きらきらと約束の音
冬の朝、きらきら町は、いつもより静かでした。
雪は降っていませんが、空気が張りつめていて、音が遠くまで届きます。足音や、戸の開く音が、いつもより、はっきり聞こえました。
ソラは、マフラーを巻いて、外に出ました。
白いねこ――キラも、あとをついてきます。
そのとき、ちりん……と、小さな音が聞こえました。
「あれ?」
ソラは、足を止めました。
音は、風にまじって、もう一度、ちりん……と鳴ります。
音のした方を見ると、古いポールの先に、小さな鈴がついていました。
だれかが、ひもで結びつけたようです。
「こんなところに、鈴、あったっけ」
ソラが近づくと、鈴のまわりに、きらきらが集まっていました。
光は、音が鳴るたび、ふるえるように動きます。
パン屋のおじさんが、通りかかって言いました。
「ああ、その鈴はね、約束の音だよ」
「約束?」
「待ち合わせとか、帰る時間とか、だれかが、忘れないようにつけたんだ」
ソラは、鈴を見上げました。
「音で、約束を思い出すの?」
「そうさ。音は、消えないからね」
風が吹くと、鈴が、また鳴りました。
ちりん……
その音といっしょに、きらきらが、道の先へ流れていきます。
しばらく歩くと、角の家の前で、女の人が立ち止まっていました。
「……あ」
女の人は、鈴の音を聞いて、急に走り出しました。
「思い出した!」
どうやら、だれかとの約束を、思い出したようです。
ソラは、胸があたたかくなりました。
午後、ソラは、友だちと遊ぶ約束がありました。
でも、家で本を読んでいるうちに、時間を忘れてしまいます。
そのとき、遠くから、ちりん……と聞こえました。
「あっ」
ソラは、立ち上がりました。
「約束!」
急いで外に出ると、きらきらが、道を照らすように、きゅっと光っています。
キラも、元気に走りました。
公園に着くと、友だちが、待っていました。
「おそいよ」
「ごめん。でも、鈴が教えてくれた」
二人で笑うと、その声に、きらきらが、ぱっと広がりました。
夕方、鈴の前を通ると、音は、前よりもやさしく聞こえました。
きらきらも、静かに、鈴のまわりで光っています。
約束は、見えないものです。
でも、音があれば、思い出せる。
思い出せば、心は、ちゃんと向かいます。
きらきら町では、今日も、約束の音が、そっと町をつないでいました。




