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7話 この世界と追憶と訪問者



 食事が終わるとクラスは解散し、オーランドからもらった鍵を使って、与えられた自室でゆっくりと体を休めていた。

 風呂に入ってさっぱりとした後、白いベッドカバーの上に寝そべっている。

 熱い風呂に入ったせいか、体が火照っているので、窓を開けることにした。

 カーテンと窓を開くと、月光と共に夜風が入ってきた。夜風が肌を通して体の熱を奪って行くのに心地よさを覚え、窓の近くにイスをとテーブルを移動し座る。

 

 わしの自室は城の上から3番目の辺りで、窓から下を見れば城の周辺を一望でき、上から見れば、大きな空を視界に入れることができる。

 以前、地球で同じような高さのホテルに止まったことが出来るのだが、それとはまた全く異なる光景を味わうことができた。

 

 夜の町には明かりが灯り多くの人々でにぎわっていた。あまり良くは見えないがとても楽しそうだ。

 夜空には地球にあった月の2倍は有りそうな大きな月が金色の色を放っていた。

 

 夜風に混じって遠くの森の匂いがする。天然の土の素朴で芳しい匂い。森林の瑞々しい葉の匂い。夜霧の湿っぽさ。

 それらは全て、決して地球の都会の近くでは嗅ぐことのできない、真の夜の風の匂い。


 それらに酔いしれ、ぐいと水差しから水をコップに注いで飲む。

 都会で発せられる無粋な音と光はない。在るのは素晴らしき自然の与えてくれる光と音のみ。

 静かな月の光に照らされて、静かな夜をひとりで味わうのだ。

 別に寂しいとも思わないし、感じもしない。


 何と良い一時だろうか。

 

 どうかロマンティストじみた考えだと思わないで欲しい。これがわしにとっての至福の一時の一つなのだから。



 どのくらいたったのだろうか、それでもまだこの夜を満喫したいという欲望はまだあるが、そろそろ床に着かなければならない。


 テーブルとイスを元の位置に戻し、全開にしていた窓を少しだけ閉めた。 

 こちらの世界も夏のようなので、寝苦しくならないようにしたのだ。

 ごろりとベッドに横になり、薄い布団を腹にかけた。頭を枕に預け、ゆったりとくつろぎ今日の出来事について思い返した。


 今日は普段とは違う新しいことがたくさんあった。どれも新鮮で興味のわくもので満たされたものばかりだった。

 明日から、いつも通りとは異なる朝が来る。

 

 その後も、色々と思い返していたが睡魔に抗えず寝てしまった。



 重い。体の、胸の部分に何かが乗っかっている。知らない者何者かが自室に侵入しているのである。 

 はたと自分の仕出かしたことに怒りを覚える。 

 窓を開けておいてしまったことにだ。

 警戒を怠ってしまった。日本のようにここがあまり安全ではないのは十分承知していたはずであった。

 

 魔鉱石で受け取った新しい記憶によると未だに人さらいや強盗がいるらしい。

 王国{ここ}の警備は厳しいはず。 

 しかし例外とは常に存在し得る。警備にすら引っ掛からない者が存在していても不思議ではない。

 しかし、それにしても不愉快だ。こんな素敵な夜を終えて、素晴らしい朝を向かえようと思ったのに。それに水を差そうだなんて。本当に良い度胸をしているな。ゴッドハンドで首をもいでやろうか?

 あれこれ考えていると、侵入者が話しかけてきた。

「おーい。起きてる?」

 十分聞こえております。はい。良いだろう死刑執行だ、コラ。


 寝たふりをしてそのうち何かをしでかされるよりましだ。何よりも水を差されたことへの怒りが鎮められそうにない。今起きてしまおう、そして処刑だ。

ゆっくりと目を開けると目の前に、フサフサとした毛の塊があった。


 不意を疲れて全く頭が働かない、何だろうか、毛虫?綿ごみ?それとも何だ?

 そのもふもふ、ふわふわした物体が左右にゆらゆら揺れながら首をくすぐってきた。

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃは、ふぇぇぇふぇぇぇ、へっくじゃいいぃ」

 いかんいかん、くしゃみまで出てしまった。出る瞬間横を向いたのでもふもふにはかかってないはず。

 すると、もふもふがしゃべった。

「他人の尻尾で笑ってくしゃみするなんて、·······変な人」


 話しかけてきた侵入者と同じ声色だ、おそらくこのもふもふが侵入者か。  

 ········んじゃ殺りますか。


 ゴッドハンドを発動し、もふもふに掴みかかる。しかし、もふもふには掴みかかるより前に逃げられてしまった。 

 もふもふはわしの胸から床へ飛び降りるとまたしゃべった。

「ちょっ、危ないわね。少し落ち着きなさいよ」

 侵入者は慌てた声で非難してくる。声色からして少女だろうか。

 暗がりの中でよく目を凝らして侵入者を認識する。

 よくは見えないが、人らしい形に犬のような耳と尻尾の生えた人物と確認できた。

 それだけでもこいつが人間ではないことは明らかだ。

 獣人族。人間に動物の耳や尻尾が生えたような種族で人間よりも、丈夫な肉体能力と長い寿命を持つ。

 しかし、なぜここにいるんだろうか。不思議だ。

 ともかく先に、光をこの部屋に入れよう。


 カーテンを開け、月の光が部屋全体を包み込み照らした。

 それと同時に、獣人族の姿がはっきりわかった。

 銀髪の長髪に赤い目、髪と同じ色の毛をした狼のような耳と尻尾を持つ美しい少女がいた。全体的に白色をした女子の制服のような出で立ちをしていおり。

 

「誰だ、君は?」

 少し警戒をして少女に問いかける。

 すると彼女はすんなりと答える。

「私は、パール=レトワール。魔導学園レメゲトンの学生よ」

 ふふんと鼻を鳴らして、誇らしげに胸を張るパール。

 魔導学園レメゲトンか、この国の最高の魔術師教養機関で、特に魔力の高い者が高額の学費を払って最高の魔術を学ぶところだ。

「しかしなぜレメゲトンの学生がここに?国王閣下の城に侵入すれば、罰せられるかもしれないんじゃないか?」

 びくりと体を震わせ硬直するパール。動揺しているな。

「ま·····まぁ、私はお師匠様に会いに来ただけだし、見つからなければ平気よ」

 

 あ・・・開き直った。


 まぁ、悪人では無さそうだ。ここに侵入した時点で並みの侵入者以上の隠密能力に長けているのは間違い無さそうだが。


「そう言えば、あなたの名前を聞いていなかったわね」

「ああ、若林建二だ。よろしく」

 よろしくとパールが右手を差し出してくるので、こちらも右腕をだし握手をする。

「ワカバヤシねぇ。聞いたこともない名前だわ」

「ああ、ごめん。名前が建二で若林が名字だ。いつものクセでね」

 この世界では名前が先で、名字が後になる。地球でも例があり自分が知るなかでは、西洋辺りでこのような言い方をする。

 そして今、一番気になっていることを質問する。

「それで、何故わしの胸の上にいたんだ?」

 少し顔を赤らめて、恥ずかしがりだした。

「いやぁ、その・・・・ちょうど空いている窓があったから、そこから飛び込んだら転んじゃって」


 ああ、いわゆるドジすか


「その着地地点が、わしの胸の上だったってことか」 

「ええ、ごめんね」

 すまなさそうに謝るパール。もふもふの尻尾と耳が垂れ下がりしょんぼりとしていた。何故かこう見ると狼ではなく、犬のようにも見えるな。

「いいや大丈夫さ、気にするな」

 許してもらえたと知るや否や、先ほどしょんぼりとしていた耳と尻尾がパタパタと動き出した。

「どうもありがとう。私からも質問させてくれないかしら?」

 そう言うと、こちらを見て、言った。

「君は髪が黒い人間族なのね。ここら辺に住む人とは違うようなのだけど、何処の出身なの?」

 来たか、この質問が。ここ、国家ウロボロスにて接触、もしくはわしが見た人間は皆、西洋系の金色や茶色の髪の毛を持つ人たちがほとんどであった。

 故に目立つ、黒髪。そして不思議がられるのは間違いがない。

 しかし、その過程でもろに日本から来たなどと言うと怪しく見られたり、余計な情報をばらまく事になってしまう。

「ここから遠く遠く離れた場所から来たんだ。国王閣下にお呼ばれしてね」

「へー、遠くから来たのね」

 なるほどなるほどとうなずき、考え始める。自分なりに疑われることのない言葉を選んだはずだが。大丈夫だろうか。一応もう少し言わせてもらおうか。

「詮索はあまりしないでくれるとありがたいんだが」

 それを聞くと納得してもらえたのか疑うような素振りは見せなかった。

 

「そう言えば、お師匠様の所に行かなくても良いのか?」

 この一言を聞くと、パールは耳と尻尾の毛を逆立てて慌て始めた。

「そ、そうね。そろそろ行かなくちゃ不味いわね」

 扉の方へ行こうとした時、あることを思い出した。

「ちょっと待ってくれ。これを持っていきな」

 オーランドから貰ったバッジをパールに渡す。

「何?このバッジは」

「これは、国王様の側近に貰った物だよ。パールに貸そう。このバッジを着けていれば、許可されて城にいると言うことになるそうだ」

 驚愕の顔をしてパールが言った。

「へぇー、結構特別な待遇を受けているのね。ありがとう」

 そう言うと、パタパタ走りと扉を開けかけて、こちらを振り向く。

「どうした?行かないのか?」

 突然、ずんずんとこちらに向かって歩いて来ると、すんすんと髪の匂いを嗅いできた。 

 驚いているとパールが言った。

「またここから入らせてもらうから、匂いを覚えておこうと思ったの」

 つまりは侵入場所の確保か。

 そう思っていると彼女が言った。

「まぁ、もっと建二と話したいからって言うのも本音なんだけどね」

「そんなこと言われたのは、久しぶりだな」

 そう言われたのは、いつも通りのメンバーの友達くらいだった。 

 自分自身でもこんなに素直に話してくれる女子とは、会ったことがないと断言できる。

 その原因が自分のひねくれた性格のせいだと自覚は有る。

「へぇー、あなたってもしかして、そんなに友達いないタイプ?」

「いや、そこそこいると思うが」

 パールはニヤニヤとしてこちらを見てくる。どうしたんだろうか。

 

「また明日会おう、パール」

「またね明日ね、建二」

 そう言うとタタタと走ってドアの向こうに消えていった。


 奇怪な遭遇だったが、異世界で出来た友達がお師匠様と言う人物の元へ無事に着くことを祈りながら布団へ潜り、再び眠りに落ちる。


 しばらくして、冷たい風が頬にかかり、その冷たさに自然と目が覚める。窓が少し開いており、パールがそこから帰ったことを教えてくれた。

 窓を閉めようとベッドから起きようとすると、枕元に何かが置いて有るのに気が付く。

 月灯りに照らして見ると、パールに貸したバッジと見慣れない何かだった。

 それは、銀色の狼をあしらったレリーフに真珠が嵌め込まれている物だった。

 それを手にとって持ってみると、その下には一枚の折り畳まれた紙があった。

 のそりと手に取り紙を開く。紙には文字が書かれており、手紙だったことがわかった。

 それには、こう書かれていた。

 

 建二へ 

 今夜はどうもありがとう、建二のバッジのお陰で無事にお師匠様のところへ着く事が出来たわ。あなたって優しいのね。バッジは枕元に置いて置くわ。

 それとお返しにプレゼントをあげる。これは大事にとって置いてね。

 今度、私の学園に招待してあげるわ。それではよい夢を。

 あなたの友達 パール=レトワール

 

 短時間でかなり友好的な関係になったので少し違和感を感じる。....いいや、わしが他人をあまり信じない性格だからこう思うのか?

 まぁ、好かれるのは嫌いではないが。

 

 眠ろう、まだ太陽も出ていないのだから。



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