表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思念の国  作者: 水無月雨音
1/9

第一話

クラクションの音が、交差点で鳴り響く。

それは平和な町の平和な時間帯には、不釣り合いな音だった。

その音源を探すように、周りを確認した…が、自動車学校や刑事ドラマのワンシーンでしか

見たことのない光景が、僕の目の前に広がっていた。

僕の日常の平和だけが、一瞬のうちに過ぎ去っていった。



気が付くと目の前は、金色の毛のようなものでいっぱいだった。

自分の腕でそれをどけようともがく。しかし、もがけばもがくほど毛のようなものは

自分自身に絡み付いてしまう。

(うぅ…苦しい…)

抵抗など無意味だと言っているかのように、僕はまとわりつくものから逃れられない。

いったん動けなくなると、もう一度抗う気力は失せてしまった。

それとは引き換えに、周りの音が拾えるようになったが

僕が認識できたのは遠くから何かが聞こえる、その程度だった。



「おぉっと~これはぁすまないなぁ~」

渋くて野太い声がいきなり聞えた途端、僕は全ての不快感から解放された。

何とか呼吸を整え、声のする方へと目線を上げる。

「お前さぁんは、いつの間にいたんだぁ?」

再びその声を聞き、僕が一度だけまばたきをした後には

金色の毛のようなものではなく、赤茶色の透き通った大きな瞳があった。

その眼は一心に僕を見つめている。

「おぉい?息しているかぁ?怪我はぁ、してないかぁ~?」

その見た目のふてぶてしさ、神々しさとは不釣り合いな言動を繰り返す。

あっけにとられた僕は、一言も発することが出来ない。

僕の心の中では、恐怖が驚きを颯爽と追い越して行く。


「お前さぁん…もぉしかして人間かぁのう?」

目を細めたり見開いてみたりしながら、僕の姿をしかと認識した目の前の獣は

僕の身長と同等の瞳をより一層見開きこちらを見る。

「そうですが…」

僕は恐る恐る答える。「誰だ?」ではなく「人間か?」と問われるのは

19年生きてきた僕の人生の中で、初めての経験だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ