きらきら雲のおくりもの
きらきら町の空には、少し変わった雲が流れてきます。
白くて、ふわふわしているのに、日に当たると、ところどころが光る雲です。町の人は、それを「きらきら雲」と呼んでいました。
きらきら雲は、いつも空にあるわけではありません。
だれかが、少しだけさみしい気持ちになった日。
だれかが、うまく言えなかった言葉を、胸にしまった日。
そんな日に、そっとやって来るのです。
ある日の午後、ソラは学校の帰りに空を見上げました。
「……きょう、来てる」
公園の上を、きらきら雲がゆっくり流れていました。
雲の下では、白いねこ――キラが、しっぽを立てて歩いています。
ソラは、公園のベンチに腰を下ろしました。
そのとき、ぽつん、と小さな音がしました。
空から、何かが落ちてきたのです。
「雨?」
ちがいました。
手のひらにのったのは、光るしずくでした。水のようで、水ではありません。あたたかくて、さらさらしています。
「きらきら……」
しずくは、しばらく光ったあと、ふっと消えました。
そのときです。
ベンチのとなりに座っていた、おばあさんが、静かに言いました。
「今日は、よく思い出す日でね」
ソラは、びっくりして顔を向けました。
「思い出?」
「ええ。昔、空を見上げるのが好きだった子がいてね」
おばあさんは、やさしく空を見ました。
「もう、大人になってしまったけれど」
ソラは、何も言いませんでした。でも、胸の中が、少しあたたかくなりました。
きらきら雲から、また、しずくが落ちます。
今度は、公園を歩いていた男の人の肩に。
「あ……」
男の人は、立ち止まり、空を見上げました。
「今日は、家に早く帰ろう」
そう言って、少し笑いました。
きらきら雲は、言葉をしゃべりません。
ただ、しずくを落とすだけです。
でも、そのしずくは、人の心の中で、何かを思い出させます。
たいせつだったこと。
忘れたふりをしていたこと。
ソラは、しずくが落ちるたびに、町の音がやわらぐのを感じました。
やがて、きらきら雲は、ゆっくり遠ざかっていきます。
空は、いつもの青にもどりました。
「もう、行っちゃったね」
ソラが言うと、キラは、にゃあ、と鳴きました。
公園の地面に、小さな光が、ひとつ残っていました。
ソラが見つめていると、その光は、胸の中にすっと入ってきました。
理由は、分かりません。
でも、ソラは思いました。
「きっと、だいじなものなんだ」
その日、町の人たちは、少しだけ、やさしい顔で歩いていました。
空からのおくりものは、目に見えなくても、ちゃんと届いているのです。




