学院内チーム戦その2
炎に囲まれる中1人の少女が倒れている。その少女を抱えあげる。酷い傷だ。肩から胸にかけて剣で斬られたような傷だ。
「おい!死ぬな!.....俺を置いていくな!!!」
「...シュン...あ...た...生.....て」
「シュン.....シュン.....シュン起きて!朝だよ!」
目を開けるとそこには俺の顔をのぞき込むエンジュの顔があった。
「大丈夫?うなされてたけど」
どうやらさっきのは夢だったようだ。それにしても、たちが悪い夢だ。あのことの夢だなんて...
「あぁ大丈夫だ。ただの悪夢だ」
そう。あれは悪夢だ。
「そう。それは良いけどご飯作っといたから朝食にしよう。」
「あぁ」
どうやらエンジュは俺が寝ている間に朝食を作っていたようだ。こいつはおそらく貴族の家柄だが料理なんて作れるのだろうか...そんな不安を抱きながらリビングに向かう。そこには、見事に作られた朝食が並んでいた。
「とりあえず見た目は大丈夫そうだな」
エンジュに聞こえない程度の声でポツリと呟く。
「さぁ召し上がれ〜」
「あぁ...いただきます」
自信満々に自分の料理を勧めてくるエンジュに対して俺は未だに不安を隠しきれずに一口頬張る。
「んっ!」
「...どうかな?」
「普通に美味い!」
「普通には余計だよ〜美味いだけでいいのに〜」
不満げにエンジュが言う。
「いや!てっきり俺はお前は料理ができないと思ってたから」
「そりゃシュン程じゃないけどそれなりにできるよ。どんなところに嫁いでもいいようにってお母様が料理を習わせてくれたんだよ」
「なるほどな。確かにこれならどこに嫁いでもいいお嫁さんになりそうだな」
「そうかな...?ありがとう」
「?おう」
少し頬が赤く見えるのは気のせいだろうか?きっとまだ寝ぼけているんだな。
「それより今日は何があるんだ?」
話を変えてエンジュに問いかける。
「今日は魔法の基礎の授業と実戦だよ」
「実戦か...」
「シュンには厳しい授業かもね」
「だが、チーム戦も迫ってる以上少しでも力を付けとかないといけないからいい練習だ」
チーム戦まであと1週間他のやつの実力も確認したいが...
「まぁ、学ぶより慣れろとも言うしね」
陽気に言うエンジュ。
「さぁ食べ終わったら授業に行く準備しよ!」
「あぁ」
そう言って片付け始めたエンジュ。俺も自分の食べた分の皿を片付ける。そして必要最小限のものだけを鞄に入れる。こうして準備を終えた俺は玄関でエンジュを待つ。最初は一人で行こうとしたのだがエンジュが
「どうせなら一緒に行こうよ!向かう場所は一緒なんだし!」
というものだから待っているのだが遅い!とにかく遅い!もう10分くらい待っているのだがなかなか来ない!どうしてこうも女性というのは準備が遅いのだろうか?よく考えれば妹も夕飯の買出しに行くも言ったら「私も行く!ちょっと待って!」と言われたから待っていたら準備に30分かかってタイムセールに間に合わないことがあった。
「お待たせ!ごめんね!待たせちゃって」
やっと準備が終わったエンジュが走ってやってくる。
「女子というのはなぜこうも準備が遅いんだ?」
俺はたまらずそう聞いた。
「そりゃ外に出るんだから身だしなみには気をつけなきゃでしょ?女の子は」
「よく分からんな。どうせ授業を受けたらすぐ帰るだけなのに何故そこまできをつかう必要がある?」
「それはやっぱり...好きな人に少しでもよく見てもらいたいからじゃないかな?.....多分...」
「もっと謎だ。好きな人に外見でいいと思ってもらいたいから身だしなみをきちんとするということだろう?もし好きになってもらえてもそれは外見で好きになったわけでそいつ自身のことを好きという訳では無いだろ?」
「それは...そうなんだけど...」
「だろ?」
言い返せないのかしばらく黙るエンジュ
「...もう!この話は終わり早く行こう!」
「はやく行こうも何もお前が遅かったから待っていたんだか...」
「何か文句でも?」
「いえ...何も...」
何故か怒り出したエンジュ。やっぱり女性というのは分からない。
教室につくとそこにはキョウヤの姿があった。
「おはよう!シュン、エンジュ」
「あぁ、おはよう」
「おはよう!キョウヤ」
俺とエンジュはそれぞれ挨拶を返す。
「そうだ!それと紹介するね!俺のパートナーのエルドレイク」
金髪の髪は少し長め容姿は整っていていわゆるイケメンというやつだ。そして何より...
「おい!キョウヤ!こいつらがシュンとエンジュか?」
気が強い。見た感じこんな感じだろう。
「あぁそうだよ」
「お前が言ってたようにそっちの女は強いな。それに比べてそっちの男はなんだ!?」
「ちょっ!エルドレイクいきなりそれは失礼だよ」
「体は細い筋肉も全然ついてない魔力もほとんど感じないぞ!」
まぁランクFですから...
「雑魚じゃないか!?なんでこんなやつとそこの女がパートナーなんだ!これじゃ魔法戦争の代表なんてどうやっても...」
「ちょっと!それは言い...」
「そこまで!言い過ぎだよエルドレイク!」
エルドレイクとエンジュの言葉を遮り真面目な顔をして言うキョウヤ。
「ごめんね!シュンちょっとエルドレイクが言いすぎて」
「いや、大丈夫だ。事実だから気にしてない」
「俺は認めないぞ!お前がこの学院にいることもそいつのパートナーということも!」
「認めてもらわなくてもいいさ。俺は死んでも魔法戦争の代表になるだけだ」
「予選で当たることになったら俺はお前を潰す」
俺をまっすぐ睨むエルドレイク。なぜか、俺はこいつから嫌われているらしい。
「そ、そんなことよりも早くしないと最初の授業始まるよ!」
「何の授業だっけ?」
俺はエンジュに尋ねる。
「確か基本魔法だったはずだよ」
「そうか。ありがとう」
「うん!」
俺とエンジュはキョウヤたちと離れた席につく。俺はあいつに嫌われてるからできるだけ関わりたくないな...
「ブッ!ワッハハハハ」
吹き出して笑うエンジュ。
「そんなに面白かったか?」
「だって、まさかシュンがあんな顔するとは思わなかったんだもん。思い出したら...ブッ!ハッハハハハ」
さっきの基本魔法の授業が終わってからずっとこんな感じだ...
何故こんなにエンジュが笑っているかというと...
「では、初期魔法のペアリンクで下級の使い魔を呼び出してみてください」
「異界より来たりし魔物よ我が前に馳せ参じろ―ペアリンク―」
エンジュが詠唱すると炎を纏った犬が出てきた。
「出来ました」
「っ!それは中級使い魔のガルムじゃないですか!」
驚く先生。どうやら凄いことらしい。俺には犬にしか見えないが...
「中級使い魔だって!?」
「誰だよ呼び出したやつ?」
「模擬戦で強かった女の子だ!」
「可愛いし強いって最強かよ」
生徒の目線もエンジュに集まる。
「どうやって呼び出したのですか!?」
先生の興奮はまだ治まってないようだ。
「普通にいつも通り詠唱して呼び出しただけですけど?」
対してエンジュは自分のやった事に自覚がないようだ。
「と、とりあえずエンジュさんはペアリンクはできるということですね」
やっと落ち着いたようで確認を始める先生。
見たところエルドレイクとキョウヤもクリアしているようだ。
「さて、俺も呼び出すか。異界より来たりし魔物よ我が前に馳せ参じろ―ペアリンク―」
ボンッ!そんな音と共に俺の前に現れたのは俺の顔くらいの大きさの赤い蜘蛛だった...
「ギャァァァァ!蜘蛛っ!こっちに来るな!」
俺は大声で叫ぶ!俺は昔から虫が嫌いでその中でも足が6本より多い虫は特に苦手なのだ!
「...大丈夫?シュン...」
笑いをこらえている顔で聞くエンジュ。
「アハハ、あいつギャァァァァだってよ」
「だっぜぇ、あれでも男かよ」
「あいつランクFの雑魚じゃねぇか?」
「あぁ昨日の掲示板にあった唯一のランクFか?」
俺は他の生徒からバカにされる。
「一応呼び出すことはできるということですね」
先生すら笑いを堪えている。そんな先生のことを睨んでいると...蜘蛛が俺の方に寄ってきた。使い魔というのは基本的に主人に仕える魔物のため当たり前なのだが俺はそんなことを考える余裕すらないため...
「こっちに来んな!やめろそれ以上近づくなぁぁぁ」
「ブッ!」
遂に堪えきれなくなったエンジュが破顔。
「ワハハハハ...蜘蛛が苦手とか...ハハハハ意外すぎ昨日からずっとクールな感じだったのに...ダサすぎ...ハハハハ」
「あの時のシュンの顔最高だったなぁ〜」
「やめろ!忘れろ!」
「えぇ〜絶対無理だよあんなの」
最悪だー!醜態を晒してしまった。目立ちたくなかったのにこれで一生からかわれるに違いない!
「そんなことより!次は実戦だよな!」
「そうだよ〜」
ニコニコしながら答えるエンジュ。無性に腹が立つ!
「実戦って誰とやるんだ?」
「さぁ?先生が組み合わせは決めるんじゃない?」
そんなことを言いながら実戦用の運動場に向かうとさっきの先生とは違う先生が待っていた。
「実践の組み合わせだが俺が既に決めてきている」
そう言って読み上げていく先生。
「シャルロットエンジュ相手はラディア・ロイゼベルク」
エンジュの名前が呼ばれる。相手はラディア・ロイゼベルク。ラディア家と言えばそこそこ有名な魔術師の家系だな。
「御剣シュン相手はティーン・エルドレイク」
....今日はつくづくついてない日のようだ...