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気まぐれ金魚の玉手箱  作者: ゆずりは わかば
星の点を結ぶ線
10/39

ラクダ西瓜

「なあ、ラクダのコブに何が入ってるか知ってるか?」


「ハァ?」


あまりに唐突な質問だった

飯山は獣医になったと聞いていたが、まさかこんな常識を知らないはずもないだろう


「ラクダのコブって、確か脂肪かなんかが詰まってるんだよな、水分を蓄えるとかなんとかだったと思う」


飯山は俺の答えに対して指を振った


「まぁーだそんな古い説を信じてるのかよ。最近隠されていた真実が明るみに出たろう」


そう言って有名な科学雑誌を俺に見せてくる。見ろよここ、と言って飯山が指した場所には『ラクダのコブの真実を若き獣医が発見!』の文字がある


「まさか、この若き獣医って…」


「そう、俺のことだ。ついに俺は学会が隠していた真実を世間に伝えることができたんだ」


「で?そのたいそうな真実ってなんなんだ?」


「着いてくればわかる。そのために今日お前を呼んだんだからな」


飯山について大学の片隅にある厩舎に行くと、馬房の一つに馬でない別の生き物が繋がれていた


「まさかこれ、ラクダ…なのか?」


「そうだ。特別に馬房を一つ借りて繋がせてもらってる」


そこにいたのは長い睫毛と、潤んだ黒い瞳を持つ大人しそうなフタコブラクダだった


「今日は実際にコブの中を見てもらおうと思ってな。でもその前にラクダがいかにしてコブを持つようになったか教えてやろう」


これはラクダがまだラクダに進化する前の話……

かつて砂漠を横断する商人達は馬に乗って移動していた。そのうち砂漠を行き来する商人たちは、価格競争の末に水分と食料を必要最低限にすることで多くの荷物を運ぶことを始めた。その必要最低限の水と食料が


「西瓜だ。西瓜は多くの水分を含み、頑張れば皮まで食べられる。それに安い」


「西瓜?砂漠の近くで西瓜なんてできるのか?」


「その辺はまだ研究中だ」


西瓜を鞍の前後に積んで移動するうちに、背中に西瓜くらいの大きさの窪みがある個体の馬が現れ始めた。それが何世代も続くうちに窪みが盛り上がり、西瓜を包み込むような形になり遂には餌として西瓜の種を好んで食べ、背中で西瓜を育てる個体まで現れ始めた


「これがラクダの祖先であると言われている」


「体内で植物を育てる生き物なんて始めて聞いたぞ」


「だからこそ大発見なんだ」


背中の皮膚の下で育てられた西瓜がコブのように見えることから、背中で1つ西瓜を育てる個体をヒトコブラクダ、2つ育てる個体をフタコブラクダと呼ぶようになった


「ちなみにラクダって名前の由来は?」


「食料をたくさん運ばなくて楽だってことらしい」


ラクダが摂取する栄養の三分の一近くを吸収して育つ体内の西瓜は、非常に糖分と栄養価が高く、商人や旅人を助けたという。しかしラクダに変わる移動手段の登場や砂漠をわざわざ横断する必要が無くなったことによりコブの西瓜の存在は忘れられていった…

また、美味な西瓜が狙われることでラクダが乱獲されることを防ぐためにこの事実は闇に葬られた


「でも、本当のことを言えないなんてことはおかしいと思った俺は、学会上層部との熾烈な争いの果てにこの事実を世間に公表したんだ」


あまりに突拍子も無い話だったが、自信満々に話す飯山のことを見ていると真実であると確信することができた


「じゃあこのラクダの背中にも西瓜が入っているのか?」


「勿論だ。今日はこの事実が公表されたことの記念も兼ねて、こいつの西瓜でお祝いしようと思ってな」


そう言って奴はラクダのコブに鉈を振るった。不思議とラクダは痛がる様子もなく、コブが切り落とされた。コブの皮を剥がすと中から立派な縞模様の西瓜が現れた。


「すごいぞ…西瓜は本当にコブの中に入っていたんだな……自分の目で見て初めて本当だとわかったよ」


「それより早く食ってみようぜ。乱獲が恐れられるレベルでうまいって話だ。いったいどれだけ美味いんだろうな」



その西瓜は生暖かいうえに獣臭く、とても食べられたものではなかった

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