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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
八章
68/104

六十五話「剣の国-アルムハルト-」



工房からのそのそと出てきたのは、真ん丸で髭面の老人。

その体型、仕事着姿、煤の付いた頬のせいで、人間というよりドワーフに見える。

同じく異世界物のラノベの知識があったミシェに、この世界にはエルフやドワーフはいないと愚痴を言われたからこの老人もドワーフではないのだろうが、どうにも同じ骨格を持つ人間には見えない。

下り坂でコケたらどこまでも転がっていきそうだ。



「久しぶり」

「おぉ。そっちの二人はなんじゃ?」



丸眼鏡を下にずらして、胡乱げな目を向けられる。

それはいいんだが、なぜ体が当たりそうな程まで近付いてくるんだ。

自然、後退りしてしまいそうになる。



「私の友達」

「リビィです」

「ケ、ケイトです」

「ケ・ケイト?魔人は変わった名前を付けよる」

「違います!ケイトです!」

「なら最初からそう言わんか」



噛んだだけなのに悪態を吐かれた、、、。

何となく、苦手な伯父に似た雰囲気を感じる。

目線の高さは全く違うが。



「セジン。依頼」

「依頼だぁ!?見ろよこの修理依頼の数をよ。最低でも10日は見てもらわんと、ちとキツいぞ」

「明日には欲しい」

「それは無理だな。他を当たってくれ」



やはりここに並べられているのは、修理依頼の品々のようだ。

これだけ量があれば一日一つ直したとしても10日では終わりそうにないんだが、バオジャイが友達と言っていたし優先して仕立ててあげようとしてくれてるんだろうか。

流石に明日仕上げてほしいという無茶な要望は却下されているが、この老人、、、名前はセジンだったか。

セジンなりに譲歩はしてくれているように思える。

バオジャイは眉尻を下げて不満そうにしてるけど。



「ネイディアの雫」

「な!?手に入ったのか!?」

「ん」

「ひ、一口でいい!飲ませてくれ!」



バオジャイがネイディアの雫と一言零すと、セジンが血相を変えて迫った。

魔人域の、それも少量しか製造されていないお酒だと聞いていたが、ここまで雷鳴を轟かせているとは。

酒飲みの情報収集能力が凄いのかネイディアの雫が凄いのか、、。

音楽もアニメも有名どころしか見ようとしない俺には、そこまで必死になってマイナーなものを見つけ出す熱量は理解出来ない。

バオジャイの腕を掴んで揺らすセジン程、必死になれる何かは欲しいと思うけど。



「欲しい?」



赤べこのように首を縦に振るセジンを見て、バオジャイの口角が分かり易く吊り上がる。

あれは、間違いなく悪い事を考えている顔だ。



「ネイディアの雫をコップ一杯。その代わり、明日までに仕立てて」

「それはないぜお前さん、、。全部ほっぽらかして特急で取り掛かったとしても最低二日は、、」


ガンガンッ────


「お邪魔しま~す」

「ぉん?」



会話を遮った乱暴なノックとほぼ同時に入口の扉が開けられ、軍人の女性が入ってくる。

ハリーの幼馴染みであり部下でもあるあの人だ。

名前は、、、。



「ピノ」

「げっ。システィオーナさんもう居るじゃん」



そうだ。ピノだ。

短くてシンプルな名前故に、忘れてしまっていた。



「軍人がこんなところになんのようだぁ?」

「システィオーナさんに会いに来たんですよ~」

「どうだった?」

「今日はどうしても駄目みたいで、明日の12時に総統府まで来いって言伝を預かってます。総統から直接聞けたわけではないので、もしかしたら延期になるかもですけどね。これ、三人分の通行許可証です」

「ん。ありがとう」



という事は、明日の朝は移動時間と考えても、今日の残りは自由時間になるのか。

プリンは食べたけど流石にそれだけでお腹は膨れないし、そろそろお昼ご飯が食べたい。

魔人域では不味い料理に中った事はないが、武人域の料理はどうなんだろうか。

栄えているからといって料理が美味しいとは限らないもんな。



「じゃ。私は帰りますね~」

「ハリーにお金渡してるから、受け取って」

「え!?早く帰らないとハリーに全部取られる!!」



ハリーは真面目そうだしそんな事をしないと思うんだが、、、。

まあでも、ピノの面倒を見ている分を多めに取るくらいの事はしていいと思う。

嵐のように去って行ったピノを見送りながら、そんな事を考えた。






「明日の夜、それか明後日の朝くらいでよければ、依頼品によっては仕上げられるぜ」


そうだ、まだ交渉の途中だった。

扉に向けていた視線を、セジンとバオジャイに向ける。



「これ」



依頼品の設計図を見せてほしいというセジンにバオジャイが取り出してみせたのは、金属と皮で出来た、指先の尖った古びた篭手。

ボロボロとまではいかないがそれなりに使い込んだ痕があるし、パッと見たサイズ感は、バオジャイが着けるには明らかに大きい。

誰かのおさがりだろうか。



「こりゃあ、、リドラのじゃねぇか?」

「ん。仕立て直し」

「お前さんが使うのか?」

「ん」

「それは構わねえが、、」



リドラというのは、リドエルの名付けの基になった名前のはず。

確か、バオジャイの亡くなった父親の名前。

という事は、あの篭手はバオジャイの父親が使っていたものなのか。

旅の途中で聞いた話では、物心ついてすぐくらいの頃に父親は魔人域で殺されたという話だったが、どこであの篭手を手に入れたんだろう。

使用感はあるし、家に置いてあった予備、というわけでもないんだと思うが。



「間違いねえ。リドラの野郎が死ぬ間際に使ってたやつだなこりゃ。どこで手に入れた」

「魔人域。アストンに貰った」

「あいつ、、。しぶとく生きてやがったか」



セジンは吐き捨てるように言葉を発したが、表情はどこか嬉しそうだった。

曰く、バオジャイの父親と最後まで一緒にいたアストンという武人が、形見として持っていたのだそう。

ディベリア教徒と武人という許されない関係の二人とその間に産まれたバオジャイは、当時、敬虔なディベリア教徒である母方の実家の人間に追われていたそうなんだが、リドラを始めとした数人の犠牲を払ってバオジャイは命からがら逃げ切る事が出来たのだという。

アストンはその戦いの生き残り。

目立ってしまってはまたディベリア神聖国に目を付けられるかもしれないと、犠牲になった者達の遺品だけ回収して、武人域へ渡る為の申請をせずに魔人域で身を潜めていたらしい。

メヒトに呼ばれて俺達と合流する途中、たまたま助けた魔物に襲われていた男がアストンだったらしく、父親の形見を受け取る事が出来た、というわけだ。

あんな広大な魔人域でそんな偶然ある?と思ったが、偶然は起こり得ないと思える事だからこそ偶然と呼ぶ。

どんな奇跡的な事でも、あってもおかしくはないだろう。



「本当にいいんだな?」



セジンは、形見の大きさや使い込まれた名残りが無くなってしまう事を危惧しているらしい。

手の小さいバオジャイに合うサイズにするとなると今の三分の二程まで小さく仕立て直さないといけなくなるだろうし、革の破れた部分は新しいものに替えなくてはならない。

仕上がりはおそらく、サイズ違いの同じ商品のように見えてしまうだろう。

一度仕立て直してしまっては、もう元の状態に戻す事は出来ない。

バオジャイの心の内を見るようなセジンの確認は、目に見えない思いやりから来るものなのだと思う。



「ん」

「戻せねえぞ?」

「ん。もう決めた」

「ネイディアの雫二杯だ」



一から作るより仕立て直しのほうが大変なんだろうか?

セジンはバオジャイから提示されていた報酬を吊り上げた。



「ん」

「明朝に取りに来な」



どうやら、交渉は成立したようだ。

大好きなお酒を多く飲ませなくてはならなくなったというのに、バオジャイはどこか満足気な表情を浮かべている。

柔らかく、温かい笑み。

これは単なる予測だが、形見の篭手を仕立て直すというのはバオジャイなりの一つのけじめだったのかもしれない。

過去との離別、とまではいかないが、引き摺らないようにする為の、前に進む為の一手。

満足気な表情を見る限り、悪いけじめではないだろう。









「お腹空いたね」

「ん」


セジンの店を出てすぐ、三人で当てもなく歩いていると、伸びをしながらリビィが空腹を訴えた。

しんみりしかけていた空気が一気に変わった気がする。



「こっちではどういう料理が主流なんですか?」

「色々」



腕を組んで考えた後に齎された答えがそれだった。

あまり代表料理のようなものはないらしく、日本のように色々な料理があるらしい。


(もしかすると、、)


内心、期待を高めさせていた。

同郷の人間が知識を広めているというのであれば、前の世界で慣れ親しんだ料理があってもおかしくない。

旅の途中でリビィがシチューやローストビーフといった、こっちに来る前に食べた事のある料理を作ってくれる事はあったが、味付けはかなり違っていた気がする。

確実にリビィが作ってくれたもののほうが美味しかったんだが、そろそろ慣れ親しんだ味が恋しくなり始めているんだよな、、、。

頬が落ちる程美味しいものでなくてもいいから、郷愁を感じられるものを食べたい。

ターナー通りから飲食店街であるロンブルト通りに移動しながら、そんな事を考えた。




(ん、、?)




ロンブルト通りの一角で、嗅いだ事のある香りが鼻腔を擽る。

複数のスパイスが合わさったような匂いだ。

これはもしや、、。



「ケイト、この匂いって」

「多分そうですよね」



本格的過ぎて一瞬分からなかったが、これはほぼ間違いなくカレーの匂いだ。

匂いを嗅ぐ限りでは、それなりに美味しそうな気がする。

そう考えてしまったからか、完全にカレーを食べる口になってしまった。

きっと、今口の中にプリンを放り込んだらとんでもない違和感で脳が発狂するだろう。

慣れ親しんだ家庭的なカレーか、スープカレーかキーマカレーか。

どれにせよ、もうカレー以外の選択肢を持つ事は出来そうになかった。



「バオジャイさん。あのお店ってカレー屋さん?」

「多分そう。入る?」

「入りたいです!」



食い気味に言ったせいで、バオジャイに少し引かれてしまった。

食欲に忠実なんだ、仕方ないじゃないか。




「良い匂い、、」




店に近付く程に強くなっていたスパイスの香りが、店内に入ると一気に強まった。

魔人域にあったスパイスを使った料理のどれとも違う香り。

どんなカレーが出てくるのか、期待が益々高まる。



「どうぞ」



店員に案内された二階の窓際の席にかけ、文字のみのメニューから、おそらく自分が欲しているであろうカレーを注文する。

天窓から差し込んでくる光で明るいからか、天井に吊り下げられている灯油ランタンは火が灯されていない。

汽車や蒸気自動車が馴染んでいるなら電気を使った照明くらいならありそうだな、と思ったがそこまで文明が進んではいないようだ。

日本に於ける照明器具の変遷がどういうものなのか分からないが、吊り下げられているランタンはそれなりに精巧に出来ているように見えるし、その内電球へと変わっていくんじゃないだろうか。

魔人域は光石が便利なせいで電球なんて普及しなさそうだけど。



「照明、点けましょうか?」

「あ、いえ。充分明るいです。魔人域にはなかったので、気になって」

「魔人域ではどういう照明を使っているんですか?」

「光石という特殊な石に魔力を注いで照明にしてるんです。明るいんですよ」



光石は、LED照明並に明るい。

拳大のサイズであれば、真夜中でも10畳程度なら隅々まで照らせてしまう程だ。

一度買ってしまえば雑に扱って壊さない限り買い替える必要もないし、電気代のように定期的に使用料を払う必要もない。

考えれば考える程良いな、、。

日本でも魔力が存在すれば確実に普及する。

災害時には最適だろう。



「武人域にも、総統府や一部の建物では電灯というランタンよりも明るいものが使われ始めているそうですけど、私達が日常で使えるまでに普及するのはまだ先になりそうですね、、、」



どうやら、武人域には既に発電施設があるらしい。

おそらく、丁度今がランタンから電球への変移時期なんだろう。

まずは国の中枢で実験の意味合いを込めて使われ、高い値段で売られて、そこから時間を掛けて値段が下がり、一般にも普及していくのだと思う。

そうなれば、一気に異世界感がなくなりそうだな。

転移をしたというより、タイムスリップをしたと考えそうだ。



「おーい!トーナ!料理を運んでくれー!」

「あ、はーい!」



二階には客席しかなく、一階の調理場へとトーナと呼ばれた従業員の女性が料理を取りに行った。

どんなカレーが出てくるんだろうか、、、。

香りだけ良くて味が悪いなんてパターンはやめてほしいが、大丈夫かな。




「お待たせしました。田舎風カレーです」




トーナが運んできたのは、見覚えのある茶色いカレー。

大きく切られた野菜がごろごろと入っている。

田舎風カレーがお薦めだと言われた時に、おそらく食べ慣れたカレーが出てくるだろうと予測して注文したのが当たった。

野菜がごろごろと入っているこの感じは、何となく田舎感が出てるもんな。

都会でも食べられてるけど。

後は味だが、、、。


(カレーだ、、)


声に出すのは防げたが、この予測が当たった途端に語彙力がなくなる癖はどうにかならないものか。

流石に実家で食べたものと全く一緒、というわけにはいかなかったが、カレーと言われて想像する味と殆ど大差ない。

リビィやセナリが作ってくれる、新鮮さのある抜群に美味しい料理達も勿論好きだが、これはこれで懐かしい感じがして良い。

日本の食事が恋しくなって若干ホームシック気味になってしまうのは辛いが。



ほいひいね(おいしいね)



同じカレーを頼んだリビィも、幸せそうに頬張っている。

超美形のハムスターみたいだ。

俺はたかだか数か月ぶりだが、リビィにとっては何年か振りのカレーだもんな、、。

頬張りたくなる気持ちも分かる。

ホームシックになって気分を沈めない辺り、リビィは精神面が強いのだと思う。



「ん。美味しい」



バオジャイが頼んだのはスープカレー。

顔より大きいナンをちぎって浸して食べている。

美人二人が並んで美味しそうにご飯を食べている様子は、いつまでも見ていられるな。



「食べないの?」

「へ?あ、いえ。食べます」



ついつい食欲よりも優先して見惚れてしまっていた。

今は、久しぶりにありつけた素朴な味のカレーを堪能する事に集中しよう。










「この後はどうするんですか?」


昼食の後、武人域の共通貨幣への換金を終えて、時刻は16時過ぎになっていた。

まだ明るいが、陽が落ちれば街灯の無い路地裏なんかは暗くて通れなくなってしまうだろう。

そろそろ、宿へ向かったほうが良い気がする。



「宿」



過去最高に短いんじゃないかというバオジャイの返事を受け、行先を認識する。

まあ認識したところで、宿泊先の分からない俺とリビィはバオジャイに付いて行くしかないんだが。

漸く、屋内でゆっくり休める、、、。





「おや?システィオーナさん。お久しぶりですね」


イケメンだ。

紛う事なきイケメンだ。

訪れた宿の受付に居たのは、身長180cm後半の塩顔イケメンだった。

今まで見た同性の中で、一番綺麗な顔立ちをしているかもしれない。



「久しぶり。ココットさんは?」

「呼んできますね。少し、待っていてください」



イケメンな上に動きも優雅で、まるで芝居を見ているような感覚に陥る。

完璧過ぎて、無意識の内に視線を動かして粗探しをしてしまいそうになった。

危ない危ない、、。

どうせ粗探しをしても、自分の劣っている部分がくっきりと浮き彫りになるだけだ。



「あっらー!バオちゃん!久しぶりじゃない!」


(バオちゃん、、、?)


「久しぶり」


(バオちゃん!?)



呼ばれた名前が誰のものか分からずにいると、隣に居たバオジャイが反応して、思わず驚きで声を上げそうになってしまった。

バオちゃん、、。

そうか、うん。

確かにバオジャイという名前から取ればそのあだ名になりそうだな。

慣れるまでは笑ってしまいそうだが、何とか耐えよう。

笑った後の未来は簡単に想像出来てしまうからな。



「今日はどうしたの?遊びに?泊まりに?息子の顔を見に来てくれたの??ずっと心配してたのよ?あなたあんまり顔を出さないから。体調はどう?もうずっとこっちにいるの??」



バオジャイの知り合いだというココットのマシンガントークが止まらない。

ちなみに、息子というのは先程の高身長イケメンでキトー君というらしい。

若干15歳だそうだ。

嘘だろ、、、、、。



「落ち着いて。三人で泊まる部屋が欲しい」

「勿論いいわよぉ!急いで用意しないと!」

「母さん」

「夕食はどうしようかしら。腕を振るわないと──」

「母さん!」

「もう、どうしたの?急に大声出して」

「空き部屋、ありませんよ」

「え、うそ、、ほんと?」

「はい。ひと月先まで全部屋予約で埋まっています」

「あっっっらぁ~、、、、」



何だか、拙い気配が漂っている。

これは野宿フラグかな?

それとも、ここ以外にもバオジャイは泊まる場所の候補があったり、、、



「え、、」



うん。

無さそうだ。

今から急げば、日没までに仮説集落まで戻れるかな?



「困ったわね。どうしましょ」

「あの、とりあえず寝られる場所さえあれば大丈夫なんですけど、お部屋空いてないですかね、、?」



完全に思考が停止してしまっているバオジャイを見かねて、リビィが交渉に乗り出す。

なんならこの受付のスペースにベッドを出して寝るのでもいいんだけどな。

お風呂は入りたいけど。



「お部屋は全て埋まってるのよね?」

「はい」

「う~ん、、どうしましょう、、、あ。物置きなら大丈夫なんじゃない?ほら、屋根裏の」

「埃まみれですよ?」

「そこはホラ、ね?掃除をしてくれたらタダでもいいわよ?」

「する」



責任を感じているのか、ココットの提案にバオジャイが真っ先に返事をした。

最悪掃除を終えられなくても、寝るスペースから埃を追い出して防御結界を張れば、快適に寝る事が出来る。

予想していた寝床ではないが、野宿よりは格段に良いだろう。






「けほっ。凄いね」

「そうですね、、」


屋根裏部屋はある程度整頓はされているものの、ココットの言葉通り埃まみれだった。

口元にハンカチを巻いているが、ピッタリとフィットするマスクではないし、気休めにしかならない。

綺麗な寝床の確保の為だ。

頑張るか。



「げほっ!ごほっ!」



埃まみれの屋根裏部屋の掃除を何とか終え、咳き込み過ぎたせいで肺の付近が痛くなりながらも、久しぶりに屋内での睡眠を摂った。


余談だが、掃除を終えた後に食べたココットが作ってくれた夕食の唐揚げは、箸が止まらなくなってしまう程美味しかった。

もうダイエットは諦めようかな。









「話しておく」


朝。

朝食が出来上がるのを待っている間に、バオジャイに声を掛けられ、掃除したばかりの床へ三人で三角の形で座った。

どうやら宿泊の予約が出来ておらず屋根裏部屋に泊まる事になった事を反省しているらしく、これからの事を先に話しておこうと思ったそうだ。

一人で立てて大丈夫だと思った計画も、他の人が見れば粗が見つかるかもしれない。

そうなれば、事前に対応策を立てる事が出来る。

正直なところ、屋根裏で寝泊まりというのは一度してみたかったから全然怒っていないし、むしろ三人で掃除をするのは楽しかったんだが、せっかくバオジャイから歩み寄ってくれているんだ。

変に水を差すのはやめておこう。



「昨日言った通り、お昼にジーンに会いに行く」

「そこで聞くものによって、今後の事を考える予定ですよね、今のところ」

「ん。細かく決めるのは聞いた後。でも、大体の流れは決めてる」



ひとまずはジーンに住む場所を提供してもらい、そこに居られる間に三人で住める家を今居るアルムハルト、別名剣の国で探して数か月間はそこに住む。

その数か月間で武人域に慣れ、生活基盤を整えたら、各々が生きたいように生きていく。

バラバラになってもいいし、そのまま三人で継続して暮らしてもいい。

それは数か月の間に話し合って決める、というのがバオジャイの今後の展望らしい。

一見、問題が無いようにも見えるが、、、。


(ジーンに住む場所を提供してもらうっていうのがな、、、)


国のトップであるなら、きっと他の人には出来ないくらいの融通は利くのだと思う。

だが、この宿での前例がある。

寝床を確保出来ると安心し切っていたら、まさかの屋根裏部屋になった。

悪くはなかったが、想定外の事態であった事に違いはない。

ジーンに住む場所を提供してもらえると安心し切っていたら、同じ様な結末になると思うんだよな、、、。



「ジーンさんが住む場所を提供してくれない可能性はない?」



どうやらリビィも同じ事が引っ掛かっていたらしい。

やっぱり気になるよな。



「ない」

「じゃあ、紹介出来ない可能性はありますか?集落の人の受け入れ先が決まらないような状態ですし、ジーンさんが融通を利かせようとしてくれても物理的に無理な可能性もあるかな、と思うんですけど、、」

「んん、、、。無いとは言い切れない」



という事は、無理だった時にするべき事、頼るべきものを決めておかなくてはならない。

城壁前の集落でも良い気がするが、振られたばかりのセッタが気の毒だし、リビィが何かされるんじゃないかと心配になる。

防御結界を張ればいい話なんだが、泊めてもらっておいて結界まで張って警戒するのはちょっとな、、。

それに、魔力は出来るだけ使わない方向でいきたい。


ふむ。

どうするべきか。



「ここでこのまま泊めてもらうっていうのは難しいですかね」

「倉庫だから駄目。今回はたまたま寝るスペースがあっただけ」



普段はこの部屋に、予備の布団やら古い家具がもっと置いてあるらしい。

それこそ、寝る場所が無い程に。

本来の許容人数以上の客を泊めている宿屋が急増しているらしく、寝具や家具を一時的に貸し出しをしているそうだ。

それらがいつ戻って来るのかも分からず、貸し出しをしている宿からは、客が寝るスペースを確保する為に邪魔な家具類を預かってくれと頼まれていると、昨晩ココットさんから聞いたらしい。

本来ならそれが昨日の予定だったそうなのだが、たまたまずれ込んだおかげで俺達は屋根裏にあるスペースに泊まる事が出来た。

どこの宿も埋まってるとは、旅行シーズンか何かなのか?



「野宿」

「ベッドも食料もあるし、私も野宿でも大丈夫だよ」



なんだろうか。

女性陣のほうが圧倒的に逞しい気がする。

まあ俺も、野宿でも問題はないんだが。



「他の手のほうが良い気がするんですよね。結界張るのに魔力勿体無い気がしますし」

「安全なところがあるから大丈夫。武人域には魔物もいない」



それならずっと野宿でもいいんじゃないか?と考えもしたが、お風呂やトイレが問題だ。

魔力が回復出来る魔人域だからこそ湯水のごとく水を生成してそれらの問題を解決する事が出来たが、魔力の回復手段の無い武人域では別だ。

防御結界を張らなくていいとはいえ、毎日大量の水を生成し続ければ近い内に限界がくる。

すぐに宿の部屋に空きが出来ると思うけど、確実ではない。

こんな時、もっと適当な性格だったら楽になれるんだろうな。

真面目過ぎるのも考え物かもしれない。



「じゃあ、第一候補はジーンさんの紹介。第二候補は泊まれる宿を探す。それでも無理なら野宿。これでどう?」

「ん」

「異議なしです」



とりあえず、三つ策を立てておけば何とかなるだろう。

汽車の外に見えた景色に人が居ない地域はちらほらあったし、誰にも気付かれずに野宿をする事は可能そうだ。

問題は、もしそうなった時それがいつまで続くかだが、それは今考えても答えの出ない事だし、無為に頭を使う事もない。

本当は、絶対の安全策が無い事に不安を覚えているが、無難な言葉達で作り上げた安心で上塗りして必死に隠した。


(きっと大丈夫。何とかなる)


慣れない土地での不安を、そんな言葉で誤魔化して。

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