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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
八章
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六十七話「掠める死と浮き彫りになる無知」



武人。

それは、頑強な体を持つ弱肉強食の民族。

生まれながらにして【加護】を授かり、多少の衝撃、病、毒程度なら何もせずとも防ぎ、時には大病も自己の治癒能力によって癒してしまう。

そんな神に愛されし民族には、5歳で与えられる【祝福】で確かな格差が付けられる。

〝剛腕〟〝俊足〟〝鳶目(えんもく)〟など、与えられる祝福は人によって変わり、しかしその全てが常人には届き得ぬ特性となる。



────────────レリーチェ著 「戦闘民族」より抜粋




この加護と祝福というのが、巨人が裁きを受けた時、神に与えられたという力なんだろう。

魔人のように魔力がない代わりに、生まれた時から体が頑丈で、5歳でそれぞれに力が与えられる。

よく見る創作物のように、自分が与えられた祝福を可視化する事は出来ないようだが、何となく腕力が上がったと感じたり、視力が良くなったと感じたり、可視化せずとも半年以内には自分で気付く事が出来る程大きく変化をするらしい。

仮説集落にいたセッタが細身にも拘らず優れた膂力を持っていたのは、この祝福によるものなのかもしれない。


生まれた時点で与えられる加護にも差はあるらしいが最低でも、赤子の時点で二段ベッドの上の段から落ちても無傷で済む程度の頑丈さはあるそうだ。

そこから更に頑強になっていく者もいれば、本来持つ肉体の防御力より少し頑丈なくらいで死ぬまで変わらない者もいるらしい。

自分で成長させる事の出来ない権能というのは、格差社会ではその人の価値を見極める大きな要素となる。

おそらく、弱肉強食だという武人域では、得られた加護や祝福がどれだけ強力かという事が、生きていく上で相当重要な事となっているのだろう。

この本を読む限りでは、武人域にある全ての国で、武勇を誇る者が頂点に立つという制度が設けられているようだし、武人域に於ける加護、祝福の重要さというのは、たった数行の文を読むだけで窺い知れる。


数時間前に会ったジーンも、総統を決める闘技会で見事優勝し、十数年、その席に座り続けているらしい。

闘技会は一年に一回開催されているそうだから、十数回優勝し続けてるという事になるのか、、、。

ウルより圧倒的に強いというのであれば当然の結果なんだろうが、それでも年齢制限無しの中であの年で優勝するというのは中々、、。

まだまだ若者には負けないという気概が感じられる。



戦闘民族の武人達が行う闘技会は国内の最強を決めるものだけでなく、各国の代表を集めた武人域全体での闘技会もあるんだそう。

その闘技会は15年に一回。

闘技会の結果で国に序列がつけられ、その序列が高い程、貿易を優位に進められるなどの特権が与えられるんだそう。

前回の闘技会は14年前。

ジーンが圧勝し、現在はアルムハルトが序列一位らしい。

益々、戦わなくて良かったと思わされた。

でもそんなジーンにさえ、バオジャイは聖戦で戦って勝ったんだよな、、、。

聖戦の事は以前聞きかじった事があるが、ジーンに混血である事を馬鹿にされたバオジャイが暴れ回り、会場を壊し尽して漸く落ち着いた頃には、決着が着いていたんだそう。

怒って暴走状態のバオジャイと、武人域最強のジーンの戦い。

周囲にどれだけの被害が出るかなんて、想像もしたくない。

その場に居たウルとメヒトの活躍によってその場に居た守護者達は誰一人として負傷をしなかったそうだが、ウルとメヒトはかなりの重症を負ったそう。

それでも無事に生還しているのは、流石三賢者といったところか。

俺がその場に居れば、まず間違いなく瞬殺される。

キュイの力を借りて全力で逃走しても、逃げ切れるかどうか。



武人には加護、祝福以外にも、魔人が精霊と契約するように、獣人と契約を交わして権能をその身に宿す事が出来るそう。

代価は体力。

獣化をしている間は、その場を動かなくても全力疾走をしているくらいの体力を消費するらしい。

その為、集団に囲まれ、長期戦になりそうな場面に於いては、使いどころが難しい技みたいだ。

戦いの終盤で使う切り札のようなものなのかな。


種類は大きく分けて三つあり、ピノが使っていた全装獣化と、全装獣化程権能を身に宿せない部分獣化。

極短い時間、契約した獣人をその身に憑依させる憑依獣化があるらしい。

精霊との契約と違う点は、武人自らが獣人の下へ向かい親交を深めた後、お互いの納得の上で契約を交わすといったところか。

何となく、兄弟の契りのような熱いものを感じる。






「それって、この武人域の地図?」


運良く確保出来たボックス席。

隣に座ったリビィが、俺が読んでいる本を覗き込んでそう聞いてきた。



「そうですね。小さくですけど、獣人域の地図も載ってますよ」



武人域には、13の国があり、それぞれに国名とは別に、〝剣の国〟や〝盾の国〟といったその国の民が使う武具を取り入れた俗称がある。

剣の国の国民である限り、短剣や長剣、形は問わずとも、使用する武器は剣でないといけないらしい。

何とも面倒くさい決まりに思えるが、武人は自分が持つ武器に誇りを持って他の武器に浮気をする事がないそうなので、その取り決めのせいで問題が起こる事は殆どないんだそう。

あえて殆どと言ったという事は、少なからず問題は起きているようで、、。



「最近は、銃の国も出来たみたい」



バオジャイ曰く、腐愚民が伝えた技術によって銃が製造され、今まで力の無い者と虐げられてきた者達が結託して、銃の国を建国したんだそう。

だが、使用者の力や素早さが関係なく同等の威力を出せてしまう銃は誇り高い武人達の支持を得られず、一つの国として認められずに衰退していったらしい。

その事態に激昂したのが、銃の国の建国に最も尽力したと言われる一部の過激派グループ。

銃の有用性、それを十全に扱える自分達が他より優越しているという事を知らしめる為に、巨大なテロ組織となって各地で苛烈なテロを行っているんだそう。

起こされたテロ事件で死者、重傷者は十年間で数万人程出ているらしい。

未だに、銃の国を名乗るテロリスト達の根絶には至っていないんだとか。

引き金一つで簡単に人の命を奪える武器を持ったテロリストが、突然襲ってくる恐怖。

日本にいる間はそんなものに怯える必要性はあまりなかったが、武人域ではそれが常態化しているのか、、。

銃を製造しているところを見つけ出して解体して即終了というわけにはいかないんだろうな、、。



「武人の加護は、銃弾を弾ける程頑丈ではないんですか?」

「ん。貫通せずに体の中で止まる人もいる」



体の中に銃弾が残るのは良くないんじゃないか、、、?

実際に打たれた事のある人の話を聞いた事があるわけではないから分からないが、何となく、貫通して異物の残らない状態になったほうが体には良い気がする。

でもまあ、ひとまずは、銃弾を弾けるような化け物ばかりではない事は喜ぼう。

もし魔人である事で揉め事が起こった時、そんな化け物相手にリビィを守り通せる気がしない。

そんな防御力に全振りしたような化け物を相手取るとしたら、命を刈り取る気で戦って、漸く無力化出来るくらいなんじゃないかと思う。



「ケイトなら、武人域でもそれなりに戦える」

「ジーンさんみたいな強者に出会う確率は、、?」

「ジーンは別格。まともに戦える人は、いるかもしれないけど会った事ない」



そんな凄い人に圧勝するバオジャイはどれだけ規格外な強さなんだとツッコみたくなったが、想像の範疇を容易に超える気がして触れられなかった。

埒外の事に頭を使うより、バオジャイに褒められたという喜びを噛み締めておこう。

ウル、メヒト、バオジャイと、身近に強者のいる生活を続けてきたからあまり自信が持てずにいたが、これで少しは自信を持つ事が出来る。

だからといって、何かするべき事が変わるわけではないけど。















ザアァァァァ────。


「雨だね」

「雨ですね」


野宿をするべく、降り立った隣国ボドルコのコドーラという駅。

改札を抜けると、強く打ち付ける大粒の雨が降り注いでいた。

まあ、汽車に乗っている時から気付いてはいたのだが、降りる頃には止んでくれていないかなと淡い期待を抱いていた。

雨自体は嫌いではないし、レオンバルトで合羽も買ってきてるから濡れる心配はないんだが、問題は野宿だ。

屋根がある場所が見つかればいいが、最悪、土魔術で簡単に寝床を造るか。

いや待てよ。

防御結界って雨防げたかな?



「どこで野宿します?」

「あっち」



屋根のある場所に心当たりのあるというバオジャイが指差したのは、町の外にある平原、の向こうにある林。

木々がかなり小さく見えるし、結構歩かないといけないなこれは、、。

水に濡れようとも光が消えない光石を持ってきておいてよかった。

これなら、暗い夜道でも足場の確認をしながら歩ける。








「そ、そこのお方!お助けください!!」


ヒュッ───








林に入る寸前、後方から女性の声と、頬の横辺りを何かが通り過ぎる音が聞こえる。

何が通り過ぎたのかは分からなかった。

だが何故か、途轍もない命の危険を感じ背筋が凍りついた。



「 〝土壁(ウォール)〟 !!」



ほぼ無意識の内に、何かが飛んできた方向、助けを求める女性の後方に土壁を形成する。

女性を助ける為ではない。

ただ自分の本能に従って魔術を行使していた。



「銃の国」

「ほ、本当ですか?」

「ん」



短く交わした会話の内容を汲み取るに、こっちに向かって走って来る女性を追っているのは銃の国の人間らしい。

女性の正体はバオジャイも知らないそうだが、ひとまず敵ではないと考えて問題ないんだそう。

だがそうか。

銃の国か。

という事は、さっき顔の横を通り過ぎていったのは銃弾で間違いないだろう。

後少しズレていれば、脳天を撃ち抜かれて死に絶えていたのかもしれないのか、、、。

置かれていた状況を認識して再度、俺は背筋を凍らせた。



「ケイト!結界張ったよ!」

「ありがとうございます!」



銃弾が土壁に当たる音を聞きながら、後ろから聞こえてくる声でリビィの無事を確認する。

心臓は、うるさい程に早鐘を打っていた。


(大丈夫。落ち着け大丈夫だ俺。銃弾は誰も当たってない。結界も張ったから大丈夫だ、、、)


助けを求めて走って来る女性とその仲間二人を結界の後ろに隠れさせ、俺とバオジャイはリビィが待つ結界内部に入る。

バオジャイはおそらく敵じゃないと言っていたが、ひとまず一日目の移動を終えた安堵で胸中を満たしている中で突然死んだかもしれない可能性を突き付けられた今では、そんな言葉を素直に信じる事は出来ない。

一個人の感情を裏切るものは、思いの外すぐ近くにある。

上部が開いた結界で透過板がなくとも上から入ろうと思えば入れるんだが、この緊迫した状況ではそんな事にすぐ気付けはしないだろう。





パァンッ!


「───ッ!!」




銃弾が、勢い良く防御結界に衝突してぬかるんだ地面に沈む。

破られる事はないと分かっていながらも、心臓が早鐘を打つ事を止められそうになかった。

おそらく土壁に隠れながら撃ってきているというのは分かるんだが、こっちから仕掛けるには少し距離がありすぎる。

届く魔術もあるんだが、それをすれば殺めてしまいそうなんだよな、、、。



───殺らなきゃ殺られる。



そんな単純な事は分かっているはずなのに、少し位置が違えば頭を撃ち抜かれていた事も分かっているはずなのに、どうしても敵を殺める可能性のある魔術を放つ気持ちが固められなかった。

早く対処しなければ、増援を呼ばれるかもしれない。


すぐに攻撃しないと。

急いで気持ちを固めないと。


そんな事を考えるたびに体は硬直して、致死性の魔術を放つ事は出来なくなっていった。





「〝竜巻(サイクレート)〟」


ゴォウッッ───!!






胸中の不安を吹き飛ばす風が、結界越しに音だけ届けられる。

魔術を放ったのはバオジャイ。

形成された巨大な竜巻は土壁を、そのすぐ側にいるであろう銃の国の人間ごと飲み込んだ。

武人には加護があるとはいえ、あの威力の中ではおそらく無事ではないだろう。



「す、凄い、、、」



そんな声が背後、結界の外から聞こえたが、振り向く事はしなかった。

いや、正確には、力が抜けて後ろを見る余裕がなかった。

竜巻が収まるまで、安心が出来ないから。





「ん。大丈夫」


収まった竜巻の近くに炎を発生させ、その明かりが雨で消えるまでの間に近くで倒れていた数人を確認したバオジャイが、頷いてそう言った。

死んでるフリをしてるだけかもしれないとも思ったが、確認をしに行くと言い出す勇気はない。

手を下すところまでやってもらっておいて、何とも情けない話だ。







「助けていただき感謝致します。故あって名を明かすわけにはいきませんが、少なくとも、あなた方を害する気はない事をお約束致します」


そう言って結界の外で、服が汚れる事も気にせず片膝を着いて頭を垂れるのは、つい先程助けを求めて叫んでいた女性。

降ろしたフードの中から解け掛かっている金の三つ編みが零れ出し、髪の先がぬかるんだ地面に着いている。

その後ろで同じ姿勢を取る仲間はどちらも女性だった。

三人とも、大きな盾を背負っている。

という事は盾の国の人だろうか?

ただでさえ暴動が多発しているという武人域で女性三人で国外に出るなんて、危険極まりない事のように思えるが、、、。

そうせざるを得ない何かがあったんだろうか。



「ネヒディアの国民?」

「、、はい」



バオジャイの質問に、金髪の女性が姿勢を変えないまま答える。

少し間があったのが気になったが、装備している盾を見るに嘘はついていないだろう。



「名前、教えて」

「名前は、、」

「教えて」

「、、、エミアと申します」



発せられたバオジャイの圧に耐えかねたのか、金髪の女性は渋々といった様子ではありながらも、自分の名前を告げた。

後ろの二人はそれぞれ、ラッシュ、リッシュという名前らしい。

随分似た名前だが、姉妹か何かなんだろうか。

そういえば、体格や頭を垂れる前に少し見えた顔はそっくりだった気がする。



「逃げてた理由」

「理由、、、ですか?」

「ん」

「ネヒディアで銃の国の人間によるテロ行為がありまして、次の標的が私だという事が分かりましたので、安全を確保出来るアルムハルトの総統府に匿っていただこうと、移動していた次第です。まさか、到着前日になって追い付かれてしまうとは、、」



テロリストというのは場所、人、全て関係なく無差別でテロ行為を行うイメージがある。

それにも拘らず狙いを定められているというのは、このエミアという女性はそれなりの地位の人間なんじゃないだろうか。

フルネームを隠しているのも、立場が関係しているのかもしれない。



「助けていただいたばかりで不躾な願いだとは思いますが、どうか明日まで、私共を護衛していただけないでしょうか。勿論払える限りの報酬はお支払い致します。何卒、何卒、、」



エミアが懇願をしながら、頭をより一層深く下げた。

フードを取った頭が雨に濡れる事も、下げる程に髪に泥が付く事も、気にする素振りすら見せない。

それなりの立場を持つであろう人間が形振り構わず頭を下げている。

その必死さは、嫌が応にも伝わってきた。



「バオジャイさん───」

「だめ」



助けてあげましょうと言おうとした俺の意思が伝わったのか、バオジャイに言葉の途中で止められてしまった。



「信用出来ない」



バオジャイの言う事はごもっともだった。

必死な姿に絆されそうになったが、この三人がさっきの銃の国の人間とグルな可能性だってあるんだ。

そうでなかったとしても、暴徒化している武人が多い現状で、この三人だけ魔人に好意的だとは断定出来ない。

この世界では命の危険が隣り合っているという事を、俺はいつまでも学ばないな、、、。



「仰る通りです。出会ったばかりの私共を、無条件に受け入れてほしいというのが無理な話です」



やっぱり、それが正常な考えだよな。

すぐに信用していた俺の考えは、受け入れられざるべきもののようだ。



「これを」

「エミア様!それは!!!」

()いのです。失うわけではありませんから」



そう言ってエミアが結界のすぐ側に差し出したのは、胸を張り、翼を広げた四足の竜の彫刻が施された白銀の盾。

無駄な装飾は施されておらず、実用性の高い盾のように思える。

洗練されたデザインからは、盾がおそらく高価なものであろう事を感じさせられた。



「私共を匿っていただいている間、この盾をあなた方に。それでどうか一晩だけで構いません。信用を預けてはいただけないでしょうか」

「、、、ん」



完全に警戒を解いたわけではないようだが、バオジャイは差し出された盾を見て小さく頷いた。

汽車の中で見た本に書いていた。

武人にとって装備している武器というのは、命の次に大切なものらしい。

身分の高い者であればあるほど、それを手放すという意味合いは、大きなものとなってくる。

おそらくこの盾の竜の彫刻は家紋のようなものだと思うし、本来であればこんなにも簡単に初対面の人に渡してはいけない程、エミアにとってもエミアの家にとっても大事なものなんだと思う。

それを躊躇せず差し出したエミアの気概を、バオジャイは汲み取ったのだろう。



「あなた達も、差し出しなさい」

「「はッ!」」



バオジャイの警戒を感じ取ってか、エミアは後ろの二人にも指示を出し、背負っていた盾を差し出させた。

エミアの盾のような竜の彫刻は施されていないが、それでもそれなりの価値のある盾であろう事が窺い知れる。



「ケイト。盾を格納袋に仕舞って」

「・・・・」

「ケイト?」

「あ、すみません。仕舞います」



一瞬呆けた後、バオジャイに返事をして結界をすり抜けて盾を回収する。

未だに銃弾が横切った恐怖が身を硬直させていて思う様に体が動かせないが、結界の外にいる今、自分の身を守れるのは自分だけだ。

警戒しながらも、素早く回収しなくては。

体はその内、言う事を聞いてくれるようになるだろう。



「なッ!!た、盾はどこに!!」



盾が吸い込まれるのを横目で見ていたラッシュが、驚きの声を上げる。

説明もなくいきなり質量を無視して盾が吸い込まれていったら、それは驚くよな。

リッシュも同じような反応をしているし、何の反応もなくじっと体勢を変えようとしないエミアの胆力が異常なのだと思う。



少し離れた位置から盾を仕舞いつつ三人を観察したが、誰も盾以外の装備をしていないようだった。

外套の内側に隠し持っているのかもしれないが、少なくとも見える範囲では装備品を確認する事は出来ない。

防御は盾で出来ると思うんだが、攻撃はどうするんだろうか。

もしかして、攻撃も盾で?

攻撃の種類なんてシールドバッシュくらいしか思い付かないな。



「安心して。明日には返す」



結界を解いたバオジャイが三人に顔を上げさせる。

ラッシュとリッシュの顔には盾が消えた驚きが、エミアの顔には、悔しさのようなものが滲んでいる気がした。



「案内する」



三人を先頭に置き、バオジャイが指示を出しながら木々の隙間を進んでいく。

途中何度か木の根に足を取られそうになったのは、まだ体が思う様に動いておらず、足が想定より上がっていないからだろう。

その様子を見ていた隣を歩くリビィに心配をかけてしまった。

守らなければいけない立場であるというのに、、。




「あそこ」


歩き始めて15分程経っただろうか。

バオジャイが指差す先には、屈まないと入れないような小さな入り口の洞穴があった。

暗くて内部は見えないが、六人も入れるのか?



「わあ、、。広いね」



洞穴に光石を持って入ると、十畳程の広い空間が照らし出された。

入口の狭さからは想像もつかない程の広さだ。

もうここに住んでもいいんじゃないかとも思ったが、入れ違いで飛び出て行った蝙蝠達を見て考えを改めた。

蝙蝠と同居なんて、考えたくない、、、。


大量の蝙蝠や壁を這う大きな蜘蛛に肌を粟立たせながらも、バオジャイの指示通りにいつも通りの三人分のスペースを確保した結界を張る。

さっきの即席のものとは違い、しっかり上部も閉じているものだ。

これなら寝込みを襲われる心配はない。

まあ正直なところ、エミアの真摯な態度にはもうかなり気を許しているんだが、、、。

それを包み隠さず伝えてしまうと、バオジャイに怒られそうな気がするんだよな。



「盾、出して」



何か考えがあるんだろうか?

差し出された手に、一枚ずつ盾を出して渡す。

盾の大きいせいで、三枚同時に持つとバオジャイの姿がほとんど隠れてしまった。

それでも簡単に持つ事が出来ているのは、武人の祝福を与えられているからなんだろうか。

混血であるバオジャイが祝福を授けられているのかどうかは知り得ないが。



「えぇっと、、。これは一体、、」



無言で盾を返すバオジャイに、エミアは困惑の表情を浮かべている。

それはそうだ。

信用の代償にと苦渋の決断で預けた盾が、別れを迎える朝が来る前に返却されたのだから。

ラッシュとリッシュは自分の手元に盾が戻って来た事を純粋に喜んでいる様子だが、エミアは喜びよりも困惑が先行しているらしい。

なんで返したんだろう。



「信用する」

「良いのですか、、、?見ず知らずの私達に、武器を与えてしまっても」

「ん。一度でも預けてくれた時点で、あなたの事は信用してるから」

「ありがとう、、、ございます、、」



バオジャイの言葉にエミアは再度片膝をついて、返却された盾を我が子のように掻き抱いた。

頬には、一条の涙が伝っている。

短時間であれ手放すという選択は、エミアにとっては清水の舞台から飛び降りるような覚悟の下になされたものだったのだろう。

もう絶対に離さないという意志が、盾を掻き抱く微弱な震えを持った腕から感じ取る事が出来る。



「亡命をしている身では何が出来るわけでもありませんが、この御恩は必ず。必ず返させていただきます」

「ん」



エミアの真摯な言葉に、バオジャイも満足気だ。

俺もそろそろ信用を露骨に出しても大丈夫だろう。

怒られない、、よな?







「お、、おぉ、、、、。これは一体、、」

「地面に直接寝転がるのもなんですから」


洞穴で地面が雨で濡れていないとはいえ、湿気は含んでしまっている。

いくら入口をある程度塞いで室内のような雰囲気になっているこの場所であっても、そんな湿気を含んだ地面ではゆっくり休む事が出来ないだろう。

そう考えて俺が三人に用意したのは、

~石造りのベッド、砂のマットレスと共に~、だ。

クイーンサイズベッド程の大きさの頑丈な石造りの箱に、擦り切れまで砂を流し込んだだけの簡単設計。

万が一の雨漏りの為に、頭付近には簡易的な屋根のようなものもこさえてみた。

外套を折り畳んで枕代わりにすれば、地面に直接寝転ぶよりはそれなりに良質な睡眠を摂る事が出来るだろう。

魔力の無駄遣いをするなとバオジャイが怒る様子もないし、やって正解だったな。

ついでに結界の中に自分一人用の同じものを作っておこう。





「えっと、、三人同時に、、でしょうか、、?助けていただいた手前拒みは致しませんが、何分初めてなもので、、」





ん?何か様子がおかしい。

頬を赤らめたエミアが上目使いでぼそぼそと話ながら、もじもじしている。

三人同時にってどういう事だ?



「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」



そう尋ねてきたのは、緊張で顔が強張ったラッシュ。

今から寝るだけなのに何を緊張する事があるんだろうか。



「ケイトです」

「ケイト殿。助力の報酬を求める気持ちは十全に分かり得ます。ですが、どうか。エミア様だけはご容赦いただけませんでしょうか。貧相な体ではありますが、私とリッシュで精一杯務めさせていただきますので何卒、、、」

「えっと、、」



言っている意味が分からず、バオジャイに助けを求める視線を投げる。

ラッシュが言っている言葉の意味を理解したのか、バオジャイからはジト目を向けられた。

何故かリビィからもジト目が向けられている。

もしかしなくても、分かってないの俺だけ?



「え!?」



言葉の真意を探ろうと頭を回していると、ラッシュがいそいそと服を脱ぎ始めた。

何とか肌色が見える前に止める事が出来たが、一体全体どうしたというのだろうか。

モテ期、、、ではないよな。

こんな美形ばかりの世界で俺にモテ期が来るわけがない。



「何が何だかよく分からないんですが、説明をしてもらえないでしょうか、、」

「本当に、何もご存知なく、寝床をご用意していただいたんですか?」

「、、はい」

「はあぁ、、、、。お見苦しいところを、失礼致しました」



体中の空気を吐き切るような溜め息を吐いたラッシュが、謎の行動、言動の意味を話してくれる。

曰く、ネヒディアに於いて男性が女性に寝床を用意するというのは、プロポーズ、もしくは、今夜は俺のものになれという意味らしい。

つまり、三人分の寝床を用意した俺の行為は三人から見れば、〝今夜は三人とも俺のものになれよ☆〟という意味合いに取れてしまったそうだ。


なるほど。


聞いた後であれば、エミアが頬を赤らめた理由もラッシュが突然脱ぎだした理由も分かる事が出来る。

本来であれば強制力のない求愛行動なんだそうだが、土壁の魔術で銃弾を防いだという功績がある為、律儀な三人は断るという選択肢を持ち得なかったんだそう。

俺からすれば、安全の確保はリビィが、敵の討伐はバオジャイがしてくれているし、あまり助けたという気はしていないんだが、、、。

綺麗な部類に入るであろう三人が体を許してくれるのは吝かではないけど、それは腰を落ち着けられる環境に身を置いてこそだ。

こんな外で、一緒に旅をしてきた美女二人にジト目を向けられながらも嬉々として受け入れられる程、俺は豪胆ではない。

、、、、ちょっと残念だとは思うけど。



「ケイト。残念だったなって顔に書いてあるよ」



ジト目を強めながら、リビィにそう指摘される。

女の勘は怖い。



「変態」



バオジャイからは、そんな短い言葉で罵られてしまった。

親切心でやっただけなのに、、、、。

無知を心から呪ったのは、初めてかもしれない。

ああ誰か。

無実を証明してくれ、、、。

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