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SAVE A MALL ―セーブ ア モール―  作者: 福山直木
二幕 成り行きだけど、とりあえず頑張る
8/21

始動!救世主タチ!4日目

イベントから一週間後、挨拶まわりの日がやってきた。

二つ目の活動ではあるが、実質これが初仕事だ。


「今日から晴れて商店街の一員となるわけだ。より自覚を持ち、真摯に商店街の方々と接するようにしてほしい」

「はい!」

全員が返事をした。


今まで勝手につけられていた『救世主』という仰々しい肩書が取れて、『再生請負人』に改められた。正式な肩書ではなく愛称的なものらしいが、配られた名刺に記されていた。

しかし、簡略的で分かりやすいため、商店街の人たちは「救世主」という呼び名を気に入っている。あくまで、外部向けに使う呼び名だという。


挨拶回りは自己紹介だけでなく、困っていることや要望などを聞いて回るため、二日に分けることにした。

早速、全員で各商店を挨拶して回った。


今まで気にもしなかったが、様々な店があることを改めて知った。



威勢のいい声が響いていて目立つ魚屋。

中村鮮魚店の店主、中村則夫さんは魚にとことんこだわる。

旬の魚介類を大手スーパー顔負けの価格と鮮度で提供している。


「サービスするよ!魚を捌くのはもちろん、簡単な調理だって任せてくれ!」

「父さん、挨拶に来ただけだから…お客さんじゃないよ」

仕事中なのだが、お構いなしに売ろうとしてくる。それを息子が止める。

「悪かったな。何かありゃ、いつでも声を掛けてくれ!」

そう言って握手を求められた。



普段見かけることのない刃物の専門店もある。

越智刃物の店主、越智学さんは鍛冶職人でもあるが、現在は商売に専念している。包丁から鎌まで取り揃えるが、希望の品がなければ要望に応えることもあるらしい。

しかし、後継者がいないらしく、商売を優先せざるを得ない状態だという。



銀一色の店とは対照的だ。色とりどりの花が目を引き、近づくだけでいい香りがする花屋がそばにある。

フラワーイシカワの石川遥さんは花の特徴から花言葉まで知り尽くす。贈る相手や場面に合わせた花を紹介する。


遥さんの旦那さんである智徳さんは業界を束ねる協会の一員らしく、花卉市場同士の取引を円滑にする仕組みづくりを担っているのだと遥さんが嬉しそうに話してくれた。

「お花のことなら任せてね〜。あとお仕事頑張ってね〜」

笑顔をふりまきながら、見送ってくれた。



遥さんはほんわかした雰囲気で、商店街の人たちから愛されている。そんな話をするのは、原仏具店の原幹夫さん。

子供の頃から仏具に囲まれて育った。仏具に成通しており、人脈を生かしてオーダーメイドの要望にも応える。


古くから店を構えており、商店街を誰よりも愛しているようだ。

「商店街のことになると熱くなることもある。迷惑をかけることもあるだろうが、どうか商店街を元気にしとくれ。出来る限りの協力はする」と頼まれた。



向かいにも仏具店がある。

井端仏壇の店主、井端泰弘さんはとにかく相談に乗ってくれる。分かりやすい説明と懇切丁寧な対応を心掛けていて、多くの人から信頼されている。

また、誰でも入りやすい店にこだわり、五月人形や鯉のぼりに結婚祝いや出産祝いなどの各種ギフトも取り揃える。

若者にも立ち止まってもらおうと最近、陶器やガラス製の食器や小物なども置き始めた。

「もし何かあれば、いつでも呼んでくれ」と協力的な対応をしてくれた。



みんながそれぞれ得意分野を持っていて、当たり前のようにお客さんへ出来る限りのサービスを提供する。そこにマニュアルはない。

商店によって対応が異なるものの、事務的に感じさせず、親切心に満ち溢れている。


商店街は小さな商店の集まりとしか思っていなかったが、チェーン店にはない個性豊かな商店の集まりなのだと分かった。

だが、内輪でこそ個性が現れる。初めて訪れる人にも個性を感じてもらいたい。そんな気持ちが芽生えた。



「早速やるべきことが見えたね。とりあえず、話を詰めないと何とも言えないから、案として持ち帰ろう」

挨拶回りが終った後、黒田さんに相談すると異論を言わずに受け入れてくれた。

他のメンバーとも頻繁に言葉を交わし、意思疎通を欠かさない黒田さん。この人がリーダーなら頼もしい。



半日がかりで7割の商店を回った。想像以上に気疲れした。

次回は、厄介とされる店主の居る商店が待ち構える。

前回、最悪な出会い方をした村田さんへの挨拶が気まずい。僕に非があるわけではないが顔を合わせづらい。


村田さんばかりに気を取られてはいけないのだが、悪い印象だけは与えないように気をつけなければならない。

今日よりも気を遣うことになりそうだ。

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