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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
一章
12/104

十一話「未知の魔術:前編」



「マレッタ。後は頼んだ」

「はい。お任せください!」


まだ夜の名残りを強く残した朝。

帰宅したウルに起こされて家を出た。

既視感のある道を辿り、日が昇るのとほぼ同時に着いたのはリネリット魔術ギルドだ。

ウルは今から仕事だからと俺を置いて去って行ったが、帰って来てすぐに連れて来るほど急いで魔術を覚えなくてはならない切羽詰まった状況なのだろうか?

聞いてみても〝大丈夫だ〟としか言わないウルに、一抹の不安を覚える事しか出来なかった。



「それではケイトさん。行きましょう!」



深く考える間もなく、朝から元気なマレッタの後ろを付いて行く。

こんなに早い時間にも関わらず、寝惚けている様子は一切見られない。



「今日はお一人で魔術の練習をするんですか?」

「そうですね、、。まだ全然分からないので、教わったものの反復ばかりになると思いますけど」

「意外と教わった魔術以外も使える事があるんですよ?魔術同士を掛け合わせて違う魔術を使ったりとか。そういうのを総称して混合魔術って言うんです。私には難しくて諦めちゃいましたけど」

「今のところは僕がそれをするところは想像出来ないですね、、」



そう回答したが、昨日の紙を動かしたのは混合魔術に分類されるんじゃないだろうか?

他にどういう事が出来るかと考えて最初に浮かんだのが何故か水蒸気爆発だったが、物騒な考えは頭を振って追いやった。



「ケイトさんならきっと大丈夫ですよ!あのウルさんが弟子に認めた方ですし!」

「ウルさんってやっぱり凄い人なんですか?」

「はい。言葉で言い表せないくらいに。ウルさんを初めに見てしまうと実感は湧かないかもしれませんが、三賢者というのは本来気軽に話し掛ける事も出来ない程に遠くの存在ですから。だから、そんな方の弟子になるなんて本当に凄い事なんですよ?」

「確かに実感は湧かないですね、、」

「それぐらい親近感があるって事ですよ、きっと」



親近感、、か。

あるといえばあるけど、前の世界で接してきた人を基準にして言えば、特筆するほど無い気もする。

それは、初対面での威圧感のある雰囲気の影響が残っているからなのかもしれないけど。


実感が湧かないのは単に、ウルについても魔術についても何も知らな過ぎるからなんじゃないだろうかと思っている。

正直に話して深く探られたら余計な事を言ってしまいそうで、相槌だけで話題が途切れる事を待つ事しか出来ないのが辛いところではあるが。



「さ、どうぞお好きな魔法陣へ。まだ早い時間なので誰も居ませんし」

「ありがとうございます。一番奥のところ使わせてもらいますね」

「はい。頑張って下さいね!」



到着したのは屋内修練場。

こっちを向いて手を振りながら去って行くマレッタに一礼して、向かって右側最奥の魔法陣に入る。




「、、、やるか」




魔法陣の中で、復習の為に今まで教わった魔術を一通り発現させる。

順番は火、風、水、土、重力。

紙を持ってきていないので、重力魔術を使う際は形成したソフトボールサイズの土塊を用いる。

重い分苦労するかと思ったが、予想より遥かにスムーズに浮かせることが出来た。

イメージは初めての時より組み立てやすくなって、魔装に流れる魔力を魔術に変換する感覚も分かってきて。

まだ三回目の訓練ではあるが、多少は魔術を使う事に慣れてきたと自惚れてもいいかもしれない。


だが、ここまではウォーミングアップ。

今日の魔術訓練はここからが本題だ。


ギルドに来るまでの間、ウルから今日やるべき事を教わった。

歩きながら見せるのは危険らしく、口頭で説明されただけではあるが。

細かく言えばいくつかあるものの、大まかに言えば与えられた課題は二つ。



■ある程度自在に飛べるようになる事。


■全魔術を高威力で発現させられるようになる事。



・・・・・・。

今更思ったが、最初からハードルが高すぎないか?

いや、期待してくれてるのは有り難いし嬉しいけど、つい最近魔術というものに初めて触れた人間に求めるものではないだろう、、、。

かと言って自分で魔術の訓練をどうしたらいいのかなんて分からないから、言われた事に沿ってやっていくしかないんだけど。

まあ、、


(うだうだ言ってても仕方ないか、、)


ひとまず取り掛かるのは高威力の魔術の発現。

その為に、イメージを一つずつ作っていく。

何から試すのがいいだろうか?

高威力と言われると想像しやすいのはやっぱり〝火〟、かな、、。

ただ火を出すんじゃなくて、体の少し先で爆発を起こすような、そんなイメージ。

指を鳴らして少し先で爆発する勢いで発火。

某漫画の大佐が思い浮かんだがやめておこう。

あれは魔術ではないだろうし。




「ふう、、、、」




一度深く息を吐いて集中する。

魔法陣の縁に背を向けて立ち、目線の先にある黄白色の光の壁をじっと見つめる。

頭で思い描くのは、指を鳴らして散った火花が、黄白色の光に触れた瞬間に肥大化して爆発する光景。

何もないところで突然爆発が起こるのよりは、何かに当たって爆発するというほうが想像し易い。

当たってからだとおそらく消えてしまうので、実際には当たる寸前だが。





「、、、よし」




パチンッ─────ボッ!!




「、、出来た」





鳴らした指の音は火花が散る音に掻き消され、張り詰めた集中は、黄白色の光にぶつかった爆発音で途切れた。

爆発の残滓は、音もなく防御結界と足元の魔法陣へと吸い込まれていく。

何の苦もなく透過板を持つだけで入れた結界は、小さな爆発では傷一つ付いていなかった。


(実はちょっと不安だったんだよな、、、、)


少し触っただけでは詳しい硬度は分からず、すり抜けて向こう側にいる人や物に当たったらどうしようかとか、心の中では色々考えていた。

ウルが簡単に破壊してたけど、あれは思いの外規格外の威力だったのかもしれない。

その領域に達するまで、一体どのくらいの年月が必要になるんだろうか。





「とりあえず火魔術はこれでいいか、、」


爆発というイメージで作ったから、もしかしたら火だけでなく風魔術と合わせた混合魔術になっていたかもしれないけど。

その辺りの構成がこっちの世界でどうなっているのかは分からないが、ひとまずは火魔術の強化版という事で認識しておこう。

すぐに忘れてしまう程難しいものでもなかったし、復習はまた後で。


他の魔術は、、、。


風は突風を吹かせればいいし、水はウォーターカッターみたいなのでいいか。

重力は自身を浮かばせる訓練で事足りるだろうから置いといて、問題は〝土〟だな、、、。

高威力の土魔術ってなんだろう。

ただ単に大きい土の塊を作ればいいのか、それとも下から尖った形状の岩を発現させるとかかな。

後は落石とか、、?


うーん、、。


どれもいまいちに思えてしまう。

ひとまず、考えが纏まらないまま風と水の魔術を試してみる事にする。

苦戦するようなことは一切なく、どちらとも一回で発現してくれた。



ここに来る時にウルがローブに魔力を上限まで補填してくれたが、今感じた減り具合でいったら大半が余りそうだ。

詳しい残量は分からないが、ローブを着た時に感じる魔力の流れが今までと段違いだからおそらくまだまだ余裕があるんだろうとは思っている。

はっきりと数値化出来たら、もっと捗るんだが、、、。

今度リビィに聞いてみよう。

数値化出来る魔術道具?みたいなのがないか。



「次は土魔術、か」



他の魔術を試しながら色々考えた結果、今出来そうなのは大きい土の塊を作り出すくらいだろうという結論に至った。

そうと決めたのはいいが、どのくらいのサイズがいいんだろうか。

前回リビィとの訓練で作り出したのは、サッカーボールくらいのサイズの土塊だ。

今日は魔力も多く残っているし、結構なサイズを作れると思うけど、、。


とりあえず、前回の5倍くらいの大きさで試してみるか。

それ以上大きくするとこの狭い魔法陣の中では自在に飛ばせられないし、万が一自分に落ちてきた時のダメージが怖い。




(、、、、よし)


威力を上げたからといって、すること自体は変わらないので、他の魔術と同様一回で上手く出来た。

形状は、丸くすると転がりそうなので立方体に。

硬度も調整出来るようにと一応岩を作るイメージで硬くしてみたけど、本当に硬くなってるんだろうか?

疑念を振り払う為、近付いて触れてみた。



(、、、硬いな)



問題なく、想像した通りの固さになっていた。

このサイズでこの固さ。

落ちてくる高さによっては、充分に高威力を発揮しそうだ。






小休止がてら作り出した立方体の岩に腰掛けて、目線の先にある黄白色の光をぼーっと見つめる。

完全に透けてるわけではないけど、思っていたよりも魔法陣の外側が見えた。

石造りの建物の内壁がうっすらと見え、、、、、ん?

誰かいる?


光の奥、石造りの内壁の手前に、こっちを見ている人影がある。

視線を向けてみると、向こうからも見えていたのか一瞬で顔を逸らされたが。


(話し掛けてもいいのかな?)


こっちに来てまだ数日だけど、人と話そうと思える程度には余裕が出てきている。

というより、こっちの世界の人に興味を持つ事が出来ていた。

どんな生活をしているのかとか、抱く感情や考え方は元居た世界と変わらないのかとか。


好奇心に従って意を決して立ち上がり、作り出した岩に込め続けていた魔力を緩める。

すぐに硬度を失った岩は、土となり砂となり、さらさらと崩れていって魔法陣に吸い込まれていった。

全く。

ファンタジーは凄いな。




「あの、初めまして。目が合った気がしたんだけど、、」




結界の外へ出て、すぐ近くに居た中性的な男の子?女の子?に声を掛ける。

目があっただけで逃げられそうだったが、話し掛けたら止まってくれた。



「へぁ!?あ!すみません!魔術の使い方が凄くお上手だなと思って、勝手に見てしまいました、、。邪魔をしてしまってすみません、、」

「あ、いや。全然邪魔じゃないよ。疲れたから、休憩がてらちょっと話したいと思って。迷惑、、かな?」

「迷惑だなんてそんな!よ、良ければ!魔術のお話を色々と聞かせていただきたいです!」



魔術の事、、か。

俺も全然知らないんだけどな、、。

まあ、それ以外に話題を作れる気もしないし、乗ってみるか。



「うーん。教えられる事は少ないけどそれでもいいなら」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」



ウルから教わった知識だけで教えられるだろうかと心配になりながらも了承し、お互いに名前だけの簡易的な挨拶を済ませた。

教えてもらった名前は〝ベル〟

益々、性別が分からなくなった。



「ベルは魔法陣の中に入って練習はしないのか?」

「実を言うと全然魔術の使い方が分からなくて、、、。学校に通おうにもお金がないので、こうして色んな方の魔術の使い方を見て勉強してるんです」

「勉強家なんだな。魔術師になりたいってこと?」

「はい。魔術師になってフレーメルさんに楽をさせてあげたくて、、」

「フレーメルさんっていうのは?」

「僕のお母さん代わりをしてくれているとても優しい人なんです。苦労をかけてばかりなので、、」

「そっか。優しいんだな。俺で良ければ今から一緒に魔術訓練するか?」

「え、でもそんな!付き合わせてしまうのも申し訳ないですし、、」

「いや、それは全然大丈夫。教える事でより深く学べそうだし」



不意に会話が途切れて沈黙が訪れる。

何か拙い事を言っただろうか?

ズボンのポケットの辺りをぎゅっと握って黙しているベルの反応を待つ。



「え!?どうした、、、?」



ベルの頬に、一筋の涙が伝った。

心当たりが無さ過ぎて、ただただ狼狽える事しか出来ない。



「ごめんなさい、、、。フレーメルさん以外にこんなに優しくしていただいたのは初めてで、、」

「そんなに優しい言葉をかけた気はなかったんだけど、、、。周りの人は冷たい人ばっかりなのか?」

「いえ、周りの方が悪いわけではないんです、、。僕の見た目が悪いだけなので、、」



見た目、、か。

身長はセナリと同じくらいで、年齢は中学二、三年生くらい、、か?

透明感のある綺麗な白髪は右目を覆い隠して、襟足は肩の辺りまで伸びている。

髪の隙間から見える左目は、吸い込まれそうな魅力を持つ黒色だ。

性別の判別が難しい中性的な見た目だが、一人称が〝僕〟だし男と思っていていいだろう。

ざっと見た感じ、特に周りから避けられるような特徴はないように思える。

変なところ、、、あるか?



「どこか悪いところある?見た感じ分からないけど、、」

「今は隠しているので、、」

「ん?」

「いや!なんでもないです!」

「?そっか。あんまり詳しくは聞かないでおくよ」

「、、、ありがとうございます」



聞こえていないフリをしたが、実はベルが小さく零した声はしっかりと聞こえていた。

隠してるって事は今見えないところがどこか変わっているんだろう。

まだ会ったばかりだし、深く詮索するのは止めておく事にした。

話を聞く限り、コンプレックスのようなものの気がするしな。





「始める前に聞いておきたいんだけど、どれくらい魔術使えるんだ?」


雑談を終え、ベルと透過板を一緒に持って、魔法陣の中に入って向き合う。

結界の色が映って、綺麗な白髪は若干の黄色を帯びた。



「えっと、本当に全然使えなくて、、。小さい花を咲かせる事が出来るのと、そよ風を吹かせる事が出来る事くらいで、、」

「あー、そうなのか、、、、って、え?花を咲かせられるって言った?」

「は、はい。凄く小さな花を咲かせるだけで何の役にも立ちませんけど、、、、」



土魔術、、、ではないよな。

聞かされた基礎魔術には植物魔術なんてなかったはず。

火、水、風、土、重力。

どれを掛け合わせても、花を咲かせることなんて出来そうもない。

もしかして、まだ習っていない精霊魔術だろうか?

だとすれば、安請負した魔術訓練を盛大に後悔する事になりそうだが。



「もしよかったら見せてもらってもいいか?」

「はい!」



ベルが手を前に翳すと、魔力を注いでもらった時のような温かさに全身が包まれ、視界が柔らかい光に塗り潰される。

光が晴れると、一輪の立派な花が魔法陣の中央に凛と咲いていた。

詠唱が無かった事から、おそらく精霊魔術ではないんじゃないだろうか。

どんなトリックがあるんだ、、?



「凄いな、、、」

「いや!そんな!これぐらいしか出来ないので、、」

「いや、充分凄いよ。基礎魔術をどれだけ組み合わせても、植物を咲かせるなんてきっと出来ないだろうから」



ベルがポカンとした表情を浮かべる。

もしかして、基礎魔術すら知らないのか、、?



「基礎魔術というのはなんでしょう?」

「精霊の力を借りなくても使える5種類の魔術だよ。火、水、風、土、重力。土魔術に近いものはあるんだろうけど、おそらく植物を咲かせるのはまた別の魔術なんだと思う。少なくとも、俺は初めて見た」

「そう、、なんですね。へへっ。そっか」



体の前で両手の指の腹同士を合わせて、ベルが嬉しそうに微笑んでいる。

なんかあれだな。

可愛い。

男に恋心を抱く趣味はないからそういうのではないけど、セナリを可愛いと思うのと同じような感情が湧いてくる。

守ってあげたくなるって言うのが一番正しいのかもしれない。



「、、可愛い」

「へぁ!?」



つい、声に出してしまった。

こっちに来てから、心の声が漏れ易くなっている気がする。

引かれてしまっただろうか。



「え、えと、あの、ありがとう、、、ございます?」

「うん。その、なんかごめんな?気を遣わせてしまって」

「いえ!そんな!言われた事がなかったので驚いただけです、、」

「そっか、ありがとう」

「こ、こちらこそ!」

「ふふ」

「えっと、、どうしました?」

「いや、なんか楽しいなと思って」

「僕も楽しいです!」



ベルの笑顔は何故か凄く癒される。

温かくてふわふわしてて、ここ最近頭を悩ませていたことを全て忘れさせてくれるようなそんな不思議な感覚がある。

きっと、一つの濁りもない良い子なんだろうな、、、。

まだ会ったばかりだが、そう思わせられる。



「ベル。今見せてもらった魔術だけど、お世辞とかではなく本当に凄いと思うんだ。もし嫌じゃないならその魔術を成長させてみないか?」

「嫌ではないです!誰も傷付かない優しい魔術で凄く好きなので。でも、どうやって成長させればいいんでしょう?」

「そうだな、、、。とりあえず、魔法陣の縁まで目一杯にいくつも咲かせるとかはどうだ?」

「それなら出来るかもしれません。やってみます!」



ベルが先程と同じように手を前に翳す。

魔法陣の中を満たす光は優しく温かい風を伴って、より分かり易く全身を包み込んだ。

一度目と二度目のこの違い、似たようなものを感じたことがある。

それは多分、込められた魔力量の違いによるもの。

初めてウルがローブに魔力を少量流し込んでくれた時と、今日上限まで補填してくれた時の違いに似ていた。

だからだろうか。

光が引いて視界が晴れる前に、魔術が成功している事を感覚で予見出来た。



「、、、、出来た」



ベルの声に合わせて足元を見ると、魔法陣の内側目一杯に、膝辺りの高さの花が犇めき合って咲き誇っていた。


(、、、いや、最初から凄すぎないか?)


もっとこう、踝よりちょっと背の高いくらいの草花を予想してたんだけど、、。

今更調子に乗って教えるとか言ったのを後悔してきた。

俺では、この内の一本すら真似て出現させる事が出来ない。



「ケイトさん!出来ました!」

「そうだな」

「あの、、これじゃ全然ダメでしょうか、、」



想像以上の出来に呆気にとられ、反応の悪さでベルを不安にさせてしまった。

一言詫びて、花に釘付けにされていた視線をベルに向ける。



「驚き過ぎてどう反応したらいいのかわからなくてさ、、。というかベル、凄過ぎないか?」

「僕、魔力量だけはちょっと多いらしくて、、」

「他の人の魔力量がどれくらいなのか分からないけど、これ、ちょっと多いっていうレベルじゃない気がする、、。まだ余力残してるのか?」

「え?はい。魔力はまだまだ残ってると思います」

「まだまだって、、、。ベルが精霊魔術とか使うようになったらどうなるんだろう、、」



その時は、魔法陣の外でウルの結界に守ってもらった状態で見ておかないといけないな、、。

魔術を始めたばかりの初心者の俺ですらそう思ってしまう程、ベルの魔術のセンスは凄まじいものがある気がした。

怒らせないように気を付けないと。

ベルが怒ってる姿なんて、想像つかないけど。



「いつになるか分からないですけど、いつかは使ってみたいです!ケイトさんはもう精霊魔術使えるんですか?」

「いや、俺はまだ魔術教えてもらったばっかりだから全然。基礎魔術が一通り出来るようになったぐらいだし、むしろベルに教えてもらいたいぐらいだな、、」

「そんな!僕はこの魔術しか使えないので、それ以外を教えていただけると嬉しいです、、」

「そうだな。頑張って教えてみるよ」

「はい!」



植物魔術、、か。

使ってみたいな。

どういう場面で使えばいいのかは分からないけど。













「ケイトさーん。私そろそろお昼ですけど一緒にどうですかー?」


ベルに基礎魔術の使い方について話していると、魔法陣の外からマレッタの声が聞こえてきた。

随分長い間、訓練をしていたようだ。

にも関わらず、ローブに充填された魔力は半分も切っていない。



「あ、えと。僕ここに隠れてますね!ありがとうございました!」

「いや、ちょっと待ってて」



キョトンとした顔のベルを魔法陣の中に残し、魔法陣の外へ出てマレッタに事情を話す。



「マレッタさん。実はお昼一緒に食べたい子がいるんですけど」

「え?私は勿論構いませんけど。あ!もしかしてお付き合いされてる方とかですか?」



目をキラキラと輝かせて顔を近付けてくるマレッタ。

どうやら、どこの世界でも恋の話は女性の好物らしい。



「いや、ついさっきここで会ったばかりの子なんですけど、あまり裕福な子ではないみたいで、、。マレッタさんがご迷惑じゃなければお願いしたいんですけどどうでしょう?」

「是非!みんなで食べた方が美味しいですしね。今はどちらに?」

「今は魔法陣の中に。ベルー!出てきていいぞー」

「ひゃいっ!」



、、、今絶対舌噛んだな。

大丈夫だろうか、、?



「あ、あの。ベルと申します、、」

「わあ!いつも見学に来る子じゃないですか!ご挨拶は初めましてだね。マレッタっていいます。よろしくね」

「は、はい!よろしくお願いします!」

「ベル。今からマレッタさんとご飯食べるんだけど、一緒にどうだ?」

「そんな!お邪魔してしまうのは申し訳ないです、、」

「全然邪魔じゃないよ!むしろ、二人でも食べ切れなさそうな量作っちゃったから、一緒に食べてくれると有り難いんだけど、、どうかな?」



食べさせてもらってる立場だから文句などないが、マレッタは毎度作り過ぎじゃないだろうか?

この事態を想定して、寝惚け眼を擦りながらお弁当を作ろうとしてくれたセナリを止めておいてよかった。



「えっと、、」



そんなマレッタからの誘いでも、ベルは即答出来ずに逡巡している。

学校に行けないというのがこの世界でどれ程裕福でないのかは分からないが、少なくとも手荷物を持っていない事から、お弁当は無いはずだ。

作った本人が良いと言っているなら遠慮する必要はないと思うけど、ベルなりの考えがあるのかもしれない。

だからといって、お腹の音を必死に抑えている様子のベルを置いて、はいそうですかとマレッタと二人で昼食に行く事など出来そうもないのだが。

恒久的な救済でないその場凌ぎの偽善だとしても、やらずにはいられない。



「ベル」

「はい」

「お腹空いてるか?」

「、、、はい」

「じゃあ決まりだな。マレッタさん、どこで食べます?」

「前と同じところでどうでしょう?今日は屋外修練場を使っている人はいませんから」

「いいですね。行きましょうか」



ベルを説得するのはやめた。

とりあえず食事を目の前にして座らせれば、それ以上遠慮する事はないだろう。

何というか、誘拐でもしている気分だ。



「あ、あの!」

「?どうしたの?」

「えっと!あ、ありがとうございます!」

「ううん。全然大丈夫だよ。お口に合うか分からないけど、いっぱい食べてくれると嬉しいな」

「はい!いっぱい食べます!」

「ふふっ。そっか。良かった」



この感じ、何かいいな、、、

マレッタが奥さんで、ベルが子供で、三人でピクニックにでも来てる気分だ。



「ケイトさん?」

「ああ、ごめん。行こうか」

「はい!」



呆けていた頭を覚醒させて先を行くマレッタに付いて行き、廊下を進んで外へ出る。

この前はマレッタがテーブルとイスを運んで来てくれたけど、また戻ってもらうのも申し訳ないよな、、。

今なら土魔術で簡易的なものを作れるし、それで代用するか。

テーブルと、丸椅子3つ、、、だけあれば充分だよな?



「へ!?ケイトさん、これ、、、は?」

「またテーブルとか取りに行ってもらうの悪いなと思って。見た目は不格好ですけど、もし良かったら使ってやってください」

「あ、ありがとうございます、、。いや、それより!ケイトさん、もうこんなに魔術を使いこなせるようになってるんですか!?」



そんなに驚く事だろうか?

ただ円筒形のテーブルと、同じ形でサイズ違いの椅子を3つ作っただけなのに。

カップ麺を作るほうが時間が掛かる程のお手軽さだ。



「え?土魔術の基礎の延長だったのでこれぐらいは、、。変ですか?」

「変、というか成長速度が速過ぎます!学校で習っている子達でも、ここまで達するのにひと月は掛かるのに、、。多分ですけど、ウルさんが魔術を覚えたスピードより速いと思います」

「ウルさんよりですか!?さすがに冗談、、、ですよね?」

「又聞きなので詳しくは分かりませんけど、ウルさんでも10日程度は掛かっていたはずです。それほど魔術の入門というのは難しいんですよ?初日で魔術を発現させられたと聞いた時も実は疑っていたぐらいなんですから、、」



前の世界と単位が変わらなければひと月は30日。

俺が魔術の訓練をするのは今日で3日目。

リビィも褒めてくれたけど、そんなに凄い事だったのか、、。

いや、今はそんな事よりもウルだ。

それだけ難しい事を口頭だけで説明してやらせるなんてどういう事だ。

魔術のセンスを信用してもらえてるって事なのかもしれないけど、、、。

もしかしてこの後練習予定の空を飛ぶ魔術の難易度は、もっと高いんじゃないだろうか。



「あの、マレッタさん。魔術師の方が空を飛べるようになるのって大体どれくらい時間が掛かるものなんですか?」

「習う過程にもよりますけど、どれだけ頑張っても飛べない子もいれば、最短でも三月は掛かるんじゃないでしょうか?速度や高度も自在にってなると、五月ぐらいは、、、。私は出来ないので分かりませんが、形成単語を30個覚えるより難しいとも言われています。、、、、、、もしかしてですけど、もう出来るんですか?」

「いえ!まだまだ想像もつかないですよ。ちょっと興味本位で」

「良かった、ちょっと安心しました。もう飛べるなら凄過ぎるなと思って、、」



やっぱりか、、。

ウル、どれだけ難易度の高い魔術を押し付けてくるんだ。

さっきの良い流れのまま簡単に飛べるかもと安易に考えてたけど、マレッタのこの様子からすると、きっとそう簡単にはいかないんだろうな。


(それと、、)


ベルが俺に向けてくるキラキラした視線が痛い。

どう考えても、今の俺が使える魔術よりもさっきの植物魔術のほうが凄いと思うんだが、、。

褒め言葉を連ねるマレッタには収集がつかなくなる程買い被られそうだったので、ひとまず適当に濁しておいた。

今のところ上手くいってるけど、ここで成長が止まる可能性も十全にあるしな。

あまり未知の事で調子に乗るのは後が怖い。



「あ!ちょっと話し過ぎましたね!食べましょうか!」

「そうですね。またマレッタさんの手料理食べれるなんて嬉しいです」

「お上手ですね。何も出ませんよ?」

「手料理が食べれるならそれで充分です」

「ふふふ。ありがとうございます」









二度目のマレッタの手料理は、相変わらず美味しかった。

こっちに来てから食べる物に外れがないんだが、それは俺が恵まれてるからなんだろうか。

それとも、こっちの食材で作ればどう足掻いても美味しくなるのか。

料理が下手な俺にとっては、出来れば後者が事実であるほうが有り難い。



「味どうかな?お口に合えばいいんだけど、、」

「凄く美味しいです!こんなに美味しいご飯いただいてもいいんでしょうか、、?」

「勿論だよ。美味しそうに食べてくれるから作った甲斐あるなあ」

「美味しくて止まらないです、、」

「ふふふ。いいよ。いっぱいあるからどんどん食べて。ケイトさんも。沢山食べてくださいね」

「はい。ありがとうございます」





「あ!!!」





和やかな食事の最中。

ベルが口の端にソースを付けたまま、声を上げて突然立ち上がる。

机に膝をぶつけて痛そうだ。



「え!?ど、どうした?」

「お家の用事が残ってるのを忘れてました、、。急いで帰らないと、、!」



急いで帰ろうとしている割に、ベルの目線はテーブルの上の料理から離れない。

食べ足りないんだろうな。



「もし良かったらお料理持って帰る?ご迷惑じゃなかったらだけど」

「ご迷惑だなんてそんな!でも、、いいんでしょうか?」

「うん!ケイトさん、包むの手伝っていただけますか?」

「勿論です。ベル、ちょっとだけ待っててな」

「え、あ、あの、手伝います!」

「大丈夫。帰る準備してる間には終わるから」

「あ、ありがとうございます!」



どこに隠していたのか、ベルは取り出した小さい鞄で何やらごそごそしつつ、視線を包まれていく料理に固定している。

それだけ、この食事がベルにとってはご馳走なのかもしれない。

魔術の事を学びたくても学校に行けないくらいには貧しいってさっき言ってたしな。

でも、貧乏というほど服は汚れたり、擦り切れたりしていない。

あまり深く詮索するのはよくないと思うけど、どういう境遇なのかはちょっと気になる。



ベルはどことなくセナリに似ている気がして、どうにも放っておけない。

自分の事で大変なのに、周りの事にばかり気を遣うところが。

だから、出来るだけ何かしてあげたいという気持ちがある。

俺自身が自分の事でいっぱいいっぱいだろうって言われればそれまでだけど、、、。

お節介だろうか。



「よし、出来た!」

「ベル、これ持って帰れそうか?」

「こ、こんなにいただいていいんでしょうか!?」

「もう私もケイトさんも沢山食べたからね」

「そうですね。これ以上食べたら帰ってから食べれなそうだし。一人で多かったらフレーメルさんと一緒にな」

「あ、あの!本当にありがとうございます!いつになるかわかりませんが、必ずお返しさせていただきます!」

「気にしなくていいよ!また一緒に食べようね」

「はい!ありがとうございます!行ってきまひゅ、、す!」



また舌噛んだな、、。

恥ずかしそうにしながら、ペコペコとお辞儀を繰り返してギルドの中に走っていくベルを見送りながら、マレッタと目を合わせて笑い合った。

また会えたらいいな。

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