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秋の桜子の物語集

しあわせなお姫様のお話

作者: 秋の桜子

 私、かつて違う世界で生きていた。別の姿でその時私は、カエルが大嫌い。世の中で一番嫌いな生き物だったのよ。


 そこで生きていた頃は、周りに邪険にされ、虐げられていて、とても不幸な私。着るものも、もちものもみすぼらしく、それを更に私を不幸に陥れていたの。


 そして、何とか人生を終え、こちらに生まれ変わったの、


 以前とは全く違う世界、とても恵まれた境遇でね。


 私はこの国の王女として生まれたの、父上も母上も兄上も姉上も、お祖父様、お婆様、大臣達、仕えてくれる女官達も、私の事を大切に扱って、とても可愛がってくれているわ。


 小さい時は、幸せだったの、ううん今でも幸せよ。何不自由なく働かなくても、わがまま放題。


 裕福な国の王女よ。でも前よりも更にドン底に、とても不幸な私。


 何故ならば、昔の生きていた世界の時の記憶を、思い出してしまったから……


 忘れたままで良かった『前世』の知識、記憶。私は『転生者』呪われた記憶の持ち主……


 ×××××


 私は今、高い塔の最上階にいるの。呪われお姫様、おとぎ話のお姫様なら、当然のセオリーね、王子様が助けに来るまで時を過ごす。


 そして、王子様は私を助けて、呪いは解かれ、めでたし、めでたし、


 でも、私はお迎えは望んでいないの。ここから出たく無いのよ、


 めでたし、めでたし、の展開も求めて無いの、ただ絶対に、この国のモノ達が、出来るだけ訪れない塔から外へと出たく無いのよ。


 だって私は自分で、この塔のお部屋に来たのだから………


 ×××××


「まぁ、なんて可愛いのでしょう」


 母上がそう誉めてくれた 10才のお誕生日。お祝いの衣装をまとった私を、可愛いと抱き締めてくれたわ。


 父上も兄上も、姉上もお祖父様もお婆様も、お祝いに、その時はまだ、お城にあった私のお部屋に来てくれた。


 私は、ありがとうございます。そう言ったの


 すると姉上が、これはお誕生日プレゼントよ、と、私が前から欲しがっていた、お花の首飾りを下さったの。


 嬉しかったわ、とても、とても、母上がそれを受け取り、私に飾ってくれて……


 鏡を見て、自分の姿を写して何度も何度も、首飾りに手をやり、眺めて喜んだわ、嬉しかったわ、


 そう、幸せだったの、とてもとても、あの後何かが私の中で目覚めるまではね。


 ……お誕生日のパーティーには、たくさんのお客様、それにその時婚約者だった、隣国の王子様もお祝いに、来てくださっていたわ。


 綺麗な花束を手にして、私に自ら手渡して下さったの。嬉しかったわ、お互い気持ちが通じていたの。優しく見つめてこられる王子様。


 私達は、キラキラ輝く夜光石のシャンデリアの光の元で、手を取って踊ったわ。王子様の黒い瞳が美しくて、それを眺めるのはとても幸せ。


 私の瞳に映る事は喜びと、幸せ、美しい世界。


 みんな、私達の事を見ていてくれて、甘くて幸せな夜。あのまま時が止まれば良かった……


 昔を振り返っても意味は無いわ、私はそれから間もなく、ここに来たのだけど、それから何も見ない、見えないようにして……五年が過ぎたの


 だってそうしないと、とてもながら正気を保つ事が、出来ないのですもの。皆には悪いと思うけど、耐えられない。


 王族としての何もかも放り出し、誰の為になることも拒否をして、ただし無意味に生きてくだけの私。


 その間に色々あったの、姉上がきちんと国を守る為に、お嫁に行かれたり、母上が亡くなったり……これは私の事を心配し過ぎて、ご病気になられたの。


 ここから出たくないので、看病する事なく、手を取ることも拒んだ私。


 最後まで私の事を心配し、父上に私を託して先日、逝かれた母上。大好きな母上、お別れもする事なく、酷い娘、そして王族の役目も果たそうとしない、情けない私……


 ×××××


「可愛い姫、これを」


 夜の闇に声がする。この声は父上と兄上。


 母上の葬儀が終わってから、涙に暮れていた私の元へ来てくださった。


 部屋の灯りは、ちっぽけな豆粒位の明かりを点す石一つのみなので、私の側に来てくださっても、胸から上は闇の中に溶けている。


「母上から姫に、上手に使いなさいと遺された」


 父上が私にそっと小箱を手渡す時に、兄上がそれに手を添えられたわ。久しぶりに他の手の暖かさに触れたの。


 そして二人は黙って、闇の中に消えて行った。私はドキドキとしながら、その小箱を両手で包み込む。


 ……『時の小箱』母上が、幼い頃に一度見せてくれた、宝玉の一つ。大きな力がそれに蓄えられていて、それは『時が巻き戻る』


 死に行く運命とか、記憶の復活等変える事は出来ないけれど、小箱に使う者の持つ何かを捧げると、運命が変わる事は出来る。


 母上がこの国に来たときに持ってこられた物。どう使う?何を引き換えに?


 使っても、私の転生における記憶の復活は、阻止は出来ない。母上の死も、ならば使っても意味は無い……


「上手く使いなさい」


 母上の声が過る。どう使う?私の持つ何を引き換えに?何がふさわしい?運命を変えられるか……


「あぁ、そうか、いらない物を捧げればいいのね」


 私は、ふと思い付いた。前世に読んだ何かの知識からだわ。要らぬ記憶がようやく私を救う。


 そして、運命を帰るべく『それ』を思い浮かべると、小箱の蓋をあける。


 ちらちら、ちちら、ちろりん、ちろりん、と鈴が合わさる音色が流れ、私を助ける響きが流れ、そして『私』を満たしていく……


 カチリカチリとコマ送りで、私の記憶が巻き戻され、捧げた物に関する記憶が削られ、それに喰われて行く……ふかい、深い闇に堕ちて行く私。


 もう一つの、持ち得ない『私』に時が戻る。



 ×××××



「まあ、なんて可愛いのでしょう」


 今日は私の10才のお誕生日、母上の声が近づき、お祝いの衣装を身につけた私を見て抱き締めてくれたわ。


 父上、兄上、姉上お祖父様お婆様の声も聞こえる。お部屋に入らして、くれてるのが分かる


 姉上が、これをあなたにと手に何かを渡してくれたの。それを両手の指で探る私


「わかった、姉上これは首飾りなの?そうでしょう?姉上が前に触らせてくれたわ」

 

 そうよ、さあつけてあげましょう、と私の声を受けて母上のどこか悲しい声が聞こえて来て、私の手を取る。


「ごめんなさいね、可愛い姫、あなたを不自由な体で産んでしまって……この美しい潤んだ瞳に何も写さないとは」


 何のことと、私は思う。私は生まれつき外の世界を見たことはない『視力』を持たずに生まれたから


 でも、王族として生まれ、優しい皆に囲まれ何不自由なく暮らしている私は、何も見えなくとも幸せ。


 婚約者の隣国の王子様も、女官の手助けがあれば、一通りの事が出来る私を、迎える事は約束してくださっている。


 大国の隣国とは、絆を強くしておかなければならない。それには王女が嫁ぐ事が一番、王族としてのお役目を果たせるわ。


 皆を幸せにするお手伝いが出来るの。とても幸せ。


 幸せな見えぬ私。それはこの先、皆と共にお城で生きていくため、この国を守るため、必要な事だったとは知らない今の私。


 いらない物を捨て去ったかつての私。巻き戻された時……




 ―――そう、このお話はカエル嫌いの人間が転生した異世界が『カエルの国』だった。というお話


もちろん、その国では国民は全て『カエル』の姿をしているが、それを『カエル』とは呼ばない。


カエルの認識は、あくまでも人間の世界の事。


なので、最初から見なければ、己の姿も、何も知らなければ、彼女の不幸はなかった。


だから捧げた、その身が不自由になろうとも……


 生きていくために、皆と共に生きていくために、彼女は捧げた。


 そしてその世界で、己の幸せのを獲るべく、そして課せられた使命を果たすべく、転生者は捧げた、巻き戻しの小箱に……


彼女はその後も、幸せに時を過ごした。己の姿も見たことがない盲目の王女は、前世の記憶を思い出したしても、何も思うことはなかった。だからこその幸せ。


これは、しあわせなお姫様のおはなし。巻き戻しの小箱から聞いた、お話の一つ。


『完』




















































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