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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
七章
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五十八話「裏返しの忠義」



「その話、詳しく聞かせてもらえるか?」


書庫で聞こえてきた会話は王国軍兵士同士のもの。

マントの紋章から見るに、どちらも十一軍団の所属。

何故この二人が別の軍団であるゲリックの情報を持っているのかは分からないが、聞こえてきた話の内容を考えれば、そんな事は些事だ。

もし本当にゲリックがディベリア神聖国と繋がっているなら、その期間、与えた情報によっては相応の罰を受けてもらわなくてはならない。

監視者の自治領の件と合わせて尋問する許可を得られる情報が出ればいいが。



「教会の裏で司祭とゲリック団長が親しげに話している、という噂を何度か耳にしたんです」

「私はその噂話を信じてはいなかったのですが、王都の巡回警備の際に実際現場に遭遇してまして、、」

「会話の内容は聞いたのか?」

「いえ。話し声が小さく聞こえませんでしたが、物品のやり取りをしているのは見えました。顔もはっきりと見えたので、間違いありません」



王都内でディベリア教徒の死者が出た場合、その死者の家族がディベリア神聖国内に住んでいる場合に限り遺品等を一度教会に預けはするが、それをわざわざ教会の裏でする必要はないだろう。隠す必要のない事だからな。

それ以外に考え得る可能性としては、個人的に司祭と繋がりがあり、たまたま協会の裏で物品のやり取りをしていたか、表沙汰に出来ない繋がりがあるか、そのどちらかだろう。

前者であれば問題はないんだが、後者であれば徹底的に調べなくてはならない。

だが、その話だけで繋がっているかもしれないと断定するには情報としては少しばかり弱い。



「ディベリア神聖国と繋がっているかもしれないという考えに至ったのは、その情報からか?」

「それもありますが、現在ディベリア神聖国との国境付近の警備を担当しているのが十二軍団というのも加味しています。国境付近であれば、気付かれずに個人で繋がる事は可能かと思いますので」



十二軍団の現在の任務地は、テートレイポットの転移塔及びその周辺の国境。

テートレイポットからすぐに向かえる監視者の自治領の警備も担っている。

ゲリックと監視者。

どちらもディベリア教と繋がっていると考えれば一連の問題は解決に至るんだが、そう結論付けるのは早計というものだろう。



「元々ゲリック団長は黒い噂が絶えない方です」

「自分の出世の為に賄賂を贈っているとか、自分の失敗を部下に押し付けたりだとか。この前も、なあ?」

「ああ。監視者の拷問のやつだろ?」



ゲリックに対する愚痴のようなものを話半分に聞いていると、予期せず欲していた情報が得られる可能性が出てきた。

ゲリックが賄賂を贈っているという話は以前から聞き及んでいたが、別段珍しい事でもないし放置していた。

だが、部下に失敗を押し付けているというのは聞いた事がない。

縦社会では珍しくもない事なんだろうが、監視者の拷問でも何かしらの失敗を押し付けていたというのであれば話は別だ。

おそらくそれは、監視者の後ろ盾を調査しなかった事と、何かしらの繋がりを持っているだろうから。



「監視者が転移塔を襲った事件の収束後、捕らえて拷問していた監視者を間違って殺めてしまった話はご存知でしょうか?」

「ああ」

「その拷問を担当し、監視者を殺めてしまったのはゲリック団長なんですが、その罪を部下に押し付けたようなんです。押し付けられた当人とは個人的な繋がりがありまして、直接聞いたので間違いありません」



おそらく、理由は大したものではないと思う。

自分のミスを報告すれば、その後の調査で出てきたものによっては昇進どころか現在の地位まで危ぶまれる。

それを懸念して部下へと押し付けたのだろう。

そもそも、団長自らが拷問をするというのもおかしな話だ。

普通なら部下に担当させ、情報を得られなければ上の立場の者が代わる。


(元より監視者を殺める算段で拷問を担当した可能性も考えられるか、、?)


そう考えれば自然だが、口封じの為にその行動に至ったというのであれば、監視者達に後ろ盾がある事を示唆する報告をするような事はしないだろう。

この二人の話のどこかに間違いがあるのか、俺に思い違いがあるのか、いまいち全てが上手く嵌まらない。

だがまあ、これだけ材料があればゲリックから話を聞く場を設けるくらいは出来るか。

一人で頭を悩ませているよりは、そのほうが圧倒的に有用な時間の使い方のように思える。



「情報感謝する。名前を聞いておこう」

「第十一軍団所属、ローグ・ライであります!」

「同じく第十一軍団所属、レイ・マンソンジュであります!」

「覚えておく」



この後に得られるものによっては、情報を提供してくれた二人に何かを与えなくてはならないな、、。

その時は、シェリルに一言断ってからになるんだが、、、そういえば、今はディベリア神聖国にいるんだったか。

色々と普段通りというわけにはいかないが、まあ何とかなるだろう。



「ゲリックがどこにいるかは知っているか?」

「今は王都の暴動を治める為に巡回しているはずですが詳しくは、、」

「そうか」

「もしゲリック団長へ話を聞くのであれば、確か第三尋問室が空いていたはずです」

「情報提供感謝する」



十一軍団は確か、尋問、拷問室の管理もしていたか。

ゲリックが部下に過失を押し付けた事を知れたのも、その立場故なのかもしれない。

尋問のみで口を割ればいいんだが。











「頼みがある」


二人の団員に話を聞いた後、やってきたのは中央司令部。

ここでは、現在王都内にいる国軍兵の動き、情報が全て管理されている。

国軍兵は緊急の事態でない限り、毎朝最寄りの司令部に一日の仕事の流れを報告してから、勤務地へと赴く。

ゲリックが現在王都内に居るという事は、おそらくここで聞けば今居るおおよその位置が分かるだろう。



「ゲリック団長の現在地、ですか?」

「ああそれと。一時間程身柄を拘束させてもらう」

「えっと、、暴動を治める人員が現状手一杯でして、現場を離れさせるのであれば拘束する理由だけでもお聞かせいただきたいんですが、、、」

「後に纏めて報告する」

「で、ですが、、」



その後いくつかの問答を重ねた後、最後は権力を笠に着て、一時間限定で俺に従うようにという指示書を書かせた。

指示書自体にはそこまで拘束力はないんだが、権力に弱いゲリックの事だ。

俺がこれを持って行けば、逆らう事はないだろう。

あまりこういう強引な手は使いたくなかったんだが、そうも言ってられないしな、、、。

それに、今日中に終わらせなければならない案件がいくつかある。

出来るだけ早急に解決しておきたいんだ。



「終わり次第、報告願えますか?」

「約束しよう」

「では、こちらの書類にサインを」



ゲリックが自白する内容によっては、それなりに長文の報告書を書き上げなくてはならない。

もし本当にディベリア神聖国と繋がっているような事があれば、退役させる事になるのは確実。

相手に与えた情報の内容によっては奴隷落ちや死罪も有り得る。

そうなれば今日中にこの案件が片付くかどうかすら怪しい。


(ゲリック。往生際悪く粘るような事はやめてくれよ、、)


そうなれば、俺が拘束出来る時間を超過してしまい、逃亡される可能性がある。

勝負は尋問室に入ってからの一時間のみだ。


(後は、、)


今の内に情報源である二人に一角獣の角でも渡してやるか。

相応の高値で売れるだろう。



「これを」

「これは、、一角獣の角ですか?」

「ああ。第十一軍団のローグ・ライとレイ・マンソンジュに渡しておいてくれ。好きに使ってくれ、と」

「ローグ・ライ団員とレイ・マンソンジュ団員で、本当に間違いないですか、、?」

「ああ。まだ王都に居るだろう」

「それは勿論、、」



何故だろうか。

受付嬢の表情が優れない。

中央司令部といえども、流石に軍団員全員の名前は覚えていないだろう。

そんな中名前を聞いただけで表情を変えたという事は、何かしらあの二人に思うところがあるという事。

二人とも至って普通な気はしたが、何か問題を起こした後か?



「頼んだ」



まあ、俺としてはどんな人物であろうと渡しておいてくれればそれでいい。

大して必要なものでもければ、誰かに譲る予定もない。

換金するなり、何かに役立ててくれればいいだろう。

今は余計な事を考えず、ゲリックの身柄の拘束を急ぐか。












「ゲリック。知っている事を洗いざらい吐け」


聞いていた通りに空いていた第三尋問室。

巡回に出ていたゲリックを連行し、向き合って話を聞く場を設ける事に成功した。

この部屋は、尋問室といえども拷問室と変わらない造りをしている。

尋問官が座る椅子のみしか置いていない、狭い石造りの部屋。

入り口は格子戸になっており、そこに魔術封じの枷を付けた尋問相手と二人で入る。


使用する際は部屋の前に二人、槍を構えた警備兵が立つ。

会話は出来るだけ聞かれたくないんだが、、、。

まあ、仕方のない事か。



「ド、ドルトン殿、、、。一体私は何の罪に問われているのでしょうか、、」



ここに連れてくる際、ゲリックには指示書を見せただけで何も伝えていない。

伝えても問題はなかったんだが、それで抵抗されて貴重な時間を削るわけにはいかない。



「単刀直入に聞く。お前は、ディベリア神聖国及びそれに属する者達と、何かしらの繋がりはあるか?」



聞いた情報以外に何か聞き出せるものがあるかもしれない。

初めから核心は突かず、あえてぼやけた問い掛けをした。



「、、、ありません」



流石にこれで洩らす程、ゲリックも馬鹿ではないか、、。



「王都内にある教会の司祭に、何か受け渡しをしたりは?」

「公務で受け渡しが必要なもの以外は何も」

「個人的な繋がりは?」

「ありません。私はディベリア教徒ではありませんから」



初めの質問と違い、これには即答だった。

ぼやけさせた質問には狼狽え、情報のある事柄については何の動揺もなくきっぱりと答える、、か。

そもそも情報自体が正しいものという証拠もないんだが、現段階での尋問は早計だったか?



「では、別の事を問おう。監視者の自治領の件、捜査指揮を担当したのはお前で間違いないか?」

「はい」

「何故、監視者の後ろ盾について調査しなかった?拷問で聞いた内容を聞く限り、その存在は明白だっただろう」

「そ、それは、、」



後ろ手に拘束されたゲリックが、額に汗を掻く。

尋問部屋は大して暑くはない。動揺からくる汗と見て間違いないだろう。



「ちょ、調査は致しましたッ!ですが、報告する程の内容を得られず、十一軍団団長に相談した後、報告書には記載しないという考えに至りました」



指示書は詳しく見られないように配慮したが、ゲリックはおそらく拘束出来る時間の欄に目を通していたのだろう。

俺が今から十一軍団団長の元へ確認に行けば、確実にゲリックを拘束しておける時間は過ぎる。

少し、趣向を変えるか。



「監視者を拷問し、誤って殺してしまった過失を部下に押し付けた件について聞こう」

「そ、そんな事は───」

「確かな筋からの情報だ!押し付けられた部下からも確認が取れている!」



一つ目の情報はおそらく空振りだった。

だが、ここは二つ目の情報を信じて強気にいかせてもらおう。

これが上手くいかなければ虚勢を張っていると見られてゲリックが優位になるが、、。



「も、申し訳ございませんッ!!出世に目が眩み、己が過失を部下へと押し付けました!」



ひとまずは前進。

この情報は正しかったようだ。



「誰かに命じられ、有益な情報を零す前にわざと殺めた、という事はないな?」

「偏に私の至らなさからくる失態です」

「団長であるお前が、わざわざ拷問を担当したのは何故だ?」

「功を、焦りました、、、」



曰く、副団長が最近武功を上げていて、自らの地位が危ぶまれていたらしい。

それ故に、監視者から有益な情報を得ようと拷問の担当を強引に変わらせたそうだが、慣れていないゲリックでは力加減が上手くいかず、監視者を殺めてしまったようだ。

自らの保身の為に何か大きな情報を抱えているかもしれない監視者を殺すか、、、。

呆れて言葉が出ない。

唯一の僥倖は、これが嘘でなさそうだという事か。

ほんの一端ではあるが、疑問に思っていた事を解決出来てきた。





「ゲリック。初めの質問に戻るが、ディベリア神聖国との繋がりはないんだな?」


二人の団員から聞かされていた小さな罪科の審議をいくつか確認した後、初めの質問へと戻った。

この質問を〝はい〟と答えようが〝いいえ〟と答えようが、ゲリックが今の地位に居られない事は確実。

現段階で既に項垂れているなら、ここからは自棄になって正直に答えてくれる事だろう。



「ありません」



自棄になってくれるかと考えたが、思いの外冷静だったようだ。

一度目に聞いた時と違い、ゲリックは自らの潔白を端的に訴えた。

ここは一つ、揺さぶりをかけるか。



「二言はないな?」

「はい」

「教会裏で物品の受け渡しが行われていた目撃情報があるぞ?」

「そ、そんな事はッ───」

「確かな情報だ!言い逃れは出来ないと思え!!」

「ほ、本当に違います!!私が受け渡しを行ったのはテートレイポット近郊の────ッ」



どうやら、尋問開始前に飲ませたメヒトからいつかの為にと貰っていた自白剤は、案外有用なものだったらしい。

何が楽しいのかたまに不良品を持たされる事からあまり信用していなかったんだが、今回ばかりは感謝するべきだろうな。

時間が空けば、素材の採集に協力してやろう。



「───という事は、テートレイポット近郊で勤務時、密にディベリア神聖国の使者へ情報を渡していたと、そういう事だな?」

「、、、はい。報酬の魅力に逆らえず、、、、申し訳ございません」



報酬は、おそらく出世の為の賄賂に充てていたのだろう。

団長の給金はそれなりに高いとはいえ、出世が望める程の賄賂を手に入れられる程ではない。

精々、今以上に地位が下がらない事に苦心するのが限界だ。



「与えた情報を洗いざらい吐け。罪科が明らかになった今、時間の超過で逃げられるとは思わない事だ」

「はい。まずは───」



ぽつりぽつりと、ゲリックが洩らした情報を自白していった。

どの軍団がどの位置にいるか、ディベリア教の浸透具合はどうか、腐愚民の出現はあったか、どの場所に商売をすれば儲けが出るか。

こちらの内情を知られこそすれ、その殆どが戦争のない今の時代では大して痛手のないものだった。

だが、一部の情報に問題があった。

それは本来ゲリックが知るはずのないもの。

外交官である俺と、俺の周辺しか知る事のないはずのものだった。



「ゲリック。何故、元老院の実家を訪れる予定をお前が知り得ている」



元老院の実家を訪れるのは、ユリティス王を神王へと押し上げる為の大事な仕事だ。

その情報が洩れていたとあれば、俺の前、もしくは後に同じ場所を訪問され、常に相手に優位に事を進められる。

やけにディベリア教に心酔している当主が多かった事を考えれば、おそらく俺が訪れる前に先手を打たれていたのだろう。

それがゲリックが齎した情報によるものだとすれば、ゲリックはパブロ教皇が神王へと成る事の助力をしたという事になる。

暴動でかなりの犠牲が出たんだ、ゲリックの死罪、もしくは奴隷落ちは免れない。



「それは、、」

「お前を唆した誰かがいるんじゃないか?その存在によっては、情状酌量の余地もあるかもな」



それを判断するのは俺ではないが、正直に答えれば多少の口利きはしてやろう。



「わ、私が言ったという事はその方に秘密にしておいていただけますか、、?」

「約束しよう」



今更怯えても意味はないだろうに。




「私はあくまで、ディベリア神聖国まで伝達するだけの役目でした。伝達する内容を決めて手紙に(したた)めていたのは外交官補佐のサ────ぐッ」




「ゲリック、、?おい!どうしたゲリック!!」



唆した犯人の名前を告げようとした途端、ゲリックの首元が淡く光り、締め付けられているかのように苦しみ始めた。

急いでゲリックの服の首元を緩めると、そこにあったのは透明の───




(テスタ)、、、?」




そう。

それは本来腐愚民に着けられるもの。

対象を従わせる隷属の首輪。

何故、ゲリックがそれを、、、?





「〝(ドーム)〟」

「くっそ!!!」






得体の知れないものを探る時は、背後にも警戒をするものだ。

過去に読んだ小説の台詞を覚えていてよかった。

おかげで、警備兵が突き出してきた二本の槍を、寸前ではあるが防ぐ事が出来た。

それ以外の方位からも攻撃が来るかと思ったが、その心配はなさそうだ。

まずは警備兵の身柄の確保を、、、



「くそっ、、。毒か、、」



おそらく作戦が失敗した時用に持っていたのだろう。

防御結界の外で、警備兵は二人共泡を吹いて倒れていた。

急ぎ結界を解いて確認したが、使用されたのは即効性の毒だったようで既に事切れてしまっている。

ちっ。

同時に色々と、、、。



「うっ、ぐっ、、」



(テスタ)は一度着けると、着けた者にしか外す事が出来ない。

ゲリックが外そうとするも外せないところを見るに、誰かに着けられたものだろう。

悪いが、命は諦めてもらう他ない。



「ゲリック。おそらくだが、その(テスタ)はお前を唆した相手の名前を言う事で締まるようになっている。俺にもお前にも外せない。助かる事は諦めろ」

「ぐあっ、、、」



苦しいんだろう。

縋るような涙目を向けてくるが、どのみち今助かったところで、罪を犯したゲリックの未来は見えている。

それならせめて、非人道的だと言われようが、俺は職務を全うしよう。



「声を出す事が出来ないのなら、俺の手にお前を唆した相手の名前を指で書け。仇くらいは取ってやる」



涙を流すゲリックに、淡々とそう告げる。

慈悲の言葉ではなかったのだが、どこか感動しているような表情を浮かべている気がする。



「こひゅっ、、、、」



最後に一つ呼気を漏らし、ゲリックは息絶えた。

(テスタ)はその後も少しの間ぎりぎりと締まり続け、数秒の後、締める力を弱める。



「サイフォン・ドルナード、、」



それが、ゲリックが涙を浮かべながら必死に俺の手に指で書いた名前だった。

ドルナードは外交官補佐長。

役職別に十名いる外交官補佐を纏める役目であり、俺の右腕。

あいつなら俺の仕事のスケジュールを漏洩させられても不思議ではない。


だがそうか。


故意ではないが、俺は間接的にパブロ教皇が神王へと成る事の手助けをしていたのか。

ユリティス王を神王へと押し上げなければならない立場の俺が、、、。



ギリッ───



そんな音が聞こえた。

近くで鳴っていたのは間違いないが、その発生源などどうでもいい。


怒りに打ち震えた。

金に目が眩んで情報を与えたゲリックに、ゲリックを唆したドルナードに、その全てに気付けなかった自身に。



ガンッ──!!!


「くそッ!!!!」



怒りを込めて殴りつけた格子戸が、幾度も小さく揺れてその音を狭い尋問部屋に響かせる。

意味のない行為だと頭では分かっていても、力の込められた拳で無意識に殴りつけてしまっていた。

俺の今までの努力は、無駄だったどころかもっとも望まない結果への早足だったのか、、。



「、、当たり散らしていても仕方のない事か」



ドルナードはつい先程まで王城で仕事をしていたはずだ。

今から戻れば、まだ間に合う。

ゲリックは予期せず死んでしまった。

それなら、ドルナードだけでも正しい罪を償わせなくては。

そうしなくては、俺の抱える溢れんばかりの怒りを霧散させる事など出来そうもない。












「おい!ドルナードは居る、、、、か?」


外交官補佐の仕事用に与えられた大部屋。

そこに居たのは血溜まりに沈んだ二人の外交官補佐。

確認するまでもなく、既に息絶えている。



「ちっ!!」



少し、来るのが遅かったようだ。

そう分かっていながらも諦めずに、部屋を隅々まで探し回る。

部下を殺された怒りも加わり、俺はとうに冷静さを失っていた。








「どこだ、、。どこだドルナードォォォォォオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!」







書類を散らかし、棚を薙ぎ倒して、見つからない怒りを声に乗せて吠えた。

この部屋に居ない事は確実。

それならどこに、、、。



「ド、ドルトン様」

「あ゛!?」

「ひっ!?」



開いていた扉のすぐ近くにいつの間にか居たメイドが、俺へ手紙を差し出した。

こんな時に下らない内容じゃないだろうな、、、。

苛立ちを覚えつつも、メイドから強引に手紙を取り上げ、乱暴に開封した。




〝貴方がこの手紙を読んでいる時。私は既に王都を去っている事でしょう。正規のルートでは出ていませんから、足跡を追う事は諦めたほうが賢明ですよ。貴方が優秀であったが故に、計画は何の滞りもなく着実に進んでいきました。感謝していますよ、有能な外交官殿〟




怒りに打ち震えながら何とか最後まで読み切った手紙には、そう書かれていた。



ボッ───


「ひっ!?」



感情の赴くまま、手紙を灰にする。



「どこだ、、」

「えっと、、、」

「どこでこの手紙を手に入れた!?!?」

「は、はい!ドルナード様より、ドルトン様が戻られたら渡すようにと、仰せつかっておりました!!」

「いつだ?」

「い、一時間程前だったと記憶しております!」

「そうか」



このメイドの言っている事が正しいなら、ドルナードが王都外に出ている事は間違いないだろう。

正規のルートでないなら、それ程時間のかかる移動でもない。

向かう先はディベリア神聖国で間違いないだろうが、国境を跨いでしまっては勝手に捜査は出来ず、持てる人員を全て動員して国内に居る間に虱潰しに捜索しても、ほぼ確実に見つけ出す事は出来ない。

ドルナード程聡い人間であれば、追われる事くらい考えて逃げているだろう。


(手詰まり、、、か?いや、まだ、、、)


黒幕の捕縛が不可能なのであれば八方塞がりのように思えるが、まだ俺に出来る事はある。

情報提供者の二人の団員の捕縛だ。

提供された情報には、目撃したと言っていたにも拘らず虚偽があり、尋問室では警備兵に襲われた。

たまたま警備兵が俺に私怨を持っていたと考える事も出来なくはないが、十中八九、あの二人が仕込んだ者達だ。



「この二人はほぼ間違いなくドルナードに殺された。応援を呼び、室内を隈なく調査しろ」

「ド、ドルナード様がですか、、?」

「早くしろッ!!!」

「は、はいッ!!!」



あのメイドもドルナードの手下かと疑いはしたが、手当たり次第応援を呼んでいる様子を見る限り問題はないだろう。

ここは任せて、俺はやるべき事をやるか、、。












「至急、ローグ・ライとレイ・マンソンジュの居所を教えろ」


再びやって来た中央司令部。

受付を待っている者が数人居たが順番などどうでもいい。



「本当にそのお二人でお間違いないですか、、?」

「ああ」



怒りを隠そうともしない俺を気遣ったのか、渋々という形ではあるが、余計な会話をせずに受付嬢が居場所をぽつりと零した。

その場所は───






「国立集合墓地、、、、?」






数瞬の間、言っている意味が理解出来なかった。

暴徒を収める為にあちこちへ団員が飛び回っている中、あの二人は何故そんな所にいる、、?



「ローグ・ライ団員とレイ・マンソンジュ団員は、一昨日の夜、暴動に巻き込まれて命を落としています。既に火葬され、今は墓地に眠っています」

「そんなわけはないだろう!?その二人の名を名乗る十一軍団のマントを羽織った男達と、数時間前に会話したばかりだぞッ!?」

「二人のマント及び武装はッ!!!何者かによって奪われています!!」



俺の剣幕に中てられて声を荒げた受付嬢によって、衝撃の事実が齎された。

あの二人の団員は偽物。

まず間違いなく、ドルナードが手引きして王城へと侵入したのだろう。

おそらく、二名の団員を屠ったのもあの二人で間違いない。

王城に居た事から推測するに、ドルナードに俺がゲリックを尋問すると知らせたのもあの二人。


俺は直前まで会話をしておきながら、三名もの犯罪者を取り逃がしたというのか、、、?

今頃は、三人でまんまと踊らされた俺を嘲笑っているところだろう。


(どこだ、、どこで間違えた、、。どこで歯車が狂った、、、)


ゲリックと警備兵が死に、残る三名を逃した今。

俺に今出来る事は指名手配に記載する情報の協力と、他に協力をした者がいないかの確認のみ。

ただでさえ慌ただしく動いている現在の王都で、どこまでそれを実行出来るかは分からない。






この、誰が敵か分からない状況で、俺は誰を信用すればいい、、?






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