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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
七章
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五十九話「蔓延る不可視の姦邪」



「入れ」


騒動の翌日。

一連の出来事の報告を終えた俺は、二つの現場にある遺体の第一発見者である事から嫌疑を掛けられ、出廷していた。

本来なら徹底的に否定をし、出廷を固辞するところではあるが、罪を犯した者をみすみす取り逃がしたという事、自身の詰めの甘さ故にディベリア神聖国に情報を流させてしまっていた事を知って無気力になっていた事もあって、言われるがままにこの場に来ている。

あった事をそのまま伝えるつもりではあるが、証拠不十分で罪に問うと言われれば抵抗せずに受け入れてしまうかもしれない。

それ程、今は無気力が全身に満ち満ちている。

己が罪も、正直に陛下へ報告しよう。



「枷を外し、退出しろ」

「し、しかし、、」

「備えはしてある」

「はッ!」



法廷には裁判官や書記官の姿はなく、法壇にユリティス王の姿があるだけ。

俺を連れて来た二人の兵士も、命じられた通りに枷を外して、その後速やかに法廷を出た。

こうして被告人として法廷へ来るのは初めてだが、今まで、一度たりともこんな光景は見にした事はない。

これから始まるのは、裁判ではないのか、、?



「ウル・ゼビア・ドルトン。包み隠さず、全てを話せ」



主観を混じえず、下を向いたまま一連の出来事を全て話す。

報告書に違和感を覚えた事、国軍兵を名乗る二人から情報を聞き、ゲリックを尋問した事。

黒幕の存在、計五名の死。

話の最後は少し、何も出来ずにいた自分への悔しさが声に乗ってしまったかもしれない。

一日跨いでいるというのに、それでも尚、思い出す度にその時に得た感情が鮮明に思い出せる。

頭の中では未だに、他に誰か裏切者がいないか探す事で手一杯になっていた。



「───以上です」



事のあらましを端的に話すだけの時間は数分で終わり、後は言い渡されるであろう判決を聞くだけとなった。

ユリティス王自ら法壇に居るというのであればいつもの裁判とは違う形式ではあるのだろうが、刑罰を科せられるという点は、おそらく変わりないだろう。

故意ではなくとも、情報漏洩の罪というのはそれほどまでに重い。



「ウル。判決を下そう」



分かっていた事ながら、実際判決を下される直前までくると、その緊張感で息を呑んだ。

願うのは偏に、今後、期間が開こうとも最後にはユリティス王へ仕える権利を有する処罰。

情報漏洩の一端を担っておいて都合の良い話ではあると思うが、判決が下されるまでの間くらい、胸中を希望で満たしてやろう。







「三日間の休息を命ずる」







視線は下に向けたまま、唖然として声を失った。


与えられるのは罰、ではなかったのか、、?


休暇は、全て片付いた後に欲しいとユリティス王に願ったもののはずだ。

少なくとも、現状でそれ程の休みを貰って、残る外交官補佐達のみで仕事を消化出来るとは思えない。

いや、それは刑罰を科せられた場合でも同じか。



「顔を上げよ」

「はッ!」



顔を上げ、切り替わった視界に映ったのは、楽し気に口角を上げるユリティス王。

その顔は、とても罪人に向けるもののようには思えない。



「立場が逆になったな」



一瞬何の事か分からなかったがおそらく該当するのは、俺が私室で項垂れるユリティス王の下を訪問した時の事だろう。

今の俺は、あれ程までに暗く落ち込んでいるのか。



「何か思い違いをしているようだが、お前は何の罪にも問われていない。尋問室で息絶えていた三人の死因、外交官補佐の死亡時間の調査が終えたからな。安心しろ。無罪だ」



得られた温情は嬉しかったが、無罪と言われようと俺の心情が晴れる事はなかった。

五名の被害者に俺が手を下していないという事は、シルム王国の技術があればすぐに解明出来るだろうと分かっていたからだ。

現状、懸念しているのはその事項ではない。

俺が罪に問われるとすれば、情報漏洩の件だ。

ユリティス王はそれを加味した上で無罪だと言っているのだと思うが、、、。



「陛下。お言葉ですが、情報漏洩に関する罰は免れないと思われます。それも含め、無罪という事でしょうか?」

「その通り。お前の事だ。ドルナードがディベリア神聖国と繋がっている事を気付かずに重要な案件をいくつも任せてしまっていたと責任を感じているのだろうが、それは筋違いだぞ?ドルナードが外交官補佐長の座に着いたのはお前が来る前。任命したのは私だ。裏切りを見抜けなかったというのであれば、その罪を問われるべきはお前ではない」

「で、ですが、、、」

「異論は認めん」



ドルナードは俺がユリティス王に仕える数年前から、外交官補佐長の任を与えられている。

もしその頃からディベリア神聖国と繋がっているというのであれば、ユリティス王の言っている事もあながち間違いではないのかもしれないが、己が罪を主君に庇わせてしまっている気がしてならない。

だが、ユリティス王の瞳には確固たる意志を感じる。

おそらく、何を言おうと折れてはくれないだろう。

それならば、甘んじて受け入れよう。

主君の慈悲を。



「寛大な措置、痛み入ります。無罪に至ったお考えは理解しましたが、三日間の休息というのは一体、、」

「説明しよう。入れ」

「はッ!!」



法壇横にある扉の向こうから、部屋の中に響き渡る張りのある返事が聞こえた。

この声、聞いた事がある。

いつだったか、懐かしい声である事は分かるんだが、、、。





「先生、、、」





豪快に開かれた扉から入って来たのは、先代の外交官であり、俺に仕事のいろはを教えてくれた人物。

ファームデヒド・ゼン・グノービオ。

純血の魔人なのにも拘らず殆どの事案を自慢の筋肉で解決するという、脳まで筋肉で出来ていそうな人物なんだが、その頭脳は驚く程に冴え渡る。

外交官になって五年以上経つが、俺は未だに先生の教えを全う出来ないままだ。

仕事の引継ぎを終え、余生を楽しむと王都を出て行ったはずだが一体何故、、。




バシンッ───!!


「───ッ!」




ユリティス王に礼をしてから真っすぐに俺の元へ向かってきた先生に、頬を強く叩かれる。

脳が揺れる感覚がした。



「今のは、激情に身を委ねて大事な犯行の証拠を燃やした分だ」

「せんせ───」


バシンッ───


「そして、いち家臣如きが自身の感情を優先し、陛下へいらぬ配慮をさせた分である」



左右に一つずつ。

強く力を込められた平手打ちをされた。

添えられた言葉を理解すると、その重みは実際のもの以上に感じられる。



「その痛みを忘れぬ事。感じたものを忘れぬ事。そして、私が王都を去る前、外交官の職を託す時。お前に与えた言葉を覚えているか?」

「偉大なる王に仕える家臣たる者、常に冷静であれ。主君の心が乱れた時、戻るべき場所より手を伸ばせる存在であれ。決して(ごう)に飲み込まれてはならない」

「よろしい。お前はその教えを守れていたか?」

「、、、いえ。申し訳ございません。先生」

「分かっているならば良い。だが、謝罪を告げるべきは私ではない」



先生が数歩横へずれ、開けた視界の先にはユリティス王が映る。

支えとなるべき存在の俺が、いつの間にか甘えてしまっていた。

一切の自覚のない内に。

先生の平手打ちで、それを漸く理解する事が出来た。

今は、初めて謁見した時のような初々しい心情で、ユリティス王を見る事が出来ている。



「陛下。ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ございませんでした」



一連の出来事に関して、感情に任せて行動してしまった事を心から謝罪した。

目に映るのは床の木目のみだが、心なしか、先程よりも晴れ晴れとして見える。

先生のおかげで初心を取り戻す事が出来たからかもしれない。

平手打ちをされた頬は今もズキズキと痛むが、不思議と嫌とは思えなかった。



「流石だな。ファームデヒドよ」

「お褒めに預かり光栄です、陛下」



ユリティス王と先生。

俺が頭の上がらない、数少ない対象の内の二人だ。

その二人が揃ってしまっては、自分の思考や感情を優先しようという気持ちなど、起きようもない。



「顔を上げよ」

「はッ!」

「先の発言通り。ウル、お前には三日間の休息を与える。その期間で熱くなり過ぎた頭を冷やし、王都の現状をよく見て回れ」

「はッ!もし願えるのであれば、本日中に片付けなければいけない案件だけでも処理しておきたいのですが、、」

「お前に出来る事が、私に出来ないとでも思っているのかい?」

「、、、いえ」



この二人には、何を言っても負かされる自信がある。

突き付けられた言葉通り、口頭での簡単な引き継ぎだけすれば先生は俺以上の質、速さで仕事を熟すだろう。

俺が心配する事は、もう何もないか。



「三日間の休息、有り難く頂戴致します」

「それでよい。ファームデヒド、頼んだぞ」

「はッ!この老骨めにお任せくださいませ」

「無意味に筋肉を見せつけてくるのはよせ。暑苦しい」

「申し訳ございません。癖になっておりまして」



先程までの暗い雰囲気はとうになく、法廷の中は温かい空気で満ち満ちていた。

もう随分前に一人前になったと思っていたが、どうやら俺はまだまだ半人前だったようだ。

ユリティス王から頂戴した三日間。

有意義なものにしなくてはならないな。



こうして俺は、予期せず三日間の休暇を得た。

ドルナードを始めとした三人の指名手配は国内全土に行き渡り、ディベリア神聖国へも使者を送り、協力を仰いでいるそう。

まあ、ディベリア神聖国が捜索に協力するとは到底思えないが、、。

今は少し、残された部下と先生に仕事を任せて体と心を休めよう。










「朝だよ!起きな!!」


翌朝。

自宅には帰らずに、久しぶりに一人で泊まったネムの宿で朝を迎える。

ここ最近は一人で今より早い時間に起きられていたんだが、今日は起こされる直前まで夢裡の住人だった。

久し振りに、深く眠れた気がする。

その分体は怠いが、これくらいは甘んじて受け入れよう。



「おはようございます、ネムさん。昨日は突然すみません」

「本当さ。いつまでも迷惑な子供のままだねあんたは」



昨日も同じように怒りながらも、温かく迎え入れてくれた。

餓鬼の頃に世話になった人達には、未だに世話になるばかりだ。

いつか恩を返さなくてはと思っているが、その度に恩が増える。

この不器用さ、どうにかならないものか。



「今日はどうすんだい?部屋は空けておくのかい?」

「はい。今日明日と泊まる予定です」

「仕方のない、、」



暴動の件もあり部屋があまり埋まらず、昨日、ネムの宿は閉める予定だった。

俺がそれを知ったのは泊まる事が決定した後。

今も、俺以外は朝食の場にいない。

宿に泊まっているというよりは、知り合いの家に転がり込んだという感覚のほうが近いか。

少し、多めに宿代を払っておこう。

、、払い除けられる自信しかないが。







「あー。三賢者の人だー」

「こら!指差しちゃ駄目でしょ!申し訳ございません。娘が失礼を、、」

「いや、構わない」


久し振りにゆっくりと歩く王都。

王都に来れば殆ど王城から出ずに仕事をしていたせいだろう、目に飛び込んでくるもの全てが新鮮に思える。

行き交う人々、立ち並ぶ店々。

どこで見ようが変わらないはずの空でさえ、いつもと違うものに見えてくるのだから不思議なものだ。



休みではあるが、ただただ無為に三日間を過ごす気はなかった。

今から王都を散策し、神王様の代替わりが与えた影響をこの目で確かめる。

そうすれば、戻った後にどの仕事から先に手を付ければいいか、優先順位が立てやすくなるだろう。

自分のするべき事に手一杯になっていた俺は、そんな事は考えずに今まで目の前にある対象とだけ格闘してきた。

外との繋がりを築くべき外交官が、自国の事すら理解が出来ていないとは。

先生に平手打ちをされても仕方がないな。

残された外交官補佐達が、先生の筋肉の餌食になっていなければいいが、、、。



「まず初めに向かうべきは、、」



情報収集をしようと考えつつも、その前に行きたいと思っていた場所へ足を向ける。

激動に一区切りをつける為、自分の目で確認しておきたいものがある場所。

国立集合墓地へ。




「ローグ・ライ、、、レイ・マンソンジュ、、、。確かに、名前が刻まれている」


訪れた墓地にある巨大な石碑の碑面には、数日前に亡くなった団員二人の名が確かに彫られていた。

ゲリックの遺体は色々と調べる必要があり、火葬されるのが遅れ、今はまだその名が刻まれていない。

ただ単に暴動に巻き込まれた事が死因だと考えられていた二人の団員に関しては、今回の一件を踏まえてディベリア神聖国が何か関わっていると考えられ、既に終えていた捜査が再開している。

何か、王城に忍び込んでいた二人に関する情報がある事を期待して。



「無念を、必ず晴らすと誓おう」



碑面に刻まれた二人の名前を指でなぞり、そう零した。

どういう状況で襲われたのか、命を落としたのかは分からない。

だが、ディベリア神聖国の手の者によって殺されたのだと当人達が知っているのだとしたら、その犯人達がのさばっているというのは耐えかねるだろう。

それならば、必ず捕まえて然るべき処罰を受けさせる事を約束しておこう。

姿を消した、ドルナードも含めて。




「三賢者の、、ドルトンさん、ですか、、?」




目を閉じて黙祷していると、身重の女性に話し掛けられた。

花束を持っているところを見ると墓参りをしに来たという事に間違いはないんだろうが、話し掛けられたにも拘らず名前が分からない。

だがまあ、顔見知りでなくとも、立場上それなりに顔と名前は知られているか。



「そうだ」

「夫がいつもお世話になっております。ムー・ゲリックの妻です」



齎された事実に、表情を固めて言葉を失ってしまった。

ゲリックの妻が、花束を持ってこの場所に居る。

まず間違いなく、旦那の訃報を聞いてここへやって来たのだろう。

別段不思議な事ではないんだが、ゲリックの最後を看取った事もあり、この場所で居合わせるのは少し気まずさが感じられた。

自ら殺めたわけではないのだから気にする必要はないんだが。

いや、罪を暴いてドルナードの名を言わせようとしたという点を加味すれば、俺がゲリックの死に関わった事になるのか。



「夫は何かとんでもない罪を犯し、それを唆した相手に殺されたと聞きました」



ゲリックの死因を家族に伝える事が、どれだけの影響を与えるか考えなかったのか、、。

実際に伝えたのが誰か、復帰後に調べて忠告をしておかなくてはならない。

今回は特に、下手に探られれば国家機密に関わる案件だ。

もう少し、この国の情報管理について考えなくてはならないな。

簡単にケイトに機密を教えていた俺が言える事ではないと思うが。



「ドルトンさんには、夫の、、、十二軍団団長の最後を看取っていただいたと聞きました。どのようなものだったのか、お聞かせ願えないでしょうか、、」



ゲリックには、正直なところ良い感情を抱いていない。

主君や仲間を裏切り、自身の利益を取った。

そんな相手に良い感情を抱くなど、土台無理な話だ。

だが、何の罪も犯していない家族に、それは関係のない話だろう。

良く思っていないとはいえ、死んだ後くらい、悪く言わずにおいてやるか。



「最後は、職務を全うしてこの世を去った。立派な最後だったと言えるだろう」

「ありがとう、、ございます、、ううぅ、、、」



嘘は吐いていない。

裏切り行為をしたゲリックだったが、最後はきちんと義理を果たした。

残された家族は、その点だけを知っておけばいい。

他界した父の、立派な最後だけを。

大粒の涙を流す母を慰めるのは、身籠っている子供に任せよう。


泣きじゃくる声を背中に受けながら、俺は墓地を去った。

ゲリックの名前が碑面に刻まれれば、また来るか。




残り、するべき事は情報収集。

確実に良い情報が得られるであろう場所は思い浮かんでいるが、、、、行きたくないな。














「いらっしゃい。あっらあ!!久しぶりじゃないウ・ル・ちゃ・ん♡」


これだから来たくなかったんだ。

路地裏にひっそりとあるバーの扉を開けてすぐ、この場から去りたくなった。



「ちょっと~!なんで扉閉めるのよ!!」



あまりの嫌悪感に、無意識の内に扉を閉めてしまっていた。

扉を開けて強引に俺を中に引き入れたのは、筋骨隆々の体に女児が着るようなワンピースを纏って厚化粧をした男。

年齢は俺よりいくつか上だったはずだ。

そんな化け物が、三人。

この店には居る。

どれもこれも、数秒たりとて目を合わせたくないような異形ばかりだ。

それにも拘らず、この店は酒が美味い事で知られており、まだ明るい時間だというのにちらほらと客が来ている。



「今日は何を飲むのかしら~?♪」



いちいち体をくねらせないと話せないのかこの異形は、、、。

だがまあ、今から得られるのが良質なものだと信じてここは溜飲を下げよう。



「ピリロフォリエスをくれ」



注文を受け、緩み切っていたマスターの顔が少し引き締まった。

渋くて悪くない顔だと思うんだが、如何せん厚化粧が邪魔をするな。

真っすぐに向けられる視線を見ていられず、つまみとして出された手元のナッツに視線を落とした。



「今あるのはそうね~、、、。青が2、緑が1と赤が1ね」



ピリロフォリエスは酒の名前ではない。

これは情報を買う時に使う隠語。

その情報によって、色が振り分けられている。

青はもう知っているかもしれないもの、緑は信憑性の低い噂、赤が血を伴うもの。

他にも色はあるが、今ある情報はこの三種らしい。

一つ頼む度に度数の高い酒を飲まなくてはならないという面倒事のせいで、ここに来る度に潰される。

だが、4杯程度なら問題はないか、、、。



「順番に全部くれ」

「か・し・こ・ま・り♡」



注文を受けるのにウインクをする意味が、どこにあるというのか、、、。

質の良い情報を得る為とはいえ、先生にはもう少しマシな店を教えてもらいたかった。



「お待たせ~♪ピリロフォリエスの青、一杯目よ♪」

「ああ」



マスターの表情が切り替わる。

真面目な表情のはずなんだが何ともな、、、。



「シルム王国軍の第零部隊がディベリア神聖国へ出向したという話は聞いてる?」

「ああ」

「そう。じゃあ一杯目は無駄になったわね。二杯目を入れるからぐびっと飲んでちょうだい♪」



言われた通りに、背の低いグラスに入れられた青い酒を飲み干す。


(相変わらず度数の高い酒だ、、)


味はかなり美味いんだが、喉の熱さでそれを忘れさせられる。

いつもより飲み干すのが辛く感じるのは、長く禁酒をしていたせいか。



「はい、次は赤ね。王都にあるディベリア教の教会の司祭に大怪我を負わせた男が居たの。その男が五人家族なんだけど、全員何者かに殺され、切られた首を教会前に晒されてたそうよ。私も噂の確認の為に自分の目で見に行ったから間違いないわ。犯人は捕まってないみたいね」



話を聞いてから見た赤色のピリロフォリエスは、血の色に随分近いように思えた。

おそらく、今日休むような事がなければ書類の何処かに記載はされていた情報なんだろうが、ここに来ずに復帰をしていれば暫く知らない事だっただろう。

ほぼ確実に、事件の犯人はディベリア神聖国の手の者。

それも、時期を聞く限り二人の団員を殺めた者と同一の可能性が高い。

確認のしようはないんだが。



「次は~、う~ん、、。順番はどっちでも構わないわあん♪選んでちょうだい」

「青を頼む」

「は~い♪」



出された青色の酒の香りに、緩い吐き気が上がってくる。

もう、随分と酔ってきているようだ。

この魔窟から、無事に帰れるか、、?



「司祭が殺された事に(かこつ)けて、シルム王国に金銭を負担させる形で、ディベリア教徒を全員ディベリア神聖国へ連れて行くらしいわ。暴徒が溢れるこの国に、自分の身を守れない愛すべき自国民を置くわけにはいかないとか何とか。まあ確実に、シルム王国に金を使わせる為の口実ね。一家の惨殺や司祭の怪我も、その為に仕組まれたものかもしれないわ」



加えて、新しく入信すると言った者に関しても、シルム王国が引っ越し費用の半分を負担しなくてはならない、となったらしい。

勿論何かしらの条件、定員はあるそうだが、それでもかなり不利な条件だ。

おそらくだが、クラムドが自身の権限を使って無茶を通したんだろう。

戦争は終わっているというのに、他国を疲弊させて何を企んでいるんだ、、。

良からぬ事であるという事だけは、察する事が出来るが。



「そのせいで、家族内で入信する人としない人が別れて、離婚してしまった人も大勢いるそうよ」



それもあって、未だに暴動が各地で続いているのかもしれない。

神王様の代替わりだけでは、例え望まない結果であってもここまでは続かないだろうからな。



「最後の緑よ~♪ってあら?もう随分酔ってるわね?」

「まだ、、、大丈夫だ、、」



正直なところ、もう酒を見ただけで吐きそうではある。

だが、根も葉もない噂であってもこのマスターが選出したものは知っておいて損はないだろう。

これが最後の一杯だと考えれば、多少ではあるが気は紛れる。



「あら、良い飲みっぷり♪」

「がはっ。早く、教えてくれ」

「はぁ~い♪」



早く聞いておかなければ、酔いのせいで聞いた内容を忘れてしまいそうだ。



「最後、緑ね。これはディベリア神聖国周辺に行っていた子から聞いたんだけどね、どうやら魔人域全土から集めた腐愚民を使って何か怪しい実験をしているそうよ。その子も現場を直接見たわけではないみたいだし、これは噂半分に聞いておいたほうがいいかもしれないわ」



やはり、腐愚民の回収は何か目的があっての事だったか。

実験の内容が何にせよ、どうせ碌でもない事に違いない。


(捕まった後の事を考えれば、リビィが念の為に記憶魔術を行使しておいてくれて良かったな、、)


メヒトが余計な事をしていなければ、二人がディベリア神聖国に捕まっている事はないだろう。

そういえば、いつだったか。

メヒトに聞く事があって手紙を送った気がするが、その解答がまだ返ってきていないな。

何だったか。

それなりに重要な事だったはずなんだが。



「情報は、それで全てだな?」

「ええ、そうよ」

「そうか。感謝する」

「あっら~、、もう帰っちゃうの?少しくらい付き合っていきなさいよ~」



俺の酔いが限界である事を知っているにも拘わらずこの異形は、、、。

男好きのこいつらに泥酔して捕まれば、何をされるか分からない。

長居は禁物だ。



「もう!いけずねウルちゃんったら!」

「いっつッ!!」



無駄に強い力で背中を叩かれると、すぐにでも胃の中のものを吐き出しそうになる。

睨み付けようが怒鳴ろうが喜ぶこいつらは、ある意味クラムドよりタチが悪いぞ。




カランカラン───


「まったね~♪ウ・ル・ちゃ・ん♡」




外の空気が美味い。

漸く、あの異形と酒の匂いが立ち込める空間から解放された。

今日は、もう、宿に戻る、、、、



バタッ───



「ちょ、ちょっとウルちゃん!ウルちゃーん!?」



宿には、着きそうもないな。

今はこのまま石畳の上で屍のようになるか。

せめて、異形達に良いようにされないよう、結界だけでも張っておこう。



「〝(ドーム)〟」


「ふんッ!!!」


バリンッ───



酔っていて強度がいまいち上げられなかったとはいえ、俺の防御結界を素手で割るかよ、、、。

大人しく降参しよう。

もう、抵抗しようという意志すら持てそうもない。

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