3-1
「改めて、こんにちは。僕の名前は震だ。年はもうすぐ922歳だ」
「うそ!」
どうみても小学生に見えるのに・・・。
祖父母よりも遥かに年上なんて・・・。
「うそじゃない。それにもう気づいていると思うが、ここはお前のいた世界じゃない。いわゆる死後の世界だ」
なんとなく気づいてはいた。
自分は死んだののかもしれない。
そんな事実に私は嬉しく思ったのか、悲しく感じたのかは、正直分からなかった。
「私、死んだの?」
「違うよ!」
慌てたように左京が震を突き飛ばして私の傍に来た。
「違うよ。大丈夫だよ。まだ右京は生きているわ」
生きている・・・。
本当はまだ生きている。
それが嬉しい事実なのか、悲しい事実なのか。
分からない。
「じゃあなんで、死後の世界に私はいるの?」
「それは・・・」
「それは僕が説明しよう」
左京の台詞に被るように、震が左京によって突き飛ばされた身体をゆっくり起き上がらせ、ちょっとかっこつけるようにこちらに歩いてきた。
「君は自分の切符を見ただろう」
「この切符のこと?」
そういって私は自分のポケットにしまった切符をとりだした。
良く見ると、最初見たときの黄色より少し濃くなっているように見えた。
「その切符の色が黄色であることがなによりの証拠だ」
「よく分かりませんが・・・」
「その切符は普通誰でも持っている。亡くなった人も、生きている人も」
「でも、私こんな切符初めて見たよ。だって普通だったら切符には切符の値段が書かれているし、どこから乗ったとかも書いているもの。色だって最初から最後まで色は同じだよ?」
今まで感じていた疑問を、震にぶつけた。
「普段、おまえが見ている切符のことではない。僕が言っているのは、今もっている切符のことだ。この切符は大抵誰でも持っている。ただ生きている時は誰もその存在に気づかないだけ。死んだ時に初めてその切符に気づくことができる。そしてこの切符はあの世への通行証だ。ただし色が「赤色」になったもの限定だけどね。切符には三色あり「青色」「黄色」「赤色」がある。通常生きているひとは「青色」の切符、死んだ人は「赤色」。そのどちらでもない人が「黄色」。」
「どちらでもないって、生きてないし、死んでないってこと?訳わかんないよ」
訳が分からない私に対して、震は丁寧に静かな口調で説明をする。
「普段生きている人は身体と魂が一体化している状態にある。これが死ぬと身体と魂が離れてしまい、生きている間はあった身体と魂の絆がなくなってしまう。そして今のお前の状態は身体と魂が離れてはいるが、身体と魂の絆はなくなってはいない。身体に戻る意思さえあれば、再び身体と魂は一体化することができる。しかしその状態が長く続くと完全に身体と魂の絆は消え去り一体化する、つまり生き返ることはできなくなる。大体その時間が一時間だと言われている。」
今まで大人しく黙っていた左京が震につめよってきた。
「なんで右京の身体と魂が離れてしまったの?そんなにその身体と魂の絆とやらは弱いわけ?」
「身体と魂が離れてしまう理由は主に二つ。一つは身体が損傷、あるいは病によって身体が動かなくなってしまったことによって起きる。身体を茶碗、魂を水と考えてくれ。茶碗が壊れたら水は漏れて流れ出てしまう。茶碗が水を維持できなくなると同じように、身体が魂を入れて置けなくなる。大半の人がこれにあたる。こういった人は大抵瀕死の重傷で、このままお陀仏って場合もあるな。そしてもう一つ。それは人が生きる意志を失くしたときに起る。生きたくない、死にたい。そういった強い思いが身体から魂を引き剥がす。つまり水が茶碗の中から出ようと暴れた結果、茶碗が倒れて水が外に出たって感じかな。我ながらよく分からない例えですまないが。」
「まったくね。」
すかさずいれた左京の言葉を完全無視して、震は説明の続きを言った。
「右京、おまえは完全に後者だ。生きたくない意志から、身体から魂がでてしまったのだろう。」
「なんで!」
駅の中に左京の悲鳴が響き渡る。
「原因は、左京だろ?左京が死んで、生きてたってつまらない、とか考えてるんじゃないか?」
私は震にはっきり言われる前から自分の気持ちに気づいていた。
死にたいと。
左京がいないのに、生きている意味など、皆無だ。
現世と言われるところよりも、左京のいるあの世の方にいたい。