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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
七章
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六十話「数珠つなぎの仮説」



「この報告書を書き上げて中央司令部まで頼む。提出した後は直帰してくれて構わない」

「はッ!」


新しい外交官補佐長、シュトロイネ・ハイネケンへ書類を渡し、調査表を持って王都内の定期調査へ向かう。

ドルナードの件もあり、外交官の仕事を全て知り得る立場の人間を俺以外に作る事に反対する者も多かったが、ハイネケンの人柄を知る者の強引とも取れる推挙により、最終的には多数決により外交官補佐長という役職は無くさない運びとなった。

ハイネケンの身辺調査に時間が掛かり、実際に補佐長としての職務についてもらったのはドルナードの一件から半月が経った頃。

そこから更に半月しか時間が経っていない為まだハイネケンの評価は保留にしているが、三月後のユリティス王への報告は良い物が出来るんじゃないかと考えている。

ドルナードと違い、良くも悪くも裏表のない性格をしている分、隠し事は出来ないだろう。

隠し事が出来ないという事は、機密事項を洩らさないように気を付けておかないといけないという事なんだが、その辺りは徐々に調整していけばいい。

幸い、あれから一月が経ち、王都も落ち着きを取り戻してきた。

今程度の忙しさであれば、補佐達に重要な案件を任せずとも、その殆どを自身で管理が出来る。


クラムドがこれ以上何もせず大人しくしてくれていれば、今日のようにまだ陽が落ちる前に全員を帰す事が出来るんだが、、。

人の上に立つ事で愉悦に浸るあいつの事だ、教皇という立場を手に入れた今、たったの一月と少しで大人しくしているような事はないだろう。

後手に回る前に何をしようとしているかを見極めて備えておきたいんだが、それをする為にはあまりにもに情報量が少な過ぎる。

多少なりとも何かを掴んでいるであろうメヒトに聞けばこれからの行動を組み立てる事は出来るんだろうが、、、。

生憎、家に辿り着く為の魔道具はケイトに渡した分だけだ。


森の外、誰でも迷わず辿り着ける位置にあるポストに手紙を入れれば、中に仕込んだ転移魔法陣で家の庭にある別のポストまで届くとあいつは言っていた。

それなら以前送った手紙には気付いていると思うんだが、自分の興味の無い事であれば平気で無視をするやつだからな、、、。

まあ、そんな性格でないと勘当されてはいないか。





リーン───


「ん、、?」





ローブの内ポケットに入れていた鈴が小さく鳴る。

いつポケットに入れたのかも忘れてしまったが、これはメヒトに渡された魔道具だったはずだ。

確か、共鳴の鈴だったか。

何かあったかと急いで鈴を取り出し、人気のない路地裏へ移動した後に耳元へ近付ける。

移動中も断続的に鳴っていた音を符号として捉え、浮かび上がった言葉は〝迎え〟。

もう少し詳細を送れと思ったが、メヒトとの付き合いの長さであればこの短さであっても言いたい事は分かる。

メヒトが住む森の、王都へ一番近い位置。

そこにある大岩まで、俺を迎えに来ているんだろう。

手紙に書いた事で何か分かったか、それともメヒトの元へ届けた二人に何かあったか、、。

幸い、王都は落ち着いてきて数日程度なら休みを取っても問題はなさそうだ。

評価が保留中のハイネケンから目を離していいのかという葛藤はあるが、、、。



「行くか、、」



調査を補佐達の明日の仕事に回し、休みを申請して荷作りを済ませる。

メヒトから齎されるものが吉と出るか凶と出るか、それは分からない。

だが今は、行かなければ何も前進しないだろう。












「久しいね、ウル」

「ああ」


王城で勤める一部の人間しか知らない地下通路を通りやってきた、王都に程近い森の側にある大岩。

ここは、メヒトが今の家に移り住んでから、待ち合わせをする時にいつも目印として使っている。

共鳴の鈴では簡単な指示しか飛んでこなかったが、やはりここで合っていた。



「二人は今どこにいる?」



メヒトの家へ飛翔魔術で移動中、時折り襲い来るはぐれの魔物を片手間に屠りながら尋ねた。

仕事の事は到着後に腰を落ち着かせてから。

今は仕事には関係ない、個人的に気になっている事を聞いておこう。

メヒトへは技術や知識に関しては絶対の信頼を置いているが、対人の事となるとこいつ程不安要素がある人間も珍しいからな。

二人が無事だという確かな安心要素が欲しい。



「おや?」

「なんだ?」

「覚えているのかい?」



一瞬何の事か分からなかったが、会話の内容から読むに、その疑問が向けられるのはただ一点の事象へのみだろう。

この疑問を持つという事は、記憶魔術を使った事に関しては話しているようだな。

まあ、消したはずの自分達の記憶が残っている人物に出会ったのだから、話す流れになるのは不自然ではないか。



「、、、魔耐鉱かい?」



俺が思考に深入りしている少しの間に、どうやら自身で答えに辿り着いたようだ。

相変わらず、頭の回転が速い。



「そうだ」

「リビィ君が魔術を使うと分かっていたのかい?」

「確証の無いただの予想だったがな」

「ふふふ。流石私のライバルだね」

「思ってないだろ」

「どうだろうか?」



俺とメヒトは学生時代初期、周囲から同程度注目され事あるごとに競い合っていたが、一年もすると得意とする分野、成そうとしている事の違いに気付き、お互いをライバルと思う事がなくなった。

友人と言う程仲は良くないと思うが、尊敬はし合っている。

だがそれをお互い口に出す事はない。

つまるところ、当て嵌まる名称のないよく分からない関係という事だ。



「二人はもう私の元には居ないよ」

「、、何故だ?」

「置いておけなくなってね」



メヒトは、何もなく突然約束を反故にするような男ではない。

何かしらの理由がある事は確実か。



「クラムド君を覚えているかい?」

「ああ。教皇になってたな。忙しい中わざわざ会いに来てくれたぞ」



皮肉を込めて、そう話した。

今でも、思い出すだけで腹が立つ。

あいつの言動、行動。

学生時代から人を見下す癖はあったが、あの頃はまだ可愛げがあった。

家に来た時は可愛げの欠片もなかったな。



「ウルの所へも行っていたんだね」

「〝も〟?」

「私の所へも来たよ」



メヒトの家には腐愚民や武人、獣人は居ないはず。

クラムドがわざわざ訪れるとすればメヒトを戦力と称してディベリア神聖国へ引っ張る為だと思うが、、。



「名目は腐愚民を匿っていないかの調査。本来の目的は、私に立場を自慢する為だろうね」

「出向は命じられなかったのか?」

「それなら、私ではなく弟子が命じられたよ。今は広い家に一人さ」



この変人が弟子?

確かに、魔術への理解を深めるのが目的であればメヒト以上の適役はいないが、それを補って余りある程の奇行が多いというのに、、。

会った事のない人物へ失礼な寸評だとは思うが、おそらく師匠と同じく変人なのであろうと思わざるを得ない。



「あいつ、去り際に高笑いしただろう?」

「よく分かったね」

「俺もされたからな」

「そういえば、住み込みで働かせている獣人の子が居たね」

「ああ。獣人の血が入っている召使いなんかを何故家に置いているんだと、ご高説を垂れてきやがった」

「ディベリア教徒なら当然の考え方さ」



パブロ教皇が神王様へと成った時点で、セナリの危険を考えられなかったのは俺の失態だ。

今更そんな事を考えたところで仕方のない事だと思うが、あの時リビィとケイトの脱出案を出しただけで思考を停止してしまっていたのは、どうしても悔やまれる。

ぎりぎりまで情報収集に努め、対策を立てられていれば、クラムドが教皇となった事も、セナリに危険が及ぶであろう事も事前に知る事が出来ていたかもしれないのに。

一つ何かを解決すればすぐに思考停止してしまうのは昔からの悪い癖だ。

何度、先生に怒られた事か、、。

鉄拳制裁を喰らい過ぎて頭が変形するかと思った事がある程、同じ事を繰り返してきた。

激情に身を任せる癖と併せて、早急に直さなくてはならない。



「ディベリア神聖国の人間が調査に来るのは事前に掴んでいたからね、それまでは匿って、数日前には家を出てもらったよ。勿論、有事の際用に護衛と、今後も生きていく為の対策をした上でね」



メヒトが出向せずに済んだのであれば、クラムドが立ち去るまで隠して引き続き家に匿ってくれれば良かったのではないかと考えたが、隠すという一点だけに焦点を当てても、遭遇する可能性のある危険はいくつもある。

それに、実際に来るまでは自分以外に目的があるとは予測が出来なかったんだろう。

結界が幾重にも張られ、未知の魔道具が山ほどあるあの家で、家主が居ない中生活出来るとは到底思えない。

それら全てを考慮した上でメヒトが安全だと選んだ手段。

護衛を付けてくれたというから何かあったとしても問題はないんだろうが、メヒトが安心して護衛を任せられ、二人の立場を知った上で受け入れてくれる相手、、、か。

悪い予感がする。



「、、護衛は誰だ?」

「バオジャイ女史だよ」



もう痕すら残っていないはずの、背中の火傷が痛んだ。

護衛としては最適だろう。

今現在二人が向かっている場所の予測が当たっていれば、案内役としても最適だろう。


だがバオジャイか、、、。


未だに話を聞く度に痛む背中のせいで、どうにも苦手意識がある。

聖戦の時、怒りで暴れ回ったバオジャイを俺とメヒト、そこに対戦相手であるギルドラドを加えた三人で抑えたのは思い起こしたくない記憶だ。

抑えるだけなら俺の背中が焼け爛れるような事はなかっただろうが、当時の神王様や守護者達を守りながらという条件付きのせいで後手に回ってしまった。

三賢者に選ばれたばかりで天狗になっていた当時の俺の鼻っ柱を折ってくれたという点については感謝をしているが、それ以上の恐怖をバオジャイには持っている。

あの時に繰り出された魔術達は、思い出したくなくとも今でも鮮明に思い出せてしまう。

息継ぎする間もなく精霊魔術程の威力を持つ自家魔術を放つ様は地獄絵図と言う他ない。

遠目に見えていた口が開かれる度に、次は何がくるのかと背筋が凍った。


バオジャイの魔術の対象が自分であったならば、生きていられた自信はない。

そんな存在があの二人の護衛を務める。

怒らせなければ大丈夫だとは思うが、、、。



「バオジャイ女史は見境なく攻撃をばら撒くような人ではないさ」



俺の心情を感じ取ったメヒトがころころと笑いながらそう言ったが、覚えている不安はバオジャイに対するものではない。

いや、それもあるんだが、胸中に抱えるこの不安の大部分はメヒトに対するものだ。

自らの享楽の為に余計な事をしていないか、不安を募らせざるを得ない。

そうは言っても、メヒトに任せた時点で信用を置くという選択肢以外はないのだが。









「到着したよ」


日没から約一時間後。

漸くメヒトの家に辿り着いた。

いや、正確には辿り着いたらしい(・・・・・・・・)、か。

嘘を吐いているわけではないと思うが、周囲に家らしき建物は見受けられない。

相変わらず、埒外の出鱈目な家だ。





「随分散らかってるな、、」


久方振りに入ったメヒトの家の内部は以前とは違い、書類やよく分からない魔道具が散乱していた。

学生時代によく見た光景ではある。

だが、ここ数年は見違えるように整頓されていた。

同じように部屋に物が散乱していたユリティス王のように、メヒト自身が荒れているようには見えないが、、。



「最近は調べる事が多くてね。片付けてくれる弟子もいなくなって困っているところなんだよ」



メヒト曰く、そういう事らしい。

ここ数年で整頓されるようになっていたのは、あくまで弟子のおかげのようだ。

それもそうか。

学生時代教師陣や寮長から散々言われようと無視をし続けて研究に没頭していたこの男が、突然整理整頓が出来るはずもない。



「さて、と。何から聞きたい?」



書類の山の横にあった椅子に腰掛け、近くにあったメモ用紙に何やら書き込みながら、メヒトにそう疑問符を投げ掛けられる。

どれから聞くべきか。



「ディベリア神聖国が、集めた腐愚民を使って何か実験をしているという噂は知っているか?」



いくつか聞くべき事はあったが、信憑性のない噂だと聞かされていたこの話から聞く事にした。

この情報で何か得られるなら、むさ苦しい異形どもに囲まれ、頭痛に苦しみながら起きたあの時の苦しみも報われるだろう。

いくら情報が必要とはいえ、もう潰れるまで飲むのはやめておこう。

そう、心に誓わされた。



「半分正解。噂ではなく確証だね、その情報は」

「!そうなのか!?」

「嘘は吐かないさ。噂とはいえ、よく仕入れられたね」

「王都の情報屋から仕入れた」

「あのバーの?」

「そうだ」

「ふふふ。ご苦労様、と言うべきかな?」



本当に、苦労をした。

同じ様な情報提供の仕方にも拘らず、レミリア王国の情報屋とは雲泥の差だ。



「腐愚民を使って何をしてるんだ?」

「分かっているのは、腐愚民を連れ立って幻霊林へ行っていたという事だけ。その後、腐愚民の姿を見た者はいないよ。何の実験をしていたかまでは分かり得なかったね」



という事は、十中八九幻霊林で腐愚民を使った何かしらの実験をしたという事だろう。

連れて行かれた腐愚民達は犠牲になったか幻霊林に取り残されたかのどちらか。

幻霊林に取り残されたとしても、腐愚民のみではあの場所で生き延びる事もままならない。

そう考えれば、犠牲になったと断言してしまっても問題はないか。

後聞かなくてはならない事は、、。



「俺が以前送った手紙は読んだか?」

「監視者の自治領の件、だったかな」

「ああ。それについて分かっている事を聞きたい」



ゲリックが死に、ドルナードやその仲間を逃してしまった今、監視者の自治領の件については誰に聞けばいいのか分からない。

十二軍団の活躍によって過激派の勢力は抑えられているというから、もう以前のような騒動は起こらないとは思うが、過激派の連中を唆した後ろ盾は引き続き調査しておかなくてはならないと考えている。

おそらく、あの一件はあくまで計画の一端。

その奥に、何かが潜んでいる気がする。

確証こそないが、後手に回らない為には己が勘を多少なりとも信じる事が大事だ。



「過激派を唆した人物、もしくは組織がいる。というところまでは掴んでいるかい?」

「ああ。ディベリア神聖国辺りが怪しいんじゃないかと睨んではいるんだが、、、」

「〝ディベノ〟の名が気になる、と」

「そうだ。ディベリアとディベノ。似ているとは思うんだが、それだけで結び付けるというのは早計だろう?」



ディベリアを男性名に変化させたものがディベノ。

だが、ディベノという名前自体が珍しいものではない。

それ故に、過激派とディベリア神聖国が繋がっているといまいち決め付けられずにいる。



「あの手紙の後、得られた情報を聞かせてほしい」

「分かった。実は──」



国家機密に中るものだと分かっていながらも、ゲリックを尋問した日の事を事細かに話す。

繋がりを持つ者すら数える程しかいないメヒトの事だ。

誰かに情報を洩らす事はないだろう。

それでも洩れてしまった場合は、潔く罪を受け入れよう。

メヒトを一度殴った後で。



「成程。ゲリックがディベリア神聖国と繋がっていて、それを指示していたのは外交官補佐長。話を聞く限り、口封じ兼逃げる為の時間稼ぎの為に、ウルに尋問させた可能性が高いね」

「そうだろうな」



俺が尋問を担当すれば、

・ドルナードが逃げる隙が出来る。

・腐っても団長であるゲリックを安全に屠る事が出来る。

それ以外にも利点はあるんだろうが、その二点の為だけでも奴らにとって充分過ぎる程の良策だったと言えるだろう。

だが、本来であれば監視者の自治領の調査について纏めたあの書類に目を通すのは俺の役目ではなく、ゲリックの上司であるシェリルの役目だった。

つまり、第零部隊を出向させた時点で、あの結末を読んでいたのかもしれない。

そしてそれ以後。

ユリティス王が荒れる事も、俺が気遣ってシェリルの分の仕事を請け負うのも、全て読んでいた可能性もある。

推測がどこまで当たっているかは分からないが、少なくとも俺より何手も先まで読んで先手を打たれていたであろう事は確実だ。

となれば、第零部隊を出向させたクラムドが一連の計画に関わっているのは確実。

教皇であるクラムドが関わっているとなると、、、。


(一体、どこまで深く根が張っているんだ、、、)


ディベリア神聖国の全体が、シルム王国へ根を張っている可能性が高い。

その実態によっては、俺一人では到底手に負えない問題になってくる。

神王様という後ろ盾がある限り、クラムドや聖魔術士に手を出す事は出来ないが。



「まだ仮説であまり話したくはないのだけれど、おそらく、ウルの予想で合っているよ」

「俺の予想?」

「ディベリア神聖国と、ディベノは同一である」



メヒトから齎された仮説は、全ての疑問が一纏めに吹き飛ぶもの。

そうであれば新しく可能性を潰していく必要はないと思っていたが、実際そうなるとは思いもしなかった。

だが、どうしても素直に受け止める事が出来ない。



「ディベリア神聖国が神と崇めるのはディベリアのみだろう?ディベノという信仰対象がいるという話は聞いた事がないが、、」



この世界では信仰まではいかなくとも、神の存在を信じている存在は多くいる。

だが、それはあくまで縋るべき対象、名も無き偶像だ。

そんな曖昧なものであっても、監視者が零した〝ディベノ〟の名は、自らが作り出した偶像に付けた名前だと決め付けるほうが適していると思える。

それ程までに、ディベリア神聖国の信仰というのは絶対。

もし監視者がディベリア教徒なのだと仮定すれば、死ぬ間際であっても信仰する神の名前を間違えるなど有り得ない。




「まず〝ディベノ〟という名前は、この本に出てくる巨人の名前ではないかと推測している」


そう言ってメヒトが差し出してきたのは、劣世界の文字で書かれたあの本。

ディベノと書かれているらしい位置を指差しているが、勿論俺には読めない。



「ディベリア教の始まりは不自然なんだよ。どの資料を見ても、突然ディベリア教という宗教が出来上がり、初めから教徒が数千人~数万人居たと記載されている。おかしいと思わないかい?過去にあった巨大な宗教国家であるネイディアでさえ、信徒が増えていくまでかなりの時間を要したというのに」



ディベリア教の起源は詳しく覚えていないが、十万年以上昔だったはずだ。

今のように、一つ所に多くの人が集まって生活していない程の昔。

その時代に、初めから同じ思想の人間を数多く用意出来るというのは、メヒトの言う通り違和感を覚える。



「考えられるのは、何らかの方法で集団を洗脳したか、元々あった宗教の名を変え、ディベリア教の起源としているか、だね」

「その元々あった宗教の信仰する神の名がディベノじゃないか、という事か?」

「その通り。流石だね」



元々、ディベノ教というものがあり、それなりに人数が集まったところで何らかの出来事があった。

それにより、信仰する神の名をディベノからディベリアに変え、それをディベリア教の起源とした。

そのせいで、ディベリア教には最初から多くの教徒が存在している、と。

まだ精霊魔術が広く知られていない時代。

集団を洗脳したという過去よりは、まだそちらのほうが信憑性がある。



「もしそうだと仮定したのであれば、ディベリア教の起源の規模を考えると、ディベノ教が出来たのはそこからさらに数万年以上は前じゃないかと推算しているんだよ。そんな時代に確かな思想と名前を持って宗教が出来たのであれば、崇めていた対象は偶像ではなく実際に存在する人物だったんじゃないかな?誰かが作り上げた偶像を信仰する人達が集まっていったわけではなく、ディベノの名を持つ人物が自ら各地へ渡り歩いて自分の教えを説いたほうが、確実に信仰心は集め易いからね」



メヒトの言う事は確かになと思わされるものだった。

だが、もしディベノなる人物が自らの考えを説いて回ったというのであれば、初めの数人、多くとも二桁の教徒へ教えを説いただけで生涯を終えるだろう。

寿命のない存在に覚えはあるが、、。



「そのディベノとやらは腐愚民なのか?」

「おそらく違うね」



歳を取らない腐愚民であるならば当時神聖視されても不思議ではないと思ったのだが、どうやら違うようだ。

それならば、仮説の矛盾点をどう解決するのだろうか。



「一人の人間であれば、魔人であろうと武人であろうと教えを説き続ける事は出来ない。けれど、ディベノというのが受け継がれる名前だとすれば?」

「寿命が来る前に別の人間にディベノを名乗らせる、という事か」

「その通り。襲名制の神、という事だね」



それならば、問題なく矛盾も払拭する事が出来る。

一人の人間を信仰するというよりは、ディベノと名乗り、教えを説く人物を信仰するといった形か。

話だけを聞けばそれを信じて付いて行く者達は随分滑稽なようにも思えるが、そうしたいと思える程の何かを感じたんだろう。

信用が信頼になり、信敬となって信仰へと変わっていったと考えれば、俺がユリティス王に抱いているものも、然程遠くないのかもしれないが。



「その本、【世界の成り立ちと 英雄達の物語】によれば、神の鉄槌を受けた巨人達の破片はその一つ一つが意思を持った生命体になったのだという。その生命体のいくつかに巨人だった頃の記憶があるのだとすれば、巨人一の切れ者だったというディベノが生まれ変わり、自らを神と名乗り、教えを説いている。そう考えれば、古来から明確な意思を持って宗教を広めようとした人物がいるのも、疑問ではなくなると思わないかい?」

「この本は実話なのか?」

「私の推測では十五万年~二十万年前。実際にあった出来事ではないかと考えているよ」



俄かには信じ難いが、メヒトの言う事なのであれば何らかの根拠があるのだろう。

仮説や仮定ばかりとはいえ、一応筋は通っているように思える。



「随分話が脱線してしまったけれど、こういった仮説達から、ディベリアとディベノは同一ではないか、と私は考えているんだ」

「なるほどな。それ故に、監視者とディベリア教が繋がっているという俺の予測は合っている、か」

「そうだね。大方、自分達の手を汚さずウルを殺める、それが叶わなくとも足止めをするという目的だったのだと思うよ。確か、レミリア王国での貴族への交渉は失敗したと言っていなかったかい?」

「ああ。そこまで時間は食わなかったと思うが、まんまと策略に嵌まってたわけだ。それ以前もそれ以後も、行く先々でトラブルに巻き込まれる事は多かった」

「推測が当たっていれば、全てディベリア神聖国の仕業だろうね」



シェリルと共に各地を飛び回っている際も、道中そこに居るはずのない魔物や盗賊に襲われたり、助けざるを得ない身分の高い人物が居たりと、今考えれば不自然な事が多かった。

そして、それを経て訪問した先では悉く交渉が決裂している。

俺はあの数か月、ディベリア神聖国の手の上で転がされていたんだろう。

いや、もしかするとそれ以上前から。



「とはいえ、こんな仮説だらけの状態では、捜査へ乗り出す事は出来ないだろうね。クラムドの権限は今、魔人域で一番。下手に動くと潰されかねないよ」

「それもそうだな、、、。結局、振り出しか、、」



有益な情報は得られたと思う。

だが、それ故に強く突き付けられた。

この一件に関してはこれ以上どうしようもないという絶望を。


元老院に通ずる貴族達がディベリア神聖国と懇意にしているのだとすれば、敵は多方面と考えていたほうがいいだろう。

俺一人、メヒトを加えて二人になったとしても出来得る事は限られてくる。

かといってシルム王国全体を動かそうとすれば、計画の段階でどこかに潜っているであろうディベリア教徒に勘付かれる可能性がある。

ドルナードの一件以来、ディベリア神聖国の潜入工作員を炙り出そうと尽力をしているが一人一人を尋問するわけにもいかず、信用出来る一部の人間にある程度の人数の監視を託して時間を掛けて行っており、全国民の身の潔白が証明出来るのは、いつになるのか分からない。

これからどうするか、、。



「そういえば、レミリア王国へディベリア神聖国の人間が出入りしているのは知っているかい?それも、それなりの立場の人間の」



レミリア王国でも、腐愚民炙り出し計画が行われた事は知っている。

だがメヒト曰く、どうやらそれ以外の目的でディベリア神聖国の人間が出入りをしているらしい。

腐愚民炙り出し計画からは一月以上経っている。

未だ計画が完遂していないという事はないだろう。

つまり、何か裏で動いている、という事か。



「私は諸々の調査の為、レミリア王国へ行こうと思っている。もし、相手に気付かれずに調査をしたいのであれば、同行するかい?」



願ってもいない申し出だ。

個人で転移魔法陣を持つメヒトであれば、ディベリア神聖国に勘付かれずにレミリア王国へ入り、調査をする事が可能だろう。

そうすれば、何か企んでいたとしても先手を取る事が出来るかもしれない。



「ああ。頼む」



ハイネケンには悪いが、王都での仕事は押し付けさせてもらおう。

怒られるだろうが、先生にも頭を下げておかないといけないな、、。

今度こそ、後悔をしないように。

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