四話「ウル・ゼビア・ドルトン」
※視点切り替えあります
2mと少しはある背丈、銀髪に黒のメッシュのオールバック。
歳の割に老けて見えるその顔には、少し明るい茶色の双眼が眼光鋭く備え付けられている。
17歳という若さで三賢者の一人に数えられたその男の名はウル・ゼビア・ドルトン。
二年前に正式な結婚ではないが妻を娶り、25歳になった現在は武人に友好的なシルム王国国王、ユリティス・ギルバート・ティノグライトに仕え、外交官として他国との橋渡し的存在になっている。
───────アラン・マッソ著 「現代に於ける三賢者の在り方」より抜粋
「あー、くっそ。忙しいなあ!!」
仕立てはしねえといけねえし、帳簿の管理と仕入れの確認と、、、。
二本じゃ手が足りねえなこれは、、。
それもこれもあいつのせいだ。
(ウル。恨むぜ、、、。忙しくしやがって、、)
すっかり偉いさんになった幼馴染みのウルが、朝一番に上物の白生地を一反持って仕立て屋であるウチにやってきやがったのは、親の代からの誼で安く優先的に依頼を受けてるからだろう。
まあ勿論、俺の仕立ての腕がセプタ領イチだというのが一番の理由だろうが──
「サシャ!、、おい!サシャ!聞いてんのか!?」
「へぁ!?ああ!悪い悪い!もう来たのか」
俺の名前はサシャ・リングデウム。
ウルとはガキの頃からの腐れ縁で、同じ魔術大学を卒業してからも何だかんだで付き合いは続いている。
そんな腐れ縁の幼馴染みが店を開けてすぐに注文してきやがったのは、この大男にはかなり小さいサイズの初心者向けの魔装だ。
知り合いから預かってるっつうセナリのものにしては大きいし、嫁さんに着せるのなら男物のチョイスはあり得ない。
誰かへのプレゼントか?
この、人付き合いが下手な奴がそんな気の利く事するとは思えないが、、。
それも男相手に。
「ったく。頼んでたやつ出来てるか?」
「ああ。でもなんだって突然こんな注文してきたんだ?誰かにやるのか?」
「いや、気にするな」
相変わらず、誤魔化しが下手な奴だ。
こいつは小さい頃から何かを隠したり誤魔化したりする時の癖が変わってない。
無理に笑顔を作ろうとして顔の左半分が不気味に引き攣る。
多分、一生隠し事は出来ねえだろうな、、。
「しゃーねー。俺とお前の仲だ。深い事は聞かないでおく」
「なんのことだ?」
そういう台詞は引き攣った顔を元に戻してから吐けよ、、、、。
「何でもねーよ!気にすんな!んなことより代金はちゃんと持ってきたか?」
「、、ほら。急ぎで仕立ててもらった分は多めに入れてある」
「おっ!老け顔の外交官様もたまには気が利くじゃねえか!」
「老け顔、、だと!?サシャ、てめぇ、、」
常に怒ってそうな顔が、更に分かり易く怒りを表現してやがる。
この反応が来ると分かっててもつい言っちまうんだよな。
悪い癖だとは思うがやめるつもりはない。
「わー!!冗談だ!冗談だって!本気にすんなよ、、ったく、昔からなんも変わってねえな」
「お前な、、変わらねえのはお前も同じだろ。くだらねえ冗談言いやがって」
「っは!変わらねえのはお互い様だな。これからも御贔屓に頼むぜ」
「ああ。また頼む」
さて、元から入ってた仕事にあいつが急に入り込んできやがったから、今日は昼寝してる暇はなさそうだな、、、。
まあ、幼馴染の誼でぐちぐち言うのは勘弁してやるか。
(そういや、、、)
あいつの顔見て思い出したが、暫くメヒトの顔見てねえな、、。
元気にしてればいいが。
──────────────────
三賢者になってからというもの、
元より体がデカくて集まり易かった視線は、より集まり易くなった。
悪ガキ時代に向けられていた馬鹿にしたような視線ではない分マシだが、人付き合いに慣れない俺にとっては正直なところ心持ちがよくない。
だが、生まれつき目つきが悪い事が功を奏して、知り合い以外にいきなり声をかけられることは殆どない。
無論、仕事は別だが。
そんな俺が結婚するなんて事を、一体誰が想像しただろうか。
自分が一番驚いている気がするが、、、、、。
妻の名はリビィ・ドルトン。
正式な結婚では無い為、式や両親への挨拶は済ませていない。
本当は、ドルトンの名を名乗る事も許されていない。
まあ、それはお互いどうでもよく気にしてないが、、。
リビィとの出会いは劇的なものだった。
約三年経った今でも鮮明に思い出せる程、劇的なものだ。
だが、それについては誰にも詳しく話していない。
ガキの頃からの腐れ縁であるサシャにも親にすらも話していない。
理由はままあるが、どうしようもない状況でない限り、リビィの許可なく口外する事はないだろう。
そんな二年連れ添っているリビィが、最近とんでもないものを拾ってきた。
名はケイト。
本名はケイタ、、、だったか。
特筆すべきは名前ではなく、そいつが何処からやって来たのかという事だ。
ケイトはこことは別の世界、異世界から転移してきた。
転移者というのは数こそ少ないが、それほど珍しくも無く、どちらかといえば身近に存在するものだ。
だがそれは、転移してきた珍しい人間としてではなく、
外傷や毒以外で死ぬことも、老いることもない都合の良い奴隷として。
見つかれば即刻証と呼ばれる首輪を着けられ、腐愚民という蔑称を背負わされて一生奴隷としての生活を強いられる。
腐愚民を匿う者も、見つかれば相応の罰を与えられる。
そんな存在を妻が突然拾ってきた。
勿論すぐに捨てろと諭したが、普段見せないリビィの強い視線に押し切られる形で、ひとまず匿うことになった。
強く言い包められなかったのはリビィの境遇を知っているからかもしれないが、、、。
腐愚民であることに加え、年頃の男をリビィと一緒に暮らさせる事は正直なところ反対だ。
今日も家に置かずに連れて出たほうが良かっただろうか?
二人になった瞬間に何かされてないだろうか?
焦りに駆られたケイトが暴れ出していないだろうか?
考えれば考えるほど、嫌が応にも不安が募っていく。
だが、どれだけ不安が募ろうとも、ケイトへの不信感が拭えなくとも、
追い出そうという考えにも、日がな一日中監視しようという気にもならない。
これだけ内心ハラハラしているというのに、つい先程もリビィを置いて出てきてしまった。
そこまで頭が回らなかったと言われればそれまでだが、それ以外の何かが原因な気がしている。
何か起こってからでは遅いが、現状で打てる先手はない。
ひとまず、ケイトには警戒を続けるとして、頭の片隅で正体不明の原因を探り続けるしかないか、、、。
────────────────────
「あ、おかえりなさいウルさん」
「おかえり、ウル」
思っていたよりも随分早く、ウルが帰って来た。
不信感たっぷりの視線で俺とリビィの間に視線を往復させているが、誓って何もしていない。
ウルがいない間にした事といえば、リビィに魔術について聞いただけだ。
「ああ。無事か?リビィ」
「何が?」
「、、、いや。なんでもない」
「ふふ。ありがとうウル」
「、、、ん?」
「ううん。そんなことより、服、仕上がってた?」
リビィの問いに頷いて、ウルが小脇に抱えていた紙袋からフード付きの白いローブを取り出す。
触らずとも、肌触りが良さそうだという事が分かる。
布の素材についての知識はほぼゼロだから、何の生地とかそういう事は分からないが。
シルク、、、とは違うか。
「わあ!やっぱりサシャさんはすごいね。ちょっと前に頼んだばっかりなのに、こんな立派に仕上げるなんて」
「腕前だけ見れば貴族どもお抱えの仕立て屋にもなれるんだがな。まあ、こっちとしては助かるからいいんだが」
サシャというのはウルの幼馴染みの仕立て屋らしい。
これも一応、頭の中央辺りに書き殴っておこう。
「素敵なローブですね。ウルさんが着るんですか?」
「いや、違う」
当たっていると思って口にした言葉は、端的に否定されてしまった。
という事は、これはリビィ用に仕立ててもらったものなんだろう。
この白一色のローブなら性別関係なく着られるだろうし。
リビィが着るには、少し肩幅が広い気もするが。
セナリが着るって事は、、、ないよな。
流石に大き過ぎる。
「これはケイト用に仕立ててもらったものだよ」
一瞬、耳を疑った。
俺用、、?
「え?僕用、、ですか?」
「そうだ。羽織るものを一つくらい持っておいたほうが良いだろう」
「あの、、でも、お金とかどうすれば、、?」
「他所の世界から来た一文無しに集るほど貧乏ではない」
いいんだろうか。
住む場所を与えてもらって、怪我を治してもらって、美味しいご飯も食べさせてもらえて。
その上でこんなに高そうなローブまで、、、。
自分の置かれてる状況すら把握し切れてないのに、返す目処なんてどうやっても立てれない。
初心者歓迎のバイトとかあるのかな、、。
この世界の事を知らなくても、靴磨きくらいなら出来そうだ。
後出来る事といえば洗い物くらいか。
「どうしたの?もしかして、あんまり気に入らなかった?」
おずおずと、リビィが俺の顔を覗き込む。
受け取ってもいいものかと逡巡している内に、いらぬ心配をさせてしまったようだ。
申し訳ない、、。
「あ、いや!そういうのじゃないんです!ただ、その、あまりにも申し訳なくて、、」
「ケイト」
「、、はい」
「どうしても気になるなら働いて返せ。仕事は斡旋してやる。だが、今は気にせず受け取っておけ」
そういってウルが差し出してくれたローブを受け取り、胸に抱く。
さらさらと、シルクのような良い肌触りをしている。
見た目だけでも高そうだったが、触れてみるとより一層このローブが安物でない事が分かるな、、、。
こんな上物をポンとくれるなんて、やはりウルは良い人みたいだ。
見た目さえ怖くなければ取っ付きやすいのに。
「はい。その、ありがとうございます、本当に」
現実逃避かただ捻くれているからかまだ自分の置かれてる状況を理解し切れてないし、そのせいで心からの感謝をする事が出来ないけど、それでも形だけでも、感謝を述べておいた。
いつか状況を理解して施しの有難みをきちんと分かり得たら、その時は改めてお礼を言おう。
何を持って理解とするのかは、分からないけど。
「それともう一つ。一応確認だが、これを読めるか?お前が生き延びる為に、簡単だがケイトという人物の設定を考えて書いておいた」
ウルに渡されたのは、幾つかの文言が箇条書きされたB5サイズの紙。
受け取って上から下まで目を通してみるも、一字として読む事は出来なかった。
間違いなくこの文字は日本語ではない。
英語、、でもなさそうだし。
それ以外の国の文字だろうか。
未だ手元にあるこの本は、日本語で書かれているというのに。
「すみません。せっかく書いていただいたのに読めそうにないです、、」
「いや、気にするな。どうせダメ元だったしな」
何も気にしていないと言った様子で、さらりとウルがそう言った。
「ダメ元?」
「なぜか分からないが、異世界から来たやつは会話は出来るのに読み書きが出来ない」
どういうことだ?
読み書きが出来ないのにこの本は読める。
つまり、、、どういうことだ?
簡潔に、140文字以内くらいで説明してほしい。
「訳が分からないのも無理はない。ややこしくなったのは、その本を初めに目にしたからだ。いいか?一度全てリセットして、今から言う二つのことを信じろ」
頭の中が空になるように意識して、小さく頷く。
加えて本から一度手を離し、全ての神経をウルの言葉に集中させる。
「一つ、俺が持っているこの紙に書いてるのが正真正銘この世界の文字だ。二つ、俺はその本を読めない。この二つが意味する事が分かるか?」
言葉を受けて、返答をする前に考えてみる。
1.この本を俺は読めてウルは読めない。
2.ウルが持っている紙に書かれた文字を俺は読めないがウルは読める。
3.その文字はこの世界のものだという。
ていうことは何か。
この本は昔転移した日本人が書いたもの、、ってことか?
でも、なんでわざわざ文字での疎通が出来ない世界で日本語の本を?
それに加え、なんでウルは読めない本を持ってるんだ?
得られた理解と同時に、それ以上の質量を持った疑問が浮かんだ。
「何となくは分かりました。この本に書いてあるのが僕の居た世界、、えっと、なんでしたっけ?」
「劣世界だよ。今居るのが優世界ね」
「ありがとうございます。つまり、この本の文字が劣世界のもので、ウルさんの持ってるその紙に書いてある文字が優世界のもの、ってことですか?」
「そうだ。今まで読めないということは知ってたが、それが劣世界の文字である事は知らなかった」
読めないのに置いているのは、読めるように研究や解読をしているとかだろうか。
その割には、読み込んだ後も書き込みもなかったが。
「何故読めない本を家に置いてるのか疑問か?」
「はい」
「〝一城の主よ。自室にて一冊の本を祀り給え。彼の本は其方とその血族に芳醇なる恵みを与え給う〟
いつからかは知らないが、この世界にある古くからの言い伝えだ。その本を置いていたのは、言い伝え通りにしていたに過ぎない。そもそもの発端としては、家を建てる時に無理矢理【家売り】に持たされ事が原因ではあるが」
家を建てる時の祈祷か、実家にあった神棚みたいなものかな?
そんなのに頼りそうな感じはしないんだが、万が一を考慮してるのかもしれない。
血族ではないが、リビィやセナリに降り注ぐ災難を払い除ける為、とか。
実際の効果はない、単なる心の拠り所のようなものだろうけど。
「そうなんですね。ということは他の家にもこれが?」
「そうだ。全てではないが、殆どの家には置いてあるはずだ。実際に効果があるのかは分からないが、あったとしても然して邪魔になるものでもないからな」
「でも、なんでそこまで広く知れ渡っている本が劣世界の文字で書かれているんでしょうか?」
「さあな。劣世界の文字だという事もお前が読んで初めて知った事だ。メヒトに聞けば何かわかるかもしれんが、、、いや、やめておこう」
考える様子で顎をしごいたウルが言葉を濁した。
途中で止められると気になってしまう。
「メヒトさんというのは、、?」
ウルがあからさまに嫌そうな表情を浮かべた後、小さく溜息を吐く。
そんなに話したくないのか。
「魔術大学からの腐れ縁でいいとこの坊ちゃんだ。魔術もそうだが、それ以外でも知識であいつと渡り合えるやつは見た事がない」
「あ、もしかして前に話してくれた人?」
「そういえばリビィには話した事があったな。まあ、その、なんだ。頭は良いが変わり者なんだあいつは、、。それも〝超〟がつくほどのな。その性格のせいで、事実上家を追い出されてる。表面上は、魔術師の技術向上の為に郊外の研究施設で研究させる為と理由付けされてるが」
出過ぎた杭が学校や職場で疎外されるというのは聞いた事があるが、家から追い出されるのは相当じゃないだろうか。
この世界での常識ではどうなのか分からないが。
所謂、勘当というやつだろう。
「悪い奴じゃないんだがな」
「会ってみたいな」
「ダメだ。何をされるか分からない。危険が多過ぎる」
「心配し過ぎだよ」
「いや、あいつに関しては心配しすぎても足りないくらいだ」
どの世界でも頭が良すぎる人っていうのは変人が多いんだな、、。
でも、興味本位でちょっと会ってみたい気がしないでもない。
きっとロン毛で眼鏡をかけているんだろうな、と勝手な妄想を広げた。
「まあ、あいつの事は今はいい。ケイト、今からお前の設定を口頭で伝える。自分で覚えやすいようにこの紙の裏に書いていけ」
頷いて、ウルから目の粗い紙と、羽ペンとインク壺を受け取る。
使い慣れない羽ペンに齷齪しながら、言われたことを上から下に日本語で箇条書きした。
ケイト、21歳
セプタ領の郊外にあるスワナ村の出身で魔術師見習い。
両親は数年前に他界している。
魔術師になる為に、知り合いの伝手を使ってウルに弟子入りし、住み込みで働きながら魔術の訓練に励んでいる。
読み書きは習得中の為、殆ど出来ない。
ウルに言われるがまま書いた自分自身の設定を見てみる。
単語単位で考えれば分からないこともあるが、大体の内容は伝わる。
田舎で両親を失った男が、伝手を使って弟子入りしに都会に出てきたってとこか。
田舎から出てきたばかりで今まで必要としてこなかったから、読み書きが出来ない、、と。
これなら咄嗟に文字を書く場面になっても誤魔化すことが出来る。
ややこしい設定もないし、簡単に覚えられそう、かな。
一応、もう一度読み通しておこう。
「とりあえず今決めておく設定は以上だ。ここでの生活に慣れるまでは極力俺かリビィ、もしくはセナリと一緒に外出しろ。誰かと居ればこれ以上決めておかなくても深く詮索されることはないだろうからな」
この忠告は妥当だろう。
俺も、何も知らない世界で突然一人で外へ出たいなどとは言わない。
むしろ、言われたところで出たくない。
叶うなら、このままこの家に引き籠っていたいくらいだ。
ゲームとかないかな、、、。
「ありがとうございます。何から何まで」
「お前が異世界人だと分かれば俺が困るからな。自分の身を守る為にやっただけだ」
「そう、、ですね。出来る限り気を付けます」
ウルと同じように、自分の身を守る為に。
全ての注意力を動員して、正体がバレないように気を付けなくてはならない。
お遊びではない、命懸けの隠匿。
すぐに外へ出る予定があるわけではないのに、緊張が強制的に高めさせられた。
「そうしてくれ。とりあえず、今何か分からない事はあるか?」
「あ、じゃあ一つだけ質問を。このスワナ村っていうのはどういうところなんでしょうか?」
「セプタ領の端に位置する、町と言ってもいい程大きな村だ。開拓されていない土地が多く、農業が盛んだ」
ウルに礼を言って、質問の答えを紙に書いておく。
いざ聞かれて自分の出身地の事を知らなければ違和感があり過ぎるからな。
機会があれば、訪れてみたい気がする。
きっと、景色の綺麗なところだ。
開拓されてないって事は、ジャングルのような場所の可能性もあるけど。
「俺はこの後王都まで行かなくてはならない。リビィ、悪いがケイトに読み書きを教えてやってくれるか?最低限でいい」
「勿論いいよ。お仕事気を付けてね」
「助かる。ケイト、夜には戻るが、、分かってるよな?」
「肝に銘じておきます。お気を付けて」
「分かってるならいい。くれぐれも外出は控えてくれ」
半分反射でウルの忠告に答える。
何もする気はないし、そもそもリビィみたいな美女に手を出す度胸なんてない。
それが出来れば、きっと今頃彼女が出来てるはずだからな。
、、、見た目を裁量に加えなければだけど。
(それにしても、、、)
まだ異世界へ来た事をいまいち信じ切れていない中で、早速読み書きの練習か、、。
纏まらない考えを持つ頭で、どこまで理解出来るだろうか。
英語ですら、カタコトだというのに。
「ご主人様ー!リビィ様ー!ケイト様ー!お食事の準備が出来ましたですー!どうぞお召し上がりくださいでーす!」
セナリがタイミング良く下の階から呼びかけてくる。
ウルとリビィが特に返事をすることもなく部屋の外へと出て行った。
俺は、料理を持ってきてくれると言うリビィの言葉に甘えて、部屋でさっき貰った設定を見返しながら独り待っている。
色々と返さなくてはいけない恩がある中で甘えるのは駄目だとも思ったが、強く遠慮する事も出来ず受け入れる事になってしまった。
何とも自己主張の弱い、、、。
出来るだけ、自分で出来る事は自分でしないと。
流されるままにしていれば、恩は増えていく一方だ。
色々教えてもらったが、まだまだ半信半疑で理解が追い付いてこない。
だが、ぼんやりと今居るのが異世界であるということが認識出来てきた気がする。
慣れない単語達がそうさせたのか、見慣れない文字の羅列達がそうさせたのかは分からないが、異世界だという事を信じる気持ちのほうが大きくなっているのを、部屋で一人食事をしながら、弱々しくも確実に感じ取っていた。