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いつの間に眠っていたのか。
私は誰かに優しく肩を揺すられ、そこで目を覚ました。
目を開けると、目の前には一人の男性が立っていた。
制服から見て、どうやら車掌のようだ。
「失礼ですが、切符を拝見させてもらってよろしいでしょうか」
「あっ、はい」
私は車掌の言葉に定期券をだしてから、そこでおやっ?と思った。
車掌が切符を見に来ることなど、めったにない。
今日に限って、なぜ?
頭の中で疑問が広がったその時、より混乱する一言が降ってきた。
「その切符ではございません」
「へ?」
車掌の言葉に私は目を丸くした。
この定期券以外に私は、切符を持っていない。
いくらたってもぽかんとしている私に、車掌はもう一度言った。
「そちらの切符ではございません。ポケットに入っているものです」
「え?」
そんなことを言われても、切符を買った覚えもなければもちろんポケットにいれた記憶もない。
しかし車掌が嘘を言っているようにも、冗談を言っているようにも見えなかった。
私は半信半疑でポケットに手を入れると、小さな紙切れが指先にあたった。
おそるおそるその紙切れを握り、手をポケットの外に出す。
そして紙切れを握っていた手を、ゆっくりと開けた。
するとそこには見たことのない切符があった。
『境界駅』のみかかれた黄色の切符。
普通肌色で、乗った駅名といくら分行けるかの値段が書かれているはずなのに・・・。
一体いつ買ったのか、どこで買ったのか。
見たことのない駅名に、切符。
混乱している私をよそに、その切符を見た車掌は、
「おや、貴方は次の駅までですね。忘れ物のないようにお降りください。次の駅での滞在は最大一時間ですので、忘れないようにお気をつけください。十五分に一本の割合で引き返す電車が来ます」
滞在時間が決められている?
「一時間が過ぎますと戻れなくなりますので御注意なさってください。目安として切符が赤くなり始めますので、橙色に近づいてきたら戻ることをお勧めします。お帰りの際はまたそちらの切符を見せれば電車に乗ることができるので、失くさないようにお願いします。切符がなくなった場合もまた、戻ることができなくなりますのでお気をつけください」
戻る?
一体どこに?
切符の色が変わる?
どうやって?なぜ?
ふと私の中で疑問が湧いてきた。
そもそもここはどこなのだろう?
質問をしようと思ったとき、駅に近づいたのか電車の速度がゆっくりと落ち始めた。
そしてついに電車は動くことをやめた。
「おや、もうついたようですね。何か分からないことがあれば駅員に尋ねてください」
車掌によって荷物・・・といっても学校に行く時の鞄を持たされ、あれよあれよという間に電車の外に出された。