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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
二章
20/104

十八話「力試し」





「レディースエーン、ジェンッ、、、トルメエエエエンッ!気合入ってるかおめえらあああああ!!!!!!」

「おおおおおおおお!!!」





ネムに連れられやってきたのは闘技場。

受付を済ませ、今は選手控え室で他の参加者と共に会場の歓声に耳を傾けている。


(結局、断り切れなかったな、、、)


浮かぶ後悔とは裏腹に、内心わくわくしてしまっている自分がいた。

それはきっと、初めての対人戦闘で勝つ事が出来て、思いがけず高揚させられたからだろう。



対人戦闘は、今まで経験してきた訓練やベポ狩りとは大きく違っていた。

出す魔術、タイミングをその都度考えないといけないし、致命傷を与えないように出力を調整しないといけない。

それに加えて、同時進行で最適な位置に体を運ぶ為に動き続けなくてはならない。


(同様に相手がいたキングベポの時と違って、命を懸ける必要はなかったしな、、、)


バリオンの初撃を見て一瞬死合いなのかと疑ったが、そうではないと頭より先に心で理解した瞬間、俺の中で出場権を賭けた真剣勝負はリアルなゲームのような感覚になった。

攻撃が当たっても、ダメージを負う感覚こそあれすぐ回復して元通りになる。

そんな、ある程度何があっても大丈夫な世界においての初めての対人戦闘は、男心を擽るには充分過ぎる程に魅力的だった。

負けてたら、また別の感想を抱いていたのかもしれないけど、、。


(でも、勝ったんだよな、、、)


背中にタッチしただけではいまいち勝ったという実感を持てずにいたが、実感はなくともここに来ているという事が何よりの結果の証明だ。

そして、ネム曰くキングベポを単騎で倒せるらしいバリオンに勝った事で、自分の魔術がこの世界で通用する事を確信出来た。

師匠であるウルにはまだ一撃を入れる事すら出来そうもないけど、もしかしたらこの大会では対戦相手によってはそれなりのところまでいくんじゃないだろうか?

道中でネムに聞いた話では、バリオンというのはそれなりに名が通った人物らしいし───






「君、初めて見る顔だね。見たところ魔術師見習いってところかな?慣れない場所でさぞかし緊張していることだろうけど安心するといい。この天才魔術師のヘイディアが迷える子羊である君を見つけたからには、力になってあげると約束するよ!ああ、いい。気は使わなくていい。何せ僕は天才だからね。試合前に可愛い後輩君の頼りになる事ぐらい、造作もないことなのさっ」






思考を遮るように話し掛けてきたのは、ヘイディアと名乗る身振り手振りが無駄に大きい自称天才の男。

歳は俺と同じか少し上くらいだろうか?

見せつけるように優雅に掻き上げられた髪はプラチナブロンドで、眩いほどに光を反射している。

動作も相まって、まるでスポットライトでも浴びてるかのようだ。


(それにしても、分かりやすい先輩風だな、、、、)


見ただけでその人の実力が分かるほど目は肥えていないけど、これだけ先輩風を吹かせてるし自分で天才魔術師と言ってるくらいだから、きっと相当な実力を持ってるんだろう。

長い物には巻かれろ精神を発揮して、ヘイディアの魔術師見習いという間違った見立てを否定もせずに頼る事にした。

色々と分からないままここに連れて来られたから、闘技会が始まる前に知っておきたい事はあるしな。



「ありがとうございます。初めてで緊張していたので話し掛けていただいて凄く有難いです」

「ああ!そうだろう!そうだろうとも!君はとても素直でいい青年だ!きっと凄い魔術師になることだろう!このヘイディアが保証するよ!!」



凄いかは分からないけど、もう魔術師にはなってるんだよな、、、。

それに、もう青年と言われるような年齢ではない気がする。

、、、まあいいか。

わざわざ指摘してヘイディアの気分を害する事もない。



「さあさあ、何か聞きたい事はないかい?この天才魔術師のヘイディアが何でも答えてあげようじゃないか!光栄に思うといい」

「ではお言葉に甘えて。対戦形式はどんな感じになるんですか?何分初めてなもので、ルールも何も知らなくて、、、すみません」

「謝らなくてもいいさ。そんな迷える子羊の為に、僕が舞い降りたのだからね。君はとても運がいいよ」



なんだろう。

一言ごとに髪を掻き上げたり決め顔をしたりするヘイディアのノリが少し面白くなってきた。

疲れてる時に話し掛けられたら胸やけしそうだけど。



「対戦は全て一対一のトーナメント。闘技場の中心にある舞台から相手を落とすか、参ったと言わせれば勝利さ。回復担当の魔術師が何人も控えてはいるけど、回復が出来ないような致死性の攻撃を故意に当てると反則になるから、充分に気を付ける事だね」

「トーナメントの対戦表はどこにあるんでしょう?」

「対戦表?それはまださ。一回戦の各試合が始まる直前に出場者の名前が書かれた紙が入った箱から、司会のボン氏が紙を二枚引いて試合ごとの組み合わせが決まるんだよ。直前まで相手が誰だか分からないなんて、とてもスリルがあって面白いと思わないかい?一回戦で勝ち上がった者だけが対戦表に乗れる仕組みさ。ま、このヘイディアが対戦表に乗るのは確実だけれどね!」



自信満々に変なポーズを決めるヘイディアを、適当に煽てておいた。

話をスムーズに聞く為に適当に相槌を打っておいたがそうか。

対戦相手は直前まで分からないのか、、。

正直なところ、予め対戦相手が分かっていたほうが何倍も有難い。

名前や姿を見たところで相手の力量を計る才能なんて無いに等しいけど、少なくとも心の準備は出来るだろうから。

それで相手がとんでもなく強そうだったら、余計に不安が募るかもしれないけど。

どちらにせよ、何がしかの不安要素はあるか、、。



「ははは!そんなに怯えなくていいさ。対峙して勝てないと思ったら、開始後すぐに参ったと言えばいいんだよ。このヘイディアと対峙した時は特にね!」

「参考にします」



と言いつつ、おそらくヘイディアと対峙してもすぐに降参する事はないと思う。

純粋に自称天才魔術師の魔術を見てみたいという気持ちと、ヘイディアからはよく漫画やアニメで見るような咬ませ犬達と同じような雰囲気を感じるから大丈夫だろうという気持ちがあった。

だからといって、俺の実力が咬ませ犬以上だという確証はないけど。





「んじゃあ!早速第一回戦の組み合わせを発表していくぜぇ!!!!」





司会のボンの宣言に、会場は盛り上がりを増す。

聞こえてくる歓声は、まるで悲鳴のような勢いと圧力を持っている。



「おや、始まるようだね。それじゃあ僕はこの辺で失礼するよ」

「はい。ありがとうございました」



見せつけるように最後にもう一度髪を掻き上げたヘイディアを見送って、初戦の組み合わせ発表を待った。

ヘイディアが振り返り際に他人にぶつかっていたのは見なかった事にしておこう。







「一回戦第一試合一人目は、、、、おお!早速登場!前回準優勝のミシェ!さあ、舞台に上がりな!!!」







ボンがそう言うと、会場は歓喜に湧き、選手達はざわつき始めた。


(早速優勝候補の登場か、、、)


ミシェについては、バリオンから事前に情報をもらっていた。

なんでも、前回大会の二回戦でバリオンを倒した相手なんだそう。

通り名は〝風魔術のミシェ〟

その名はミシェの戦い方に起因している。

全く攻撃が当たらない、動きが読めない事から、対戦した選手が「風を相手に戦っているような感覚だった」と言った事からそう呼ばれるようになったそうだ。

そんな、初出場で魔術師界隈で一目置かれるまでになったミシェが前回大会で準優勝という位置に収まったのは、誰が見てもミシェより格下の対戦相手だったにも拘らず、ミシェ自ら決勝戦で場外に降りたからだそう。

その理由については様々な憶測が飛び交っているが、本人が頑なに話そうとしない事もあって真意は未だに分かっていないらしい。


一回戦からそんな大物と当たる人は可哀想だな、、、。と、フラグになりそうな事を考えてしまった自分を叱責した。

ここまで来たからには一回くらい勝ちたいし、ミシェとは当たりたくない。




「優勝候補の相手を務める可哀想な野郎はどいつだ、、、、、いよしっ!決まった!」




ボンが引いた紙を開くと同時に、どこからともなく〝ごくり〟と生唾を飲む音が聞こえてきた。

戦いたいという挑戦心か、一回戦から強者に当たりたくないという願いか。

あるいはそのどちらもが、この場に蔓延している気がした。

ミシェの正しい実力を知らない俺はいまいち緊張感に付いていけず、ただ会場の歓声に耳を傾ける事しか出来ない。




「これはいい勝負になるかもしれねえな、、、、、。舞台に上がってきな!ヘイディア!」


「え?」




出場者中唯一の知り合いが早速呼ばれた事に驚き過ぎて、つい声が漏れ出てしまった。

咬ませ犬感が凄いヘイディアと優勝候補のミシェの対戦なんて、、、。

結果を想像してしまい可哀想にと思ってしまったが、当の本人は負ける心配なんて微塵もしていないようだ。

舞台上で髪を掻き上げながら〝せめて華麗に足掻いてくれよ〟と挑発してミシェに無視されている。

うん、なんだ、その。

色々頑張れヘイディア。

キャラは嫌いじゃない。

選手控え室中央に設置された直径2m程の水晶に映るヘイディアとミシェを見て、心の中で応援しながら勝負の行方を見守った。

選手間で行われる賭けは、ミシェの圧倒的人気だ。





「準備はいいな!?それじゃあいくぜ!レディ、、、、、ファイッ!!」





ボンの合図で、熱気に包まれた闘技会が始まった。

結論から言おう。

一回戦第一試合、勝者はミシェだ。

ヘイディアの繰り出す魔術も自称天才なだけあって多彩だったが、それらは一つとしてミシェの体を掠める事もなければ、場外へと追いやる事もなかった。

魔術が当たらない事に焦ったヘイディアが魔術を連発し過ぎて魔力が切れてしまって降参したという流れだ。


ヘイディアが繰り出した魔術。

あの全てを俺に避ける事が出来ただろうか?

スピードだけ見ればバリオンの特攻のほうが幾分か早かったが、その他の魔術と組み合わせた連続攻撃は、水晶で見る限りは中々厄介に見えた。

そんな相手に直接手を下す事なく完勝したミシェ。

もしかすると、俺の認識以上に相当な実力者なのかもしれない。




「第一試合の勝者はミシェ!ヘイディアには悪いが、まあ順当な結果だな。懲りずにまた来いよ!んじゃあ早速次いくぜ!第二試合一人目は───」




観客の興奮冷めやらぬ中、スピーディーな進行で一回戦は次々に消化されていった。

魔闘士や魔術師。

はては魔術師見習い。

皆それぞれの戦い方で相手に挑み、観客を魅了していく。

そしてそれは俺も例外ではなく、観客と同じように繰り出される多彩な魔術達に魅了されて観戦に没頭していた。

自分が戦わなければいけない事も忘れて。




「どんどん行くぞ!一回戦第十試合一人目!ついさっきバリオンを負かして出場権をぶんどってきやがった、魔術師ケイト!」




そんな無理矢理奪い取ったみたいな、、、。

周りから向けられる視線に少し肩を落としながらも、選手達を掻き分けて闘技場の舞台へと歩いていく。

控室から廊下を抜けて舞台の側、観客から見える位置まで出てきても初出場の俺に向けられる歓声は微々たるもので、注目度の低さを窺い知る事が出来た。

何か功績を遺したわけでもなければ知り合いが応援に来てるわけでもないし、順当な反応だろう。

対戦相手、どんな人かな、、、。




「対戦相手は魔術師ザック!!」




バリオンと戦ったばかりで対策が立て易いから魔闘士がいいな、と考えていたが、そう上手くはいかなかった。

俺の対戦相手は魔術師のザックという、髪を短く切り揃えたいかにも好青年風の男だ。

そこまで強そうな雰囲気はないが、勿論、膂力を必要としない魔術の実力は見た目だけでは分からない。

バリオンより弱く、攻撃が単調で分かり易い事を願って、開始の合図を待った。







「準備はいいな!?いくぞ!レディ、、、ファイッ!!!!」







始まっ、、、、ん?

これ、始まったよな?

何も仕掛けてこないんだけど、こっちからいっても大丈夫なんだろうか。



「あれ?あのバリオンさんを打ち負かしたと聞いてたからてっきり速攻型かと思っていたけど、、。これは作戦を練り直さないと」



ザックがぶつぶつと漏らす言葉は、辛うじて俺の耳に届いていた。

そうか。

俺は速攻型だと思われていたのか。

そもそも対人戦闘自体これが二度目だから自分の対戦スタイルなんて確立出来ていないけど、速攻型だと思われて対策を立てられていたのなら、少なくとも今回に関しては闇雲に突っ込まなくて良かったかもしれない。

狙わずして、相手の虚をつく事が出来た。

でも、この後どう攻めようか、、、。

このままお見合いというわけにもいかないだろうし。



「来ないのであればこちらから行きますよ」



そう言って肩幅に足を開いたザックを見て、俺は体を強張らせ、攻撃に備える。

何かしら魔術を飛ばして来たら、バリオンの時と同じ形で一度距離を取って相手の動きを止めてからカウンター。

足を止めるタイプの搦め手なら、ひとまずカウンターは考えずに逃げ出す事を優先しよう。



「あれ?」



数秒掛けて作戦を立て終えても、ザックは腕を伸ばして俺に手の平を向けたまま、それ以上の挙動を見せようとしなかった。

既に俺に何か魔術を放ったわけではないし、イメージを組み立てるにしては時間が掛かり過ぎてる。


(俺と同じくカウンターを狙ってるのか、、?)


そう考えたが、観客の一部が声を上げた事でザックの本来の目的を知る事が出来た。

ザックが狙っているのはカウンターではなく先制攻撃だ。

自分に放ってくるものとばかり思っていて視野を極端に狭めてしまっていたせいで、気付くのが遅れてしまったが、、、。

危うく、無防備な状態で当てられてしまうところだった。

ザックが魔術を発動させていたのは俺の頭上。

そこに、直径1m程の水球が生成されていた。




「気付かれてしまったようですね、、。まだ少し早いですが、仕掛けさせてもらいますよ!」




わざわざそんな宣言をせずに仕掛ければいいものを、、、。

律儀というか生真面目というか。

時間をくれたおかげで、ザックを場外に追い出す手段を考え付いてしまった。



「うおおおおお」



声を上げて魔術を行使しようとするザックは気にも留めず、右腕を静かに胸の高さまで持ち上げ、指を鳴らす。

行使したのは、〝火〟〝風〟〝重力〟の魔術。

重力魔術で自らの体が浮かないように固定して、風と火の混合魔術でザックの1m程前で爆発を起こす。

うっかり重力を上げ過ぎて、膝が地面に着きそうになったが、ザック諸共爆風で場外に飛ばされる事は防げたから問題ない。




「え、、?あれ?場外、、?」




吹き飛ばされて場外で尻もちをついたザックは、何が起こったのか分からない様子で、ただ茫然と舞台上の俺と場外にいる自分を交互に見ていた。



バシャッ──。

(つめたッ、、!!)



場外へ出すばかり考えていたせいでザックの魔術を対処するのを忘れていて、重力に従った水球によって全身がびしょ濡れになってしまった。

ローブから舞台に、ぽたぽたと水が滴り落ちる。

なんだろう。

勝ったのに素直に喜べないな、、、。





「勝者!ケイト!」





ボンが勝敗を告げて歓声が上がっても状況がいまいち掴めずにいるザックの元へと歩いていき、立ち上がらせようと手を差し出した。

魔術師の矜持とかそういうものがあるならもしかすると失礼に当たる行為になるかもしれないけど、それでも自分で場外にはじき出した人放置して控室に戻れる程薄情にはなれなかった。

差し出した手もずぶ濡れだが、それはザックのせいでもあるし許してもらおう。



「大丈夫ですか?」

「あ、ああ、、、だ、大丈夫です」



ザックは俺の手を取ろうとして、辺りをキョロキョロと見回した後、手を引いて自分で立ち上がった。

誰か知り合いが見に来てたのかな?

想定していた魔術師の矜持ってやつかもしれない。



「えっと、ケイトさん、でしたっけ?随分強いですね、、、。何をされたかも分からないまま負けてしまいました」

「ただの火魔術と風魔術の混合魔術ですよ」

「あれだけの威力の混合魔術をただのって、、、。これは敵わないわけだ」



立ち上がったザックは、俺と二、三言葉を交わした後、乾いた笑いを残して闘技場を後にした。

割と最初の頃から混合魔術は難なく出来ていたんだが、難しい事だったんだろうか?

魔術を使わずとも割とありふれてる現象で、イメージがし易いとは思うんだが、、、。


もしかすると、科学がない世界では爆発という現象はあまり身近ではないのかもしれないな。

元の世界では科学実験や事件なんかで何度も見て来たから、それ程珍しいものではなかったけど、、、。

なんでそんなにすんなりイメージが出来るんだと問い詰められた時用に、もっとこの世界の事を知って何か言い訳を考えておいたほうがいいかもしれない。





「次だ!第十一試合!」





思いの外あっさり勝ててしまった理由と次の対戦に向けた作戦を考えながら、俺は次の試合に出場する選手が出てくる出入り口の向かい側にある出入口へ案内され、一回戦を勝ち進んだ選手達が待つ控室へと向かう。

今の俺の実力で、どこまで勝ち進む事が出来るだろうか、、、。
















「準々決勝三戦目!!出てきやがれ、ケイト!デズゥ!!」



闘技会が始まる前に感じていた一抹の不安は試合を重ねる事に薄れていって、準々決勝が始まる頃には心は平静を保っていた。

必ず勝てると自信満々になるわけではなく、敗北に怯えるわけでもない。

ただ純粋に闘技会を楽しむ気持ちだけで、準々決勝の舞台で相手の魔闘士と向き合えていた。


(まさかこんなところまで勝ち進んでこれるとは、、、)


ここに来るまでに二回戦と三回戦を戦い抜いたわけだが、そのどちらも相手は魔術師見習いだった。

魔術師見習いでも組み合わせ次第で勝ち上がる事が出来るし、魔術師の称号を得てないだけで実力は魔術師以上な人だっている。

実際、二、三回戦の相手はザックよりも少し強かった。

俺が一回戦で見せた手の内を学んだからやり辛かっただけかもしれないが、それ抜きにしてもザックよりは強かったと思う。

肩書きに惑わされて油断する事は出来ない。


だが流石に、準々決勝ともなると魔術師見習いはいなくなった。

今から戦う相手はバリオンと同じ魔闘士。

苦も無く勝てたバリオンと肩書きが同じとはいえ、ここまで勝ち上がってきた人物だ。

油断せず、緊張感を持って挑もう。



「我が名はデズゥ!貴殿の名は何という?」



試合開始前に名乗りを上げたデズゥに対し、俺も応えた。

対戦相手と正々堂々名乗り合う。なんて熱い展開だ。



「ケイト、だな。覚えておこう。我が宿敵のバリオンを破ったと聞いてどんな偉丈夫が出てくるのかと思っていたが、、、」

「意外でしたか?」

「意外、その言葉がもっとも当て嵌まるだろうな。だが決して侮っているわけではないぞ?あやつは見た目で油断する程頭の緩い男ではないからな。貴殿がかなりの実力者である事は明白だ」

「買い被りですよ」

「ふふふ。話通り謙虚な男だ」



実力者であると認められているのなら、手を抜いてくれる事は期待しないほうがいいだろう。

元より、この闘技会で手を抜こうとしている人なんていないと思うけど。





「準備はいいな!?これを勝ったほうが準決勝進出だ!気張っていけよ!!レディ、、、ファイッ!!」


「、、はああああッッッ!!」





開始の合図とほぼ同時に、デズゥが長刀をその場(・・・)で向かって左上から右下に斜めに振り抜いた。

こんなところで素振りか?と思うのが早いか、太刀筋に沿った水刃が俺へ向かって飛んでくる。




「〝土壁(ウォール)〟!!」




咄嗟に形成単語で目の前に土壁をせり出させ、水刃を防ぐ。

形勢した土壁は、衝撃音の後に崩れ落ちた。


魔闘士っていうのはあれかな?相手が避けてくれる事を前提に攻撃する癖があるのかな?

今のは確実に、当たってたら相応の傷を負ってたよな、、、。

死合いじゃないと理解出来てるけど、今のような攻撃に反応する為には、死合いだと思い込んでいたほうがいいかもしれない。



「ふぅ、、」



前方への警戒を深めながら、一つ、息を吐く。

闘技会では初、この世界では二度目の魔闘士との対戦だ。

どう戦うのが最善か、、。


バリオンの時と同じように足止めして近付くか?

それとも足止めは考えずに一回戦と同じ手で?


崩れた土壁から上がる土煙の中で逡巡していると、視界の右側にデズゥの影が見えた。

その方向を向くよりも早く手を向けてデズゥの足元に小さな段差を作ると、影は勢いそのままに舞台の隅まで転がっていった。




「つつつ、、、。流石、と言うべきか、、」




返事はしない。

それは、息を整える間もなく、デズゥが次の一手を繰り出す為に長刀を振りかぶっているから。

言葉を発すれば、その時間分後手に回ってしまう。


(次手が放たれる前に、、、)


デズゥが長刀を振り下ろすのよりも早く、右腕を伸ばして胸の高さまで持ち上げる。

そのまま指を鳴らすポーズを取ると、おそらくこれまでの対戦を見ていたであろうデズゥは攻撃の姿勢を解き、長刀を舞台に深く突き刺した。

やはり(・・・)対策は立てられてるか。

だが、それは悪手だ。





「うおおおお!?」






足場が砂に変わり、突き立てた剣が棒倒しのように傾いて体のバランスを崩して慌てるデズゥに向かって指を鳴らす。

俺の周辺の重力は、もう既に上げた後だ。






パチンッ─────ボンッ!!!!






5分の1程が砂になって失われた舞台の中央付近で独り、ローブを風で揺らしながら平然と立つ。

一回戦とは違い、今回は自分に掛ける重力の比重を間違えなかった。

念には念を入れて爆発の威力を上げてしまったせいで、若干体勢を崩しかけはしたが、、、。

だがまあ、一緒に場外に弾き出されるような間抜けはしなかったし、概ね成功だ。




「どっちだ!?どっちが勝ったんだ!!」

「おいおいおいおい!!土煙で見えねえぜ!?決着はついたのか!?」




決着がついている。

その事実は、おそらく観客も分かっているんだろう。

だが、晴れない土煙のせいでどっちに軍配が上がったかまでは把握出来ずにいる、と。

それも、あと数秒の事だが。






「勝者!ケイト!!!!!」


「うおおおおお!!!!」

「デズゥに勝ちやがった!!」

「いやったああああ!!私、あの子に賭けたの!!」






いち早く結果を知ったボンの声に反応し、観客が湧き上がる。

盛り上がりを見るに、大半の観客がデズゥが勝つと予測していたのだと思う。

それはまあ、予想通りといえば予想通りだったんだけど。

でも、中には俺が勝つ事を信じて賭けてた人もいたみたいだ。

嬉しいような、賭けの対象にされている事にプレッシャーを感じて嬉しくないような、、、。




「・・・・」




少しして晴れた視界。

目線の先には、場外で片膝を着いて地面に剣を突き刺し、歓声に包まれても沈黙を保つデズゥの姿があった。

あの爆風の中ただ飛ばされるではなく、最後の抵抗として砂と化し始めていた舞台の下の地面に剣を突き刺そうとしたのか。

その光景は、舞台から真っ直ぐに伸びた地面の傷跡で容易に想像する事が出来た。


名の知れたバリオンの宿敵と言っていた事を考慮して、同時に二つの手を打っておいて本当に良かった。

爆風だけにしていたら、その後の反撃で負けていたかもしれない。

それほどまでに、地面に刻まれた一本筋が持つデズゥの勝ちに対する執念のようなものは、恐ろしく感じられた。




「ふふふ、、」


(なんだ、、、?)


「はっはっは!!いやはや、やはり強い。ここまで歯が立たぬとは!」




勝敗が決してから下を向いて黙していたデズゥは、悔しい表情など微塵も見せず、立ち上がって納刀しつつ豪快に笑った。

どういう感情なんだ、、?



「これは、バリオンが成す術なく敗れたのも頷ける。貴殿のような男に負けるのであれば本望というものよ」



デズゥは言い終えると、豪快に笑ったまま舞台の外へと消えていった。



「豪快な人だったな、、、」



これまで四戦戦い抜いてきたけど、この試合が一番肝を冷やされた。

まるで歯が立たないと言っていたが観客も、勿論俺もそんな風には思っていない。

何か一つ違えば、一秒でも行動が遅れていれば、デズゥではなく俺が場外で尻もちをついていた。


(上手く転ばせられたのも半分偶然だしな、、、)


宿敵と自称するだけあって、デズゥの実力はバリオンと同じくらいだっただろうか?

広場ではあっさり勝ってしまったが、被害が出ないように実力を抑えてたという話を加味すれば、この場で戦えばおそらくデズゥ戦と同じように苦戦を強いられたであろう事が予測出来る。




こんな見た目の何倍もハードな戦いが最低でも一回。

多くて後二回もある。

幸い魔力量は問題なさそうだけど、精神力は胸を張って大丈夫と言えない程度には削られてしまった。


(何というか、どっと疲れたな、、、)


でも、のんびりしてる時間はない。

次の対戦相手の試合を見ておかないと。

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