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最弱怪物ースライムー  作者: ジャックン
3/3

後編

  早朝。スライム達の棲む洞窟にて。

 朝日が差し込んできて、黒っぽい壁は僅かに陽の色に染まっている。普段と比べると比較的に明るい。

 ここはまだ静寂に包まれている。――が、一匹だけ朝っぱらから興奮を抑えている奴がいる。

 Aだ。

 何故興奮しているかといえば、もちろん性的な意味ではなくて。今日はいよいよこっそり洞窟から出る日であるからだ。Aにとってそれは生まれてきたときからの夢。

 今までは掟破りをすれば、それはそれはきつ~〜いお仕置きが待っているもんだと思い込んでいた。そう思っていたからこそ早くレベル4になろうと努力してきた。しかしお仕置きの類が無いのならば、こんな薄暗くて狭いとこでわざわざ頑張る必要はない。さっさと外の世界を観にいこう。

 ――よし、じゃあ動き出すか!

 いつものようにポンポン跳ねずに、転がるように進んでいく。跳んで着地するときにうっかり仲間をクッションにしてしまい、そのせいで起きられたら元も子もないし、このほうがスピードは無いけれど静かに進めるからだ。

 ノロノロノロノロ…………まだまだ出口は遠い。



 十数分後。洞窟付近にある人里、『チロル村』のとある家にて。

 「よし! 狩って狩って、狩りまくるぞーーっ! 今日こそレベル7になってやる! そしたらオレは学年で一番になるんだ!」

 モンスター狩り用の装備を身につけた、10才くらいの少年が意気込んでいる。

 改めて自分の経験値を量ることのできる機器を使ってみた。……『次のレベルまであと6』、か。うん、これくらいならスライムを2匹ほど倒せば溜められる。

 モンスター狩りは昨日も行ったが、レベルアップには至らなかった。家の門限が十八時であるから、あと少しだったけれど引きあげてきたのだ。

 だが、あと少しだった分いつも以上にやる気に満ち溢れている。

 「えっと……ナイフはある。回復用のポーション、ある。解毒剤……ある。麻痺治し……ある。じゃあこれで忘れ物はない、かな?」

 念のためもう一度持ち物の確認をした。これにて準備完了。

 ナイフと回復薬の入ったショルダーバッグを肩に掛けて、少年は部屋から飛び出す。そのまま勢いよく家のドアを開け放って疾走していーーきたかったけど、鍵を閉めなくちゃならない。

 「じゃ、いってきまーす」

 少年は村の中を疾走していく。ああ、一晩ってこんなに長かったっけ? いよいよだ。いよいよ学年で一番高いレベルになれるんだ! こんなの走られずにはいられないよっ!

 「よう坊ーー」

 「おはよっじゃあねっ」

 何言おうとしたのだろうか。八百屋のオヤジには悪いだろうけれどこちとら急いでいるんだ。

 数分後。村の端にある門までたどり着いた。ここから先はモンスターのでる草原地帯である。ーーといっても頑張れば子供でも倒せる程の雑魚しかいないが。

 「はぁはぁはぁ…………着いた……っ!」

 一旦立ち止まり、呼吸を整えてから少年はスタスタと草原の中を進んで行く。

 「んー……早く来すぎたか? モンスターがいないな」

 十分くらい歩いただろうか? 未だモンスターは視界に入ってこない。まだ寝てるのだろうか。



 少年が草原に着いたころ、Aはやっと洞窟の入り口にたどり着いた。

 いよいよだ。外ってどんな感じなのだろう? わくわくする!

 Aは思い切りポーーンッと五メートル程跳ねて草の上に着地。

 「ひゃっ!」

 冷たいし眩しい! これって何だろう? …………あっ冷たいのが『朝露』で、眩しいのが『日光』というやつか……っ!

 それと着地したときいつもより痛くなかった。草ってこんな感じなんだぁ。

 それになんなんだろうこの感じ。解放感というやつかな。

 あと全身が光に包まれるなんてなんか不思議。

 さらに、色んな色が見える! 土の茶。草の緑。ひっそりと咲く花の黄。空の藍。雲の白。

 外ってなんて素敵なところなんだろう。なんでスライムたちはあんなちょっとじめじめしてて、薄暗くて、圧迫感のある洞窟でひっそりと暮らしているのだろうか? みんな出てきて生き生きと過ごせばいいのに。

 …………あっ。洞窟から離れなきゃ。一応掟破りだし。    

 ポーンッポーンッポーンッポーンッポーンッ!

 さっきとは逆に自由に跳ねていく。着地する度に朝露が身体にかかる。

 すごい! 外ってとても楽しい!

 いつもは跳ねすぎると天井にぶつかってしまうから気をつけなければならないが、今は気にする必要がないから気楽に跳ねられる。

 それからしばらくAは色んな方向へ適当に跳ねていくのであった。



 「んっ? あれってもしかして……」

 遠くの方で青くてスーパーボールのような物体が左から右に向かってポンポン跳ねている。

 うん、あれはきっとーー

 「ーースライムだっ!」

 やった! やっと見つけた!

 少年の表情はぱあっと明るくなり、そのままナイフを取り出して逆手に握って駆け出した。

 「スライムーーっ! 覚悟しやがれっ!」


 ビクッ! 突然声が聞こえてきたのでAはびっくりして半回転した。

 「わぁっ!」

 向こうの方から大きい生物が鋭利でぎらついているナニカを握って迫ってきているではないか! それにアレからはものすごい殺意を感じる。

 ヤバいっ! 逃げなきゃ!

 Aは慌てて洞窟の方へ跳ね始める。あの洞窟なら迫ってきている大きな生物は入ってこれないはず! せっかく外に出たのに死んだら元も子もないではないか。

 「チッ、気づかれたか。……スライム止まれっ! お前は助からないんだよ!」

 大きな生物の声がさっきより大きい気がする。近づいてきてるんだ! 

 Aは必死にポンポンと跳ねていく。…………やった! 洞窟が見えてきた!

 あっ向こうからも仲間が来ている……っ! あれは……『外に出たときの罰はない』と教えてくれた方だ。助けにきてくれたんだ!

 「お〜い!」

 AがCに呼びかける。安心して減速する。

 「おい! 遅くなるな! 危ないぞ!」

 Aと少年の距離がより近づいた。まずい! もう少し縮まったらナイフが届いてしまう!

 「あっラッキー! スライム二匹目! 二匹とも倒せばオレが一番だ!」

 少年は斬撃を繰り出そうとし、ナイフを握った腕を斜め前に伸ばした。Aはそれに気づいていない。くそ! ヤツ(A)を外に出してしまい、危険な目に遭わせた原因はきっとおれだもんな。Cは覚悟を決め、思い切り跳ねて少年とAの間に入った。そしてーーーー

 ーーブシュッ! 「ぐっ…………!」

 CがAの上を飛び越えたかと思った刹那、何かを斬るような音が聞こえたのでAは一回転した。

 「……え………………!? う、うそ……。…………も、もしかして、今……」

 Cは表情こそ変わってないけれど、相当辛そうだ。かろうじてHPが0になってないという感じがする。

 「す、すまな……かった。……に、逃げて……くーーぐはっ!」

 断末魔が一瞬響いた。Cの身体が融けてドロドロの気持ちの悪い液体になり始めた。マナの状態に戻ったのである。

 Cはまだレベルの低いAを非常に危険な目に遭わせてしまったことに罪悪感を覚えた。だから自らを犠牲にして間を稼ごうとしたのだ。そして最後の言葉を伝えている最中に少年の握っている鋭利な刃がCにトドめをさした。

 生憎人間にはスライムの鳴き声など理解できないから。

 「ニヒッ。次は、お前だよ?」

 少年は満面の笑みを浮かべて、スライムの体液がついているナイフをAに向ける。

 「あっ……あああああああぁぁぁぁあああああぁぁああああっっ!!」

 Aは叫びながら再び思い切り跳ね始めた。そうかっ! だから掟があるんだ! 

 ぼくらスライム達は弱い。弱い故に直ぐやられてしまう。そしてやられてしまったら原型を留めずにドロドロになってしまうんだ。だから、ぼくらを守るために掟ができたんだ!

 こんな形で掟のある理由を知ることになるとは。でも今はそんなことを考えている場合ではない! 早く洞窟の中に戻らなきゃっ。あそこなら奴は入れないはず。

 あの方の分まで強くなっていつか仇討ちするんだ! だから今は生き延びるんだ。捕まってやるもんか。

 だが少年の地を蹴り上げる足音はどんどん大きくなっているように感じられる。

 どれだけ近づかれてるか気になるが、振り返ったらそこでオワルだろう。

 しかしーー「つっかま〜えたっ♪」

 Aは数十秒の逃亡の末、捕まってしまった。少年は沢山走ったはずだが、満面の笑みを浮かべられている。

 そりゃそうだ。この、たった今捕まえたスライムを倒せば、晴れて学年一高いレベルになれるんだ。

 それに対してAはーーヤバい。どうしよう。ヤバい。ヤバい。ヤバい、ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいッッッッ………!!

 さっき身代わりになったあの方の死が無駄になってしまう。けれども、もうどうすることも出来ない。後は自分もあの方に続いてあのドロドロとした気持ち悪い液体に変わり果ててしまうだけ。

 少年に捕まったAは思うのであった。


 ーー掟を破らなければ良かった、と…………。


 少年は穢れを知らない、純粋な笑みでナイフを向けて、斬撃を繰り出すべく近づけてくる。不思議なものだ。こんな時に限ってやけにスローモーションに見える。

 ーーーーブシュッ!

 刹那、少年の鋭利な刃がAの身体を斬り裂く。HPが0になり、一瞬だけ断末魔が響いた。

 スライムの身体は融けて、ドロドロなマナに戻り始める。何度見ても気持ち悪い、と少年は思った。

 それから、断末魔よりも大きな音で、少年のレベルアップを祝福するファンファーレが鳴り響いた。

  

プロローグと前編と比べると、長くなってしまいましたね。(中編と後編に分ければよかった。)

拙い作品を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

もし宜しければ、評価をしていただけるとありがたいです。

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