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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
五章
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四十四話「新たな決意」



「その時に助けてくれたのがウルなの。初めは見捨てるつもりだったみたいだけど、きっと私の事を気に入って助けてくれたんだと思う。ケイトを助けた時の反応を見た今ならそう思えるよ。体が冷え切ってた私の事をその場で手当てしてくれて、、、。後は、この前ケイトに話した通りかな。夫婦になったのも、私を家に置く事に違和感を失くす為なんだ。ウルは好きな人っていうより、救ってくれた恩人って感じだからね」


地下転移魔法陣を使って移動した先は、リビィ曰く王都近くの山。

使われなくなって久しいという事もあり、かなり埃が被っていた。

そんな転移魔法陣の近く、開けた場所でウルが用意してくれた魔道具を使って簡易的な防御結界を四方に張り、その中で焚火を挟んでリビィが聞かせてくれたのが先の話。

18歳の誕生日に家に帰ると、中学生の頃から女手一つで育ててくれた母親の様子がおかしく、言われた通りに従って車に乗ったら、嘘を吐かれて雪山に放置された、というもの。

その後母親も自害しているとリビィは言っていたが、確証は無いらしい。


突然雪山に放置されたという話だけを聞けば、俺は一方的にリビィの母親を責める事が出来ただろう。

だが、その後自らも命を絶ったというのであれば、、、、。

おそらくだが、無理心中を図るつもりだったんじゃないだろうかと思う。

それでも尚、リビィの母親がとった行動を肯定出来る材料にはならないんだが。



「今まで隠してて本当にごめん。同じ境遇のケイトには話しても大丈夫って頭では分かってたんだけどね、腐愚民が奴隷として売られてるところを見たり、散々な扱いを受けてるところを今まで何度も見てきてさ、、、、。誰相手であっても、自分が腐愚民だって、口に出す事すら怖くなったんだ。実は今も、口に出す度に恐怖に押し潰されそうになってる」



そう言うリビィの体は、よく見なければ分からない程の微弱な震えを持っていた。

打ち明けた今でも簡単に抜けない程、今まで時間を掛けて染みついた恐怖は濃いものなんだろう。

感情の持続しない俺にはあまり理解出来ないが、腐愚民の扱いを見たあの時の衝撃がずっと心に根付いているのだと思えば、その程度はほんの少し、理解する事が出来る。



「あの時のさ、私が人攫いに連れて行かれそうになった時、ケイトが助けてくれたの覚えてる?」



今でも鮮明に思い出せる、あの時の記憶。

未だ、精霊との契約も済ませているリビィが自分で対処しなかった理由を聞けていない。



「ケイトが見つけてくれたあの場所まで行く間に恐怖で体がかなり縮こまっててね、どうしようどうしようって何も出来ず仕舞いで、袋小路まで追い詰められた時に本当は記憶魔術を行使しようと思ってたんだ。私が捕まっても、私の記憶さえ消えてしまえばみんなに迷惑が掛からないからって。さっき使った魔水晶はいつああいう状況に陥ってもいいように常に持ち歩いてるからさ」



何かあれば自身を犠牲にして、周囲の人に迷惑を掛けないように身を引く。

そんな覚悟を常にしながら、リビィは日々を過ごしてきたのか、、。

普段から魔術をあまり使わないのも、記憶魔術を使う時にもし魔力が足りなければ取返しのつかない事になるからだそうだ。

つまり、腐愚民炙り出し計画を聞いて自分だけ捕まろうとしたあの時の俺の決意を、リビィは常に持ち歩いていたという事になる。

その上で、周囲に腐愚民と気付かせないような立ち振る舞いをしていた。



「辛くは、、、なかったですか、、、?」



自然と漏れたのはそんな言葉だった。

辛かったであろう事など、聞かずとも容易に察する事が出来るというのに。



「ずっと辛かったよ。慣れてからはそんなに頻繁にはなかったんだけど、一人になってふとした拍子に体が震えてたり、いつの間にか涙が流れてたりとかはあったね。流石に三年も過ごしてたら自分を繕う事に少しは慣れてきたけど。、、、あれ?」



話の終盤で、リビィの頬に一筋の涙が伝った。

声もほんの少し、震えている気がする。



「今まではさ、何かあってもウルがいるって考えたら少しは気が紛れたんだけど、これからはそういうわけにもいかないからさ。そう思うとちょっと怖くて、、、。もう、泣くつもりなんてなかったのに。ぐすっ。ごめんね、ケイトも辛いだろうに」



リビィの予想に反して俺はいまいち、辛いという感情を持てていなかった。

色々な事が次々に起こり続けているせいで、未だ全てを噛み砕いて理解するに至っていないんだ。


腐愚民炙り出し計画。

ウル、セナリとの別れ。

リビィが腐愚民だという衝撃の事実。

記憶魔術で消えた俺に関する記憶。


それらの事柄が一気に起こって、理解が追い付いていない。

だからこそ、一時的なものかもしれないが、今は心に余裕がある。

いつ余裕がなくなるか分からないから、リビィの恐怖を紛らわせる事が出来るとすれば今の内がいいだろう。



「リビィさん」

「どうしたの?」



涙を拭って無理に表情を作ろうとするリビィの目を見据える。

大それた事を言える自信はないが、少しでもリビィの恐怖を紛らわせられる事を願って、形がきちんと定まっていない言葉を紡いだ。



「リビィさんのおかげでほとんど読み書きを覚え、ウルさんのおかげで魔術を覚え、ある程度のこの世界の常識も覚えました。対人戦であれ、対魔物戦であれ。一定ライン以上の強者を除いた全てに勝てるだろうと、ウルさんからお墨付きも貰ってます。性格はまだまだ頼りないと思いますが、リビィさんを守る役目、ウルさんの代わりに努めさせてはもらえませんか?」



わざわざ宣言しなくても、ウルに頼まれていなくても、この状況であれば俺は何の報酬もなくともリビィを守る事に尽力する。

だがあくまでもそれは物理的な脅威から守るだけ。

それでは、心の拠り所を失ったリビィの新しい支えにはなれない。

物理的な支えは、宣言して初めて、精神の支えとなる。



「今までケイトに嘘吐いてた酷い人だよ、、?」

「でもきちんと話してくれました」



約二か月掛かったが、それでも話してくれた。

この世界に来るまでの経緯、話さなくてもいい心情まで。



「助けてもらっても何もしてあげられないよ、、?」

「リビィさんが無事で、幸せで居てくれたらそれでいいです」



本当は、今まで経験出来なかったあれこれを期待した。

でも、リビィが嫌がるのであれば無理に欲しいとは思えない。



「ケイトの記憶を、勝手にみんなから消したんだよ、、?」

「そうしなければならなかった事、きちんと理解してます」



マレッタと恋仲になる前で良かった。

失恋という名が付かない分、傷は浅い。



「他にも色々、、、私なんて守っても良い事ないんだよ?自分の事だけでも大変なのに、足手まといが増えるだけなのに、、、」



リビィはきっと、簡単には人を信用出来なくなっているんだと思う。

元の世界で理由も分からないまま裏切られて、この世界で腐愚民の扱いを見てきて、それでも尚、躊躇いなく人を信用しろというのは、酷な話だろう。

見返りもなく助けてくれるなんて、何か裏があると疑っても仕方のない事なんだろう。

それでも、信用してもらわなくてはならない。

この機会を逃せば、時間を空けてリビィが仮面を作り直してしまえば、きっとそこに俺が入る余地はなくなる。

そうすれば命を助けてもらった恩返しが出来なくなる。

弱みに付け込むようで悪い気はするが、心が不安定になっている今の内に、、、。



「僕のこの命は、リビィさんに助けていただいたんです。心の中にあるのは、その恩を少しでも返したいって気持ちだけです」



そう言うと、リビィは緩く開いていた口を閉じて強く結んだ。

今の言葉に何か思う事があったのだろうか、ほんの一瞬だけ、様子が変わったような気がする。

だが、まだ俺を支えとして認めてくれてはいなさそうだ。



「その恩がなかったとしても、僕はリビィさんを守り続けます。リビィさんが好きなので」

「、、、、え?」

「え?」



一瞬の思考停止の後、自分が放った言葉を理解した。

好き、うん、確かに好きと言った。

なんでだ?

リビィに支えとして認定してもらおうと焦るあまり、つい口が滑って言わなくてもいい事まで言ってしまった。



「あ、えっと。違います!いや、違うくはないんですけど違うくて!」

「だだ、大丈夫だよ!あれだよね!友達としてとか人としてって意味だよね!!」

「そうですそうです!!」

「大丈夫!ちゃんと分かってるよ!!」



さっきまでのしんみりした雰囲気は消え失せて、二人とも慌てて言葉を紡ぎ、何だか場が混沌としてきてしまった。

いや、俺の発言のせいだということは分かっているんだがこれは不慮の事故とみなしてほしい、、、。

それに、人として好きなのは確かだが、綺麗過ぎて恋愛対象には入っていないはずだ。

未だ話すのですら緊張する事があるというのに。



「ぷっ。ふふふ」

「ちょ、ちょっとリビィさん」

「ふふ。ごめんね。何か堪えきれなくなっちゃって」



話の本筋から逸れてしまったが、涙を浮かべこそすれリビィの笑顔が見れた事に、心は少し満たされた。



「ねえケイト。私もそっち座っていい?」



問い掛けに諾と答えると、リビィは焚火をぐるりと回って俺のすぐ横に掛けた。

今座っているのは、近くに放置されていた伐採された木。

それを半分にして上に布をかけて、即席のベンチのようにしてリビィと分けて使っていた。



「あ、あの、近くないですか、、?」

「んー?」



簡易的なベンチは五人が並んで座れるほどの長さがあるのに、リビィが選んだ位置は腕が当たるほど近く。

こんな至近距離で話した事がないから、嫌が応にも緊張する。



「さっきのさ、私の事守りたいって言ってくれたのって本当?」



焚火を両目に映し込みながら、リビィがそう言った。

その横顔からは、つい先程の笑顔が消えている。



「はい、勿論です」

「そっか」

「え、ちょ、リビィさん、、、?」



俺の返答を聞いたリビィは、一つ小さく笑みを零して俺の胸に顔を埋めてきた。

心臓は、分かり易く早鐘を打つ。

横腹を経由して腰に添えられた繊手が、その速度を加速させた。



「ありがとうケイト。本当に」



咽び泣くように声をあげるわけではなく、ただ静かに涙を流しながらリビィが感謝を零した。

ありふれた形の感謝の言葉だけだったが、それでも、リビィが俺を支えとして認めてくれたんだなと、理解する事が出来た。

現状、体を支えているからという事ではない。

リビィの声色から、そう判断させられた。



「今は少しだけ、このままでいさせて」

「、、、はい」



心臓は、強く早く脈動し過ぎて痛いくらいだった。

それでも、今リビィを無理矢理引き剥がす事なんて出来ない。

煩く鳴る心臓に巻き込まれて荒くなりそうになる呼吸を落ち着けながら、リビィが新たな決意を沈着させるのを、ただただ待ち続けた。















「、、、ありがとう。ちょっと落ち着いた」


数分後。

涙が収まったリビィが、俺の胸元からゆっくり離れていった。

名残り惜しい気もするが、そろそろ正常な呼吸を保つのが辛くなってきた頃だ。

呼吸を荒げて心の距離を置かれるような事になるくらいなら、少しの名残惜しさくらい我慢しよう。



「ケイト、心臓の音凄かったよ?」

「聞こえてたんですね、、、」



胸元に(うず)まっていたんだ、聞こえていても不思議ではない。

それでも、自分である程度音を抑えられている気でいた。

穴があったら入りたいというのは、こういう時に使うんだな。



「うん。でもそのおかげで落ち着けたし、今まで以上にケイトに頼ろうって思えた」



女性に抱きつかれただけで心拍を荒げる小心者など、頼りになるとは思えないが、、、。



「頼りになる人って言ったらさ、ついつい何でも出来て、悩みなんか自分で解決しちゃうような非の打ち所のない人を想像しちゃうんだけど、そうじゃないんだって今思えたよ。人によってはそういう人が良いっていう人もいるんだろうけど、私はケイトみたいに完璧じゃないほうがいい」

「褒められて、、ます?」

「勿論!よく考えたらウルも完璧なタイプじゃなくて、一緒に寄り添ってくれていつの間にか心の拠り所になってた感じだなって。弱いところも見えないと、心を許すのが難しいんだね」



まあ確かに、完璧超人にはあんまり悩み事を打ち明けたりするのは難しい気がする。

解決策は出るのかもしれないが、きっと理解はしてもらえない。

自分の支えに選ぶのは、必ずしも常に答えを出してくれる人ではないのかもしれないな、、、。



「ケイトも。何かあったら頼ってね。私に出来る事なんて少ないけど」

「そんな事ないですよ。遠慮せず頼らせてもらいます」

「ふふ。飾らないんだね。ケイトのそういうところ好きだよ」

「すッ──!」

「さっきの仕返し」



そう言って悪戯に笑うリビィの顔からは、泣いていた時に纏っていた悲哀が、すっかり晴れてしまっているような気がした。

随分心臓に悪い悪戯だったが、笑顔になってくれたなら良しとするか。


(、、、まあ、今度また何か仕返しはするけど)


そんな事を考えながら焚火に手元の枝を放り込んで、隣に座るリビィと他愛ない会話を重ねた。










「これからどうなるんだろうね、、、」


木が燃える音が優しく耳に届く中、他愛ない会話の隙間でリビィがそんな不安を吐露した。

ウルから聞いたこれからの計画は確かなものなんだろうが、言葉で伝えられただけで安心し切る事は出来ない。

どちらかというと楽観的な考えを持つ俺ですら、今抱える不安は計り知れないものがあった。

ウルと旧知の仲とはいえ、俺もリビィも初対面であるメヒトの家に転がり込む。

わざわざそこに行けと言うくらいだから腐愚民に対する偏見がない人なんだとは思うけど、、、。



「メヒトさんってどんな人なんですか?」

「うーん、、。私も詳しく知らないんだ。魔人の中で一番どころかこの世界で一番って言われてるくらい賢いらしくて、魔術の腕も凄いみたい」

「凄いですね、、、。三賢者の一人でしたっけ?」

「うん。魔装を着た変人って異名もあるくらい、変な人らしいけどね」

「魔装を着た変人ですか、、、?」



元の世界で言うところの、歩く○○のような揶揄だろうか。

とても良い意味には取れそうにない。



「魔人は魔力があるから普段は魔装を着ないって人が多いんだけど、メヒトさんは常に魔装を羽織ってて、しかもその種類がころころ変わるって事からそんな異名を付けられたらしいよ」

「魔装を替えるのは何か理由があるんですかね?」

「聞いても教えてくれなかったらしいけど、色んな魔装の性能を試してるんじゃないかってウルが言ってたよ。知らない事が殆どなくなってしまってそれからは新しい事を生み出す研究に励んでるみたいで、それの一環じゃないかって」



知らない事が殆どない、、、。

ちょっと違う気もするが、全知という表現が近しいだろうか?

そう考えると頭の中にマッドサイエンティストのような人物が浮かんでしまったが、出来るなら普通の人がいい。

でも、色んな人を見てきているであろうウルが変人というくらいの人物だ。

どう足掻いても普通の枠組みには入れる事が出来ないような人なんだろうな、、。



「そういえば、前に言ってた元の世界に帰る為の手掛かりを聞く良い機会かもね」



そうだ。

方法が分からな過ぎて選択肢から排除していたが、俺とリビィが二人とも元の世界に帰るという選択もあったんだ。

今後もディベリア神聖国に見つかって捕まる可能性が無いわけではないし、元の世界に帰るというのはひとまずの安全を確保出来た今であっても、最善の策のように思える。

その方法を知れるのなら、、、、。

ほんの少し、早くメヒトに会いたいと思え始めた。



「もし元の世界に帰る方法が分かれば、帰るのがいいかもしれないですね。リビィさんはどうしたいですか?」

「私は帰りたくないかな、、、」



暗く影を落として、リビィが本音を零した。



「私はこっちの世界に来てから三年経ってるの。帰ってもお母さんはいないだろうし、数人だけ居た友達はもう色んな大学に通ったり仕事をしたりしてるだろうし、誰も頼れる人がいない世界で生きていける気がしないんだ、、、。この世界に絶対居たい!ってわけじゃないんだけど、元の世界にあんまり良い思い出が無いから帰るのが怖いの」



リビィが住んでいた地域は、外国人に排他的な人ばかりだったらしい。

ハーフではあるが、日本人と言われても信じられないくらい見た目に海外の血を色濃く継いでいるリビィは、その排他的な思想の影響を強く受けたんだろう。

あまりにも当たり前のものすぎて、いじめをいじめとも理解していなかった。

だが、好ましい人間関係を多く築けて、人の温かさを知った今、もう同じ環境に戻る事は出来ないだろう。

人はより良いものを知ってしまうと、元々持っていたものの価値が低く見えてしまう生き物だから。

斯くいう俺も、元の世界よりこっちに来てからの生活の方が充足感を得ているのだが。



「そういえば、話を聞いて思い出しましたけど、リビィさんって同い年なんですよね?」

「そうだよ。18歳の時から体に変化がないけどね」



何となく年上として接してしまっていたが、最初の頃に同い年だと聞いた事があったのを、ぼんやりと覚えていた。

体の年齢は年下だが、それはあまり意味を成さないだろう。



「だから、敬語もさん付けもしなくていいんだよ?」

「これで慣れてしまったので暫くはこのままでいきます」

「じゃあ、これからもよろしくお願いしますねケイトさん?」



そう言って悪戯に笑うリビィの姿からは、年相応の幼さが感じられた。

近距離の美人の笑顔は、心臓に悪い。

いつか、ため口になって距離を縮める事が出来るんだろうか。

美人過ぎるリビィと対等に話している自分の姿が想像出来ないから、暫くはこのままになりそうだけど。


















「あ!」


暫く談笑をして、そろそろ明日に備えて寝ないといけないなと考えていた時、耳に届いた空腹の報せで大事な事を思い出した。

なんで今になって、、。



「ど、どうしたの、、?」

「食料持ってくるの忘れたと思って、、、、」



そう。

ウルから脱走の作戦を聞いた後に食料庫の食料を詰めさせてもらおうと思っていたのに、すっかり忘れていた。

簡単につまめる間食は少し持ってきているが、一日持つかどうかすら微妙な量だ。

明日は朝から狩りをしないといけないのか、、、。


(動物を捌くなんてした事ないんだけどな、、、)



「あれ?ウルから聞いてない?」



リビィがきょとんとしている。

心から不思議に思っている表情だ。

何か対抗措置を取ってくれているんだろうか。



「私の格納袋に食料も飲み物も入ってるよ、入れ過ぎても腐るから、メヒトさんの家に着くまでに必要な一週間分くらい」

「全く聞いてないです、、、」

「そ、そっか、、、」



項垂れる俺に、リビィが申し訳なさそうに相槌を打った。

ウル。

大事な事なんだから伝えておいてくれよ、、、、。



「まあでも、良かったです。これで食料の心配はありませんね」

「うん。格納袋に手を入れたら大体の内容が頭に流れ込んでくるから、もし気になるなら入れてみて」



リビィに言われた通り、自分の格納袋に魔力を流し込みながら手を入れてみる。

粘りのある液体の中に手を入れていくような感覚だ。

ちょっと気持ち悪い。


(あ、確かに何となく分かる)


吸い込まれるままに手首の辺りまで格納袋に入れると、大まかな内容物が頭に流れ込んで来た。

ナイフ、肌着、タオルに、枕や簡易的なベットに体を洗う用の白い粉。

それ以外にも旅に役立ちそうな物がいくつか入っていた。

多分、格納袋を受け取った時点でウルが入れておいてくれたんだろうな、、、。

その中からベッドと枕を取り出し、ナイフを始めとした旅に役立ちそうな物達をフェイクの鞄の中に移した。

ここに入れておけば、いざという時にすぐに取り出せる。


格納袋から物を出す時は、頭の中で取り出すものをイメージしながら、手で取り出す物の一部を持って引っ張るだけ。

それだけで格納袋の小さな口から、ソファーくらいのサイズの簡易ベッドが出てきた。

この小さな袋が繋がっているのは、どれだけ大きい格納庫なんだろうか。



「リビィさんのほうにもベッド入ってますか?」

「入ってるよ」



リビィがベッドを出すところをよく見てみる。

うん。

二回目でも見ている光景の真偽を疑いたくなるな。



「問題は寝てる間の結界の形ですね、、、」



結界を張る魔道具は幾何学模様の描かれた、苦無を薄く大きくしたような物。

一つ30cm程のそれに一定量魔力を注いで地面や壁に複数刺すと、その間を繋ぐように最大2mの高さの結界を張る。

今は四方に置いて、上が開いた状態で前後左右を守れるように結界を張っているが、寝ている間に上から魔物が襲って来ないとも限らない。

角が四つまでの立体をイメージして、その角に魔道具を刺せばいいんだが、、、。


(あ、そうだ)


閃きに身を任せて立ち上がり、鎮火した焚火の真横に2m程の石柱を作って、その頂点と、上から見た時に柱を中心とした三角形が出来る位置に魔道具を配置する。

魔力を注ぐと、魔道具同士が繋がり合い、高さ2mの三角錐の結界が出来上がった。


失敗して外に居る状態で結界を形成してしまったが、荷物の中に透過板があった事が功を奏して無事に入る事が出来た。

ウルはこういう状況を想定して荷物に透過板を入れてくれていたのかもしれない。

鈍臭い事が見抜かれてるな、、、、。



「これなら上も防げるし安心して寝られそうだね」

「はい。今日はもう寝ましょうか。キュイも眠気が限界みたいですし」

「キュキュゥゥン、、、」

「そうだね。それじゃあお休み、ケイト。また明日からもよろしくね」

「はい。おやすみなさいリビィさん」



別れがあり、感動があり、怒りがあり。

そんな色々を詰め込み過ぎた1日は、こうして日を跨ぐ直前に終わりを告げた。

つい数時間前までは不安で一杯だったはずなのに、今は少し紛れている。

それと、ほんの少し、ほんの少しだけだが、これからの旅が楽しみになっている自分が居た。



(きっと大丈夫。俺一人では心許ないが、リビィが一緒なら大丈夫だ)



木々が風でざわめく山中。

不自然に置かれたベッドの上で、そんな事を考えながら微睡に身を任せた。

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