きらきらと遠い足音
冬の午後、きらきら町には、遠い音が流れていました。
近くの音は、はっきり聞こえます。でも、どこかから聞こえる足音は、雪と空気にまぎれて、ぼんやりしています。
ソラは、道を歩きながら、耳をすませました。
「……今の、足音?」
白いねこ――キラも、ぴくりと耳を動かします。
でも、あたりには、だれもいません。
音は、すぐに消えてしまいました。
その日、町の人たちは、同じことを話していました。
「なんだか、遠くで、だれか歩いてる気がする」
「近づいてこないね」
パン屋のおじさんも、首をかしげています。
ソラは、その音が、気になってしかたありませんでした。
夕方、空は、うすい灰色になり、雪は、もう降っていません。
ソラは、町のはずれまで行ってみました。
人の家が少なくなり、道が、静かになります。
そのときです。
……とん、とん
遠くで、足音がしました。
「やっぱり、聞こえる」
ソラは、音のする方へ、ゆっくり歩きました。
足音は、急ぎません。近づくことも、遠ざかることもなく、同じくらいの距離で、つづいています。
川のそばに来ると、空気が、少し冷たくなりました。
足音は、川の向こうから、聞こえてくるようです。
「だれか、いるの?」
ソラが声を出しても、返事はありません。
ただ、足音だけが、続きます。
キラは、ソラの足元に、ぴったりくっつきました。
そのとき、川の水面に、きらきらが、集まりました。
光は、川の上で、道のように並びます。
「……わたれる?」
ソラが一歩、足を出すと、光は、しっかりとそこにありました。
ソラとキラは、ゆっくり、川をわたりました。
向こう岸に着くと、足音は、少しはっきり聞こえます。
でも、姿は見えません。
「遠い足音は……」
ソラは、ふと、思いました。
「だれか、来たいけど、来れないのかも」
ソラは、足音に向かって言いました。
「ここは、きらきら町だよ」
足音は、少し止まりました。
そして、やさしく、とん、とんと鳴りました。
それは、ありがとう、と言っているみたいでした。
そのとき、風が吹いて、足音は、だんだん小さくなっていきます。
きらきらも、川から、町へもどっていきました。
夜になると、遠い足音は、聞こえなくなりました。
でも、町の空気は、少しやわらいでいます。
ソラは、思いました。
遠い足音は、さびしさの音かもしれない。
でも、だれかが気づいてくれたら、ちゃんと、届く。
きらきら町は、今日も、見えないだれかを、そっと迎えていました。




