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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
二章
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十七話「広場での戦い」



「いらっしゃ、、、、あ、お久しぶりです」



仕事の合間だというウルに連れられてやってきた宿屋に入ると、一人の少女が木製のカウンターを拭きながら丁寧にお辞儀をして出迎えてくれた。


胸が一つ、強く打つ。


原因はおそらく緊張。

見知らぬ土地、見知らぬ宿。

ウルはこの後すぐに城に戻るらしいから、再度合流するまでは二人の事を俺が守らなくてはならない。

その時が近付いて来た故の緊張なんだと思う。



「久しぶりだな。ネムさんはいるか?」

「少々お待ちください」



普段から手伝いをしているんだろうか?

少女が発する敬語は、流暢でこなれている。

動作であたふたと慌てる様子もない。



「おばあちゃーん!ドルトンさんとこの人が来たよー!」

「やっと来たのかい!今から降りるからちょっと待ってな!」



部屋の奥にある階段の下から上階に、少女が呼び掛ける。

それに大きく応答したのは、嗄れ声の女性。

ウルが言っていた〝ネム〟という人だと考えて間違いないだろう。



「今から降りてくるから待っていてほしいそうです」

「ああ、ちゃんと聞こえていた」



戻ってきた少女がウルに意味のない伝言ゲームをした後、浅くお辞儀をした後にお礼を言う隙もなくカウンターの拭き掃除に戻っていった。


(もしかして、避けられてる、、、?)


何故か、少女は俺とだけ目を合わせようとしない。

シャイなだけだといいんだが、、、。

初対面で嫌われるのは中々に堪える。

でも、リビィはどうか知らないけど、セナリも俺と同じように少女と初対面だよな、、?

条件が同じなのに俺だけ、、、、いや、あんまり考えないようにしよう。

きっと、時間を掛ければ打ち解けられるさ。


心の中で小心者を存分に発揮しながら、俺はウルの視線の先、奥にある階段を見つめていた。

向きからして、変な降り方をしてこない限りまず初めに見えてくるのが腕と背中だ。

おばあちゃんと呼ばれていた事からおおよその年齢と女性であるという事は現段階で把握しているが、ウルの知り合いのネムとは一体どんな人物なんだろうか。

高齢の女性といえば個人的には柔和で接し易い人を想像するのけど、今は緊張に似た何かのせいで背筋が真っ直ぐ張っている。

原因は多分、


(さっき聞こえた大きな嗄れ声だろうな、、、)


あれのせいで、着物を着た昔ながらのお婆さんというより、大阪のおばちゃんのようなイメージで固定されてしまった。

そのイメージ通りに俺を見た時の第一声を予想するとしたら、〝ひょろひょろした男だね!〟だ。

予想が当たってほしいような当たってほしくないような。



「ウル坊、久しぶりだね」

「お久しぶりですネムさん。お元気そうで何より」

「はんっ!あんたに言われても大して嬉しくないね。後ろの三人は?」



大方想像通りの姿をしていたネムに視線を投げられて、三人で順番に挨拶をする。

向けられるのは、値踏みをするような視線だ。



「奥さんに弟子に家事手伝いかい。ずっと一人で泊まりに来てたあんたにしては珍しいね」

「今日泊まるのはこの三人だけです」

「あんたはどうするんだい?」

「この後戻って仕事を」

「まーた仕事かい?そんなんじゃいつか体壊すよ?」



言葉は少し荒いが、ネムからウルに掛けられる言葉は、お婆ちゃんが孫に掛けるようなそんな優しさが感じられる。


(母方の実家、暫く行けてないけど、お婆ちゃん元気にしてるかな、、)


ふと、今は会えない祖母を思った。

こんな事になるなら、久しく会えてない人達に会いに行っておけばよかったな。

まだ帰還を諦めたわけではないけど、後悔の念が薄く胸中に浮かぶ。



「少しすれば落ち着くと思います」

「少し?、、、、ああ。あの噂は本当だったんだね」

「はい」

「全く。仕方ない事とはいえ、無茶だけはするんじゃないよ?」

「ありがとうございます」

「そこの!」



ウルとの会話を聞いて油断していた。

ネムに突然視線と声を向けられ、体がびくりと震える。



「へ!?あ、はい」

「ウル坊が弟子をとったと聞いて楽しみにしていたら、こんなひょろっひょろの青二才かい」



舐るような視線の後に発された言葉は、遠からず予想から外れたものだった。

嬉しいような嬉しくないような。

複雑な気持ちだ。



「実力は確かですよ」

「ほーう。あんたがそこまで言うなんて珍しいね」

「はい。覚えるペースだけ見ればおそらく俺より上です」

「本当かい?それは見かけによらないねぇ。ケイト、と言ったかい?」

「は、はい」

「教えてもらえる内が花だ。今の内に精進するんだね」

「はい。ありがとうございます」



たったそれだけの会話で、ネムと呼ばれる宿屋の主の興味は俺からリビィへ。

そしてセナリへと移っていった。

リビィとセナリへの対応は俺に対するそれとは全く違っていて、終始笑顔で穏やかだった。

俺にも、少しでいいからその優しさを分けてほしかったな、、。

きっと、あの激励が荒々しいながらも優しさで出来たものなんだろうとは思うけど。

俺の勘違いっていう事はないよな、、、?

もう少し、分かり易い優しさも欲しかったと思うのは、贅沢だろうか。

















「ほら!朝だよ起きな!」


ここ、ネムの宿の朝は早い。

まだ陽が昇り切る前の早朝。

ネムの嗄れ声と、壁をどんどんと叩く音が全宿泊者に届けられる。

驚きこそすれ、こっちの世界に来てから早起きには慣れている俺は、寝惚け眼を擦りながらもすんなりと起きる事が出来た。



「おはよう」

「おはようございますです!」

「ふわぁ、、、。おはよう、二人とも、、」



セナリはいつも通り朝から元気いっぱいで、それとは対照的に、別室に泊まっていたリビィはかなり眠そうだ。

今日と同じように、早起きした時は決まって大きな欠伸をしてるからもしかすると、早起き自体が苦手なのかもしれない。

寝起きのリビィって、何か不思議な色気があるんだよな、、。

朝から目の保養だ。




(意外といるな、、、)


起きてすぐ、一階の食堂に集められた宿泊者は俺達の一行を含めて八人。

一部屋の広さからしてこの宿屋に残り5部屋もの余裕があるとは思えないから、おそらく何人かはどこか一つ所に纏められていたんだろう。

同性であれば、むさ苦しくはあるが問題はないだろうし、間違いは起きないだろうからな。


(この世界に同性愛者というものが存在しなければ、だけど)


前に一度、親友にカミングアウトと告白のダブルパンチを喰らわされた事がある。

その後も変わらない付き合いを続けていたが、親友以上の関係になるところは微塵も想像出来なかったし、想像したくもなかった。

想像してしまえば多分、悪い意味で親友という関係に戻れなくなっていた気がするから。

同性愛というものは悪いものではないと思うし否定する気もないけど、自分に向けられるとなればまた変わって来るのだなと、あの時学ばされた。

〝何とか諦められるようにするから、これからも友達でいて欲しいです〟という親友の言葉がなければきっと、ギスギスしてたんだろうな、、、。

当人からすれば辛く、何とか絞り出した答えだったのかもしれないが、俺としてはとても有り難い助け船だった。

恋愛観念こそ違ったが、親友とはかなり長い付き合いだったしな。

失うには、あまりにも惜しい。


そんな苦々しい経験があるからか、男ばかりの場所でも、心の底から何もないと安心出来ないようになってしまった。

肉食系草食系の違いのように、親友のように大人しいタイプもいれば、強引にボディタッチをしてくるタイプの人も中にはいるだろうから。


もしこの世界で同性愛者と知り合う事があっても、対象が俺でない事を願いたいな、、、。

そんな事をぼんやりと考えながら、並べられていく朝食をぼんやりと流し見た。





「さあ!さっさと食べて出立しな!」





ネムさんの豪快な合図で、その場にいる全員が同時に胸に手を添えてお決まりの文言を唱える。

たかだか八人ではあるが、一斉に食べ始める光景は何となく学校給食を思い出すな、、。

まあ、俺がいたクラスは〝いただきます〟をせずに食べ始めるやつらが多かったけど。



「あんたも今回の参加者か?」



もくもくと濃厚なシチューのようなものを食べている時、髪を短く切り揃えた偉丈夫が豪快に齧ったパンのカスを机に零しながら無遠慮に話し掛けてきた。

年の頃は30~40くらいだろうか。

見た目も動き方も豪快な人だ。



「参加者っていうのは?」

「お?違ったのか。朝っぱらからローブを着てっからてっきりそうだと思ったんだが」



いまいち会話が噛み合わない、、、。

もっと分かり易く聞いてみるべきだろうか?と思ったが、俺の心配を他所に、偉丈夫はそのまま話を続けた。



「参加者っていうのは、今日の闘技会に集まるやつらの事だ。定期的に行われる魔術師の力試しみたいなもんだな。魔術師見習いでも参加可能だぞ。あんたはどっちだ?」

「一応、先日魔術師になったばかりです」

「ほ~う?人は見掛けによらないもんだな。おっと、嫌味ではないぞ?俺の周りは体のゴツい魔術師しかいなくてな」

「魔術師でも体を鍛えるんですね」

「まあな。正確には魔術師ではないんだが、、、。魔闘士って部類だ」

「魔闘士、、ですか?」



初めて聞いたワードだな。

魔術師と魔術使い以外にもあったのか。



「武器と体術、魔術を掛け合わせて戦う。こと短、中距離戦においてはそこらの魔術師より強いぞ?、、って、魔術師にすら知られてないとはな、、、。まだまだ魔闘士が陽の目を見るのは先か」

「あ、いや、きっと僕が知らないだけです。つい最近リネリスに越したばかりの田舎者なので」

「リネリスっていやあの商業都市か?随分遠くから来たもんだな。旅行か?」

「ただの付き添いです」

「付き添い?そこの嬢ちゃんと坊ちゃんのか?」

「いえ、師匠の」

「師匠、、か。魔術師になった後も弟子でいるやつは珍しいな。誰の弟子だ?」

「えっと、、」



言ってもいいものかと迷い、リビィへと視線を送った。

リビィは俺の視線を感じ取ると、無言で小さく首を横に振った。

まあそうだよな。

どんな弊害が出てしまうのかは分からないけど極力目立たないほうがいいだろうし、仕事中のウルに迷惑を掛けるのは忍びない。

あくびをしながら首を横に振っていたから、話を理解していたのかどうかは分からないけど。



「秘密です」

「益々気になるな、、、。まあ深くは聞かないでおくか」



話の分かる人物でよかった。

適当な人物で誤魔化そうにも、ウル以外の魔術師を知らないしな。

深く追求されていたら即座に逃げ道がなくなってしまっていた事だろう。



「食べ終わったらこっちに持ってくるんだよ!洗うのはやっておくから置いていきな!」



食べ始めて10数分。

食事を終えて立ち上がり、洗い場に空の食器とグラスを持って行く。

前の世界ではお茶、こっちの世界では水が食事中の飲み物として固定化していたのだが、男達は皆一様に紫色の液体を飲んでいた。

交わされていた会話や漂ってきた匂いから察するに、おそらく葡萄酒、ワインだと思う。

元よりワインの味は好きではないので飲んで確かめようとも思わないが、朝から飲んでいるというのは中々目新しい光景で、見ていて少し楽しかった。

飲み慣れてるのか、誰一人として酔っている様子はない。



「あんたらこの後はどうするんだい。ウル坊は暫く戻ってこないだろう?三人だけで帰るのかい?」

「いえ、ウルさんのお仕事が終わるまで、見世物広場にでも行こうかと」

「はんっ!あんなの大人の男が行くところじゃないよ!ちょっと待ってな。バリオン!バリオン!!ちょっとこっちへ来な!」

「えっ、ちょ。え?」

「はいはい、なんですかいネムさん」



バリオンと呼ばれて上の階から降りてきたのは、さっきの偉丈夫だった。

何をする気だ、、。



「闘技会の参加者の枠に空きはあったかい?」

「昨日確認した限りではなかったな」

「あんた、ちょっと出場を取り辞めな」

「そりゃないぜ、、、。こちとら今日の為に鍛錬を重ねてきたってのに」

「じゃああれかい。前回準優勝のミシェに勝てるってのかい」

「それは、、、」



バリオンの顔が不安で歪んだ。

先程までの自信に満ち溢れた快活な表情とは対照的だ。

それだけ、圧倒的な優勝候補がいるという事だろうか?

そんな事より出場取り止めとかいう話のほうが気になるが、話に入る隙がなくて聞けずにいる。

一体ネムは何をしようとしてるのか、、、。



「ほらね。ハナから優勝する気が無いやつが勝てるわけないだろう?」

「それはそうかもしれねえけど、、。この兄ちゃんの実力は俺より上なのか?」

「知らないよ」

「なら尚更譲れねえ。俺より弱かったらどうすんだ」

「じゃあこの小童があんたより強かったら出場権を譲るって事だね」

「え?あ、いや、まあそうなるか」

「そうかいそうかい。なら考えがある。とっとと部屋に戻って準備してきな」

「準備?何をおっぱじめるんだ?」

「説明は後だよ。早く準備して降りてきな!」

「ひえっ。おっかねえ、、、」



おそらく自分も関係する話なんだろうけど、二人が目の前で話しているのを俺はまるで他人事のようにボーッと眺めていた。

闘技会についての会話をしているくらいの事しか分かり得なかったが何となく、自室へ行ったバリオンが戻ってくるのを待つのは拙い気がする。

何というか、ゲームで言うところの嫌なイベント前兆のような不穏な感じが、、。

巻き込まれないように、とりあえず部屋に戻って見世物広場に行く準備でもしてこようかな。



「ちょっと待ちな。どこ行くんだい?」

「え?見世物広場に行く準備をしようかと、、」

「あんた今の話聞いてなかったのかい!?はあ、、、。ウル坊はこんな青二才を弟子にしていいのかい、、、」



当人を置き去りにして盛り上がっていたのに酷い言い草だ、、、。

話半分で聞いてたから、反論出来ないのが痛い所だが。



「すみません。えっとなんの話だったでしょうか?」

「あんたは今からさっきの男と対戦するんだよ。勝ったほうが今日の闘技会に出な」

「闘技会に、、ですか?」

「そうだよ。さあ、愚図愚図してないで!早く準備してくるんだよ!」

「え、あ、はい」



話がよく分からない方向に進んでいる気がするが、魔術師の力試しという情報しかない闘技会に、勝ったら出なければいけないというところは分かった。


(、、、ん?それってまずくないか?)


俺が出てしまえばその間、ウルに託された二人を守るという役目が果たせない。

でも、あの勢いで迫ってこられて断れる自信がないんだよな、、、。

ノーと言えない日本人である事に、どうしても邪魔される。















「悪いな突然こんな事になっちまって。巻き込んだのは悪いと思ってるが、手は抜かないぜ?」


どう断ろうか考えながら準備してそのまま連れて行かれて。

気が付いた時には、宿の近くの広場に出来た人だかりの中心でバリオンと向き合っていた。

ここまで来てしまったら戦わずに逃げるのは難しいだろうから、残された選択肢はわざと負けるくらいか、、、。

リビィとセナリにみっともない姿を見せるのは嫌だが、勝って二人を置いて行くわけにもいかないもんな。

まあ大前提として、俺がこの人より強いという確証はないけど。


(でも何となく、負ける気がしないんだよな、、、)


魔術訓練が上手くいきすぎていて、知らず知らずの内に天狗になっているんだろうか?





「魔術師ケイト対魔闘士バリオン。どっちに賭けますかー?一口銅貨1枚からですよー」


辺りを見やると、宿屋で出迎えてくれた少女が紙束片手に首からカゴをぶら下げて掛け金を募っていた。

中身とは正反対で腰が曲がって弱った体を持つネム一人で、なんであんなに立派な宿を潰さずに保っていられるのか不思議でならなかったが、きっとあの子がああして商売面を担っているんだろう。

集金や計算も手慣れた様子だ。



「ルールを説明するからよくお聞き。魔術、武器の使用は自由。先に相手の背中に手で触れたほうの勝ちだよ。ただし、相手に重傷を負わせたり、周りの観客を巻き込まないように。あんたら!もう少し離れて見学しな!思い切り戦えないだろう!」



ネムが一喝したことによって観客は少し下がり、リネリットの屋内修練場3つ分程度のスペースが出来た。

これだけ広ければ、あまり観客への被害は気にせずに戦えるだろう。


(さて、問題はどう負けるか、、、)


武器の使用自由と聞いてバリオンが抜いたレイピアは怖いけど、ネムさんが言っていたルールからして一直線に切りかかってくるような事はないだろうし、そこまで警戒はしなくていいのだと思う。

多分、レイピアを使ったフェイントで怯ませてその隙に背後に回り、背中をタッチするという作戦じゃないだろうか。

勝とうとしているわけじゃなくとも勝ち筋を見極めていなければ上手く負ける事が出来ないから、対人戦闘の経験がないなりに、思い付く限りの相手の戦略を想定する。

想定を終えれば後は気持ちを整えるだけ。


よし。

前向きに負けよう。



「準備はいいね?それじゃあ始めるよ」



前かがみになったバリオンに合わせて、俺も半身になって腰を少し落とす。










「始め!」


「うおおおおおお!!」









ネムが合図をした瞬間。

バリオンは2m程の間合いを一瞬で詰めてきた。

鋭く尖ったレイピアの切っ先は、俺の喉元に向けられている。


(、、、え?これ、避けないと死ぬよな?)


これがフェイントなら大したもんだけど、おそらく全力で当てに来てる。

両足が浮いてるから急ブレーキは出来ないだろうし。

反撃、、、するしかないか。




「ぐっ!、、今のを避けるか」




突進してくるバリオンを、俺はバックステップに風魔術の補助を付けて躱した。

バリオンの周囲の重力を数倍にするという置き土産付きで。

格闘技経験すらなく、対人の立ち回りなんて初めてなのに案外落ち着いていて、バリオンの動きがよく見える。


それにしても、、、。

突然の数倍の重力なのに膝をつかずに堪えるってかなり凄くないか?

見せかけだけの筋肉ではないみたいだ。





「ふんぬっ!!」





重力の檻を抜け出したバリオンは、すかさず炎を纏わせたレイピアで下方から斜めに斬りかかってきた。

やっぱりルール聞いてなかったのかな?

殺しに来てるよね?

上手く負けるつもりだったけど、下手に後手に回ってたら相応の怪我を負う事になりそうだ。

勝ちに向かうしかないか、、、。

烈火の斬撃を躱しつつ思考を切り替え、勝ち筋を辿る為の一手目を呟いた。






「〝(サンド)〟」






まずは、バリオンがさっきまで俺がいた場所に着地したタイミングで足元の石畳を砂に変えて態勢を崩す。





「〝岩化(ロック)〟」





重力を上げて一瞬体の自由を奪った後、足元の砂で下半身を全て覆い、一気に固めてその場から動けなくする。

落ち着いて対処されれば大した拘束力はないが、長期戦に持ち込むつもりはないしこれでいい。




「くっ!動けねえ、、!!!」




念の為に炎に包まれたレイピアも砂で覆って消火した後、持てない程の大きさで固めて届かない範囲まで蹴り飛ばす。

後は、抵抗出来ないバリオンの背中にタッチすれば終了だ。





「チェックメイトです」





場の雰囲気に呑まれて恰好付けて言ってしまった最後の決め台詞は、勝負がついてすぐの大歓声に掻き消された。

普段はこんなキャラじゃないのに、ついつい興が乗ってしまった。





「勝者、ケイト!」





ネムがそう声を張り上げると周囲の盛り上がりは最高潮に達し、割れんばかりの歓声が上がった。

あまり目立ちたくない性分の俺にとっては全方位から歓声を向けられるというのは嬉しいものではなく、薄々感じていた居心地の悪さを加速させる材料にしかならなかった。





「うおおお!!興奮した!!」


「あの兄ちゃん誰だ!?すげぇな!」


「ああ、、バリオン!何やってんだよ!せっかく賭けたのによ!」





ただ興奮する者、掛け金の増減で喜ぶ者、落ち込む者。

結果を聞いて浮かべる反応は様々だった。

それでも誰一人としてこの広場に出来た円形のサークル内に入ってこないのは、暗黙の了解のようなものがあるからなんだろうか。



「負けたよ。あんた強いな」

「いえ、バリオンさんこそ。もう少し反応が遅ければどうなっていたか」

「見た目通りの謙虚な魔術師だこって。あんたには悪いが、俺は当てるつもりで突進したんだ。あれを避けられちゃもうどうしようもねえよ」



え?

今さも当たり前かのように凄い事言わなかった?

そんな気はしてたが、やっぱりあれは当てに来てたんだな、、、、。

死合いになっていたかもしれないと知り、とうに対戦は終わっているのに恐怖で身震いした。



「あーあ。これでまさか出場権譲る事になっちまうとはなー。また鍛え直すしかねえか」



出場権、、?

あ。

すっかり忘れていた、、。



「あの、出場権はですね───」

「あんた!中々やるじゃないか!あのウル坊が弟子をとったというからどんなやつかと思えば、案外あれにも見る目があったんだねぇ」

「え!?あんたあの三賢者の弟子なのか!?」

「まあ、そう、、、ですね」



朝食の場でせっかく濁したのに、あっさりと台無しになってしまった。

だが今はそんな事より、出場の辞退を申し出ないと。

二人に挟まれながら、固辞するタイミングを見計らった。



「初めっからそう言ってくれよネムさん、、。あのウル・ゼビア・ドルトンの弟子に俺が勝てるわけないだろ、、」

「何甘えた事言ってんだい!こいつは弟子入りしてからまだ少ししか経ってないんだよ!」

「え?そ、そうなのか?」

「そうですね。まだひと月未満だったかと、、、」

「まじかよ、、、。やっぱりどこにも天才ってのはいるもんなんだな」

「天才なんてそんな。僕なんてまだまだです」

「謙遜しなくていい。魔術を使い始めてひと月も経たずにあれだけ使いこなせるやつなんて見たことも聞いた事もな、、、いや、あるか?」



ウル以上に、早く使い熟せた人がいるという事だろうか。

早く使い熟せたからといって、長い時間を置いてもずっと上だというわけではないけど。



「だがまあそれでも思い付くのは一人だけだ。しかも三賢者の一人だしな。比べるのは酷だろう」

「三賢者って事はメヒトさんですか?」

「いや、もう一人の────」

「何立ち話してるんだい!早く行かないと間に合わないよ!!」

「わっ、ちょっ」



ネムに背中をぐいぐいと押されながら、俺は群衆を割るように歩みを進めた。

拙い、、。

ここできちんと断らないと、確実に訳が分からないまま出場させられる。



「ネムさん、僕はあの二人の護衛をウルさんに頼まれてるんです。だから」

「はっ、青二才がいっちょ前に。護衛ならあの男にでも任せておきな。バリオン!そこの嬢ちゃんと坊主を見世物広場まで連れて行ってやりな!」

「はいよ。どのみち予定がなくなっちまったんだ。それぐらい引き受けるよ」

「私の客人だ。余計な事するんじゃないよ?」

「頼んでおいて信用無しかよ、、、。ひでえ」



あの人が護衛で大丈夫なんだろうか、、。

魔術を初めて少ししか経っていない俺でも、余力を残して勝てたのに。



「安心しな。あんたはあっさり勝っちまったが、ああ見えてあの男はキングベポを単騎で倒せるくらいの実力はある。まあ時間は掛かるだろうがね」



キングベポと聞いて、忘れかけていた恐怖がぶり返す。


あれを単騎で?


そんな実力があるようには見えなかったが、、。

と思っていたら、〝周りに被害が出ないよう力をセーブしていたからね〟とあまり知りたくなかった情報をネムが教えてくれた。

大きな実力差を持って勝てたと自惚れなくて済んだという面では、感謝するべきだろうか。



「ケイト、こっちは大丈夫だから。怪我しない程度に頑張ってきて」

「わ、分かりました」

「ケイト様、頑張ってくださいです!」



リビィの言葉を信じて、俺はネムに背中を押されるがままに闘技場へと向かった。

これから起きる波乱など、見当もつかずに。

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