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13話 東獄廊のダンジョン


「きゃぁぁぁ、助けて」

「うわぁぁ、こっちくんな」


 後方支援班のメンバーは混乱し、パニックに陥っていた。なぜなら、唐突に天井から敵が降ってきたのだ。

 敵は全て全線に出ている者達が始末してくれると安心していたため、自分達は襲われる、攻撃される心配は無いと考えていた。


 それによって抑えられていた緊張が敵の出現により一気に爆発したのだ。


 ほとんど戦力として力の無いメンバーで構成された後方支援班を守ろうと、控えていた帝国近衛部隊が何とか応戦しているが、多する敵を前にに少しずつ体力をすり減らしていった。

 既に多数の帝国近衛隊のメンバーが戦闘に参加できなくなり、敵の攻撃を避けつつ反撃を見計らう者、盾で攻撃を防ぎ続ける者。


 本来ならその体力を後方支援班が回復させるはずだったが、パニックに陥っているため、全くそれが機能していない。

 この状態が続けば、間違いなく皆殺しにされるだろう。


「ちっきしょう、前線組は何をしているんだ。こっちにまでは敵を寄せ付けないはずなんだろ、仕事しろよ」 

 

「おい、後ろに気をつけろっ、お前の後ろにいるぞ」


 罵声を上げるクラスメイトの一人にアラクノイドの一匹が飛びかかったその瞬間、アラクノイドの眉間に二本のメスが突き刺さった。

 

 動きを止め、倒れるアラクノイド、仕留めたのは全く戦闘に関係の無いはずの伊野であった。

 肩で大きく呼吸をする伊野、彼の両腕の前腕には銀色の腕輪のような物がはめられていた。

 

 アラクノイドに刺さっていたメスが飛び、彼のそれに収まり一体化する。

 それらこそが彼の専用武器であった。


 ヒーリングスカルペス(癒しのメス)。

 見た目は銀色の金属で作られた腕と胸、太ももと胴体のみに着ける鎧のような物だが来ている人間、それも伊野の意思のみに反応して彼の想像できる医術道具に形を変えることができる。

 そして、何よりも大きな特徴が通常では少量しか精製出来ない治療薬、ポーションを自動的に精製し、溜め込むことが可能なのだ。

 

 彼の父親は医学界でも名のある人物で、伊野は小さい頃から医学や外科についてそれなりに教育を受けていおり。

 そのため、伊野はこちらの世界に来てからは、魔法による治療以外にも魔力に依存しない治療を志すようになっていた。

 魔力には限りがあるため、それが枯渇しても誰かを助けられるようにと。


 なぜそこまで目指すのかと言うと、それは彼にとって、とても苦い過去の経験が彼をそこまで至らせたのである。




 伊野陽の母は産まれながらにして病弱な人で、重病を患っていた、名前は伊野千尋と言う。

 ろくに学校にも行けず、遊ぶこともできず、一日のほとんどを病院で過ごしていたと言う。

 

 そんな彼女の病弱な体を何とか人並みに治したのが伊野父親、伊野五郎だ。


 幼い時に彼は彼女と同じ病にかかった母と二人で暮らしていた。

 五郎には四人の兄がいたが、いずれも彼が産まれるよりも前に死んでいた。正確には死産である。

 戦後、間もない頃、貧しいがために五郎の母は病院に行けなかった。父親は戦死し、稼ぎがなかったがために、彼とその母親は懸命に働き日銭を稼ぎつつ、母が病院に行くための金を貯めていた。


 しかし、病院に行くための金がその額になる一歩手前で、遂に母親は力尽きてしまった。


 彼がその日、貰った金で遂に母を病院に連れていけると小躍りして帰ってきたときにはもう既に遅かった。


 冷たく動かない母の体、何者かを探すようにして布団から唯一出ていた右手。

 

 誰かに言われずとも五郎は悟った、己の愛する母の死んだのだと。


 その後、彼は無我夢中に病院に駆け込み、係員に母が亡くなったことを話すと母の遺体を葬るため、家に何人もの人が入り、担架で彼の母を担いで行った。



 嗚呼、なぜなぜなぜ、なぜこうなったんだ。もう少し、もう少しだったんだ。 

 あと、もうちょっとで母さんは救えたんだ。



 母の最後に立ち会えなかった自責の念と救えなかった悔しさに泣きじゃくり、見知らぬ医者にその思いを吐き出していた。


 そんな五郎の目線に合わせるように膝を折り、その医者は言った。

 

 医者になってみないか、君達みたいな境遇の人達を助けるためにさ。



 それから二十年後、ボロのような服を着ていた少年は真っ白な白衣にその身を包み、ノーベル医学賞を授与し、一つの大きな総合病院の頂点に登り詰めていた。


 そこに現れたのが伊野千尋、旧姓佐藤千尋であった。彼女の病気をほぼ完治させ、色々あって彼らは結婚し、伊野陽を産み、家族にまで至ったのだ。


 しかし、幸せな日々は突然終わりを告げ、去っていった。


 母、伊野千尋の容体が急激に悪化し、チューブや医学機器に繋がれなければ生きて行けなくなった。

 ちょうど伊野陽は、小学校に入ったばかりであった。


 小学校から帰宅してから後、いつもの数倍、顔を険しくした五郎に連れられ、大急ぎで総合病院に向かった。


 なんと言う運の気まぐれだろうか、またしても彼らは、母の死を見送ることができなかった。


 動かない母の手を握り、泣き伏せる伊野はる、また死に目に会うことが出来なかったことに絶望し、椅子に座り込み顔を覆う五郎。

 

 その時、伊野陽は思った。二度と病魔や怪我などで誰かを失いたくない、と。  


 そんな彼の思いを支えるべく、作られた専用武器は攻撃もでき、守りと癒しを重視したものになった。


 


 彼は再び腕を振るい、メスを射出する。アラクノイドの急所に当たり、再び彼の腕へと戻って行く。

 彼の周囲に接近してきたアラクノイドは全て、この鋭利な刃物の餌食になっていった。


 だが、人間などに比べ痛覚が殆ど機能していないアラクノイドにとってはただ刃物が当たった場所が動かなくなっただけにしか過ぎない。

 ましてや、伊野は訓練以外では戦闘とはほぼ無縁である。


 メスの威力が足りなかったり、急所に届かなかった、いわゆる死に損ないのアラクノイドが再び敵と認識した者、伊野にジリジリと近づいて行く。

 

 伊野はアラクノイドに攻撃しつつ、メスを味方である帝国近衛隊に向かって撃った。

 

 狙った場所は急所ではない、二の腕の部分に向かって撃ったのである。すると傷つき疲弊し、かろうじて敵の攻撃をかわすことしかできなかった彼らの体力、傷が瞬時に癒えていく。


 伊野が想像し造り上げたのは、注射器としても機能するメス。 

 人の手作業に頼らず、人体に刺されば迅速に薬を体に投入する代物だった。

 

 今回、中に封入したのは、ヒーリングスカルペスの中で精製された高濃度のポーションだった。

 ポーションは濃度が濃い物ほど、良質な物となる。

 

「うおおおぉぉ」

 雄叫びを上げ、戦闘を続行する帝国近衛隊。伊野が仕留め損ねたアラクノイドを次々と討伐して行く。


 状況をひっくり返され、少しずつ駆逐されていくアラクノイド。

 その様子を見届け、へたりとしりもちをつく伊野。緊張と不安がどっと体を駆け巡って行く。

 

 そんな伊野に狙いを着け飛びかかろうとする影がいた、普通のアラクノイドよりも傷が多く、体に生えているトゲの内、特に頭のトゲが二本で大きいアラクノイドであった。

 アラクノイドは戦闘経験が豊富な個体の内、特に優秀なものが女王の代わりに軍隊を動かす役割を担う。このアラクノイドは通常の個体よりも知能も力も段違いに強い。そのため、たった一匹でも驚異となる。

 そして、今まさに伊野を殺そうと天井で隙をうかがっていたのがこのアラクノイド、ウスト・アラクノイドであった。




 狙いを小さい刃物を打ち出したり、味方の体力を完全に回復させた、弱そうなながらも気を抜けない人間に狙いをつける。

 胸にある紋章の色からしてバカみたいに逃げ惑っていた人間と同じ役割を持つ者のようだ。

 先程まで見ていたが、この人物を潰してしまえば、内側からこの敵は崩壊するだろう。こいつ以外のメンバーは戦う意思も微塵に見られない。

 自分だけでもそいつらを始末出来るだろう。その後、仲間を大量に呼び寄せてしまえばこちらの勝利だ。

 幸いな事にこいつは座り込んだ、明らかに絶好のチャンスである。




 ウスト・アラクノイドは再び辺りを見渡し、周囲に敵性存在が見られないことを確認し、伊野に目掛けて牙と爪を付きだし飛びかかった。


 危機一髪、伊野がそれに気付き、横に転がったため、即死に至る一撃は免れた。


 しかし、逃げたところで今の伊野に攻撃をする気力は無い。次こそは仕留めるとばかりにウスト・アラクノイドは特に長く鋭さのある爪を伊野目掛けて振り下ろした。


 次こそは避けられない、終わりだ、そう思い伊野は目をつむった。 

 が、すぐに来るはずの一撃がこない、代わりに怒気を纏った声が聞こえてきた。


「おいおい、何やってんだ。ムシ」


 建二の右腕の拳がウスト・アラクノイドの左頬に命中し、首がコマのようにぐるぐると回った。

 どさりと音がして、ウスト・アラクノイドが仰向きに倒れた。


「すまん、遅れたな」


 そう伊野に声をかけた人物は建二であった。


「立てそうか?」

 建二は手を差し出し、伊野がその手を握り、立ち上がる。

 はずだった。

 建二の左頬に一筋の傷ができた。その傷は伊野の射出した一本のメスによるものだ。

 すぐ後ろで、先ほど倒したはずのウスト・アラクノイドが建二の背中を切つけようとして、爪を振り下ろす寸前で、脊髄をメスで撃ち抜かれ絶命していた。

 

 アラクノイドは痛みを感じない。ゆえに執念深い事で知られていた。ある話では針ネズミのようになるまで矢を受け続けも、襲ってきたアラクノイドがいると言う。


「ありがとう、完全に殺せたかどうかまできちんと確認していなかった」


「いや、こちらこそありがとう。助けてくれて、でももうちょっと早く来てほしかったな」


「それは、すまん」



 一方、アラクノイドが現れた穴の最も近くで戦っていた天王司達は力では圧倒的に勝っていたものの、その数の多さに後ろに下がらずを得ない状況になっていた。


「どんだけ来る気だこいつら、倒しても倒してもきりがない」


 天王司の剣の一薙ぎで、数体のアラクノイドが真っ二つになり絶命する。 

 しかし、それは熊手で水を集めるように空しかった。

 その数体が、地面に倒れればそこには既に新しいアラクノイドがなだれ込むようにその空間を埋め尽くす。 


「こりゃ、今日は引き返した方が良さそうだな」

 

 天王司の近くでアラクノイドを切り刻みつつ、ラークがそうぼやいた。

 いかに強い力を持っている者達の集団でも、多勢に無勢なのは明らかだ。どんなに数を沈めようとこちらが先に殺られるのは目に見えている。

「よーし、これぐらいで良いだろう、撤退の準備をしろ」


 ラークの撤退の指示を聞き、後方支援組の隊長とでも言える存在、青木が後方支援組を突入してきた方向へと下がらせて行く。

 背後にある守るべき者達が移動したことで少しずつ後退し始める前線組。急に攻めてきていた人間が後退したことによってアラクノイドの何体かがバランスを崩したが、すぐに立て直された。


 数十分後、後方支援組が階段を上った先にあるドアの近くで待機し、前線組がそれに追い付く形になった。


 しかし、すぐに開かれるであろう石造りの扉はびくともしなかった。

「おい、何をしてる。さっさと扉を開けろ」

 ラークが後方支援組の青木に怒鳴り、開けるように言った。その声に狼狽えるようにして青木は答えた。

「開きません、全くもってびくともしない」

「何だと罠か何」

 ビシ・・ビシシ・・・・メキメキ・・

 ラークが喋っている途中で何やらとんでもなく嫌な音が聴こえてきた。それは、とても硬い物にヒビが入る音だった。

「下だっ、下を見るんだ」

 誰かの声が響き渡り、全員が下を見た。何と石の階段全体に大きな亀裂とヒビが入り、崩れ始めたのである。橋の周囲にはアラクノイドがびっしりと群がり、闇へ落ちて行く階段の残骸と建二達を見下ろしていた。




「・・うぅ・・」

 最初に建二が感じたのは、自分がごつごつとした地面の上で倒れている事だった。

 見事に受け身、相手に投げ飛ばされたときに取る姿勢を取ったまま、どうやら気を失っていたらしい。受け身を取っていたとしても高所から落ちてただで済むとは少しも思っていない。


 即死は免れたようだが、落ちたときに受けたであろう痛みが身体中に染み渡っていた。


 坂岡と共に戦っている最中にラークからの撤退指示を受けて、石造りの橋まで戻ったのだが突如として橋にヒビが入り、クラスメイト共々真っ逆さまにそこから落ちた。


 かなりの高所から落ちたらしいのだが、今自分は生きている。回りにはやはり岩肌と、自分と同じく落ちてきたであろうクラスメイトと帝国近衛兵がバタバタと倒れていた。

 

 強い一筋の光がこちらに向かってくる、目覚めた時、薄暗い環境に眼が慣れてしまっていたため、光が眼を刺したかのようだ。

 

「何だ、あんたかよ」


「安否が確認できた途端にあんた呼ばわりとは、ひどくないかい?」

 

 光の正体は魔法によって剣に光を宿し、松明の代わりにしているラークだった。

 ラークの話によれば、安藤が自分達が落下し、地面に直撃する寸前に浮遊魔法を展開、地面から数十センチしたところで一時的に浮遊した。

 その後、安藤が落下を免れたことで安心したため気絶し、魔法が解けたことにより再び落下、何名かが頭を打って安藤と同じく同じく気を失っていたのだとか。


「いやー、落ちて即死することは避けられたみたいだね。ほんと安藤さんには感謝してるよ」


「でもこれからどうするんですか?まさかここから上っていくなんてことは・・」


「そんな事はしないよ。今の段階ではね、それより、ここは一体どこなのか確認をしたいものさ」


 そう言うとラークは再び他のクラスメイトと帝国近衛隊のメンバーの安否確認を始めた。

 ラークが去っていってしまったため、建二もラークの真似をして、腰に携帯しておいたダガーに発光の魔術を付与し辺りを見渡した。

 

 足下には気絶したクラスメイトが横たわり、辺りは闇に包まれていた。

 聞こえるのはラークの足音とクラスメイトか帝国近衛隊員の息づかいと時折溢れるうめき声だけだった。


 蹴り飛ばさないように慎重に歩いて行くと、建二は闇の中に何か、白いものが動いているのがわかった。何故だろうと思い、それに向かって歩みを早める。

 

 その白い物体に向かって行くうちに、建二はクラスメイトが横たわっている場所の外に出てきた、白い物体との距離は最初に比べるとだいぶ近づいた。

 建二はあと数歩で白いものがはっきりとわかる直前で、がっしりと肩を掴まれた。

「何をやってるんだバカ野郎、死ぬぞ」

 振り替えると険しい表情をしたラークが、建二をぐいと後方へ引いた。引かれた瞬間に建二の目の前が急に切り立った崖がぱっくりと口を開けていた。

 青ざめてラークの方を見る建二にラークが言った。

「もしかしてお前、白い物を見つけて追いかけたろ?」

「ええ、はい」

「そりゃきっとプーカだ、暗がりのなかで、わざと人に気を引き、そいつを崖とかに誘き寄せ落として、ケタケタ大笑いをする妖精。要するに黒の妖精アン・シーリーコートさ。気を付けないと死ぬぞ?気を付けろ」

「すいません気を付けます」


 謝罪をする建二を見届け、安否確認を再開するラーク。 

 建二は改めて周囲を見渡し、自分達の今いる場所を再確認した。

 およそ石造りの階段が崩壊した跡がはるか上にぽっかりと浮かび、微かな光を投げ掛けていた。

 そして自分達のいる場所、真っ直ぐに垂直に切り立った谷のような場所の真ん中辺りにトゲのように突きだした場所、そこに彼らは居た。そのトゲの根元に進むにつれて、通路らしきものがあった。

 建二は改めてその渓谷を覗き込み「うへぇぇ・・」と声を絞り出した。

 それは自分達の運の良さを思い知らされたためである。

 谷底に目を向けるが目に入ってくるのは垂直の岩壁のみ、それが下に行くにつれて、暗黒がへばりつくように眼下に存在していた。およそここから底へ叩き付けられてしまえば命は助からないだろう。

 何よりも、ずっとこの暗黒を見ていると今にも吸い込まれてしまいそうな感覚が建二の中に生まれた。

 顔を背け暗黒から目を反らしたその先に彼の友人、田中が左足のふくらはぎを押さえてうずくまっていた。額には脂汗が浮き上がり歯を食い縛って田中は痛みに耐えている。


 建二の脳裏に微かな記憶の断片がよぎる、数多の人々の悲鳴、うだるような暑さの野球場、激痛に悶え苦しむ少年の姿。


「おい、田中。お前、まさか」

 痛みのために顔をひきつらせて、困ったように笑いながら田中は言った。

「いやぁ、困ったなぁ。まさかあの痛みを二度も味わうはめになるとはね」

 建二は田中に駆け寄り、左足を調べる。それがを見ながら田中は自嘲気に鼻で笑うと言った。

「この感覚からするとあの時の程ではないけど、ちょっとヤバそうだ」 



 田中康。容姿、顔のいずれも建二達の通っていた高校でもかなり上位に入る程のイケメンである。性格は基本的にさっぱりしており、悪印象はほとんど抱かないだろう。頭も常人よりは一回り良い。

 しかし、日頃の言動のせいでイケメンでも、女子から快く思われていないのだった。




 そんな彼は中学生の頃、野球部に入っていた。勉強よりも運動が得意だった彼は、日々鍛練し中学一年生にして第一軍に入る事ができた。

 事件は中学一年生の三年生最後の大会の時に起きた。

 ピッチャーだった田中が投げた硬式のボールをバッターが打ち、田中の左足ふくらはぎに直撃。

 その結果、田中の足の骨に大きなヒビが入り、筋肉を痛める結果に。幸い全治はしたが、野球部での活動は断念せざるを得なかった。

 

 しかし、完治したと言っても古傷は残っていた。そのため、田中はある一定以上の過度な運動をすると、古傷は開きかけるのだ。


治癒ヒール

 周囲には回復担当のクラスメイトがいなかったため、痛みに堪えている田中に、建二は第一段階の魔法治癒ヒールを施す。

 建二や田中を含めたクラス全員は魔術の行使が可能である。魔力の量は長年鍛練し続けた者よりも遥かにある。

 しかし、行使可能な魔法の数は長年鍛練した者よりも断然劣っている。

 もちろん、勉強に似た形で魔術を取得しようとしているが、現在習得できている魔法の数は個人に差があった。

 魔法には第一位階から第十三位階まであるが、平均的には第一位階から第三位階、最高で第六位階までである。

 建二は第五位階の魔法までを使う事ができるが、田中は能力の性質上の問題で魔法を行使することが出来ないのだ。

 よって、誰か他人に傷を癒してもらうのが一番なのだとか。

 

「立てそうか?田中」

「ああ、サンキューな。建二」

 田中の手を握り、引っ張り上げる建二。田中はトントンと左足を地面に打ちつけ、足の具合を確かめる。


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