表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気まぐれ金魚の玉手箱  作者: ゆずりは わかば
星の点を結ぶ線
18/39

着色 中編

塔の中は完全に純白だった。壁も床も天井も、照明さえも白かった。白くないものは俺の肌と黒い影だけ。

扉の前にいても仕方がないのでとりあえず塔を登る。螺旋を描く階段をひたすら登った。階段は思ったよりも短く、塔の中も思っていたよりずっと広かった。全てが白い他は普通の家と変わらない居住可能な場所があるようだ。

居住区画から伸びる長い廊下を進むと突き当たりに少し豪奢な彫刻が施してある扉が見えた。

扉をあけて無遠慮に中へ入るとそこには依頼対象の少女がいた。

華奢な体つきに白く肩の長さで切りそろえられた髪、赤い瞳に長い睫毛。何よりも幼さにそぐわない圧倒的な神気を身に纏っていた。


「ようこそ。貴方様がわたくしの教育係になられます方なのね。どうぞよろしくお願いいたしますわ」


少女は三つ指をついてお辞儀をした。白い髪がさらりと流れる。

世界のいろんなところで信仰されている神に近いモノを見てきたからこそわかる。この子は信仰を受けている神に近い存在だ。だが神というにはまだ……


「わたくしは世界中の人々を救うため、ヒトという種を救済するための現人神と成るべく産み落とされたモノ。人類が神へ到達するための通過点、実験体もしくは供物と言うのが正しいかもしれません」


「つ…つまりここの奴らは、人類は神さえも自分たちの手で創ろうとしていると言うのか…?」


「そう。一切の穢れも無い無垢なる稚児に人々の信仰による神通力を与える。そして端末や調査では得ることのできない人々の生々しい本性や穢れを知ることで神としての力を発現させる。これが今の人類が考えた神の作り方」


「いろいろ教えて欲しいってのはそう言うことか。俺は人類の穢れ代表ってわけだ」


「ええ。貴方様から世界に蔓延る穢れを得ることでわたくしは人類が最初に生み出した人工の現人神へと昇華される…はずだった」


いつのまにか少女は俺の脇に立っている。


「教会が集めた神通力は彼らの想定をはるかに上回っていたようで。貴方様から穢れを受ける前にすでにわたくしは己を汚してしまった」


少女の小さな手が俺の袖を掴む。


「視えてしまうの。過去や未来、現在の世界の様子が。人間はこんなにも愚かで穢れていると貴方様が来る前からわたくしは知っていた。

他者から初めて穢れを受けたわたくしの揺れ動く感情が神通力を高め、神の座へと至る。その予定だったのにわたくしは他者に汚される前に自ら汚れてしまった」


少女の目に涙は無く、あるのは暗い絶望だけ。


「神の座へと至るためだけに作り出されたわたくしがその役目を果たせなかったらどうなるかはわかっています。信仰を別の存在に移し替えられて処分されるでしょう。わたくし未来を見ましたの。わたくしが処分された後、ヒトは何度も神の座へ挑んで、挑んで挑んで挑んで挑んで挑んで挑んで。結局失敗してそのまま滅びの道へ向かう。何度確認してもそれは変わらない。生き物としての領域から抜け出そうとした人類は神の怒りに触れて滅ぼされる。これが人類の運命」


かける言葉がなかった。この少女は産まれたときからその小さな肩に、人類という大きすぎるものをのせられて1人で生きてきた。その重圧に耐え、それが自分の生まれた意味だと。存在意義だと信じて頑張った結果失敗しかないことをわからされる。やらないとわからないなどという話ではない。やる前からわからされてしまったのだ。

思わず抱きしめて頭を撫でてしまった。すると少女は堰を切ったように泣き出した。散々泣いた後彼女はぽつりと言った。


「わたくしを助けて」


産まれてからの全てを人類のために捧げてきた彼女が生まれて初めて自分のために放った言葉だった。

神に近しい存在だった彼女はもはやただの人間になってしまった。己のために他者を傷つけて、ごくたまに他人のために何かをするような愚かな人間に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ