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9話 模擬戦闘訓練

 朝食を終えて、再び訓練に打ち込む事となり。わしらは城の地下闘技場で自信の能力を活用した戦闘訓練の稽古をつけてもらっている。

 朝食を食べ、少し寝た時点で体力はそれなりに回復していた。そのため、その後の鍛練にはそれほど影響は出なかったのが幸いだ。


 余談だが能力自体を持ち、使うことの出来る人間はあまりいない。例として高い魔力を持ちながら能力を持たない者もいる。

 とどのつまり、能力を持つ者は生まれつきかつ、希少価値の高い人材で重宝されている。

 それ故にこの世界に存在する狂暴で人間に危害を加える生物、総称モンスターの討伐など活躍している。

 だが、それを遥かにしのぐ剣の戦士や英雄もいるのも事実だ。


 大きく振りかぶり、岩石で出来た、人間の身長より少し大きい戦闘訓練用のゴーレムのが殴ってくる。

 その拳をゴッドハンドの拳で殴り、受け止める。

 鈍い音が響き渡り、ゴーレムの拳もろとも腕が砕け飛ぶ。壊れた腕が土煙を巻き上げた。

 それを利用してゴーレムが残った片腕で殴りかかってくる。そこを見計らって右腕で岩石のような腕を受け止め。

 そのまま押しきる。

 ゴーレムは崩れ落ち、動かない。その体には大半を削り取られ大きな風穴が空き、行動不能になった理由がはっきりと刻まれていた。

「凄まじいな、今の段階で28体目を倒し終わるとは」

 ラークが満足そうにこちらに歩み寄り感嘆する。

「いえいえどうも、先生のご指導あってのものです」

「そう言われると鼻が高い。それでは次に取りかかろうか」

 こくこくとうなずき陽気に話すラークに返事をして、自分の次の準備をする。

 先ほどのゴーレムは戦闘訓練用に作り出されたもので、一通り練習が終わった後にこれと戦う事になっている。

 ゴーレムは耐久力も高く、攻撃力も高いためよく練習相手として作り出される事も多い。そして、ある程度の攻撃を与えられると行動不可能となる。

「では、始めるぞ。準備はできたか?」

「はい」

 ラークが指をならし、何かの合図をした。

 がらがらと突如、黒色の頑丈な格子が出てきて、わしをすっぽりと囲んだ。しかし、ある程度広さにだいぶ余裕が有り、あくまで行動範囲の制限をかけただけだと認識する。

「それでは、次の対戦相手を出場させるぜ」

 彼が手を二回叩くと、幾何学的模様のある円形の紋様が浮き上がってくる。強く緑色に発行するそれは合計で3つ浮き上がってきた。

 魔方陣。

 魔術の基礎で、そこまでの魔力は消費しない。使用する魔法によって色が変わるようだがそれはあくまでこちらにとの相性を知るためのものだ。何が発動されるかは使用者本人しか知らない。


 魔方陣から何かが這い出てくる。トカゲに似たものであるが、普通のトカゲよりも人間に近い大きさをしており、人間のように棍棒などの武器を持ち、魔方陣から完全に抜け出ると四足歩行から二足歩行に歩き方を変える。

 リザードマンだ。

 硬い鱗に全身が覆われ、四本の手足の指を持ち、人間に似て群れを作り、寒い地域を除いた様々な場所で生活する。ただ、人間からは猛獣に近くモンスターとして扱われている。時々、大群になり農民の村を襲撃するためだ。一体、一体が並みの人間以上の力を持つため、村はひとたまりもない。 

 しかし、国家ウロボロスに近い都市も襲った事例が存在する。そのため、油断はできない。

「それでは、始めようか」

 ラークの掛け声を合図にリザードマンが一斉にこちらを向き、ガルルルと吠える。地球でトカゲが鳴くのは聞いたことが無いので少し奇妙な気がした。

 

 リザードマン及び倒す敵は三体。多勢に無勢と思ったのだろうか、一体が何の考えも無しにこん棒を振り上げ、突進してくる。

 飛び上がり、真正面から頭めがけて、大きく振り下ろしてくる。こちらを甘く見ている分、倒しやすさが大きい。相手はこちらを全く知らず、こちらは相手をほぼ完全に知っている。 

 攻撃の仕方はある程度、所持している武器を見ることで想像がつく、しかし相手からみれば、何の武器を持たない人間の男が目の前に立っているだけだ。完全に勝機が有ると慢心してくれる。

 こん棒を右手で受け止め、そのまま握り潰す。あっさりとヒビが全体に入り粉々に砕け、残骸が地面に落ちる。そのまま驚いているリザードマンの腕をもぎ取り、蹴り飛ばす。

 倒れ込んだ姿勢から起き上がったリザードマンは、片腕のあった場所をかばい、急いで仲間の元へかけ戻る。同様していたのか、くるりと完全にこちらに背を向ける。

 それが、そのリザードマンの生死を分けた。

 無防備な背中へ、思いっきり拳を突きだした。あっさりとそれを貫通し胸元を突き抜けて行く。狙ったのはリザードマンの心臓と肺、そして脊髄。体の構造は人間に似ているため、こんなあっさりと攻撃で片付く。

 ビクリと体を大きく痙攣させるリザードマン。血まみれのゴッドハンドを死骸から引き抜く。 

 腕を振り払い、純白の腕から血を飛ばし、動かなくなったリザードマンを隅へ蹴り飛ばす。      

 格子にぶち当たり、まるでゴミような扱いだ。

 もちろん、わざとそうした。

 その光景を見ていた他のリザードマンはガチガチと牙を噛み鳴らし、目を見開き、足をドスドスと踏み鳴らす。離れていても分かるような怒気が空気を通して伝わってくる。


 そうだ、そうだ。怒ってくれ。そうでなければわざわざ蹴り飛ばした意味がない。 


 こちらがニンマリと笑うと、意味を理解してくれたのか、余計に苛立ってくれる。

 二匹のリザードマンは会話と思われる鳴き声を交わし、こちらを見据えた。そして、同時に走ってくる。

 身構えラークに教えられた戦闘体制に入るが、襲っては来ず。わしの周りを取り囲んだ。どうやら挟み撃ちにする気なのだろう。

 前と後ろにリザードマンはおり、時計回りにゆっくりと周り距離を積め始める。それに合わせてこちらも回る。

 ほんの少しの間の時間だったが、こちらには、長い時間に思えた。

 突如として、前のリザードマンが攻撃を仕掛けてくる。武器に向かって反射的にゴッドハンドを伸ばすが後ろからの気配を感じ取る。どうやら前の攻撃はデコイで、後ろの方がこちらに攻撃する役割だったようだ。


 と、片手のこん棒を大きく振りかぶっているリザードマンの懐に入り込む。相手もこちらの動きに驚き、一瞬だけ動きと思考が止まったような素振りを見せた。 

 そこを狙い、左手で振り上げられた片手を掴み、がら空きの脇に入り込む。腰を落とし、相手を担ぐようにして、そのまま前へ投げ飛ばす。


 柔道で言う背負い投げと言うものだ。

 出来る事とは出来るのだがあまり得意ではない。しかも、ある程度雑になってしまった。だが、その効果は十分だった。

 投げ飛ばされたリザードマンが、正面にいた最初に仕掛けてきたリザードマンに激突し、両者共々地面へ倒れ込む。そこへすかさず、その鱗に覆われた胸へ右手を貫通させようとする。

 今度は二体が重なっているため。地面に届く位の勢いでその右手を振り下ろす。そこへ最後の足掻きか、上のリザードマンが武器で胸を防御する。

 そこへゴッドハンドをお望み通り、胸へ突き立てる。


 ケーキに容易くフォークが刺さるように、彼らの分厚く鱗に守られた胸を貫通する。顔に赤いものがかかり、眼前が染まっていくが、止めない。まだ生きているのか、ガリガリと爪でゴッドハンドを引っ掻くが傷ひとつつかない。

 一切の矛盾なく、命の奪い合いを相手の血で赤く締めくくる。


「素晴らしいぞ建二。良い戦いぶりだ」

 ラークからの声が耳に届き、ふと頭に冷水がかけられるが如く脳内の熱が覚めていく。

 右手を折り重なった二体のリザードマンの死骸から引き抜いた。付近を覆っていた格子がスルスルと持ち上がり、周囲の隔離から解き放たれる。


 ラークがタオルを投げてよこしてくれたため、かいていた汗を一通り拭う。

 ラークと友達以外の周囲のクラスメイトの視線が冷たい事に気がついた。

 この視線をわしは知っている。

 初めてこの視線を向けられたのは小学生の頃、だろうか。

 自分をいじめていたクラスメイトを一人で、立て無くなるほど殴った時の周囲の視線。

 男子、女子問わず、クラス中がこちらを袋叩きにしようとして、逆にやられて、涙で赤く腫れた不細工な目でこちらを睨む視線。

 集団でいじめて来た女子の腹を蹴って大泣きさせた事を、一部始終見ていた他のクラスメイトがこちらに向けた視線。

 いじめられても暴力は駄目だと言い切った先生がこちらに向ける視線。

 いじめられていた自分の友達を助けるために、いじめっこを殴り、助けた次の日のそのいじめっこの視線。


 お前だ。お前が悪いのだ。


 どの視線もそう罵ってくる。くそったれどもの視線が。


 そんなものはいくらでも向けられ続けていたため、今はもう慣れっこだ。

 

 気にする事はない、いづれもゴーレムを相手にするだけで手が一杯だった奴らばかりだ。

 自分は敵を殺すことへの抵抗は皆無と言って良い。

 これから戦い、殺し合いが始まると言うのに。と思い、その答えにすこし疑問の念を抱く。その答えを早急に出すのは良くない、と。


 ガラン、ガランと大きな鐘の音が地下闘技場まで響き渡ってくる。それは訓練の休憩、そして昼食を知らせる鐘の音である。


「これにて、休憩とする。二時間後に再び、開始するぞ。それまでにここに居るように」

 ラークの告げる終了の声に、皆が安堵し座り込む。次第にざわざわと雑談をし始め、地下闘技場を上がっていく者や部屋に戻る者。


 皆、一時的に自由な時間を与えられ、それぞれのしたい事を始める。

 ただ、共通してすべきことは昼食だ。

 階段を登りながら、昼食について思いを巡らす。自室に用意されていると言う昼食を食べに向かう。

 

 自室に着き、扉を開ける。テーブルに用意されているはずの食事、及び昼食に目を向ける。

 が、しかし、そこには先客がいた。オーランドが椅子に腰をかけ、今まさに食器をテーブルに置こうとしていた

 皿はすっからかんで、洗った後のように白く。食べ物は既にオーランドの胃の中だと一目でわかった。

 その白さが余計に空腹を実感させた。

 オーランドはのんきそうにあくびをしてこちらを見る。

 数分に渡り、視線が交際しあった。そして、その静寂を破るようにオーランドが謝罪する。

「すまん、我慢できなかったんでの」

 その返事をするように自身の腹が鳴り、空しく響く。


「いやー、本当にすまんのう」

 昼食を改めて用意して貰い、肉にかじりつきながらオーランドの二度目の謝罪をうなずきで返す。

 昼食を出して貰うまでかなり時間がかかったので空腹を通り越して、飢えにも似た感覚を味わった。

 オーランドに食べられる前の昼食の量を少し増して貰った。飢えによって少しテーブルマナーが疎かになっているが。

 その分の失礼な態度は許してもらいたい。

「それにしても、ありがとう。我が弟子に力を貸してくれて」

 唐突な感謝の言葉にキョトンとしていると、オーランドが言った。

「昨日の夜に我が弟子が訪ねて来てな。どうしてここまで来れたのかを聞くと君にあの紋章を貸してくれたと言うんだよ」

 頭の中で歯車が噛み合うようにして、オーランドの言葉を理解する。パールの言っていたお師匠様とは、オーランドのことだったのだ。

 そして、頭の中で一つの疑問が浮き上がってきた。それの答えを聞くべく口を開く。

「そう言えば、なぜ彼女にここの警備をパス出来る、あのバッジを渡さなかったんですか?」

 それを聞くとオーランドは眉根を寄せて言った。

「あのバッジは国王閣下のお許し無しに、他人に渡す事はできんのじゃよ。彼女に渡してやりたいのは山々なんじゃが、例えこの大戦最高峰の学園の生徒一人にさえ、国王閣下はお許し出来ないんじゃ」

「それはなぜなんですか?」

 顔に刻まれたシワがより一層深くなり、オーランドは答える。

「そのなぁ、なんと言うか。あまり深くは言えないんじゃが、国王閣下はとても尊い位置にあられるため。よそ者をあまり入れるべきでは無いとしているのじゃ」

 確かにその通りだ、と思った。

 そんなにポンポン頻繁に会えるような国王であれば、周りの人間や庶民からの畏敬の念は薄まって行くだけだ。何よりも、国王と言う立場と庶民と言う立場が曖昧になってしまう。

 オーランドの言うことには一理あるのだ。

 彼の言うことに納得していると、オーランドが言った。

「どうか、パールが来た時には、またバッジを貸して上げてくれんじゃろうか?」

 よほど弟子に気をかけているのだろう、そうでなければここに来てまで願いはしない。

 そんな思いに応えるべく、発言する。

「もちろんですよ、オーランドさん。是非ともパールの成長を願っています」

 それを聞くなり笑顔になり、嬉しそうにうなずく。もっとも、その笑顔はとても老人には見えなかった。

 弟子のことを自分のことのように、純粋に喜ぶ師匠がそこにいた。

 それを人間の美しさとでも言うのだろう。

ふと、我に帰ったオーランドは真剣な眼差しで再び口を開く。

「そう言えば、建二はSクラスなのですよね?」

 オーランドは念を押すように聞いてくる。

 はて、能力判定の時に一緒に結果を見ていたような気がするのだが。と思いつつ応える。

「ええ、はい、Sクラスですが。どうかしたんですか」

 しっかりとうなずき、オーランドはまるで重大な秘密を言うように周囲を見渡して、言ってくる。

「今夜の夜食が終わったら、一階の噴水に来てください。どうしても渡さなければならない物が有ります」

「すいません。顔が近いです」

 謝罪をして、勢いのあまりこちらに乗り出していた体を椅子に静かに座る。

「わかりました」

 待っているよ、とこちらに笑いかけながら立ち去って行くオーランド。

 それから、食事を食べ終わったため、皿をまとめてテーブルに置く。食事が終わったら、食器はテーブルの中央に置いておくように言われていた。

 食器は後ほど、メイドさんによって片付けられるそうだ。

 

 時間を確認して、部屋から退出する。時間に間に合うように、ここから地下闘技場への時間は予測しているため、確実に時間には間に合う。

 

 地下闘技場での時間には十分に間に合ったが。坂岡は一人、遅れてやって来てすまなさそうにラークに謝っていた。


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