学院内チーム戦その1
そう呟くだけで精一杯だった。
「ん?どうした?名前見つけたのか?」
隣のキョウヤが話しかけてくる。
「.......」
返事をする余裕もないので無言で名前の書いてある場所を指さす。
「ん?シャルワーク・エンジュ?あぁさっきの子かやっぱりランクはAか。パートナーは...御剣シュン Fランク...マジか...」
「マジだよ...」
これは流石に俺も動揺している。おそらくバランスをとるために学院最強のエンジュと最弱の俺を組ませたんだろう。
「...なんだ...良かったな...」
「よくねぇーよ!」
初めて俺が出す大声にビックリするキョウヤ。
「どうすんだよ。寮も一緒だぞ」
それが一番の問題だ。同い年の男女が一つ屋根の下ってどうなんだ.....
「お〜い!シュ〜ン!」
この声は.......案の定エンジュだ。
「組み合わせみた?私達パートナーだね!てか、シュンってFランクなの!?Fってほとんど魔力がないじゃん!」
一気に色々な事を言ってくる。正直面倒だ。
「組み合わせは見た。Fランクだ。だから、俺にあまり話しかけるな」
「折角パートナーになったんだから仲良くしようよ!」
「いいのか?お前は?代表になりたくないのか?俺と一緒だとその道から遠ざかるぞ。先生に抗議しなくていいのか?」
「確かに代表にはなりたいよ。でも、その道から遠ざかるとは思ってないし抗議もしなくていいと思ってる」
「なぜ?」
「それはシュンが一番わかってるんじゃないかな?」
笑顔で俺にそう言ってくる。もしかしてこいつ...俺のひみつに気づいてる...?
「さぁな、少なくとも俺はこの学院では最弱だぜ。二人組の模擬戦も足を引っ張るだけだぞ」
「その時は私が二人とも倒せばいいだけだよ〜」
実際にこいつにはそれだけの力はあるだろう。
「流石Aランク様は言うことが違うな...」
「そんなんじゃないよ〜」
「ところで、エンジュさんはいいの?シュンと二人部屋で」
完全に存在を忘れていたキョウヤがエンジュに聞いた。
「あ、うん。だってシュン私のことどうせ興味無いから何もされる心配ないでしょ。他の変な男子と同じ部屋になるよりもマシかなって。それとエンジュでいいよ」
「うん。わかったよエンジュ。まぁ確かにこいつ他人に興味無いって感じだからね」
本人が目の前にいるのに好き勝手に言う二人。まぁ、あらかた事実だからなにも言わない。
「でも、エンジュ気を付けてね。こいつ以外にむっつりかも知れないから」
「えぇ〜それは怖〜い」
ふざけ始めた二人を無視して俺は寮の方に歩き出す。
「待ってよ。ごめんってシュン」
「冗談だよ。一緒の寮なんだから一緒に行こうよ〜」
二人とも急いでついてくる。
寮につくとキョウヤと別れ俺たちの部屋に向かう。
「へぇ〜ここが寮か〜」
感心したようにエンジュが言う。
「ねぇねぇ!シュンは二段ベットの上と下どっちがいい?」
「どっちでもいい」
「じゃあ、私が上ね!」
はしゃぐエンジュ。俺は荷物を整理しつつ寮の中を見る。見た感じ風呂とトイレ、台所まで着いている。ほぼアパートだなと思いながら見ているとエンジュは二段ベットの上に乗り楽しそうにはしゃぐ。
「ねぇ、お風呂先に入っていい?」
「あぁ別にかまわないが...」
「やったー!」
二段ベットの上からおり素早く風呂の準備をするエンジュ。
「シュン覗いたらダメだよ!」
「興味ない」
「それはなんか、悔しいな...」
そう言って風呂場に行くエンジュ。俺は台所にある冷蔵庫の中を確認した。肉、魚、野菜、食材はひと通り揃っているようだ。
「さて...何を作るかな...」
自慢ではないが料理の腕にはそれなりの自信がある。と言うのも俺の家の両親はどちらもそこそこ名の知れた魔術師だったため。二人は帰りがよく遅くなった。そのため、俺が家事をこなしていた。俺には一つ下の妹が一人いる。妹に美味しいご飯食べさせるために色々練習していたのだ。
「おい!エンジュ!」
「どうしたの?」
風呂場からエンジュの声が聞こえる。
「何か食いたいものはあるか?」
「え?シュンが作ってくれるの?」
「あぁ」
「じゃあ、オムライス!」
「わかった」
そう言って料理の準備をする。
「ねぇ...シュン!」
風呂場からエンジュの声がする。
「どうした?」
料理の準備をしながら話を聞く。
「ちょっとお願いがあるんだけど.....」
「?苦手なものでもあるのか?そうだったら抜く事も出来るが」
「違うの...パ...ツ...」
「は?」
なんだ?あまりにも小声で聞こえない。
「悪いが声が小さくて聞こえない。もっと大きな声で言ってくれ」
「パ...ン...ツ...」
「なんだ?」
全く聞き取れないなんだ?
「パンツ!!!パンツを忘れたの!だから私のバックからとって持ってきて!!!」
「.....マジかよ...」
「こんなこと大声で言わせないでよ!」
「それは忘れたお前が悪いだろ!」
「そんなことより早く持ってきて!」
最悪だ。こんなことになるとは!
「バックにあるはずだから脱衣所に置いといて!」
「はぁ」
仕方がないのでバックの中を探す。
「あった...これか...」
バックから白色の下着をとった。
「ん?」
バックの中に写真が入っている。幼い頃のエンジュと思われる少女と横には同い年くらいの男の子が写っている。
「なんだ?これ...」
「ねぇ!まだ?」
「あぁちょっと待て。今もっていくから」
そう言って写真をなおして下着を脱衣所に持っていく。
「ほら!ここに置いとくからな」
「...ありがとう...」
流石に恥ずかしいようで小さな声で呟くエンジュ。俺は用をすませたので料理の準備に戻る。しばらくするとエンジュがお風呂から出てきた。のぼせたのだろうか顔が少し赤い。
「わぁ〜凄いねシュン本当に料理作れるんだ!」
風呂から出てきたエンジュは机の上に並べられた料理をみて驚く。
「このくらいは出来て当然だ」
「へぇ〜当然ね...」
急に黙り込むエンジュ。
「どうした?食べないのか?」
「あ、うん。何でもないよ。それにしても本当に美味しそう!」
「「いただきます」」
「ん!美味しい!!!これすごく美味しい!」
そう言いながら俺の作ったオムライスを食べるエンジュ。
「口にあって何よりだ」
「シュン料理上手なんだね〜」
「俺の家は両親の帰りが遅かったし妹がいたからな。俺が家事全般をしてたからな」
「へぇ〜妹がいるんだ〜何歳?」
「俺の一つ下だから14だな」
「え!じゃあ来年からは妹ちゃんもこの学院に通うの?」
「あぁ恐らくな」
「それにしても本当に凄いねシュンは。シュンの将来のお嫁さんはいいね」
「は?よくないだろ別に」
こいつは何を言い出したんだ?
「だって!家事できる夫何てなかなかいないでしょ!その分の妻の負担も減るし」
口にオムライスを含んだまま喋るエンジュ。
「おい!食べ物を食べながら喋るな!行儀が悪い」
「シュンってお母さんみたい」
そんなことを喋りながら食事は終わった。
「じゃ俺は風呂入ってくるから」
「あ、うん」
シャワーを浴びながら俺は考える。これからのチームでの模擬戦や代表選抜戦までの事を...
「さて、どうなるかな...」
風呂からあがるとエンジュは自分のベットの方で寝転がっている。俺は食器を片付ける。
「ねぇシュン」
「なんだ?」
「シュンは代表になりたい?」
「あぁ当たり前だ」
「例え学院最弱だとしても?」
「最弱じゃ代表になれないとでも?」
「そこまでは言ってないけど可能性は限りなく0に近いはずだよ」
「そんことどうでもいい!可能性が1%でもあるなら俺は諦める気はない!」
「そう...それがシュンの気持ちなんだね...じゃあ私がシュンの分まで頑張らないとねシュンは弱いし」
「あぁよろしく頼むよ」
食器を片付け終わりベットの方に向かう。軽くシャワーを浴びて風呂をあがる。ベットに仰向けになりながら今日あったことを考える。今日の模擬戦、パートナーの組み合わせ。そしてこれからあるチームでの模擬戦。チームでの模擬戦はあと2週間後だ。俺たちはそこで勝てるのか...?1対1なら俺に勝ち目はないが学院最強クラスのこいつとなら...
「いや...それは流石に無理か...」
そう言って脳内で考えていたことを否定する。流石に魔法戦争代表はそこまで甘くはないだろう。エンジュは現在学院最強だと思うが今回の模擬戦見ていただけでも10人以上はまだ力を隠していた。まぁ、俺もそのうちの一人だけど...