

「せいッ!」




流れるような動作で繰り出されたボディーブローを、深化したゾルが手で掴み取る。

鉄甲の出っ張りが手の平にめり込んでいるだろうに痛くないんだろうか。

そんな俺の心配はつゆ知らず、無理な体勢から繰り出されたとは思えないゾルのボディーブローがギーの腹部に入り、二人の立ち位置は振り出しに戻った。



「前より強なったね」

「ゾルもな。酔っぱらいの介護をせずに済みそうで安心だ」

「それは良かった。こっからスピード上げていくからね」

「望むところだ」



宣言通り、二人の攻防は速度を増し、一部の攻撃を視認する事を出来なくさせられた。

両手両足、時には尻尾も使って攻撃するゾルに対し、ギーは両腕しか攻撃に使わない。

圧倒的に手数が不利なように見えるのに、それでも確認出来る限りでは、二人の差はそこまでないように見えた。

優勢なのはゾルに見えるがどうだろうか。



「ん。ゾルが優勢」

『キュイキュイ』



いつの間にか俺の横に座っていたバオジャイがそう言い、逆サイドで羽を休めているキュイが頷いて賛同の意を示す。

こんなにも目まぐるしく繰り広げられる攻防を見て、どっちが優勢なのか分かるもんなんだな。

体を鍛えると同時に、戦況を正確に判断出来る目も鍛えなくてはいけないかもしれない。






「そういえば。バオジャイさんと獣人王ってどっちが強いんですか?」


大きな変化のない二人の戦いを見ながら、声だけバオジャイに向けて尋ねる。

獣人王に会った事はないが、いい勝負をするんじゃないだろうか。



「獣人王」



まさかの即答だった。

だが、バオジャイは獣人王のほうが強いという事に悔しさを浮かべる様子もない。



「獣人王には、人である限り勝てない。多分、勝てるとしたら精霊王くらいだと思う。分からないけど」



どれくらい強いんですか?と尋ねると、距離をおいた状態で自分が五人居れば互角にはなると言われた。

【深度Ⅲ】の状態で、魔術を使った全力のバオジャイより少し強いくらいらしい。

魔術師にとって優位な距離を置いても、バオジャイが五人居て尚互角、、、。

それは山を抉るくらい、造作もないよな、、、。


そんな規格外の存在である獣人王に勝てるかもしれない精霊王というのは、リビィが契約している記憶魔術の精霊ではなく、初代精霊王だと言われている生命魔術の精霊らしい。

初代精霊王について残っている文献は殆どないそうでバオジャイも詳しく知らないそうだが、そんなよく分からない存在でしか勝てる見込みがないと断言出来る程、獣人王は埒外の存在だそうだ。


よし。

獣人王には近寄らないでおこう。

少なくとも、半径10km以内には近寄りたくない。

それだけ空いていれば、追いかけられても逃げ切る事が出来るだろう。

そもそも追いかけられるような事態になる事はないと思うが。





『キュー!』


ギーの攻撃がゾルの腹部にクリーンヒットした事に興奮したキュイの声で、意識を思考から覚醒させて再度視線の先で繰り広げられる光景に集中する。

分からない攻防がある度にバオジャイに聞きながら、到達出来そうもない境地にいる二人の決闘を楽しんだ。










「ま、参った、、、」


開始から約30分。

組み伏せられて何も出来なくさせられたギーの降参によって、決闘は終了した。

最後のほうはバオジャイに聞かずとも、ギーが押されているというのが分かる内容だった。

まるで詰将棋のように、少しずつ出来る事を減らされていって、隙が出来ればゾルの攻撃が飛んでくる。

それの繰り返し。

何というかただの体と体のぶつかり合いというだけではなく、心理戦のような応酬にも感じられた。

考え過ぎかもしれないが、明日から始まる組手の為に、こんな頭を使う戦い方もあるんだと、ゾルが見本となって教えてくれたようにも思えた。

ただ力任せに攻撃を繰り出すような戦い方よりは、頭を使う戦い方のほうが非力な俺には合ってそうだ。

まああくまで、体より頭のほうが辛うじて出来が良いというくらいだから、どのみち強くなるには時間が掛かりそうだけど。



「契約はまた今度か、、、」

「うーん、、。契約、してもええよ?」

「な、情けは無用だ!」

「いや、今の実力やったら使いこなしてくれるやろうと思うし、僕は別に構わんけど」



決闘に勝ったら、という条件は嘘だったらしい。

ゾルは初めから、自分が勝つという事を信じて疑っていなかったんだろう。

その上で、ギーが自分の力を使うに値する人物であるか、それを見極める為にわざわざ戦ったのかもしれない。



「レナさん。契り酒二人分用意してもらえる?」

「待ってて」



給仕に勤しんでいたレナが一旦家に戻る。

数分の後に持ってきたのは、お猪口のような陶器を二つ。

あれに、ゾルが言う契り酒というのが入っているんだろうか。

もっと盃を交わす時に使うような、お椀の蓋のような形のものを持ってくると思っていた。



「起き上がれる?」

「心配無用だ」



レナが二つのお猪口を二人の間に置き、それを見て息も絶え絶えのギーが起き上がり、ゾルと同じように胡坐を掻いて向き合う。

何故か二人とも、上着を脱いで上半身裸になった。

うん、まあ綺麗な筋肉をしてると思うが、それは必要ある動作なのか?

こんな衆目に晒される場所で半裸になるなんて、獣化の契約を結びたくなくなってきた。



「あれは何をしてるんですか、、?」

「血」



自分の指を針で刺し、それぞれ相手のお猪口に血を一滴垂らす二人。

バオジャイに何をしているのか聞いたら、そんな適当な答えが返ってきた。

血が出てるのは分かってるんだけどなあ、、。



「〝力を〟」

「〝恵みを〟」

「「〝盟約の下に〟」」



ゾルが〝力を〟と宣言し、ギーが〝恵みを〟と宣言する。

二人が同時に〝盟約の下に〟と言った後、相手の血が入った契り酒を一気に飲み干した。

分かり易く動いた喉のおかげで嚥下し終えたのは分かったが、二人に変化は見られない。

もっと光を放ったり全身の筋肉が膨れ上がったりする変化を期待してたんだが、そういうのはないらしい。

ちょっと寂しい。



「これが獣化契約を結ぶ時に感じる全能感か」

「僕のほうは何か不思議な感じやね。体の中に僕以外が居るみたいや」



ゾルはころころと笑いながら言っているが、それは中々に気持ち悪い感覚なんじゃないか、、?

幸い俺は獣人ではないから、その感覚を覚える事はないだろうけど。



「このまま勢いでケイト君も契約する?」



まさかこっちに飛び火してくるとは。

何が面白いのか、ころころと笑いながらそう言ってくるゾルの提案を、丁重にお断りしておいた。

まだそんな覚悟は出来てないからな。

俺の断る姿を見ていたギーに何故か決闘を申し込まれたが、それも丁重にお断りした。

相手は疲れているとはいえ、あんな拳速のパンチを一撃でも喰らったら痛みでもがき苦しみそうだ。



「おかわり食べる?」

「お願いします」



決闘を見終え、リビィに二度目のおかわりをよそってもらい、食事を再開する。

元々かなりの量を食べていた自信があるが、訓練を開始してから更に食べる量が増えた。

食べ過ぎな気がするが、太るどころか痩せてきている気がするから、まだ消費するカロリーのほうが多いんだと思う。

食べても食べても消費するカロリーのほうが多い。

気分は体育会系強豪校の学生だ。



『キュイィ、、、』

「どうした?キュイ。もう食べなくていいのか?」

『キュイ』



獣人域に来て一週間。

キュイの様子がおかしい気がする。

外に居られるのは楽しそうだし基本的には笑顔なんだが、集落に寝泊まりし始めて二日目くらいからだろうか?

あまり食事を摂らないようになった。

まったく食べないわけではないが、毎食少し食べるだけですぐに食事を終えてしまう。

いつも嬉々としてリビィの料理を頬張っていたはずなのに、突然どうしたんだろうか。



「体調悪いのか?」

『キュキュイ』



キュイが首を横に振る。

体調が悪いわけではないようだ。



「味付け苦手だったかな、、」

『キュキュイ!』



申し訳なさそうな視線を向けるリビィへ、キュイが勢いよく首を横に振る。

体調が悪いわけではない、味が苦手なわけでもない。

じゃあ何が原因なんだろうか、、、。

ベルのようにキュイの言ってる事が分かれば、すぐにでも解決出来るんだが、、。

何というか、久しぶりにベルの事を思い出した気がする。

元気でいるだろうか。



「残した分は僕が食べます」

「大丈夫なの?」

「はい。どのみちもう一回おかわりしようと思ってたので」

「食べ過ぎじゃない、、?」

「リビィさんの料理が美味しいから仕方ないですよ」

「褒めたって何も出ないからね」



そう言いつつも、リビィは嬉しそうな表情をしている。

それはいいんだが、喜ぶ勢いのままお皿に追加で盛るのはやめてほしい。

あまり山盛りにされると、食べ切れる気がしないぞ。






「も、もう無理、、。お腹いっぱい、、」

『キュイィ、、』


一目で分かってしまう程に膨れた俺のお腹を見て、キュイが心配そうに顔を摺り寄せてくる。

気のせいかな?

ほんの少し、サイズが縮んでいる気がする。

少しくらい縮んだところでまだ大き過ぎるくらいだし問題はないんだが、食欲不振という事もあって心配が募るな、、。

獣人のお医者さんがいれば、キュイの様子のおかしさの原因を突き止めてくれたりするんだろうか。

苦しいお腹を庇ってその場でじっとしたまま、キュイの頭を撫でて安心させてあげた。



まだ色々と課題はあるがひとまずは安全な寝床を確保出来たし、セナリの安否も確認する事が出来た。

次はキュイの今後をどうするかを、真剣に考え始めなくてはいけないな、、、。


(ああちょっと待ってキュイ。お腹つつかないで)


食べたばかりのものが出そうになりながら、大きくなっても仕草が可愛いキュイの今後を考えて頭を抱えた。

このままずっと獣人域で一緒にいるわけにはいかない。

かといって、キュイだけで自由にどこにでも行っていいよと飛び立たせるのは不安だ。

落ち着いた頃合いを見て魔人域に渡れればいいんだが、、、。

不確定要素があり過ぎて、どうにも予定として組み込めない。

とりあえず一度、獣人のお医者さんを探してキュイを見てもらうか。


そう結論を出して真ん丸のお腹を抱えながら、片付けをするリビィを手伝った。

きっと、横並びで洗い物をするこの姿を後ろから見れば夫婦のように見えるんだろう。

残念ながら、妊婦に見られるのは俺だろうけど。

食べ過ぎは良くないな。

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