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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
三章
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二十九話「不穏の元凶」



古書塔へ行った翌日。

忙しいのか、まだ帰ってこないウルを待つ為、出来るだけ宿から離れない範囲で穏やかな一日を過ごした。

街中を当てもなく歩いたり、露店で食べ物を買って食べ歩きしたり、複写してもらった本を草原にあった岩に腰掛けて読んだり。

読み書きの練習や魔術訓練もなく、心象を乱される事もない。

この世界に来てから初めての、心休まる穏やかな、まさしく休日と呼ぶべき一日だった。

元の世界に居た時の休日といえば長らく、携帯やパソコンを一日中触ったり、ゲームをしたり朝まで飲みに行ったりという事しかしてこなかったが、お金が掛からず家にも籠らず、これだけ充足した日が過ごせるんだという事を認識出来て何だか嬉しい気持ちになった。

それは、ずっとこんな日々が続けばいいのにと思ってしまうほどに。












「遅くなってすまない。食事を終えてからでいいが、宿を引き払う準備をしてくれ。すぐにでも王都に戻る」


昨日の穏やかさが後を引く中迎えた朝。

俺の部屋で三人集まって朝食を食べていたところに、ウルがやってきた。

いつもと変わらないようにも見えたその姿だったが、よく見ると疲れが顔に貼り付いている気がする。

すぐに王都に戻らなければならない程、事態は急を要しているのだろうか。

要件を伝えてすぐに部屋を出たウルの背中を見送りながら未だ引き締まらない気を持って、残っていた一口で食べるには少し大きいパンを咥えたまま、宿を引き払う準備に勤しんだ。








「ケイト。詳しくは話せないが、俺がこれだけ急いでいる理由を話しておく。リビィ達には聞こえない程度の声量で話すから、耳を澄ませておけ」


ティノットの町から次の町、コパの町へ向かう途中の街道で、行きより激しさを増した馬の足音に紛れさせながらウルがそう話し掛けてきた。

驚く程すんなりキュイが精霊だという事を信じてもらえた直後で反応するのが少し遅れてしまったが、何とか声を絞り出して諾と答え、ウルの言葉へ耳を傾ける。

集中していないと馬の足音で聞き逃してしまいそうだ。



「お前達と転移塔で別れた後、前に話していた上級貴族に会って来た。事前に連絡していた事から話の場は問題なく設けてもらえていたんだが、、、。話を聞いている中で、どうやら当主と親族の一部が入信している事が分かった」

「入信?ディベリア教ですか?」

「ああ」



またか、ディベリア教。

セプタ領にいる時はベルの一件くらいでしか話を聞かなかったのに、この国に来てから突然ディベリア教関連の話を聞く事が多くなってきた。



「前に話した通り、レミリア王国民がディベリア教に入信するなどという事は、異例中の異例だ。それも、神王様が病に罹ったこのタイミングで次代の神王の選出に関わる家の当主が入信するというのは、何か裏で力が働いているとしか思えない」



俺の稚拙な理解力で言い換えられるものとしては、当選したい政治家が有権者に賄賂を渡すような事を裏でしているのだと思う。

でも、賄賂程度であればウルが国王に直接相談して融通出来ると思うから、大して大きな問題と捉えられない気がする。

もっと解決出来ない何か、怪しいものが裏で動いているのだろうか。

政治的な駆け引きなど微塵も知らない俺には想像も出来ないけど。



「それ以外にも色々ときな臭い事があってな。暫く家に帰れそうにない」



という事は、俺達も暫く王都に泊まり込む事になるんだろうか。

結局見世物広場も行けていないし、観光がてらウルの仕事が終わるのを待つのは吝かではない。



「お前達三人は先に家へ帰っておいてくれ」

「いいんですか?」

「ああ。王都に籠って仕事をする日もあるが、色々と飛び回らないといけない日が殆どだ。王都に滞在していたとしても、どのみち顔を合わせる事はない。それなら、慣れ親しんだリネリスのほうが安全だろう」



そうだ。ウルの仕事は外交官だった。

この国に来たのも、俺が精霊と契約するのはあくまでついでで、ウルの外交交渉が主目的だもんな。



「いつ帰る事が出来るか分からない。それまで、二人の事を頼む」



ウルの声は真剣そのもので、顔を見ずとも分かる程の悔しさが含まれていた。

仕事も大事な人を守る事も、どちらもを取れない事が自分以外に任せるしかない現状が、悔しいんだと思う。

ウルの代わりをする自信など微塵もないけど、それを悟られないように力強く返事をした。

勿論、後方を付いて来るリビィとセナリには聞こえないように。



「許せ」



その言葉が、何に対したものなのか、利己的な考えが主体の俺は理解に至る事が出来なかった。












「ただいま~」

「ただいま」

「只今帰りましたです!!!」


行きより一日短縮して、三人でリネリスの家へ帰って来た。

休みながらの旅だったから大して疲れていないと思っていたけど、見慣れた家に安心したのか一気に旅疲れが襲ってくる。

修学旅行の帰り、家に着いてすぐに眠たくなってしまっていたようなあの感覚。

自分の家以外では、意識下でなくとも疲れてしまうものなのだろう。


(自分の家、、、、か)


この世界に来てから、遠方の宿に泊まっているような感覚でウルの家に住んでいたのに、いつのまにか自分が帰るべき家として認識しているのは不思議な感覚だった。

一人暮らしの家に帰って家の扉を閉めた時と同じような安心感がある。

このまま、知らず知らずのうちにこの世界に馴染んでいくんだろうか、、、。

そんな考えを抱きながら、久し振りに心からの休息を取った。



















───────────────────







「ディベリア教か、、、」


三人を送った後、俺は王城の一室でユリティス王にレミリア王国であった事を報告していた。

報告を終えた後のユリティス王の表情は優れない。

それもそうだ。

この仕事に就いて長くない俺でも分かる程、異常な事態が起こっているのだから。

国のトップとして君臨しているユリティス王にとっては、俺以上に思うところがあるのだろう。



「ウル。お前はどう思う?」

「私、、ですか?」

「ああ。現場を実際に見て、話を聞いてきたお前の率直な意見を聞きたい」



対面のソファーに掛けたユリティス王が、俺の目を真っすぐに見据える。

濁した言葉など期待していない、芯から忠臣の言葉を欲している目だ。

元より濁すつもりなどなかったが、これだけ強い視線を向けられては、忖度による誤魔化しも入れる必要がないと思わせられる。


俺は、重くなる心情を押し込めて、意を決して口を開いた。

自分が感じたもの、それらから感じ取れる可能性を伝える為に。



「どうやっているのかは分かりませんが、ディベリア教がレミリア王国ごと味方に取り込もうと秘密裡に動いているのは確実だと思われます。国内で猫が無残に殺されていたのは、その弊害かと。先日で現元老院を輩出した全ての上級貴族の家を回りましたが、ユリティス王が神王へとなられる可能性は、、、」



そこまで言って、重さを増した心情によって口は噤ませられた。

勿体ぶるつもりなどなかったが、自然とそうなってしまった。

ユリティス王を主君と仰ぐ俺にとっては、この先の言葉は出来れば口にしたくない。



「ウルよ。私はお前の事を心から信頼している。心の芯が見えない妻達よりも、義務的にしか会う事の出来ない息子達よりも、な」

「それは、、、。いえ、幸甚です」

「心の読む事の出来ない私達には相手の気持ちや考えなど察する事など出来ないが、私は国家機密に関する事以外はお前に嘘偽りなく話してきた」



それは、確かにそうだった。

昨日何があった、朝食のこんな料理が美味しかった、そんな他愛もない話から、機密の一歩手前の外部に漏らしたら何かしらの弊害がありそうな事柄まで、ユリティス王は包み隠さず全て話してくれた。

全幅の信頼を置いてくれているのだろうと、心が読めずとも伝わる程に。

だからこそ、俺はその気持ちに応えたいと、ずっと仕えている。



「お前も私の事を同じように信頼していると思ったが、それは思い違いだったのか?」

「いえ!そのような事は!!」

「そうであろう?なら、何を躊躇う事がある。信頼する部下であるお前の考えであれば、どんなものであっても無碍にする事はない」

「陛下、、、」



ユリティス王の言葉を受けて、自分の浅はかな忖度が途端に下らないものに思えた。

本当の信頼関係を求めるのであれば、これからもこの主君に仕えたいのであれば、つまらない気遣いなど捨ててしまったほうがいい。

感じた事、思った事をありのまま伝えよう。



「勿論諦めずに出来得る限りの尽力は致しますが、このままでは間違いなくディベリア神聖国、パブロ教皇が次代の神王へ成ると思われます」



シルム王国国王、レミリア王国国王、ディベリア神聖国教皇の三人から選出される神王だが、争う事を好まないレミリア王国国王は、神王を選出する争いに参加しようとする事はない。

そうなれば実質二人の争いとなるわけだが、今のところは元老院の六~七割がパブロ教皇へ票を入れるであろうと調査の結果が出ている。

神王様が病床に伏せている今、次代に席を譲るのは遠くない未来だろう。

その短い期間でここから逆転出来るかと聞かれれば、難しいと答える他ない。

どれだけ自分の知名度や交渉力に自信があっても、休みなく働いても、結局のところ元老院に直接会って交渉する事は叶わないのだから。

ほぼ確定している望まない未来を、俺はユリティス王へ告げた。



「薄々感じていたが、やはりな。少なくとも三人を説得しなければ、良い未来は得られなそうだ」



詳細を言わずとも、表情や声の固さから、現状の深刻さを察してもらえたようだ。

危うく、浅はかな考えでこの心地良い信頼関係を失うところだった。



「神王になるにすれ、そうでないにすれ、課題は山積みだ。早く動かなくてはならないな」

「はい。私はこの後、すぐに外交官としての仕事へ向かいますので、数日王都を離れます」

「分かった。王都を出る前に、時間があればゲリックに使いを出して話を聞いてやれ」

「第十二軍団軍団長のですか?」

「ああ。生かしておいた管理者の尋問が終わったそうだ。報告内容は然して重要性の高いものには感じなかったが念の為に、な」

「はっ!承知致しました」



思えば、あの襲撃には不可解な事が多くあった。

穏健派が管理をしていたはずの転移塔に何故過激派が居たのか、転移塔を閉鎖していたあの日に何故都合よく待ち構えていたのか。

レミリア王国での不和の一端を、もしかすると担っていたのかもしれない。


ゲリックから話を聞く為、部屋を移動して使いを出し、書類の処理をしながら来訪を待った。






コンコンッ


「失礼致します!第十二軍団軍団長ムー・ゲリック、只今参りました!」

「入ってくれ」

「はっ!失礼致します!」


書類の整理を始めて数分、思いの外早くゲリックが報告にやってきた。

額を流れる汗と乱れる息を見るに、おそらく急いで来たのだと思う。

王国軍所属ではない俺はゲリックの上司というわけではないのだが、自分の中で上下関係をはっきりと決めたい性格のゲリックは、上だと認めた俺に対しては上司と同様に畏まった態度を取る。

その分部下へは横暴な態度を取る事が多いらしいが、それでもやはりユリティス王が軍団長に取り立てる程の人材だ。

一定数の人の上に立つ能力は目を見張るものがある。



「立ったままでなくていい。掛けてくれ」

「し、しかし、、」

「首が疲れる」

「はっ!では、失礼致します」



家庭用ではない大きいテーブルを挟んで向こう側、山積みの書類越しに、緊張の面持ちを浮かべるゲリックを見据えた。

これだけの書類が片付けなければならない案件の一部だというのだから、先が思いやられる。



「まずは感謝を申し上げます。ドルトン殿のおかげで、監視者達の国内への侵入を許す事なく、早期に解決するに至りました」

「自分の身を守るついでだ。それで、やつは何か吐いたか?」

「はい。それでは僭越ながら私のほうから報告させていただきます。過激派があの場に居たのは、どうやら穏健派から無理矢理あの場所を奪い取ったからのようです。あの日、閉鎖していたにも関わらず転移塔の起動に向かった際その場に居合わせたのは、神の思し召しだと零していました」



神、、、?

監視者達が崇拝するのは、〖天上様〗と呼称する竜だけのはず。

竜を差し置いて魔人や武人が神王という神を関する位についている事から、神という言葉を使う事を嫌悪していたはずだ。

そんな監視者達が神と崇める存在は、既知の中では該当するものはない。



「その神とやらは何処のどいつだ?」

「それが、、、」



ゲリックが苦虫を噛み潰したような表情で口篭もった。

良い予感はしないな。



「拷問を担当させていた者が加減を間違えて、、」

「死なせたか?」

「はい。申し訳ございません」



治癒魔術師が控えているはずの拷問部屋で力加減を間違えて殺めてしまうなどという事はまずないはずだが、、、。

拷問官が私情で暴力を振るったか、それとも故意にそうしたのか。

考え過ぎると坩堝に嵌まってしまいそうだが、この案件は放置するには些か危険過ぎる気がしてならない。

時間を縫って穏健派の監視者達の元へ行かなくてはならないかもしれないな、、。



「ですが」



気になる言葉の切り方をするゲリックに続きを促す。



「その神の正体かは分かりませんが、死ぬ間際に一言〝貴様らにディベノ様の鉄槌が下らんことを〟と言っていたそうです」

「ディベノ、、、?」

「はい。間違いなくそう言っていたという事です」



ディベノという名前は探せばこの国にも幾人かはいるだろうが、多くいる国民の中から特定の名前の者だけを探すなど、不可能に等しい。

それに、この国の人物であると限らない上に、魔人ですらない可能性もある。

全てを虱潰しに調べていくなど、どれ程の時間が掛かる事か想像もしたくない。



「報告ご苦労だった。下がっていいぞ」

「はっ!」



部屋を出るゲリックを見送ってから、途中まで完成していた書類を仕上げて一枚の手紙をしたためる。

名前という情報だけから人物を特定するべく、この世界の全てを知っているのではないだろうかという程膨大な知識量を誇る男、メヒトへの手紙を。



「さて。そろそろ行くか」



書き終えた手紙をローブに仕舞い、山積みになった書類を片付けてから部屋を出る。

帰って来てからもこれだけの仕事を処理しなくてはならないと思うと憂鬱だ。

せめて、これ以上増えない事を祈ろう。



「ウル殿。お待ち下さい」



部屋を出てすぐの廊下で、背後から声を掛けられた。

王城内で俺の事を苗字ではなく名前で呼ぶ人物など限られている。



「どうした?王国軍総帥殿」

「余所余所しい呼び方はお止めください。いつものように愛を込めてシェリルと呼んでいただいていいんですよ?」

「呼び方を戻すから語弊のある言い方は止めろ、シェリル」

「ふっふっふ。それは失礼」



シェリルとは、俺が三賢者になる前からの長い付き合いになる。

特殊な都合がある故にユリティス王に面倒を見る様に言われているのだが、先日は暴走してケイトに戦いを挑んだんだったな、、、。

根っからの戦闘狂であるから、もう矯正する事は諦めているが。



「何か用か?」

「陛下より御下命を賜りまして、ウル殿の出張に護衛として付いて行くようにと」



立場上護衛が付くというのは珍しい事ではないが、シルム王国随一の実力者であるシェリルが護衛で付いてくるというのはあまりにも異常だ。



「お前程護衛に適した人材は居ないと思うが、些か過剰な戦力過ぎないか?」

「そう言われた場合は、〝不穏を感じた自分の直感を信じろ。魔力を回復する間もなく、害悪が襲ってくる可能性がある〟と言えと陛下が仰っていました」



考え過ぎだと切り捨ててもおかしくない俺の報告を、ユリティス王は心から信じてくれていた上に、考え得る最悪の可能性の為に、シェリルという懐刀を同行させてまで対策してくれた。

忠誠を誓った主君からの信頼は、何度感じても良いものだ。



「それならば無碍には出来ないな」

「ええ。大人しく守られてください」



そう言いながら何がおかしいのか小さく笑うシェリルを伴って、手紙を出す為に郵送屋経由で転移塔へと向かった。

これから向かうのはディベリア神聖国、おそらく全ての元凶が集う場所。





「そういえば知っていますか?ウル殿」


転移塔へ向かう道中、シェリルが王城前に待たせていた馬車の中でそう聞いてきた。

使わなければいけない立場であると分かっているが、こうした雑事に人を使う事がいまいち出来ない。

それが上手ければ、リビィから聞いた、ケイトが抱えている気持ちを少しは軽減してやれたかもしれないのに。

落ち着いたら一度帰って、腐愚民が仕事に就くという危険性についてケイトに話しておかないといけないな、、、。


喜ぶべきか諫めるべきか、ケイトは最近腐愚民という不遇を忘れかけている。

入れ込む前に捨てておいたら良かったなと、独り身の時には考えられなかった思考の渦に嵌まっている自分の変化に後悔こそ覚えなかったが、自分が生きてきた時間の経過を強く感じた。



「ウル殿?」

「ああ、すまない。なんの話だ?」

「ドルトン家の一部が、私とウル殿に婚姻を結ばせようと密かに動いている事をご存知ですか?」



公表はされていないが、メヒト曰く俺とシェリルは従兄妹の関係にあるそうだ。

情報の出所は教えてもらっていないが、調べられる範囲で調べられた内容を参照すると、おそらく間違っていないのではないかと思う。

一度はひた隠しにしたシェリルを家に取り込もうとは、相変わらず胸糞悪い家だ。

それに、俺が結婚している事は伝えていたはずだが、、。



「正式な婚姻を結んでいないリビィ殿との間柄を、私との婚姻を薦めている者達は認めていないそうです。それどころか、ドルトンの名を名乗っている事を憤っていたそうです」

「勝手な事を、、。そいつらの名前は?」

「分かりません」

「どこから情報を仕入れた?」

「信用の出来る筋からです」



流石にそう簡単には情報筋を漏らす事はないか。

リビィの素晴らしさと俺がリビィ以外に靡く事がないという事を該当する人物達に懇々と語ってやりたかったが、それはまたの機会にしよう。



「私としては自分より圧倒的な強者であるウル殿と婚姻を結べる事は喜ばしい事なんですが、リビィ殿を差し置いてまでそうなろうとは思いませんからね」

「一対一ならそこまで実力差は離れていないだろう?」

「いえ。まだまだ及びませんよ。このままでは弟子であるケイト殿にもいつ追い付かれるか、、」

「それはないだろう。最近契約した精霊を使いこなせば、一撃くらいは入れられるようになるかもしれないがな」



ケイトが契約した精霊は、俺の魔力を注いで契約したにも関わらず見た事のない精霊だった。

自家魔術で賄える飛翔の魔術を使う精霊とわざわざ契約する意味があるのかとも思ったが、あいつなりの考えがあるんだろう。

魔力のみで体が構成されているはずの精霊が魔力濃度の薄い魔人域で生活出来ているというのが気になるが、何か害のあるものでない事を祈っておこう。



「それは楽しみですね。次にお会いした時に手合わせしてもらえるように頼んでみます」



戦闘狂の興味がケイトへ向いてしまった事を心の中で謝罪した。

死なない程度には強くしておいてやろう。




「まあ私の事はいいんですが、ウル殿はリビィ殿と正式な婚姻を結ばないんですか?」


中途半端な関係を続けている事を諫めるわけでもなく、正式な婚姻を結べと急かすわけでもなく、シェリルはただ純粋な疑問としてそうぶつけてきた。

仕事以外の事を話すようになってから、俺が如何にリビィを好きかという事をシェリルには話している。

ふとプレゼントを買って帰ろうとした時に、同じ女として何を貰ったら嬉しいかと相談して〝強い武器です〟と答えられた時は頼るべき相手を間違えたと思ったが、それ以外は俺がだらしない顔でリビィの事を語っても嫌な顔をせずに聞いてくれる良い理解者だ。

そんなシェリルだからこそ、愛情の深さの割に中途半端な関係のまま止まっている事が不思議に思うんだろう。



「色々と理由はあるんだが、一番の理由はリビィが、目立つ事と婚姻によりドルトン家に縛られる事を望んでいないからだな」

「貴族の家に縛られたくないというのは分かりますが、目立ちたくないというのはいまいち分かりませんね。正式な婚姻でなくとも、ウル殿の奥方であれば既にそれなりの認知度はあると思いますが、、」

「家は兄に継がせるが、三賢者であり外交官である俺の正式な婚姻ともなれば、貴族の衆目に晒される面倒なパーティなんかにも参加する事になるだろうからな」

「なるほど。そういう理由でしたか」



貴族が婚姻すると、正妻の場合のみ式が行われる。

身内だけで行うものから、野外などの広い場所で祝いたい者であれば誰でも参加出来る形でする者もいる。

そうなると必然的に多くの者がリビィの顔を覚え、街を歩けば俺のように指を指される事があるだろう。

それだけならまだいいが、式の後のパーティや、貴族として扱われて他家との交流のパーティへ参加させられるのが面倒だ。

静かに暮らしていたいという願望を持つリビィが、それに参加したいとは到底思えない。



「美味しい料理が食べられるのであれば、貴族と婚姻するのも有りですね」

「、、、やめておけ」



シェリルが身動きの取り辛いドレスで大人しくパーティに参加する姿など想像出来ない。

ドレスの下に武器を忍ばせて、会場内で強者を探す事に勤しみそうだ。



「ははは。まあ、兵士としてもまだ二流の私が婚姻など、考えもしませんがね」



シェリルですら二流だというのなら、一流の兵士など今後現れないんじゃないだろうか。

素行は悪く、三賢者になるには実力が足りないが、それでも荒くれ者の実力者が集まる第零部隊を一人で抑える事が出来る程の実力者だ。

国内を探し回っても見つかるかどうかといった人材だと思う。

強者を求めてひたすらに勝負を挑む無法者にならなくて良かった。






「さて、着いたようです。行きましょうか」


他愛ない会話をしながら、いつの間にか着いていた転移塔の入口前で馬車から降りる。

ディベリア神聖国に行くのは久し振りだ。

シェリルの出番が来るような事が無い事を祈っておこう。

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