本物の泥棒
本物の泥棒
今日の戦利品は、大人気のカードゲーム、「ユー・アー・ライアー」のレアが5枚、スーパーレアが2枚。
そして、希少価値のあるレジェンドが1枚だ。
近所の龍太郎くんの家で遊びながら、こっそり目を盗んでポケットに忍び込ませた。
これをどうするかというと、通称「売却者」に渡す。
まあ要するに、信頼のある大人に頼んで売ってもらう。
1時間後に、「トータルで2000円だった」と告げられた。
中学2年生の僕たちにとっては、2000円でも十分大金だ。
このお金の使い道は、とりあえず皆に会ってから決めようか。僕ら、どろぼーボーイズのメンバーに。
アジトは、僕の家の2階にある空き部屋。
ほこりまみれだったのを片付けて、ここ、ヤンキーが住んでますよ、みたいな感じにデザインした。
さて、そろそろ皆が来る頃だ。お茶とお菓子でも用意しておくか。
キンキンに冷えた麦茶を冷蔵庫から取り出し、5つのコップに注いだ。お菓子は、うす塩のポテチ。
テーブルに丁寧にコップを並べて、真ん中にポテチを置いて終わり。
丁度、ピンポーン、とチャイムが僕を呼んだ。駆け足で玄関へと向かう。
「よう、お待たせ」と言ったのは、リーダーの翔太。続いて、健一、真、和彦の順番で入ってきた。
それぞれ靴を脱ぎ、皆、全速力で階段を駆け上った。
椅子に座ってお茶を一気飲みし、前に乗り出し、「それで、いくらよ?たっちゃん」と聞いてきたのは翔太。
ああ、たっちゃん、というのは僕のあだ名。本名は、達也。
さっきの金額を口にしたら、まあまあのリアクションだった。
まあ、2000円で出来ることなんてたかが知れてるか。
せいぜい、あちこちで買い食いする程度だろう。
ぼーっとしてると、目が見えないほど被っていたフードをよけて、健一が、こう切り出した。
「ところで俺さ、思ったんだけど…もっとデカいことしないか?」
「デカいことってなんだ?」
和彦の問いに、一瞬ためらう感じを見せてから、健一は「本物の泥棒さ」と、声をひそめて言った。
「なんだよ、それ」と真がきくと、「今までのはただのこそ泥だろ?これからは本気でやるんだ」と、
健一は、真剣な眼差しで皆に問いかける。
すぐさま翔太が「本気って、まさか博物館とかを狙ったりすんのか?」と笑みを浮かべながら言うが、
帰ってきた答えは、「ああ、そうだ」だった。
しばらく沈黙が流れた後、口を開いたのは以外にも和彦。
「やるなら完璧な計画を立ててからだぞ」
それを聞いて、「そりゃそうだよなあ」と健一が言う。
これからどうなるのだろうか。僕たちの方向性が180度変わろうとしている。
リーダー、決断はお前に託す。そして翔太は、
「あー、指揮を取る者として言っておく。分かってると思うが、バレたら手に鎖が繋がるからな。
それも博物館だなんて、規模がでかい分、捕まったらやばいぞ」
と、忠告をしたうえで、「ただ、やってみたい気もあるぜ」と、乗り気だった。
「よっしゃあ!派手…じゃなくてこっそりやろうぜ!」と健一が言うと、皆で手を合わせ、「おー!」と、近所迷惑になるくらいに声をあげた。
次の瞬間、チャイムが鳴った。「誰だよ、こんな時に…」とため息を吐くように真が言う。
監視カメラを皆で見に行くと、映っていたのは、龍太郎。
「カード盗んだのバレたな」と和彦が嘆いた。口下手な僕は、「翔太様、お願いします」と頼ることしかできない。
ドアノブに手をかける翔太を壁越しに4人で見ている。そして、今、玄関のドアが開いた。
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