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第38話ですわ!



 …………頭痛が、どんどん酷くなってきています。

 この頭痛が、ゲーム補正の為にわたくしの行動や思考を補正するものなのだとしたら今のこの状況は運営にとって好ましくないものと判断出来ます。

 それなら、わたくしは生き延びなくてはいけません。


「っ!」

「エルミーさん!」


 振り下ろされた剣を、エルミーさんの斧が受け止める。

 金属のぶつかり合いで起きた摩擦の光で一瞬、血走った男の顔が暗闇に浮かび上がった。

 まるで悪魔のような顔……。

 お、お喋りしてる間に追い付かれ——!


「へへっ、追い詰めたぜ」

「え!」

「! っあ!」

「キャリーた……うっあああっ!」


 パン! パン!

 と拳銃の音。

 えっ、くっ……いつの間に回り込まれて……!?

 右足の膝上を、撃ち抜かれた……!

 エルミーさんは肩を。

 そのまま、すぐ側の森の道に突き飛ばされました。

 しかし、そのおかげで鎧の音が聞こえます。

 近くに兵士たちが来ている!

 もう少し……なのに!


「ちぃ! 痛ぶりたかったのに時間がねぇ」

「まずは邪魔なプレイヤーに退場願おうぜ! オラァ!」

「くっ! あぁああぁ!」

「エルミーさん!」


 撃たれた肩を蹴りつけられ、倒されるエルミーさん。

 更に、そのまま男は剣をエルミーさんの胸に突き立てました。

 光が舞い、ガラスのように砕け始めるエルミーさんの体。

 PK(プレイヤーキル)……!

 お互いの同意のないプレイヤー同士の対戦扱い。

 今更『カルマ値』の上昇など、この男たちには痛くもかゆくもない……ええ、関係ないのでしょう。


「……キャリーたん、逃げ……っ」

「エルミーさん!」


 燃える。

 エルミーさんの体が燃えるようにして消えていく。


「っ!」


 PK(プレイヤーキル)の被害に遭った方は通常のゲームオーバーペナルティと同じ六時間の間ログインが出来ません。

 つまりエルミーさんは少なくとも朝まではログイン出来ない。

 そして——。


「さあ、次はテメェだ」

「……っ」


 剣、斧、銃、ナイフ。

 時間がないというのなら、いたぶられるような事はないかもしれませんわね。

 けれど、悪役令嬢が主人公(ヒロイン)に助けられるという、この屈辱。

 ……エルミーさん。


「やれるものなら、やってごらんなさい!」

「言われなくともな!」


 大丈夫、わたくしは屈しません。

 でも今は、殺されるのならやはり主人公(ヒロイン)が良かった。

 あなたが良かった。

 そんな風に思ってしまうのだけは……どうか許し——……。


「!」


 キン、と再び金属音。

 ほんの瞬きの間に現れたのは純白の背中。

 淡い緑の髪。


「ハイル様……!」

「っ!」

「おいおい、王子様NPCがカッコつけて現れたぜ」

「ハッ! お姫様を守るってか! 現実が分かってねーな!」

「NPCがプレイヤーに勝てるもんかよ!」


 ……!

 そうですわ……わたくしたちNPCはあくまでもプレイヤーさんたちのサポーターです。

 スキルは覚えられますが、スキルツリーは持っていない。

 だから、スキルツリーを解放しているプレイヤーさんには絶対に敵わない……!

 ハイル様までこの者たちの手にかかる事になったら、わたくしは!


「……現実が分かっていないのはお前らだ」

「はあ? 強がり……」

「んぎぃ!」

「!?」


 右側の一人が突然、倒れましたわ!?

 そしてガラスのように砕け始め、炎のように消えていく……これは!


PK(プレイヤーキル)だと!? いつの間に接近された!」

「『隠遁』スキルか!? ば、かな……『暗殺者』の『気配察知』が機能しねぇぞ!」

「っ……! どこだ! 卑怯だぞ出て来やがれ!」

「卑怯? オレはずっとここにいるけど?」

「!」


 この声は……エイラン様!


「王子」

「頼む。行くぞ、キャリー」

「え! しかし、エイラン様お一人では……!」

「大丈夫だ」


 手を掴まれ、ハイル様は男たちに背を向けます。

 けれど、追いかけようとした男の剣を何かが弾く。

 す、すごいです。

 わたくしにもエイラン様気配は察知出来ません。

 姿が見えず、更に言えば聞こえてきた声からも位置の特定が出来ませんでした。

 余程『隠遁』スキルの熟練度が高くなければ……。

 ここまで熟練度が高いなんて『暗殺者』でもなかなか……、え? まさか……?


「彼はユニークスキル持ち、任せておいて大丈夫だ」

「っ!」


 ————やはり、では……あの方は……!






「ユニーク、スキルか!?」

「……そう、オレは『ストーリーモード』を全部クリアしてるからね」

「は?」

「ストーリーモード?」

「クッソ、どこだよ!」


 くすりと嘲笑われたのは、彼らにも理解出来たのだろう。

 怒りに顔を赤くして、周囲を見渡す。

『隠遁』スキルを見破る『気配察知』ですらその機能が果たされないのであれば、『隠遁』スキルの熟練度が彼らよりも高い事になる。

 しかし、男たちの中には一人『暗殺者』がいた。

 そんな男でさえ『気配察知』で姿を捉える事が出来ない。

 それはつまり、その更に上位スキルか、あるいはそのプレイヤーの『固有スキル』。

 そんなものを持っているプレイヤーは、確実に『称号』や『二つ名』持ち——!

 そんな上位プレイヤーがなぜここに?

 考える事は多いが、その時間はない。


「無駄話は終わりだ。アカウント停止確定のお前たちには二度と会う事もないだろう。現実という地獄に帰るといい」

「っ——!」


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