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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
六章
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五十二話「最強の弊害」



数日前。

ずっと一人だった私の旅に同行者が出来た。

一人はケイト、ウルの弟子。

もう一人はリビィ、ウルの奥さんだったらしいけど、今は自分に関する記憶をウルから消したから、もう奥さんじゃないって言ってた。

リビィは凄く美人で料理が上手。

一緒に居て楽しい。

だから、ずっと一つ所に留まらない私の旅に同行してくれればいいと思う。

それが叶わないなら、どこかでお店をしてくれれば絶対に食べに行く。

初めて会った日に食べたローストビーフを、また絶対に食べたいから。

あの日はローストビーフが美味し過ぎて、ついついお酒を飲み過ぎてそのまま寝てしまった。

知らない間に運んでくれてた久し振りのベッドは何だか落ち着かなくて途中で起きていつも通りリドエルに凭れて寝てしまったけど、魔人にはいつも恐れられてばっかりだから、ああやって優しくしてもらえるのは嬉しかった。


ケイトは、、つまらない冗談を言ってきたけど、強くて良い子なんだと思う。

寝惚けながら放ってた私の攻撃を全部避けてたし、肩に乗ってる精霊の力を使って周囲の被害を考えなければ、私が怒った時に使った魔術も防げたんじゃないかと思ってる。

自分の命が危険な場面になっても、咄嗟に周囲の被害を考えて強力な魔術の使用を控えるのは、本当に優しい人じゃないと出来ない。


たまに、仲が良さそうな二人の旅に私が入るのは邪魔なんじゃないかって思う時はあるけど、二人とも心から私の事を受け入れてくれている気がするから、あまり気にしないでいられる。

最初はお守りなんて面倒と思ってた。

でも、メヒトとウルには、聖戦の時に私が暴れ回って大怪我を負わせてしまった負い目があるし、ケイトもリビィも良い子だし、これくらいなら全然大丈夫。

お姉さんだし、私が二人の事守ってあげないと。







「これで全部?」

「はい。これだけあれば、武人域に入ってからも暫く調味料類が不足する事は思います」

「ん」

「街中で格納袋使うのは危険があるかもしれませんし、僕が荷物持ちで付いて行きましょうか?」

「いい。付いて来るほうが危険」


格納袋を持っているからといって、魔人域で私に襲い掛かってくるような命知らずはいないと思う。

聖戦の前は決闘を申し込まれる事は何度かあったけど、聖戦で会場が跡形も無くなるまで暴れてからは誰にも決闘を申し込まれなくなった。

別に、好きで暴れたわけじゃないけど。

あれはジーンが私の両親を馬鹿にしたから仕方なく。

今でも会う度に手を出しそうになるから、出来ればあいつには会いたくない。



「それじゃあ、お願いしますバオジャイさん」

「お気を付けて」

「ん。任せて」



今居る場所は、シルム王国ウェンバイ領の中でそれなりに大きい町、トリアティアの近く。

私が食べる量を想定していなかったから、足りなくなりそうだった食材や香辛料、調味料を、リビィが書いてくれたメモを見ながら私がトリアティアまで買いに行く。

肉類は途中で魔物を狩れば問題なく手に入れられるけど、たまには魚だったり野菜も食べたい。

リビィが書いてくれたメモに私が苦手な野菜の名前があるから、それだけは売ってなかった事にして、こっそり買わないでおこうと思う。

お姉さんでも、苦手なものはあるんだ。

付いて来ようとする二人を振り払ったのはその為じゃない、絶対。


私は神王様崩御の時神授川の近くに居たから町の様子は知らないけど、話を聞く限りでは、まだ二人は人が居るところへ近付かないほうがいいと思う。

母様と父様を殺したディベリア神聖国の教皇が神王様になって、その権限を使って好き勝手してるみたいだし、警戒はし過ぎたほうが丁度良いくらい。

二人が捕まってしまうのは嫌だから。




「はーい、止まってー」




トリアティアに入る為の門。

いつも通り門番に正面から顔を見せるだけで入れるだろうと思ったのに、止められて馬から降ろされた。

トリアティアには何度か来た事があるけど、何だかいつもと違う。



「今外から来たね?腐愚民だと行けないから検査させてもらうよ」

「知らないの?私の事」



面倒だと思いながらも、早く済ませる為に、ローブから身分を証明出来る物を取り出す。

これで納得してくれたらいいんだけど。



「そ、それはッ!三賢者の章飾!もしやバオジャイ・システィオーナ殿ですか!?」

「ん」

「いやはや、それは失礼しました」

「ん」



これで分かってくれただろう。

三賢者になんてなりたくなかったけど、章飾はこういう時に使えるから便利。



「で、ですが!ルールですので手荷物は検査させていただきます!!」



はあ、面倒。

今までは止められても章飾を見せれば検査を逃れて通る事が出来たのに。

それに、検査をするのはいつもトリアティアの役人のはずなのに、今私の荷物を調べてるのはディベリア神聖国の紋章が入ったケープを羽織ってる男。

神王様崩御からもう暫く経っているのに、そんなに腐愚民を炙り出して何がしたいのかな。

種族が違うだけで邪険に扱うディベリア神聖国の事だから、どうせ大した理由はないと思うけど。

でも、二人の為にも聞いておいたほうがいいよね。



「ねえ」

「な、なんでしょう」



私のネイディアの雫をまじまじと見ていた検査官に声を掛けてみる。

そのお酒は私のもの。絶対渡さない。



「なんでこんなところで検閲なんてしてるの」

「それは、ディベリア神聖国の私が何故ここに、という事でしょうか?」

「ん」

「ご存知ないですか?」

「早く答えて」



早く買い物を済ませてリビィが作ったご飯を食べたいのに。

無駄な問答は止めてほしい。



「も、申し訳ございません。ひと月程前に行われた腐愚民炙り出し計画の事はご存知ですか?」

「ん」

「その時に調査外に居た腐愚民がいる可能性があるので、これからは関所や各国各都市の出入り口に腐愚民を見分ける装置と、私達ディベリア神聖国の人間が配置される事になったんです」



二人を連れてこなくて本当に良かった。

この男一人殺めるくらいすぐに出来るけど、自分達が検査から逃れる為に人死にが出たら、きっと優しい二人は暫く立ち直れないと思う。

そうなったら楽しくない旅になりそうだから、それは避けないと。

武人域に渡る時も、先に私一人だけで確認しに行ったほうが良いかもしれない。



「荷物も問題ありませんでした。トリアティアへはどういった用事で?」

「買い物」

「ちなみに何を、、」

「なんでそんな事教えないといけないの?」

「も、申し訳ございません。どうぞお通り下さい」



検査官は、謝りながらもリドエルに下げられたネイディアの雫から目を離す事をなかった。

こんな出会い方じゃなければ、一緒にお酒を楽しめる仲になれたかもしれないのに。

それでも、私のお酒はあげないけど。








「あ!バオジャイだー!」

「こら!やめなさい!」


ひと月振りの街。

子供達の無邪気な反応も、大人の怯えるような視線もいつも通り。

何も、私が無差別に暴れた事があるわけじゃないのに、街に入ればこんな風に避けられてしまうようになった。

ウルとメヒトも私にどこか気を遣ってるようだし、私には魔人域に友達と呼べる存在はいない。

ケイトは怯えさせてしまってから少し距離を感じるから、リビィとは仲良くなれたらいいな。

他愛ない話をしながらお茶をしたり、二人で歌劇を見に行ったり。

そういう普通の女の子が友達とするような事をリビィとしたい。

三賢者になる前に友達だった子達にすら、この前会ったら避けられてたから、あんまり友情っていうのは信じてないけど。

かといって恋人にしたいと思える人もいないし、、。

みんなどうやって人付き合いをしてるのかな。



「これ。後これも」

「これとこれと、後はこれ?」

「違う。こっち」

「ひっ。そ、そうだったね」



この目付きが悪いのかもしれない。

怒ってないのに、選んだ野菜が間違ってた事を指定しただけで睨んだと思われて、怯えさせてしまう。

頼んでもいないのに凄い安い金額で売られるし、、。

ロンドルフに相談したら、安くで買い物出来ていいって言われたけど、言われた通りにしていたら商売にならないような金額ばかり提示されるから、中々行きつけのお店というのを魔人域で作れない。

かといって、無理矢理定価通りのお金を支払おうとしたら、何かあるんじゃないかって、それはそれで怯えられる。

三賢者である限り毎年膨大な収入があるから、安くしてもらわなくていいのに。

久し振りの街でちょっと舞い上がってたけど、早く済ませて戻ろうかな。






「カトの実、ある?」

「カ、カトの実ですかい?ちょ、ちょいとお待ちを。探してきやす」


淡々と買い物を済ませていって、最後に訪れたのは街で一番大きな、香辛料と調味料が売ってるお店。

ここの前に寄ったお店で殆ど香辛料は揃ったけど、リビィに見せてもらったカトの実みたいな赤い色の香辛料は置いてなかった。

初日に食べたローストビーフを作るにはカトの実が必要らしいし、何としても手に入れないと。

そんな気持ちでいたから表情に力が籠ってしまったのか、店主をとても怯えさせてしまった。

仕方ない。

必死になってしまうほど、リビィのローストビーフは美味しいから。



「遅くなって申しわけねえ。カトの実、あるにはあるんですが、、」

「ん」



あるのなら、勿体ぶらないでほしい。

相場の倍くらいのお金を、何か言い辛そうな店主に差し出した。

これ以上高いなら、ケイトから預かったお金を使うのは悪いし、自分のお金で出そう。

リビィのご飯が食べられるなら、使い切れないくらいお金は余ってるし全部自分で出してもいいんだけど。

そうするとケイトが泣きそうな顔になるから仕方ない。

きっと、戦闘を全て私が終わらせてるから、何も出来てないって気にしてるんだと思う。

これから先は魔物が多く居る場所を通るからケイトにはそこで活躍してもらう事になるとは思うけど、今はまだ言わなくてもいいかな。

その時に男の子らしいところを見せてもらおう。



「えっと、、」

「ないの?」

「へ!?いや、あるんですが、その~、、量がですね、、」



男がおずおずと出してきたのは、ローストビーフ三人前を作るだけでも足りなさそうな量のカトの実。

ここに無かったら隣町まで行かないといけないのに、でもそんな時間はないし。

困った。



「ひぇっ!?」



困り顔をしてたら、今までにないくらい店主を怯えさせてしまった。

体を震わせながらもカトの実を落とないのは凄い。

無いよりは少しでもあったほうが嬉しいから、もう少しだけ、そのまま持っててほしい。



「じ、実はですね。カトの実ではないんですが、味や香りが殆ど一緒のものなら、お望みの量が用意出来るんでやすが───」

「本当!?」

「え、ええ、、」



私は料理が得意じゃないから分からないけど、味も香りも似た物があれば、リビィならきっと、あの美味しいローストビーフを作ってくれるに違いない。

ふふ。

頬が落ちるような美味しい味を思い出して、つい笑みが零れてしまった。


(、、、あれ?)


妄想から意識を戻して店主を見ると、さっきまで怯えていたのに、震えが止まって今はぽかんと口を開けてる。

私の視線に気付いたのかすぐに口は閉じたけど、もしかしたら、いつも笑っていれば怯えられずに済むのかな?

面白い事もないのに笑顔を作り続けるのは大変そうだけど、それだけで怯えられなくなるなら、頑張ってみるのもいいかもしれない。

よし。

とりあえず物は試し。

いつもの顔に戻ってしまったから、頑張って笑顔を作って、、。



「ひっ!?」



頑張ったのに、また怯えられた。

何もないのに笑顔を作るのは、思ったより難しいみたい。


店主に普通に接してもらうのは諦めて、カトの実と似た味がするというリィタを買って店を出た。

提示された値段が安かったから倍の金額を支払うと店主は無理矢理突き返してこようとしたけど、良い買い物が出来て上機嫌だった私は嫌がる店主の手に強制的に倍額を握らせた。

このリィタという皺の寄った赤い実の値段がどれくらいかは分からないから払った金額でももしかしたら少ないかもしれないけど、それでも元々言われた値段では私の気持ちが済まなかったから、無理矢理お金を握らせて怯えさせるくらいの事は許してほしい。

これでリビィに頼まれたものは全部。

苦手な野菜は買ってないけど、売ってなかったって事にしたらきっと大丈夫。

後は帰るだけ───




「良い匂い、、、」




お店を出てすぐ。

甘くて香ばしい匂いがした。

さっきまではこんな匂いしなかったはずなのに、、。

辺りを見回してみて分かった。

少し離れた位置にある劇場の前から匂いが漂ってきてるみたい。


(まだ時間はそんなに立ってないし少しだけ、、)


正門横の(うまや)に預けて来たリドエルも、連れてこなかった二人も、きっと少しくらいは待ってくれると思う。

お金も余ってるし、せっかくの機会だから食べにいこう。

ふふ。

近付く度に強くなる甘く香ばしい匂いでついつい頬が緩んでしまう。

魔人は好きになれないけど、美味しいものに罪はない。



「ん。美味しい」



いつも通りに怯えた店員との面倒なやりとりを済ませて、購入したトリアティア巻きを一口頬張る。

薄く焼いた生地に、果物や甘いクリームが巻いてあってとても美味しい。

なんで劇場の前で出店を出しているのかと不思議に思ってたけど、焼いてるのがピエロの化粧をした人だから、きっと甘い物でお客さんを釣ってるんだと思う。

私以外は劇場に一人で入れないような子供ばかりだから、その作戦は上手くいかなかったみたいだけど。



「なに?」



食べ進める程に味の変化があるトリアティア巻きを黙々と食べていると、私の隣に小さい女の子が腰掛けた。

座っているベンチはそんなに大きくないから、女の子との距離は近い。

これくらいの年齢の子は、私の事を名前くらいしか知らない子が多いし、きっとこの子も分からずに近付いて来たんだと思う。



「それなあに?」

「トリアティア巻き」

「美味しいの?」

「ん」



私が三賢者だと伝えるべきかな。

そう考えてみたけど、無垢な子供が怯えずに話し掛けてくれるのが嬉しくて、口を噤んだ。

悪い事をしているわけじゃないし、少し話すくらいいいよね。



「食べたいの?」

「うん。でも私貧乏だから」



女の子の服は所々(ほつ)れたり破けたりしているのに、そんな事気にする様子もない。

多分だけど、これくらい使い古すのが、この子にとっては普通なんだと思う。

トリアティアは比較的余裕のある人達が暮らすところだったはずなのに、この女の子以外にも、同じような服装をした子達をさっきから見かける。

その全員を助ける事は出来ないけど、せっかく話し掛けてくれたんだ。

今この時、この子くらいは。



「ちょっと待ってて」



涎を垂らしそうな表情で見つめる女の子には悪いと思いつつトリアティア巻きの最後の一口を食べて、もう一度出店のピエロに話し掛ける。

私が食べてたのと同じ物と、もう一つ別の味。

ピエロに不思議そうな表情を向けられながらも二つ買って、女の子の元に戻った。

人に何かをあげるなんてあんまりした事ないけど、喜んでくれるかな。

喜んでくれたら、嬉しいな。



「ん」

「お姉ちゃん二つも食べるの?ご飯食べられなくなっちゃうよ?」

「違う。こっちはあなたにあげる」

「いいの!?」

「ん」



私がさっき食べてたのと同じ味の物を差し出すと、女の子は涎が垂れる事も我慢せずに大きな口を開けて表情を輝かせた。



「ありがとうお姉ちゃん!はぐっ!はぐっ!んんっ」

「落ち着いて食べて。取らないから」

「んんあおう!」



両手でしっかりとトリアティア巻きを持って食べる女の子は、とても可愛かった。

横に座った時からずっと明るい表情だったけど、予想以上に美味しかったのか、食べている今の幸せそうな表情は元の何倍も可愛い。

この子は今日会ったばっかりの何も知らない子。

でも、少しの出費でこれだけ喜んでくれるなら、また同じような状況になっても買ってあげてもいいかな。

そう思えるくらい、一生懸命頬張る女の子の姿は、格別な幸せを与えてくれた。



「んふっ!けほっこほっ!」

「急いで食べるから、、。これ、飲んで」

「牛乳!?」

「ん。好き?」

「うん!ありがとうお姉ちゃん!大好き!!」



大好き、、ふふ。大好き、、。

頭の中で、女の子から言われた言葉を響かせた。

そんな事、魔人域で言われたのは初めてかもしれない。

言ってくれるのはいつもロンドルフや、ロンドルフの家族達くらい。

同じ言葉のはずなのに、ロンドルフ達に言われるのと、この女の子に言われるのとでは感じ方が違う気がする。

なんでだろ?

同じ言葉でも意味が違うのかな?

でも、どっちでもいいか。

ロンドルフ達に言われるのも、この女の子に言われるのも、どっちも嬉しいし幸せ。

もう一回言ってくれたら嬉しいけど、我儘かな。



「お姉ちゃんの事好き?」

「うん!大好き!」



ふふふ。

無垢な女の子を良いように使ってるようで悪いけど、お菓子を御馳走してあげたからこれくらいはいいよね。





「美味しかったあぁぁ~」


女の子はあっという間にトリアティア巻きを平らげて、名残惜しそうに手に付いたクリームを舐め始めた。

幸せそうな顔を浮かべながらも、クリームを全て舐め取った手を残念そうに見る女の子は気付いてないんだと思う。

頬にひと際大きなクリームの塊が付いてる事。

言ってあげたほうがいいよね。



「ねえ。クリーム──」

「あ!お姉ちゃんほっぺにクリーム付いてるよ!」

「へ?」



女の子が指を指したほうの頬を触ってみる。

確かに、なんで気付かなかったのか分からないくらいの大きなクリームの塊が付いていた。

恥ずかしい、、。



「あ!私のホッペにも付いてた!えへへ~。お姉ちゃんとお揃いだね!」



こんなにも楽しそうな表情が見られるなら、恥ずかしいけどクリームが付いてて良かったと思う。

ただのクリームのはずなのに、女の子と同時に指で掬い取って食べた頬に付いたクリームは、トリアティア巻きのどの部分よりも美味しかった。

ロンドルフや集落のみんなと朝までお酒や料理を楽しんだ時に似ている。

終わってしまう寂しさと、同じ食べ物で笑い合える幸せが同居している感覚。

ケイトとリビィが打ち解けてくれたら、こうやって幸せな食事の時間が、これから暫く続けられるのかな、、、。

もっと、二人と仲良くなれたら嬉しいな。

その為には、まず打ち解けられたこの女の子と仲良くなる練習をしよう。



「ねえ」

「なあに?お姉ちゃん」

「名前は───」

「シノ!何してるの!?」

「あ、お母さん!」



出来れば本人から聞きたかったけど、無事に名前は知れた。

シノ、シノか、、。

可愛い名前。

もっと仲良くなって色々教えてほしいけど、怯えた様子で駆け寄ってくるお母さんを見る限り、それは叶わないんだろうなと思う。



「ほら!早く行くよ!」

「なんで!お姉ちゃんともっとお話したいのー!」

「駄目よ!あの人はとっても危ない人なの。だから、早く離れないと」

「やあだあああ!お姉ちゃん良い人だもん!お姉ちゃああああん!!!!」



無理矢理腕を引っ張るお母さんと、必死に抵抗して大声で泣くシノ。

本当はシノを泣かせるお母さんなんて放っておいていますぐにでも何処か楽しい所へ連れて行ってあげたいけど、あんなに小さい子を親から引き離すわけにはいかない。

それに、私と一緒に居たらシノはきっと辛い思いをする。

だから寂しいけど、私がこの場所から離れるのが一番。




「お姉ちゃあああああん」




シノの叫びを背中で聞きながら、私は早足でリドエルの元へと向かった。

後ろ髪引かれながらも、決して振り返る事なく。

またいつかね、シノ。












「おかえりなさ、、、あれ?何か良い事ありました?」


二人の元へ帰ると、周辺の見回りをしていたらしいケイトが出迎えてくれた。

なんで良い事あったって分かったんだろう。



「何となくですけど、表情が緩んでる気がしたので。間違ってたらすみません」



そんなにすぐバレてしまうくらい、表情に出てしまってたのかな。

自分の頬を触ってみたけど、さっぱり分からない。

もしケイトの言った通りなんだとしたら、それはきっとシノのおかげ。

また会えたらお礼を言おう。



「あ、バオジャイさんおかえりなさい」

「ん。これ。ハセの葉は無かった」

「ありがとうございます」



ハセの葉は美味しくないから嫌い。

安いからか店頭に沢山置いてたけど、気付かないフリをして買わずに帰って来た。



「あれ?ハセの葉、入ってますよ?」

「ッ!?」



今の私は凄く驚いた表情をしてると思う。

なんで?

買ってないのになんで入ってるんだろ。



「それに、他にも頼んでなかった珍しいお野菜も入ってます。サービスしてくれたのかもしれないですね」



そんなサービスは要らなかった、、。

リビィに言ったら、苦手な野菜は避けてくれるかな。

でも、お姉さんなのにそんな事するのはちょっと恥ずかしい。

ローストビーフと一緒なら、ハセの葉も我慢出来るかな、、。

あ、ローストビーフといえば。



「カトの実はなかったから、代わりにリィタを買ってきた」

「え!?リィタですか!?」

「ん。それでもローストビーフ作れそう?」

「作れますけど、リィタって香辛料の中ではかなり高いはずなのに、なんでお釣りが出てるんだろ、、、」



そんなに高いなんて、予想外だった。

これからも魔人域で買い物をすると思うから、リビィに色んな食材の定価を教えてもらったほうがいいかもしれない。

そのほうが、せっかくリィタを薦めてくれたあのお店が赤字で潰れなくなるし、余計なサービスでハセの葉を入れられずに済むかもしれない。

笑顔の練習をすれば、きっと定価で払っても受け取ってもらえる気がするから。

その時はまた、あの香辛料のお店で買い物をしよう。

それまでリビィが一緒に居てくれるかは分からないけど。

レシピ、聞いてたほうがいいかな。



「それと──」



美味しい料理の事ばかり考えて緩みそうになっていた表情を引き締めて、二人に街であった事を話す。

関所や都市の入り口で検問がある事を教えておかないと、私が目を離した隙に勝手に何処かへ行ったりしてしまったら、ディベリア神聖国に何をされるか分からない。

私の楽しい旅路を邪魔なんてさせない。



「あれからかなり経つのに、、」



ケイトが開口一番零したのは、私と同じ感想。

いくら他種族を排斥するディベリア神聖国でも、ここまでするのは異常な気がする。

何か裏があるような気もするけど、こういうのは私よりメヒトのほうが得意。

私の役目は、この二人に何かあった時に力を振るって守るだけ。

恐れられるばかりで良い事なんてないと思ってた私の力も、こういう風に使えるのなら悪くないかな。



「それなら出来るだけ人里には近寄らないほうがいいですね。今通ってるルートより、もっと人がいないところを──」



それから、三人で地図を囲ってこれからの事を話し合った。

どの道を通るのか、補給はどうするのか。

魔力はどれくらい温存したほうがいいのか、魔物が大勢来た時の陣形はどうするのか。

陽がある内に移動する事も忘れて、夕食の時間まで色々な決め事をした。

真面目な話なのに、こうして誰かと旅の行程を決めるのが楽しくて、駄目だと分かっていてもつい浮かれ気分になってしまう。

二人が心を砕いてくれたら、きっともっと楽しくなるんだろうな。

その為には、お姉さんの私が一歩踏み出さないといけない。

緊張するけど、二人とは仲良くなりたいし、頑張ろう。




「ちょっと話、いい?」




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