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臨界線のインフィアリアル  作者: 中田滝
一章
11/104

間話「強面の救世主」

マレッタ視点です



「マレッタ、この書類判子押す位置間違ってるよ」

「へっ!?あ!すみません!」

「訂正効くから大丈夫だよ。次からは気を付けるようにね」

「はい!」


リネリット魔術ギルドで働くようになって一年と少し。

最初の頃よりマシになったとはいっても、未だに仕事をミスすることがよくあります。

その度に上司のリムさんに迷惑を掛けてしまって、、、。

そろそろ、一人でも仕事が出来るようにならないといけません。



「どうしたの?」

「いつもすみません。ご迷惑おかけしてばかりで、、」

「マレッタ」

「、、、はい。いたっっ!え?え?な、なんでしょう?」


突然リムさんにデコピンをされました。

いつも口に出さないだけで、やっぱり色々と鬱憤が溜まっていたんでしょうか。

かけた迷惑の数を考えれば、仕方のない事のようにも思えます。



「気付いてる?あんた同じ失敗した事ないんだよ。似たような失敗はあるけど、全く同じのは一度もした事がない。やったことのない失敗を迷惑だと思ってるならそれはただの思い上がり。経験した事のないものを予め察知して回避するなんて、予知能力を持ってないと出来ないでしょ?もしくは、色々経験した上での予測とかね。あんたはそのどっちか持ってる?」

「持ってないです、、」

「じゃあ気にしない。あんたの失敗をカバーするのも私の仕事の内だからね。同じ事を二回失敗しないのなら全然問題ないよ。もう少し私の事頼りな?」



リムさんは相変わらずかっこいいです。

まだまだ申し訳ない気持ちでいっぱいですが、優しい言葉を掛けてもらえたおかげでちょっと肩の力が抜けた気がします。

もう少しだけ、リムさんに甘えてもいいのかもしれません。

早く一人前になる為には、避けないといけない事だと分かっているんですけどね。



「リムさん、、その、、ありがとうございます」

「うん。こっちこそいつもありがとうね」



そう言ってリムさんは、私の頭を撫でて優しく微笑んでくれました。

毎日頑張っていれば、私もこんなに素敵で頼れる人になれるでしょうか?

今はまだ、想像も出来ないですけど、、、。



今日は運よく、この後の仕事をノーミスで終えることが出来ました。

肩の力が抜けたからでしょうか?

大尊敬しているリムさんとの距離も縮まった気がしますし、良い事尽くめの一日です。

明日は依頼から帰ってくる方もほとんどいませんし、お仕事もそこまで多くありません。

このまま、益々リムさんとの距離を縮めるチャンスになりそうです。

















───── 翌朝 ─────



「おはようございます」

「おはようマレッタ。今日もよろしくね」

「はい!よろしくお願いします!」



私が出勤すると、リムさんは既に仕事を一つ終えていました。

いつも少し暗い時間に出勤して、私が出勤する頃には何かしら仕事を進めています。

後輩の私が先に来ないと!と張り切って何度か先に出勤した事はありましたが、夜になると疲れてしまって結局迷惑を掛けてしまうので、今はもう、無理のない時間に出勤するようになりました。

朝早くから夜は私と同じ時間まで働いても元気なんて、リムさんは凄いです。



「リムさんは毎朝早くに出勤して眠くならないんですか?」

「最初の頃は眠かったかな。今の出勤時間に慣れたのは、始めてから半月経ったぐらいからだね。そこからは最後まで仮眠を取らずに働けるようになったよ」

「たった半月で、、、」

「マレッタも一時期早く来てたね、そういえば」

「はい。すぐ疲れてしまうので続きませんでしたけど、、」

「ははは。気にしなくていいよ。きちんと毎日遅刻せずに来て、いつも遅くまで頑張ってる。それだけで充分だからね」

「、、はい」



リムさんは優しく励ましてくれましたが、やっぱり少し、思うところはあります。

気にしたところで早く来るようにすればまた迷惑を掛けてしまいますし、気持ちを晴れさせる事は出来ないんですけど、、。


(あんまり考え過ぎたら駄目だよね、、、)


悩み過ぎて集中力が欠けてしまっては、きっとまたミスをしてしまいます。

それだけは避けなくてはいけません。



ぎゅっ───。



頬を強く抓って余計な考えを頭の隅に追いやります。

今日も一日頑張らなくては。

集中集中。







「これよろしく」

「はい。依頼達成の確認証ですね。こちらにサインをお願いします」

「はいよ」

「確認致しました。それではこちらが今回の報酬になります。お疲れ様でした」





「あ、あの!屋内修練場は空いてますか?」

「はい。ご利用は初めてでしょうか?」

「は、はい!」

「かしこまりました。ではご案内しますね」





「依頼が数件増えたから、纏めて張り出しといてもらえる?報酬も依頼者の希望通りのまま載せといて大丈夫だから」

「はい。ちょうど今増えた分があるので合わせて出しておきます」

「うん。よろしくね」






いつも通り仕事をこなして、少し休憩してまた仕事。

それを繰り返す内に、あっという間に外が暗くなり始めました。


(、、、あれ?)


なんででしょう。

何か違和感がある気がします。

いつもと何かが違う。

何でしょうか?

仕事内容も大して珍しくもないものばかりで、特筆するものはないと思いますが、、。



「マレッタ。今日何もミスしてないんじゃない?もう少しで仕事終わるしこのままノーミスで頑張ろうね」



リムさんに教えられて、違和感の正体が分かりました。

余計な事を考えないように、いつも以上に仕事に集中しよう集中しようとしていたからか、初めて丸一日なんのミスもなく終業を迎えられそうだったのです。


もう少し頑張ればノーミス、、。


意識するまでは何ともなかったのに、意識し始めると途端に、周りに心臓の音が聞こえてるんじゃないかというくらい鼓動が煩くなりました。

大丈夫大丈夫、、。

いつも通りいつも通り、、、。



「マレッタ。ちょっと相談いい?」

「?はい」

「今日妹の誕生日でさ。出来れば早く帰ってあげたいんだけど、、、ダメかな?」



〝いいですよ〟と二つ返事をし掛けて少し考える。

今受付にいるのは私とリムさんだけ。

今日やらなければならない仕事はもう細々した誰でも出来るものだけとはいえ、終業まで私一人で頑張れるでしょうか。

日頃の感謝も込めて滅多にないリムさんのお願いを叶えたい気持ちは強くありますが、、



「あはは。ごめんね?冗談冗談。誕生日は明日でも祝えるもんね。ちょっとこの書類片付けてくるから受付見ておいて」

「ま、待ってください!」



考えがまとまる前に、咄嗟にリムさんを呼び止めてしまいました。

何を言うかを決めていないのに、、、。

リムさんが驚いた顔のまま固まって私を見ています。

早く。

早く何か言わないと。



「えっと、、。マレッタ?どうしたの?」

「ふえ!?えっと、、あの、、。私頑張ります!」

「え?」



一層、リムさんをきょとんとさせてしまいました。

今のでは伝わらないですよね、、、。



「終業まで一人で頑張ります!なので、、えっと、、あの」

「、、ふふ。ありがとうマレッタ。じゃあお言葉に甘えさせてもらってもいい?」

「はい!」

「ありがとう。この書類だけ片付けて帰るわね」



緊張で心臓が飛び出るかと思いました、、。

でも、言葉を用意していなかった割にはスラスラと言えたんじゃないかと思います。

、、多分。





「じゃあマレッタお先。後はよろしくね」

「はい!お疲れさまでした!」



スマートにはいきませんでしたが、何とかリムさんを送り出すことが出来ました。

お夕飯までに間に合えばいいんですが、、、。

と、今はそれより自分の心配です。

いくら仕事が殆ど終わっているとはいえ、終業まで受付で応対をしなくてはなりません。

一人でここに立つのは初めてで不安がないと言えば嘘になりますが、、、。

今日のように何かあった時に気兼ねなくリムさんが早上がり出来るように、何とか乗り切らないと。





「お、嬢ちゃん今日は一人かい?」



受付で書類の整理をしていると、頬を少し赤らめた魔術師?の方に話しかけられました。

見た事あるようなないような、、。



「はい。ギルドを閉めるまでの少しの間ですが」

「ほうほう。そうかそうか。ふ~ん」



なんでしょうか。

全身を舐め回すように見られている気がします。

気のせいだと凄く有り難いのですが、、、。



「何かご用でしょうか?」

「いいや、見てるだけだ気にするな。それにしても、別嬪さんだな」

「とんでもないです」

「そんな謙遜しなくていい。顔もいいが、身体もいいな。若い分張りが良さそうだ」



これは、、、誘われてる?

初めての経験で、明確にそうだと言い切れませんがおそらくそうだろうとぼんやり理解は出来ます。

経験がない分、こういう時どう対処すればいいのか分かりません。

前にリムさんが適当にあしらっているところを見たような気がしますが、肝心の適当にあしらう方法が分かりませんし、、、。



「おっ、満更でもなさそうだな。仕事なんか置いといてよ、今から俺ん家に来いよ。仕事なんかより良い事してやるからよ」

「へ!?あ、いや困ります。終業まで離れるわけにはいかないので」

「へはは。仕方ねえな。終わるまでここで見続けてやるよ。待つ時間が長いほうが楽しめそうだしな」

「そ、そういうことではなくて。付いて行きませんから!」

「そう照れるなよ。初物だろうが優しくしてやるからよ。へっへっへ」

「は、初物!?よくそんな下品な事を!もうやめてください!これ以上しつこいと大声で叫びますよ!?」

「別に構わねえよ。叫んだところで誰も助けに来ないだろうしな。街からは離れてっし、ここに数人居る野郎どもに助けに入る正義感のつええ奴なんていねえからよ。全員自分の稼ぎの話に夢中で嬢ちゃんのことなんて気にも留めてねえよ。諦めて腹括りな。なんだったら仕事切り上げてここでおっぱじめてもいいんだぜ?お?ほら、触ってみろよ。男の触るの初めてだろ?俺ぐらいでけえやつは中々いねえぞ~」



き、汚い、、!

ズボンを少しずり降ろして見えた名前も言いたくないあれ。

見たくない。

見たくないけど、ちゃんと見ないと、抵抗する為に振り回した手が時折生暖かいあれに当たってしまう。

嫌だ。

こんなの。

誰か、、、。



「やめてください!誰か、、!誰か、、助けて!」

「諦めな。おい、大人しくしやがれ」

「いや、、助けて、、、、誰か、、、お願い、、」




ドンッ───ドサッ。




「、、、へっ?」



突然、私の体を弄ろうとしていた男が吹き飛び、情けない恰好で尻もちをつきました。

なんで突然?

誰かが助けてくれた?




「邪魔だ」




ついさっきまで男がいたカウンターの向こう側には、背の高い身綺麗な男性が。

見えた横顔はとても怖くて、すぐに目を逸らしてしまいました。

この人が助けてくれた、、、?



「あ!?邪魔すんじゃねえよ!いってえな!」

「人が何してようが知ったことじゃねえが、俺の前で目障りなことをするな。燃やすぞ」

「舐めてんじゃ!───って、てめえドルトンかよ!?」

「酔っぱらってても俺の顔は分かるんだな。これ以上機嫌を損ねる前に離れたほうがいいぞ?ここにはお前を助けてくれるやつなんかいないからな。なあ、そうだったよな?どうする?ダメ元でやり合ってみるか?」

「ま、待ってくれ!俺が悪かった!お前とやり合う気なんかねえよ!出ていく!出ていくから!」



急展開過ぎる状況に付いていけません。

大慌てで脱ぎかけのズボンを履いて出て行こうとする男を、ボーッと眺めます。

助かった、、んですよ、、ね?



「おい、待て」

「な、なんだよ、、、」

「こいつには謝ったのか?」

「あ!?なんで俺が」

「謝ったのか?」

「あー!分かった分かったよ!嬢ちゃん、なんだ、その、悪かったな。もう来ねえからよ。勘弁してくれ」

「・・・・」



何がどうなっているのか。

さっきまで傍若無人に振る舞っていた男が途端にしおらしくなって私に頭を下げています。

驚きで反応出来ず、呆ける事しか出来ません。



「おい。どうする?許すか?」

「へぁ!?え?あ、は、はい!」

「お、ありがとな嬢ちゃん!それじゃ俺はこれで!あばよ!」

「、、ったく。良かったのか?大丈夫だとは思うが、簡単に許して懲りずにまた来たらどうする?」



あ、、、。

言われてみればその通りです。

これから一人で受付に立つ事も増えてくるのに、、。

そんな事考える余裕は全くなくて、何だかよく分からない内に謝られて返答を聞かれて。

何も考えずに簡単に許してしまいました。



「えっと、、。そ、そうですね」

「、、まあ、お前がいいならそれでいいが。それより今日リムは?」

「あ、えっと。リムさんは先程帰られました」

「そうか、、。入れ違いだったな」

「あの、もし良ければご用件伝えておきましょうか、、」

「、、仕方ない。そうするか」



私をじっと見た後、強面の男性がローブの内ポケットから取り出した小袋を受け取ります。

男性の見た目に似合わない、可愛いラッピングのされた小袋を。



「聞いているかは分からないが、今日はリムの妹の誕生日でな。女物はよく分からなかったんだが、適当にプレゼントを見繕っておいた。日は跨いでもいい。渡しておいてくれ」

「はい。承りました。お名前をお伺いしても?」

「ウルだ。ウル・ゼビア・ドルトン」



ウル・ゼビア・ドルトン、、、?

どこかで聞いた気が、、。


(、、、あ!)


思い出しました。

ここで勤め始めた頃に、受付でリムさんと話してた人です。

確か三賢者で外交官で、リムさんと古くからの付き合いだという、、。

あの時は大きくて怖くて近付けなかったので、見た目だけでは思い出せませんでした。

そっか、、。

私、三賢者なんていう凄い人に助けられたんですね。

実感をしたら、途端に驚きが湧き上がってきました。

助けてもらった事と心配をしてくれた事。

リムさんの妹さんの為にわざわざ可愛くラッピングしたプレゼントを持ってきた事。

これだけ重なれば、もう初対面の時のように怖くて話せないなんて事はありません。

見た目に反して、充分に優しい人だという事が分かり得ました。



「どうした?」

「あ、いえ。お気になさらず。確かに承りました」

「そうか。じゃあ頼んだぞ」

「はい」



ウルさんはそれだけ言うと、リムさん宛てだという小さい手紙を私に渡して踵を返しました。

何か忘れてる気がするような、、、、。

あ!

お礼!お礼言わないと!



「あ、あの!」

「なんだ?」

「その、、、。た、助けていただいてありがとうございまひた!」



リムさんを送り出す時はちゃんと噛まずに言えたのに、、、。



「気にするな。たまたま居合わせただけの事だ。それと、間違ってたら悪いんだが、、、、。お前、マレッタか?」

「はい!私の事ご存知なんですか?」

「リムからよく聞いててな」

「リムさんが、、。私の事、なんて仰ってたんでしょう?」

「笑顔が自慢の後輩だとよく聞かされている。慣れない環境で大変だろうが、リムの事を支えてやってくれ」

「はい!」


笑顔が自慢、、。

そんな事、リムさんに言われた事はありませんでしたが、、。

でもそうですか。

笑顔が、、ふふふ。

いけません。

まだ仕事中だというのに、どうしてもニヤけてしまいます。

またさっきみたいなことにならないように、しっかり頑張らないと。



それにしても。

なんでウルさんは私が誰だか分かったんでしょう?

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