第三話
「うわあぁぁ〜」
体内の全臓器が浮かぶ心地がした。嫌な汗が毛穴から一斉に噴き出す。
(僕を一思いに食う気か?!)
ドサッ…。ふわん。
(ふわん…?)
感触の違和感に怯えながら、少しずつ目を開けてみる。
(口の中じゃない!?)
ふわふわ。さらさら。それに、全身があたたかく心地良い温度に包まれている。
「いきなり掴み上げて悪かったなぁ。驚いたかぁ?」
今まで見上げていた獣の瞳が、下に見える。
「少し確かめたいことがあってな。
移動するなら俺の方が速いと思った次第だ。
許してくれぇい。それじゃあ行くぜい!」
地面を蹴り上げ、風を切る音が聞こえた。
(え…?何?どういうこと!?)
考える間もなく早急に獣にしがみついた。
しばらくの間、振り落とされないようにすることで精一杯だった。
(この手を放したら…速攻落ちる!)
握力に限界を感じ始めたその時、獣が急に速度を落としピタリと止まった。
「おぉーい!見てみろよぉ〜!」
言われるがまま、屈めていた上半身を起こしてみる。
山や森の緑、湖や海の青、目の前に広がる景色すべてが、
太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
何色にも重なっているはずのそれらの色合いは、
混ざり合いながらも互いを尊重するよう表現されている。
(何だろう…久しぶりに見た気がする。)
全身から程よく力が抜ける感覚を覚える。
「お前さん、やぁ~っと笑ったな。」
獣はしたり顔で僕を見ながら言った。しかしその得意気な表情はいただけない。
「ここ、綺麗だろう?どうしてもお前さんに見せたくてなぁ。」
何も考えてなさそうな獣に気を遣われたことが、恥ずかしくもあり嬉しくもあった。
「お前さんは、移動しているときも全然楽しそうじゃないんだもんなぁ~」
「あんたがあり得ないスピードで走り出すからだろ!!」
身体中の肉が、剥がれ落ちそうな程のスピード…。出している当人は、分からないんだろうな…。