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SAVE A MALL ―セーブ ア モール―  作者: 福山直木
一幕 唐突な提案
3/21

悩ム!救世主!

次の日、バイトに行くと上司が訊いてきた。


「あれは、どうなったんだ?」

「まだ、考えています…」


それを聞いて表情ひとつ変えずに、ある提案をしてきた。

「なら、やるかやらないかは一旦抜きにして、話だけでも聞いてみるというのはどうだ?イメージもできるだろうし、何か決め手が見つかるかもしれないぞ」


それは僕も考えた。しかし、あれよあれよと話が進みそうで怖いのだ。


「最初は『話を聞くだけでも』って言われていたんだ。最終的に『提案だけはしといてやる』って言って納得させたんだがな…」

直接会う前提の話をだったらしい。それを上手く丸め込んだ上司に感謝しつつ、話を聞いてみたいとお願いした。


「やる気になっているってことか?」

確認のように訊いてくる。

「いや…いろいろ事情があって、どうすればいいか悩んでるんです…」

「なら、話を聞いてみるといい。話はつけておく」



数日後、シフトを代わってもらい、話を聞きに行った。


商店街の一角、空き店舗に開設された事務所。入り口には「藤ノ花商店街活性化委員会」と書かれただけのシンプルな看板が付けられている。

白地に黒のゴシック体で記されたそれはいかにも堅苦しく、敷居が高そうに感じられた。


「すみません、お話を伺いに来た船場というものですが…」

「おっ、君が救世主候補か。さっそく、話をしようじゃないか」

一番奥の席に座っていた40代くらいの男性が応接室へ案内する。


部屋でははく、ついたてで仕切られただけの空間だった。

「私はこういうものです。よろしく」

手渡された名刺には「委員会長兼店主会会長 細山清一」と書かれていた。

「よ、よろしくお願いしますっ」


「いや〜来てもらってくれるだけでも助かるよ〜」

「悩んでいるので、今日の話を聴いて決めようと思っています」

「そうか。ところで…君は何で悩んでいるのかな?やはり不安が多いかな?」

「僕は何も分からない素人です。とても、役に立つとは…」


招待された身だが、雇われる身である。印象には気をつけたいところだが、自分の意思は伝えなければならない。


「そうか…。でもね、どれだけ知識があろうとね、実行に移す人がいないと商店街の再興ってのは成り立たないんだよ。だから、素人だろうと関係ない。行動力さえあればね。基本的には、ただ指示に従っていればいいから、気にしなくていい」

心配をよそに大丈夫だと言ってくれた。しかし、説得力のない返答だ。本当に大丈夫なのか?と思わざる得ない状況に不安は募るばかりだ。


「具体的には何をすればいいんですか?」

「これから準備が整い次第、様々な手を打っていく予定でね。その実行委員になってもらうんだ。具体的には店主や外部の人たちと交流して、いろいろな企画を円滑に進めてもらう」

これまたざっくりとした説明だ。

「その実行委員は何人居るのですか?」

「君を含めると5人だね」


地方都市の商店街再生をしたいなんて物好きはそう居ない。多ければいいというものでもないらしい。5人居れば十分だと言い切った。


「…その……フリーターですけど、いいんですか?」

「フリーターだろうが、無職だろうが、会社員だろうが何でもいいさ。地域協力員等活動支援条例(ちいききょうりょくいんとうかつどうしえんじょうれい)のおかげで、正社員してる人たちもできるけどね、なるべく若い人の手を借りたいんだー」


地域協力員等活動支援条例とは、積極的に地域の活動に参加してもらうため、地方自治体が定めた条例だ。

この制度のおかげで、地域の活動に参加したいという雇用者の意志を、やむを得ぬ理由がある場合を除き、事業者は拒むことはできない。


すなわち、この募集には会社員も応募することができるのだ。


僕がやらなくても……。

そんな言い訳が頭をよぎった。

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