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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
一章
7/104

七話「魔術訓練」



リネリット魔術ギルドの最奥。

屋外修練場の魔法陣の上にウルと向き合って立つ。

黄白色の光に包まれているという点以外魔法陣の外と変わり映えのないこの場所だが、中で魔術を使うと光に防がれて残滓は吸収され、外まで被害が及ばないようになっているらしい。

脆いように見えて案外優れものなんだな。と、心の中で感心した。



「この足元の魔法陣は消えないんですか?」

「外側から全力で魔術をぶつければ壊せるかもしれないが、内側からは壊せない。防御結界だけなら内側からでも壊せるがな」

「頑丈なんですね」

「頑丈というわけではないな。壊れないように特殊な描き方で描いているらしい。ギルドの専売特許で、描き方を知っているのは各ギルド長を含めた極一部だけだ」



特殊な書き方か、、。

まあ、考えたところで分かるわけもないから考えないけど。



「早速始めるぞ」

「はい」

「まず、魔術について基本的な事を説明しておく。種類は大きく分けて二つ。自家魔術と精霊魔術がある。自家魔術は精霊の力を借りずに発動する火、水、風、土、重力の基礎5種の魔術だ。精霊魔術はその5種も含んだ多種多様な精霊の力を、自分の魔力を糧にして発動するもの。ここまでは分かるか?」



うーん、、。

分かるような、分からないような。

とりあえず分かる範囲を頭の中でまとめて、質問を形成した。

教えてもらった事を自分なりに噛み砕いて理解出来なかった部分を質問する。

何というか、小学生の頃の真面目に授業を受けてた時代に逆戻りしたようだ。



「自分の力だけで使えるのが自家魔術で、精霊の力を借りないと使えないのが精霊魔術ってことですか?」

「簡単に言えばそうだ。まあ、見せた方が早いか、、、。水と火、空中から突然現れるのを想像しやすいのはどっちだ?」

「水と火ですか、、。じゃあ火で」

「わかった」



ウルは軽く頷くと、腕を伸ばして右手を前に翳した。

翳した手の指を全て張ってすぐ、手の少し前に拳大の火の玉が現れる。



「うおっ!?あ、熱くないんですか、、??」

「熱い。少し離す」



漫画やアニメで散々見てきた珍しくもない光景のはずなのに、いざ目の当たりにすると、サイズが小さい火の玉でも想像以上の驚きがある。

驚いている俺を尻目に、ウルは詠唱も何もせずに火の玉を少し前に動かした。

手の1m程前まで動いた火の玉は、止まると同時に〝ボッ〟と音を立てて約5倍に肥大化した。



「魔力の込める量を変えれば、こうして大きさをある程度まで自在に調節出来る。この程度であれば、魔術師でなくても魔術使いなら誰でも使える」

「魔術使いというのは?」

「魔術師のように対人や対魔物に魔術を使う資格はないが、戦闘以外の仕事で魔術を使う魔人達の事だ。一度火を消すぞ」



アマチュアとプロの違いみたいなものか?

技量の違いは勿論のこと、それを使える範囲の制限にも差がある、ってことだろうか。

誰でも対人相手に使えたら犯罪が絶えないだろうし、それを抑制する為かもしれない。



「これが二つある魔術の内の一つ、自家魔術の基本的なものだ。単純に魔力を使って想像したものに変換する。ある程度の範囲内であれば移動させる事も出来、大きさを変えることも出来る。複雑な形にすることは出来ないが、日常生活程度なら支障はない」

「詠唱とかはないんですね」

「詠唱というほどではないが、この一段階上に形成単語と呼ばれるものはある」



形成単語、、。

また何か新しいのが増えたな。

出来るだけ頭にあるラノベ知識のストック外のものは出さないでほしいんだが。



「見せてほしいです」

「ああ。〝(ピラー)〟〝(アセンド)〟」

「、、、おお」



繰り広げられた光景に、思わず間抜けな声が出てしまう。

ウルの掛け声に合わせるように3m程の渦巻く炎の柱が現れて、そのまま唸りを上げながら上に伸びて黄白色の光に阻まれて消失した。

形成単語という言葉は初めて聞いたけど、今ので何となくだが理解は出来た気がする。

予め設定されてるワードを唱えることによって、そのワード毎に魔術が形を変えるってことだろう、見た感じだと。

さっきの無言で使ってた魔術よりも規模が段違いだし形も多彩だ。

ウルが一段階上と言っていたのも頷ける。



「今のが形成単語ですか?」

「そうだ。一度唱えてしまえば自在に形を変えることは出来ないが、単語の組み合わせによって多彩な魔術を繰り出せ、短時間で高威力の魔術を放てる。単語を覚える手間はあるが、使い勝手はかなりいい」

「今見せてもらった火魔術以外の魔術にも、それぞれ形成単語があるんですか?」

「ああ。魔術の種類によって数も単語も違うがな」



形成単語というのは五種類ある自家魔術の上位互換のようなものらしいし、全てマスターすれば言葉一つで火や水を出したり突風を起こしたり出来るんだろう。

完治したはずの中二病が再発しそうだ。



「ひとまず、自家魔術は今見せた二種類だという事だけ覚えておけ」

「はい」

「もう一方の精霊魔術だが、これは使役する精霊によってそれぞれ違った詠唱が必要になる。また火魔術がいいか?自家魔術とは威力の桁が違う。離れていてもかなり熱いぞ?」

「火傷とか、、しないですよね?」

「そこから動かなければな」

「なら火魔術でお願いします。単純な威力の違いとかも見比べやすいので」



先程と同じ動きで手を前に出したウルを見て一歩下がろうとしたが、動きを止めてその場に留まった。

ウルが動くなと言った意味。

下がれとは言われなかった。

もしかすると、近くにいなければ守り切れない程広範囲に広がる魔術なのかもしれない。

今は素直に従って、ウルの二歩後ろのこの位置から一切動かずに見ていよう。





「【契約者ウル・ゼビア・ドルトンが求む。貴殿の力を今此処に。糧としたるは我が魔力。抗う者全てを灰燼に帰す炎主ディバレイリアの権能の一端を、照らし、知らしめ給え 〝炎穿(ディバイン・アッシュ)〟 】、、、あ」





詠唱を終えると同時に、ウルの手の前に不規則に球体を描きながら集約されていた炎が、一閃。

手を翳している方向へ唸りを上げながら奔り、爆音を上げて防御結界に衝突して大きな蜘蛛の巣状のヒビを入れた。

結界にぶつかった時の余波が、魔法陣の内周をなぞるように迫ってくる。


(やばい。やばいやばいやばい、、!!)


数秒後には確実にここまで届く。

魔法陣に素早く吸収されて例え触れるのが一瞬だとしても、離れた距離でも分かる程の烈火だ。

軽い火傷では済まないだろう。

早く、早く逃げないと。

そう思って透過板をギュッと握り締めたが、迫り来る炎の津波に覚える恐怖のせいで、どうにも足が動かない。



「ウルさん!」

「大丈夫だ。落ち着け。〝(ドーム)〟」



(え、、?)

炎は、すぐ近くまで来たところで白色の光に阻まれた。

周囲を囲う大きなものと少し色は違うが、おそらく防御結界だと思う。

ウルが展開したドーム型の防御結界は直径3m程の小さいもので、二人を覆って少しの余裕を残す程度のものだった。

色は薄く、到底頑丈そうには見えないその結界は烈火を吸収して消す訳ではなく、表面を撫でて後方に纏めて受け流していった。



「凄い、、ですね。今のも形成単語ですか?」

「そうだ。自家魔術で防御魔術を使えるのは俺の家系だけだがな」

「ウルさんの家系だけですか?何か理由が────」



「ウルさん!!!あれほど気を付けてくださいと!!」



大声に体をビクつかせて後ろを振り返ると、腰に手を当てたマレッタが、弱々しく明滅する防御結界のすぐ外に立っていた。

結界越しでも、怒っているのが分かる。



「あー、悪いマレッタ。久々で力加減間を違えた、、。直すの手伝った方がいいか?」

「大丈夫です。もう頼んできましたので。次壊したら出入り禁止にしますからね!」

「悪かったよ、、。気を付ける」



しおらしく謝るウルというのは、中々に新鮮だ。



「是非そうしてください。ケイトさん、怪我はありませんか?」

「はい、大丈夫です。ウルさんが守ってくださったので」

「良かった。無理はしないでくださいね」

「ありがとうございます」



最後に一礼して、マレッタは魔術ギルドの中へと戻っていった。

そういえば、案内してくれた時にウルに注意してたな。

結界を壊さないように、と。

それがあったから、ウルは詠唱が終わってすぐぐらいにやってしまったみたいな顔してたのか。






「話が逸れたな、、。まあいい。一つ、これだけは知っておけ。劣世界の人間は魔力を持っていない」

「、、、、え?」



魔力を持ってない?この流れで?

それは完全に想定外だった。

魔術を教えると言われたから、てっきり魔力は持っているものだと勝手に思い込んでいた。


(そうか、、、、。魔力、ないんだな、、)


ちょっと、いやかなりショックだ。

こういうのは転移した時に授けられるものなんじゃないのか、、。



「だからこそ魔装の仕立てを急がせた。お前自身に魔力は無いが、そのローブに魔力を溜めて使うことが出来る」



サシャが仕立ててくれたこのローブは魔装というらしく、魔力を溜めておく事が出来るらしい。

それなら魔力がなくとも問題ないか。

、、ん?

問題ないのか?



「その溜める魔力はどこから持ってくるんでしょう?」

「俺の魔力を流す。初心者用の魔装で特別な付与は無いが、保有出来る魔力の量はそれなりに多い。基本の魔術の訓練程度なら、一度流せば暫くは持つだろう」

「ウルさんに魔力を流してもらう以外に、魔力を溜める方法はあるんでしょうか?」

「魔力水だな。飲めば補填出来る」



よく見る創作物で見かける、MP回復薬のようなものだろうか。

近場で温泉のように沸いていてくれれば有り難いが、、、。

今し方希望を一つ砕かれたばかりだし、そんなに期待しないほうがいいかもしれない。



「魔力水は市場に行けば売っている。行かなくとも神授川で汲んで来ればタダで手に入るが、、、。魔物に襲われたくないならやめておけ」



市場で買う金は無く、チート能力を手に入れられたような感覚はないし魔物とやらを倒す力もおそらく無いだろう。

どう足掻いても暫くはウルの世話になりっぱなしになるのか、、。

独り暮らしに慣れてある程度自活する事が出来てきた頃だからこそか、自分一人では何も出来ないというのは思いの外考えさせられるものがある。

だからといって、どうにもしようがないんだが。



「どうした?」

「あ、いえ。なんでもないです」

「そうか。とりあえず魔力を流すぞ」



ウルはそう言うと、俺の左腕の辺りにそっと触れた。


(、、、ん?)


その直後。

見た目にはなんの変化も無いのだが、ローブが俺の体に合わせて締め付けてくるような感触が感じられた。

全能感、、というほどではないが、何か少し強くなった気がする。

それに加えて、心なしか温かくなったような、、?



「ひとまずは、許容量の半分程度流しておいた。何か変化は感じるか?」

「はい。えっと、ローブに締め付けられるような感覚が少しあります。痛いとかではなくて、体にフィットする感じというんでしょうか。あと、温かくなった気がします」

「ほう。もっと鈍いやつかと思ったが、魔力に対する感覚は鋭いようだな」

「魔力に対する感覚っていうのは?」

「触覚や嗅覚、視覚で魔力を感じ易いかどうかの話だ。初めてで今程度の魔力を感知出来たのであれば、お前の触覚での魔力感知能力はそれなりに高い。感知し易ければし易い程、魔術の扱いを繊細に行うことが出来る」



ここにきて唯一の僥倖だ。

魔力は無くてもそれを扱う才能はあるらしい。

宝の持ち腐れな気もするが、どんなものでも今の俺にとっては無いよりマシだ。



「準備は済んだ。始めるか」

「はい。あの、魔力を流していただいたのは分かったんですが、この魔力をどうやって魔術に変換すればいいんでしょう?」

「イメージだ。最初に出した火の玉であれば、空中に火の玉が出現するイメージをする。同時に、それの大きさや熱さを実際にそこにあるかのようにイメージする。自分を騙す程でなければ上手く発現しない」



イメージするだけ、、か。

火や水、重力が生まれる原理なんかを頭で理解していなければならないのかも、と心配していたが、杞憂で終わったようで何よりだ。

過去に勉強した気もするが、もう微かにしか覚えていない。



「手を前に出していたのはただイメージしやすいからだ。やらなくともいい。指を鳴らして魔術を発現させる者もいれば、両手を胸に当てて瞑想するように発現させる者もいる。自分がやり易い方法を追々見つけていけ」

「分かりました」



ひとまずウルと同じやり方でやってみるか。

緊張を抑えるように左の手の平をお腹に当てて、右腕を前方に伸ばした状態で指を全て広げる。

構築するのは火の玉が手の前に出現するイメージ。


熱い。

手の平にじっとりと汗を掻く。

その後に少しずつ離す。


(、、、、出ない)


もう一度同じように、より強くイメージする。

距離をおくのは後回しにして、ひとまずは火の玉を発現させる事に集中した。


(、、、出ないな)


二度の挑戦の結果は惨敗。

緊張で、手の平にじっとりと汗を掻いただけで終わった。



「どうだ?」

「難しいですね。火の玉はイメージ出来てると思うんですけど、自分がそれを出現させるイメージが出来ません」

「劣世界に火を起こすものはあるか?」

「はい」

「おそらく、それをイメージしたほうが早いな。急に手の前に出現させるというよりも、その火を起こす媒体をイメージして、何もない状態から火が出るまでの過程を飛ばしてしまえばいい」



火を起こすもの、、か。

ガスコンロ、ライター、マッチ辺りが無難かな?

三つの内、ガスコンロは却下だな。

何となくツマミがないと想像し辛い。

ライターも、オイルがこの場にないから想像し辛い。


となると消去法でマッチだな。

想像するのは、側薬と頭薬を擦って火を発生させるあの瞬間。

続いて、それを自分の体のみで再現するイメージをする。

手を前に翳すのはちょっと違うな。

何かを擦らないと再現力が鈍る。

擦る、、擦る、、、。


あ。

指を鳴らせばいいか。

指を鳴らして、その摩擦で火の玉、、いや、マッチと同程度の火を出す。




───パチッ!


(おっ!)




強くイメージして指を鳴らすと、頭薬の役割としていた人差し指の先に火が点いた。

上手くいった嬉しさがやってきた後に、遅れて熱さが襲ってくる。



「あっつ!!!!あ、、、、火が、、」

「消えたな。だがまあ、小さかったが初めてにしては上々だろ」

「まだ先は長そうですね、、」

「本来は生まれ持った魔力を、時間を掛けて使い熟すものだ。仕方ない」



それはそうだよな、、。

才能があるとはいってもすぐに使い熟せるわけではない。

何となくのコツは掴んだから、後は練習を繰り返すのみだ。






そこから、何度も同じ火魔術の練習を繰り返した。

指先がヒリヒリしてきた気がするがきっと気のせいだ。

自分の魔術で火傷するなんて目も当てられない。














「お疲れ様です!私今から休憩なんですけど、お二人はもうお昼食べられました?」


思った様に上手くいかずに肩を落としていると、マレッタが魔法陣の中にやってきた。

浮かべられている満面の笑みに、魔術訓練の疲れが少し癒される。



「もう昼か。どうする?一旦休憩を挟むか?」

「教えていただいた事を整理したいので、出来れば」

「分かった。マレッタ、俺達も一旦休憩する。どこか休めそうなところあるか?」

「でしたら魔法陣の側に椅子とテーブルを用意しましょうか?お天気もいいですし」



少し逡巡した後、ウルがマレッタの提案に頷く。

お店ではない外でご飯を食べるなんて、いつ振りだろうか。



「じゃあ事務所から持ってきますね。もしお邪魔じゃなければ、私も今から休憩なのでご一緒してもいいですか?」

「ああ。ケイトは魔法陣の外で待っておけ。市場まで昼食を買いに行ってくる」

「付いて行きます」

「いや、一人でいい。すぐ戻る」

「あ、ウルさん!さっきギルドに来てた人に貰ったバケットとチーズがあるんですけど、良ければ食べてもらえませんか?あと、私のお昼も作り過ぎてしまったので一緒に食べてもらえると有り難いです」



せっかくの好意なのに、ウルは逡巡して頷こうとしない。

素直に甘えればいいと思うけど、、。

まあ、そういうの苦手そうだしな。

リビィに気を遣って他の女性の手料理を食べないようにしてるっていう可能性もあるけど。

だが、ウルのそんな気遣いなど今はどうでもいい。

俺は、マレッタの手料理が食べたい。

余ったバケットを処理してあげたいとかそういう良心ではなく、マレッタの手料理を主に食べたい。

だから、今にもやんわり断ろうとしているウルを制止することに何の躊躇いもなかった。



「ウルさん。せっかくこう言ってくださってるんですしお言葉に甘えませんか?ほら、食べ物を粗末にするのはいけませんし、ね?それに、師匠に買い出しに行ってもらうわけにもいきませんし」

「、、、、やけに饒舌だな」

「そうですか?いつも通りですよ?」

「はあ、、分かった。マレッタ。世話になっていいか?」

「勿論です!用意しますのでお待ちください」



上手くいった。

ごり押しするセールスマンみたいになったがまあ良しとしよう。

味は食べるまで分からないけど、可愛い女の子の手料理は確保したという事実が重要だ。



「お待たせしました。さあさあ食べましょう。お掛けください」

「はい。ありがとうございます」



マレッタが持って来たのは、本当に一人で食べるつもりだったのか不思議なくらいの量のある重箱のような弁当箱。

種類の豊富さも量も、まるで複数人でピクニックに来た時のようだ。





「「「食に感謝を。魔力の源に感謝を。変わらぬ大地の恩恵に此度も授かります」」」





結論から言おう。

マレッタの手料理は美味しかった。セナリと同等くらいに。

可愛い女の子が作ってくれたという点を考慮すれば掛け値無しにNo.1だが、、、。

表彰台で一段低い位置で落ち込むセナリの姿は想像したくないので、そういう反則技を使うのは止めておこう。



「お口に合いますか?上手く出来たとは思うんですけど、家族以外の誰かに食べてもらうのなんて初めてなので、、、、」

「すごく美味しいです。料理お上手なんですね」

「ありがとうございます!魔術が苦手な分、お仕事とお料理だけは頑張ったんです。頑張った甲斐がありましたね」

「魔術苦手なんですか?」

「はい。お恥ずかしい話ですが。魔力総量は人並みにあるんですけど、どうにも感知能力が低いみたいで、、、。上手く扱えないんです」



俺とは真逆ってことか。

魔力があっても使えないのも、感知能力があって魔力がないのも、この世界では同じくらい不便なのかもな、、。

何となく、似たような境遇に置かれているマレッタに親近感を覚えた。



「リムさんに色々教えてもらったので、日常生活程度なら問題ないんですけどね」

「リムさんっていうのは?」

「私の先輩です。お仕事以外にも色々教えてくださる凄く優しい方なんですよ。もう結婚して退職されたのであまり会えませんが、、、」



結婚して仕事を辞めた、、。

ん?もしかしてさっき受付で話に出た人か?



「もしかして、さっきウルさんが受付で探してた人ですか?」

「そうです。リムさんはウルさんのご友人なんですよ。ね?ウルさん」

「最近はほとんど会ってないがな。だがまあ、あいつには色々と世話になった」

「そうなんですね。じゃあマレッタさんは、リムさん繋がりでウルさんと知り合ったんですか?」

「はい!最初は怖かったんですけどね。あの忘れられない一夜があってから、すごく優しい人だって分かったんです」



ウル、、、。

結婚前の事かもしれないが、リビィという人がありながら、、。



「忘れられない一夜ってウルさん、、。浮気、、」

「違う。マレッタ。誤解を招く言い方は止めてくれ」

「ふふふ。すみません、ついつい。酔った男の人に絡まれてるのを助けていただいたんですよ。ウルさんに」



ウルが人助けか。

意外、、いや、そうでもないか?

リビィの話によると初対面で助けてくれたらしいし。

まあ、あれは一目惚れっていうプラス要素があったからかもしれないが。

リビィの話以外にも、身寄りのないセナリを引き取って家に住まわしてるというのもある。

あれ?

そう考えるとウルってかなり良い人なんじゃないか?

人は見かけによらないってよく聞くが、実際にそれを体感したのは初めてだ。

こういう人の事、何ていうんだろう。

見た目は怖いけど実は凄い優しい人。

思い浮かばないが、きっと知らないだけでぴったりな言葉があるんだろうな。


んー、、。

何かいい呼び方を考えたい。

不器用って言葉が一番当てはまる気がするけど、、。

うーん、、。

あ!むっつり!むっつり紳士にしよう!



「ケイトさん?」

「え?あ、すみません。ちょっと考え事を」

「ウルさんが人助けなんて意外だなー、とか考えてました?」

「へぁっ!?あ、いえそんな」



しまった。

図星過ぎて歴代1位の変な声が出た。

失礼な事を考えてたから、その負い目も反映されてる気がする。



「ふふふっ。分かり易いですね。ウルさんが怖い見た目してるのがいけないんですよ。ね?ウルさん」

「見た目はどうしようもないだろ、、。意外だと言われるのも、もう慣れた」



言われ慣れてるってことは、意外と優しいっていうのは仲間内では周知の事なのか?

ウルも故意に隠そうとしてるわけではないし、仲が良い人なら気付いても不思議じゃないか。



「ケイト、手が止まってるぞ。早く食べろ。食べ終わったらすぐに再開する」

「はい。お願いします」

「魔力の枯渇には気を付けて下さいね。命には関わりませんが、回復するまで動けないくらいの疲労感に襲われるので」

「、、、気を付けます」



昼食を終えてすぐ、体感にして3時間程魔術訓練をした。

出来るようになったのは、指を鳴らして手の十数センチ先に小さい火を出すのと、その火を拳大まで大きくするという地味なもの。

後は、不安定だが指の先から蛇口のように水を垂れ流すのと、腕の振りに合わせて小さい風刃をおこす魔術を使えるようになった。

風刃の威力は、ヒョロ長い草を数本切る程度だ。

いきなり風で岩を切断する自分の姿なんて想像出来るわけがない。


ウル曰く、これからの成長次第だがこのペースで上達していけば、10日程度で形成単語の訓練に移行出来るかもしれない、、、らしい。

その言葉を受けた俺の心の中は、純粋にワクワクする気持ちと、あんな唸りを上げながら立ち昇る火柱を自分で発生させるなんて無理だろうと思う気持ちが、半分ずつぐらいで(せめ)ぎ合っていた。

魔術を使うことに慣れていけば、感覚は変わるのかもしれないけど、、、。



(これから、どうなっていくのか、、、)



人生で一度は使ってみたいと思っていた魔術を初めて体験出来た今日は、想像していた興奮や歓喜とは違って、疲労と焦燥だけが残る日になった。

ウルと帰る途中、これからこの世界で生きていけるのかと考える頭の中は、いつの間にか自分が今いる世界を異世界だと認めてしまっていて、

半信半疑だった心は急造した歯車を無理矢理噛み合わせて、自分が転移者だという抗いようのない事実を強引に心へと落とし込んだ。

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