前編
薄暗くて、若干ひんやりとしていて、高さが低いためか、圧迫感のある洞窟。
この洞窟と90匹の同族がレベルの低いスライムたちにとっての世界の全てだ。
「なぁ、何で出ちゃマズいんだよっ!? 何で『レベル4になるまで洞窟の外に出てはならない』って掟が要るんだよっ?」
モンスター達には名前という概念がない。だから仮にこいつをAとしよう。Aからは今にもぷんぷん、と効果音が聞こえてきそうである。
「知るかっ!」
……はぁー。そういえばこいつ出たいんだっけ。洞窟の外に。
仮にこいつをBとしよう。何故出てはいけないのか。それはレベル4になるまでわからないらしいし、他言してはならないそうだ。だから、答えようがないのである。
「そういえばさ、もし出たときの罰ってあったっけ?」
「さあ。聞いたことない。まぁ俺は興味ないから知らないだけかもだけど」
「あっそ。じゃあ、あの方がレベル6になったらしいから訊いてみる」
AはBに背を向け、たまたま視線の先にいた『あの方』(仮にCとしよう)の方へポンポンと跳ねてゆく。
あれっ……? ひょっとして……!Aの心には小さな希望が生まれていた。
「あの」
「どした?」
「ぼくのようなレベル3とかが、洞窟の外に出てしまったときの罰とかって、ありましたっけ?」
AはCにおずおずとした感じで訊く。人間やモンスターも同じで、この世界ではレベルが高いモノの方が目上の存在になっている。
「ん? 無かったと思うぞ?」
「――そうなんですか!? ありがとうございます!」
「ああ」
Cは頷くように声を漏らす。
ひゃっほうっ! Aはあたりをピョンピョンと跳ねまくる。動かないとこの気持ちがおさまらないのだ。
もしかしてだけどっもしかしてだけどっべぇーつ(別)にに出ぇーても問題ないんじゃないの!?
最近、洞窟の外からよく聞こえてくる曲に合わせて、心の中に潜んでいた希望を爆発させる。Aは完全にうかれている。これはもう、うかれポンチといっても過言ではない。
――そして、後に掟の理由を最悪の形で知ることになるとは、このときどのスライムも予想すらしなかった。